モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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長い戦いだった

「……なんということでしょう」

朝の光が、薄いカーテン越しに部屋へ流れ込む。
やわらかな金色が、白い天蓋と壁を撫でるように広がっていた。

隣から、あたたかい気配。

ぎゅ、と腰に回された腕に引き寄せられ、
首元へ低い息が落ちる。

「起きたな」

低く、少し掠れた声。
くすぐったくて肩をすくめると、
エルンストが楽しそうに息を吹きかけてきた。

「や、やめて……!」

「戦場の終息までが、まだ火の海だ」

「意味がわからない!」

そう言った瞬間、エルンストが堪えきれないように笑った。

「ははははは!」

胸板が揺れるのが、はっきり分かる。
その振動が背中に伝わってきて、思わずこちらも笑ってしまった。

「朝から元気すぎ……」

「お前が可愛いのが悪い」

さらっと言われて、言葉に詰まる。

視線を逸らして、改めて部屋を見渡した。

――ひどい。

白かったはずのシーツは、くしゃくしゃ。
枕は転がり、カーテンの房は揺れたまま。
そして、自分の身体。
赤い花弁と歯型がくっきり。

「……」

下半身に残る、ずん、とした重さ。
訓練とは違う種類の、確かな筋肉痛。

「あ……」

ゆっくりと身を起こそうとして、止まる。

「動くな」

エルンストが、後ろから支えるように抱き直した。

「今は、こうしていろ」

背中に感じる体温が、やけに安心する。
昨日まで、あんなに不安で、怖くて、揺れていたのに。

胸の奥が、不思議なほど静かだった。

「……ねえ」

「なんだ」

「私……」

言葉を探していると、エルンストが首元に顔を埋める。

「分かってる」

小さく、確かな声。

「もう、戻らない」

「……うん」

その一言で、すべてが腑に落ちた。

ふと、現実が追いついてくる。

「あの……」

「?」

「私……」

ごくりと喉を鳴らす。

「……嫁いでしまった!!」

沈黙。

次の瞬間。

「はははははは!!」

また盛大な笑い声。

「朝一番に言う台詞がそれか?」

「だって!!」

布団を握りしめる。

「昨日まで学園で訓練してて、今日はエルンのベッドで……」

「俺の妻だからな」

当然のように言われて、頭が真っ白になる。

「つ、妻……」

「嫌か?」

即座に首を振る。

「……嫌じゃない」

そう答えた声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

エルンストは、満足そうに微笑み、額に軽く口付ける。

「なら、いい」

窓の外では、鳥が鳴いている。
新しい朝。
私たちふたりの世界。

「……朝ご飯、どうする?」

「まずは、もう少し休め」

そう言って、再び抱き寄せられる。

「今日は、何も戦わなくていい」

その言葉に、胸がじんわりと温かくなった。

――本当に、終わったんだ。

戦場も、不安も、迷いも。

残ったのは、
少しだらしない部屋と、
確かな体温と、
これからの時間。

私は、静かに目を閉じた。


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