モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

文字の大きさ
180 / 209

絡まなくなった

あれ?

気づいたのは、ほんの些細な違和感だった。

学園の中庭。
回廊。
食堂。
訓練所。

――どこにも、いない。

正確には、ヒロインはいる。
けれど、エルンストの隣にはいない。

あれから数週間。
私はエルンストと、あの日のベンチで待ち合わせをして、
夕暮れの風に吹かれながら、短い逢瀬を重ねていた。

言葉は多くない。
でも、指先が触れる。
肩が寄る。
視線が絡む。

それだけで、心が落ち着いた。

そして、それに反比例するように――
ヒロインの姿が、私の視界から消えていった。

「……あれ?」

ぽつりと零れた私の声に、ヴィルが肩をすくめる。

「気づいたか」

「ヒロインが……エルンストと、絡まなくなってる」

断定すると、少し怖かった。
だから語尾が揺れた。

ヴィルは、あからさまに残念そうな顔をした。

「残念だな」

「……は?」

即座に睨むと、ヴィルは悪びれずに続ける。

「だってお前、前まで言ってただろ。桃色の恋を応援してるって」

「そ、それは……」

言葉に詰まる。

確かに言った。
確かに、応援していた。

エルンストが相手じゃなければ。

胸の奥が、きゅっと縮む。

「……そうだったけど」

声が、小さくなった。

学園生活は、相変わらず忙しい。
座学。
合同訓練。
魔力循環の実践。

身体は疲れるのに、心は妙に静かだった。

騒がしくもなく、
不穏でもなく、
ただ、淡々と日々が流れていく。

平和。

――あまりにも。

「もしかして……止まった?」

口に出した瞬間、胸の奥で何かが跳ねた。

淡い期待。
でも、期待だと認めるのが怖くて、
すぐに別の理由を探す。

(……ベルンハルト)

あの人は、凄まじく優秀だ。
頭も切れるし、行動も早い。
ヒロインのために、何か“した”としてもおかしくない。

イベントを。
世界の流れを。
彼女の行き先を。

「……そうであってほしいな」

誰にともなく、祈るように呟いた。

風が吹く。
髪を揺らし、花の香りを運ぶ。

中庭には色とりどりの花が咲き乱れていて、
春の光が、やわらかく石畳を照らしている。

綺麗だ。

――エルンストと、ここで。

ふと、そんな考えが浮かぶ。

(……ピクニック、したいな)

思ってもみなかった前向きな言葉が、
自然に心に浮かんだことに、自分で驚いた。

怖くない。
怯えていない。

ただ、会いたい。

次、ベンチで会ったら――
誘ってみようかな。

その考えに、
胸の奥が、ほんのり温かくなった。


感想 28

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!? 男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!? ※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』  学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。  その瞬間、私は全てを思い出した。  私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。  幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。  ーーなんて、ひとり納得していたら。  何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?  更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。  しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。  タイムリミットは1年間。  その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。