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第一章 神祇官へ
四
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「大丈夫か?」
「……番紅花様、申し訳ありません」
「ふむ。瘴気を取り込むことは問題なさそうだが、封印をすることが難しいのか。宵闇、取り込む量は問題なさそうだがどうだ?」
番紅花様は心配するように聞いてきた。
「そうですね。ある程度、取り込む分に問題はないと思いますが、瘴気が身体の中に入ると、意識や身体の感覚がゆっくりと蝕まれていくような感じがしました。先日、封印の玉を作った時は身体が熱くなるのを感じ、気付けば出来ていたんです。今回は上手く出来ませんでした」
もっと別の方法があるのだろうか?
あの時、悪しきものと戦うように熱が身体を巡る感覚があった。今回は浸食されていく感覚だけだった。その違いはなんなのだろうか。
「番紅花様、もう一度やってみます」
私はそう言って瘴気を取り込み始めた。先ほどと少し意識を変えてただ吸うのではなく瘴気をコントロールしようと試してみる。が、上手くいかない。また跪いた時に番紅花様が瘴気を取り出した。
「もう一度、やります」
「もう一度」
「もう一度」
私は何度も繰り返していく間に瘴気を操る手がかりを感じた。番紅花様は何も言わずに付き合ってくれている。そうして何度も繰り返していくうちにようやく瘴気を少しだが操ることができるようになってきた。
一定量の瘴気なら操ることができるけれど、何も考えず取り込み続けると、身体を蝕んでいくようだ。何度となく試しているうちに徐々にだが操ることが出来るようになってきた。
体内の瘴気を自在に操るようになってくると、今度は封印をするための練習に入る。これも一筋縄ではいかないみたい。
「宵闇、取り込んだ瘴気を排出する練習をさきにしたほうがいい」
番紅花様は気づいたことを口にする。
「はい!」
確かにそうだ。これが出来れば自分一人で訓練が可能になる。
右手から取り込んだから左手から出す。このまま瘴気を動かすようにするといいのだろうか。瘴気からの浸食を防ぐにはどうしたらいいのだろうかと考えながら瘴気を循環させてみる。
右手から取り込んだ瘴気を右手から出そうと試みる。右手からわずかに瘴気が出てきた。抵抗があってうまく出せない。今度は左手まで瘴気を持っていくと先ほどよりも簡単に瘴気は手のひらから出てきた。
「番紅花様、出来ました!」
「その調子で続けるぞ。上手くいくようになれば封印の玉が出来るかもしれん」
「はい!」
私はその後も何度も瘴気を取り込み、体内で浸食されないように上手く循環させ、左手から吐き出す練習をする。その間に周辺の瘴気は散らされて薄くなってきた。気づけば古ぼけた社があるだけになっていた。
「今回の練習はここまでのようだな。宵闇、よく頑張ったな」
「番紅花様のおかげです」
私たちは国へ戻った。
「番紅花様、おかえりなさい。宵闇もおかえり」
神祇官の社の中に入ると、神祇官見習いの人達は優しく声を掛けてくれる。
「ただいま戻りました」
「番紅花様との訓練はどうだった?」
「封印の玉はもう作れたの?」
彼らは屈託のない笑顔で声を掛けてくれるが、その期待されているのが分かる分、心苦しく感じてしまう。
「まだ、瘴気を取り込むことしかできないんです」
「そうだよね! 訓練を始めたばかりだもの。大丈夫、大丈夫! 宵闇、頑張ってね」
「はい。頑張ります」
私は笑顔で返す。部屋の中に入り、報告を終えた私に番紅花様は口を開いた。
「宵闇、瘴気を沢山浴びて身体は多く傷ついているから神の癒し池に向かえ」
「私が神の癒し池に入ってもいいのですか?」
「もちろんだ。瘴気を体内に取り込んだんだ。身体の回復に務めるように」
「承知致しました」
番紅花様はそう言うと、そのまま仕事に戻っていった。私は緊張していたようで疲れや瘴気に当てられた感覚はなかったけれど、番紅花様が去った後に安堵感が生まれ、途端に疲労に襲われ、気が付けば膝を突いていた。
「宵闇、大丈夫? 一人で神の癒し池に行ける?」
「心配をおかけして申し訳ありません。飛んで行けるので大丈夫です」
「そう。無理しないようにね」
「はい。では行ってまいります」
私は翼を広げてふわりと神の癒し池に向かった。
この『神の癒し池』という場所は神の力により、私たち天上人が生まれる場所であり、死を迎える場所でもある。普段は怪我や瘴気当たりを癒す場所でもある。天上人は怪我や病気に強く、ある程度は自分で回復してしまうので滅多に訪れることはない。
「思っていたより瘴気で身体が痛んでいたみたい」
私は呟きながら神の癒し池から少し離れた場所に降り立った。神の癒し池は神聖な場所であるため、普段は滅多に立ち入れないし、皆、立ち入ろうともしない。
だが、今日は池に浸かっている人影が見える。
誰だろう?
