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船上野外訓練初日
そうだった。
そういえば――去年も、この時期の野外訓練は最悪だった。
揺れる船上。
叩きつけるような土砂降りの雨。
甲板に落ちる雨粒が跳ねて、足元が見えない。
ピシャーン!
雷が空を裂く。
一瞬、海と空が真昼みたいに白くなった。
……あ、雷きれい。
そんな感想が頭をよぎった自分を、後で本気で殴りたい。
教官の声が、嵐の中でもやけに元気に響く。
「いやー!素晴らしい天気ですね!訓練日和です!」
誰一人として同意していない。
「楽しく特訓!さぁ!出航だー!」
船は三隻。
ゆっくりと、運河を下っていく。
……おかしい。
「魔物、来ないね」
「全然、気配なくない?」
「雨は痛いけど……それだけだよね」
雨が風に乗って、肌に叩きつけられる。
水弾みたいで、地味に痛い。
でも、それ以上の“いつもの地獄”が来ない。
嫌な予感しかしない。
「……嵐の前の静けさ?」
その言葉に、治癒魔術科B班が一斉に顔を上げた。
「「「何が起きても生きよう!!!」」」
ブレない。
本当に、ブレない。
私はさり気なく魔術科の方を見る。
桃色の髪。
そして、その隣に銀色。
ヒロインとベルンハルト。
……この二人の関係、どうなってるんだろう。
一瞬、胸がざわついたけれど――
視線を戻す。
エルンスト。
目が合った。
ほんの一瞬。
でも、ちゃんと通じた。
頷き合う。
大丈夫。
私のエルンストだ。
ヴィルは、先頭を進む船にいる。
雨の中でも姿勢が崩れない。
相変わらず頼もしい幼馴染だ。
教官の声が、また響いた。
「もうそろそろ海に出まーす!戦闘時は命綱の装着忘れたら落っこちて助からないぞー!」
命綱!?
治癒魔術科が一斉にざわつく。
「どこ!?」
「これ!?」
「結び方これで合ってる!?」
必死で確認し合う。
……あ、これ。
ちゃんと分かりやすい。
先生、今回は優しい。
数々の修羅場を生き抜いてきたせいか、
船内に、妙な空気が流れ始めた。
「……今回、楽勝じゃない?」
「正直、今までの方が地獄だったよね」
「雨だけだし」
……。
………。
その瞬間だった。
ドンッ。
船体が、持ち上がった。
「……え?」
次の瞬間。
ボヨン。
ザッバーーーン!!!
「飛んだあああああああ!!!」
船が――飛んでいる。
物理的に。
完全に。
上下に、激しく。
イルカみたいに。
ボヨン!
ザバーン!
ドン!
身体が浮く。
足が甲板から離れる。
「きゃああああああ!!!」
「投げ出される!!!」
命綱!!!
ありがとう!!!
本当にありがとう!!!
必死にロープにしがみつく。
なぜ、こんなことになっているか。
原因は、明確だった。
魔術科。
魔物に向けて放たれた大規模魔術。
海面が盛り上がり、巨大な波が立つ。
その波に――
船が、乗った。
とーーーーーぶーーーーー!!!
「誰だよ!!」
「波起こしたの!!」
「船も魔物判定なの!?」
一方その頃。
騎士科。
船体に這い登ってくる水棲魔物を、
何事もない顔でぶった斬っている。
「下!」
「任せろ!」
「次、右舷!」
……頼もしい。
本当に頼もしい。
治癒魔術科はというと。
「吐く!!」
「バケツ!!」
「相棒!!!」
銀色のバケツが、今日も大活躍していた。
……ああ。
やっぱりだ。
野外訓練は、
私たちを甘やかしてはくれない。
船は揺れ続ける。
雨は止まない。
魔術は派手。
魔物は元気。
でも――
命綱は、ついている。
仲間は、いる。
生き残る術は、身体が覚えている。
「……行ける」
「生きよう」
「今回も」
誰かが言った。
「……去年より、マシじゃない?」
私は、心の中でそっと頷いた。
この地獄を、
笑いながら言えるようになった時点で――
私たちは、確実に強くなっている。
そういえば――去年も、この時期の野外訓練は最悪だった。
揺れる船上。
叩きつけるような土砂降りの雨。
甲板に落ちる雨粒が跳ねて、足元が見えない。
ピシャーン!