近くまで行ってみると、池に入っていたのは帝の一族と呼ばれている葵の名無し様だった。
私たち天上人はこの神の癒し池から生まれるのだが、各々の能力により各部署に振り分けられ、仕事を担う。
だが帝の一族と呼ばれる者達だけは少し違っている。この池で生まれるのは同じなのだけれど、大地や風、水、森、人間の声に耳を傾ける能力を持っている者だ。
彼らは隠の社と呼ばれる所に住み、その数は数人~十数人いるようだ。その中でも一番能力が高い者だけが帝という名を名乗ることが出来る。帝は春の国では蒼帝と呼ばれ、夏の国は炎帝、秋の国は白帝、冬の国は玄帝と呼ばれている。
彼らは隠の社で衛門府から送られてきた悪しきものを消滅させたり、風読みを修行したりと日々切磋琢磨しているという話だ。
私たち天上人にとっての頂点であり、憧れの存在である帝様は私たちよりもずっと、ずっと過酷な生活をしている。
因みに葵の名無し様と呼ばれているのは髪の毛の色に由来する。白帝の名を名乗れない名無し様がこうして隠の社から出てきた時に呼び名がないと不便なためだ。
私は緊張しながら池に入るために名無し様に声を掛けた。
「……番紅花様、申し訳ありません」
「ふむ。瘴気を取り込むことは問題なさそうだが、封印をすることが難しいのか。宵闇、取り込む量は問題なさそうだがどうだ?」
番紅花様は心配するように聞いてきた。
「そうですね。ある程度、取り込む分に問題はないと思いますが、瘴気が身体の中に入ると、意識や身体の感覚がゆっくりと蝕まれていくような感じがしました。先日、封印の玉を作った時は身体が熱くなるのを感じ、気付けば出来ていたんです。今回は上手く出来ませんでした」
もっと別の方法があるのだろうか?