雷が空を裂く。
一瞬、海と空が真昼みたいに白くなった。
……あ、雷きれい。
そんな感想が頭をよぎった自分を、後で本気で殴りたい。
教官の声が、嵐の中でもやけに元気に響く。
「いやー!素晴らしい天気ですね!訓練日和です!」
誰一人として同意していない。
「楽しく特訓!さぁ!出航だー!」
船は三隻。
ゆっくりと、運河を下っていく。
……おかしい。
「魔物、来ないね」
「全然、気配なくない?」
「雨は痛いけど……それだけだよね」
雨が風に乗って、肌に叩きつけられる。
水弾みたいで、地味に痛い。
でも、それ以上の“いつもの地獄”が来ない。
嫌な予感しかしない。
「……嵐の前の静けさ?」
その言葉に、治癒魔術科B班が一斉に顔を上げた。
「「「何が起きても生きよう!!!」」」
ブレない。
本当に、ブレない。
私はさり気なく魔術科の方を見る。
桃色の髪。
そして、その隣に銀色。
ヒロインとベルンハルト。
……この二人の関係、どうなってるんだろう。
一瞬、胸がざわついたけれど――
視線を戻す。
エルンスト。
目が合った。
ほんの一瞬。
でも、ちゃんと通じた。
頷き合う。
大丈夫。
私のエルンストだ。
ヴィルは、先頭を進む船にいる。
雨の中でも姿勢が崩れない。
相変わらず頼もしい幼馴染だ。
教官の声が、また響いた。
「もうそろそろ海に出まーす!戦闘時は命綱の装着忘れたら落っこちて助からないぞー!」
命綱!?
治癒魔術科が一斉にざわつく。
「どこ!?」
「これ!?」
「結び方これで合ってる!?」
必死で確認し合う。
……あ、これ。
ちゃんと分かりやすい。
先生、今回は優しい。
数々の修羅場を生き抜いてきたせいか、
船内に、妙な空気が流れ始めた。
「……今回、楽勝じゃない?」
「正直、今までの方が地獄だったよね」
「雨だけだし」
……。
………。
その瞬間だった。
ドンッ。
船体が、持ち上がった。
「……え?」
次の瞬間。
ボヨン。
ザッバーーーン!!!
「飛んだあああああああ!!!」
船が――飛んでいる。
物理的に。
完全に。
上下に、激しく。
イルカみたいに。
ボヨン!
ザバーン!
ドン!
身体が浮く。
足が甲板から離れる。
「きゃああああああ!!!」
「投げ出される!!!」
命綱!!!
ありがとう!!!
本当にありがとう!!!
必死にロープにしがみつく。
なぜ、こんなことになっているか。
原因は、明確だった。
魔術科。
魔物に向けて放たれた大規模魔術。
海面が盛り上がり、巨大な波が立つ。
その波に――
船が、乗った。
とーーーーーぶーーーーー!!!
「誰だよ!!」
「波起こしたの!!」
「船も魔物判定なの!?」
一方その頃。
騎士科。
船体に這い登ってくる水棲魔物を、
何事もない顔でぶった斬っている。
「下!」
「任せろ!」
「次、右舷!」
……頼もしい。
本当に頼もしい。
治癒魔術科はというと。
「吐く!!」
「バケツ!!」
「相棒!!!」
銀色のバケツが、今日も大活躍していた。
……ああ。
やっぱりだ。
野外訓練は、
私たちを甘やかしてはくれない。
船は揺れ続ける。
雨は止まない。
魔術は派手。
魔物は元気。
でも――
命綱は、ついている。
仲間は、いる。
生き残る術は、身体が覚えている。
「……行ける」
「生きよう」
「今回も」
誰かが言った。
「……去年より、マシじゃない?」
私は、心の中でそっと頷いた。
この地獄を、
笑いながら言えるようになった時点で――
私たちは、確実に強くなっている。
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