あの時、悪しきものと戦うように熱が身体を巡る感覚があった。今回は浸食されていく感覚だけだった。その違いはなんなのだろうか。
「番紅花様、もう一度やってみます」
私はそう言って瘴気を取り込み始めた。先ほどと少し意識を変えてただ吸うのではなく瘴気をコントロールしようと試してみる。が、上手くいかない。また跪いた時に番紅花様が瘴気を取り出した。
「もう一度、やります」
「もう一度」
「もう一度」
私は何度も繰り返していく間に瘴気を操る手がかりを感じた。番紅花様は何も言わずに付き合ってくれている。そうして何度も繰り返していくうちにようやく瘴気を少しだが操ることができるようになってきた。
一定量の瘴気なら操ることができるけれど、何も考えず取り込み続けると、身体を蝕んでいくようだ。何度となく試しているうちに徐々にだが操ることが出来るようになってきた。
体内の瘴気を自在に操るようになってくると、今度は封印をするための練習に入る。これも一筋縄ではいかないみたい。
「宵闇、取り込んだ瘴気を排出する練習をさきにしたほうがいい」
番紅花様は気づいたことを口にする。
「はい!」
確かにそうだ。これが出来れば自分一人で訓練が可能になる。
右手から取り込んだから左手から出す。このまま瘴気を動かすようにするといいのだろうか。瘴気からの浸食を防ぐにはどうしたらいいのだろうかと考えながら瘴気を循環させてみる。
右手から取り込んだ瘴気を右手から出そうと試みる。右手からわずかに瘴気が出てきた。抵抗があってうまく出せない。今度は左手まで瘴気を持っていくと先ほどよりも簡単に瘴気は手のひらから出てきた。
「番紅花様、出来ました!」
「その調子で続けるぞ。上手くいくようになれば封印の玉が出来るかもしれん」
「はい!」
私はその後も何度も瘴気を取り込み、体内で浸食されないように上手く循環させ、左手から吐き出す練習をする。その間に周辺の瘴気は散らされて薄くなってきた。気づけば古ぼけた社があるだけになっていた。
「今回の練習はここまでのようだな。宵闇、よく頑張ったな」
「番紅花様のおかげです」
私たちは国へ戻った。
「番紅花様、おかえりなさい。宵闇もおかえり」
神祇官の社の中に入ると、神祇官見習いの人達は優しく声を掛けてくれる。
「ただいま戻りました」
「番紅花様との訓練はどうだった?」
「封印の玉はもう作れたの?」
彼らは屈託のない笑顔で声を掛けてくれるが、その期待されているのが分かる分、心苦しく感じてしまう。
「まだ、瘴気を取り込むことしかできないんです」
「そうだよね! 訓練を始めたばかりだもの。大丈夫、大丈夫! 宵闇、頑張ってね」
「はい。頑張ります」
私は笑顔で返す。部屋の中に入り、報告を終えた私に番紅花様は口を開いた。
「宵闇、瘴気を沢山浴びて身体は多く傷ついているから神の癒し池に向かえ」
「私が神の癒し池に入ってもいいのですか?」
「もちろんだ。瘴気を体内に取り込んだんだ。身体の回復に務めるように」
「承知致しました」
番紅花様はそう言うと、そのまま仕事に戻っていった。私は緊張していたようで疲れや瘴気に当てられた感覚はなかったけれど、番紅花様が去った後に安堵感が生まれ、途端に疲労に襲われ、気が付けば膝を突いていた。
「宵闇、大丈夫? 一人で神の癒し池に行ける?」
「心配をおかけして申し訳ありません。飛んで行けるので大丈夫です」
「そう。無理しないようにね」
「はい。では行ってまいります」
私は翼を広げてふわりと神の癒し池に向かった。
この『神の癒し池』という場所は神の力により、私たち天上人が生まれる場所であり、死を迎える場所でもある。普段は怪我や瘴気当たりを癒す場所でもある。天上人は怪我や病気に強く、ある程度は自分で回復してしまうので滅多に訪れることはない。
「思っていたより瘴気で身体が痛んでいたみたい」
私は呟きながら神の癒し池から少し離れた場所に降り立った。神の癒し池は神聖な場所であるため、普段は滅多に立ち入れないし、皆、立ち入ろうともしない。
だが、今日は池に浸かっている人影が見える。
誰だろう?
近くまで行ってみると、池に入っていたのは帝の一族と呼ばれている葵の名無し様だった。
私たち天上人はこの神の癒し池から生まれるのだが、各々の能力により各部署に振り分けられ、仕事を担う。
だが帝の一族と呼ばれる者達だけは少し違っている。この池で生まれるのは同じなのだけれど、大地や風、水、森、人間の声に耳を傾ける能力を持っている者だ。
彼らは隠の社と呼ばれる所に住み、その数は数人~十数人いるようだ。その中でも一番能力が高い者だけが帝という名を名乗ることが出来る。帝は春の国では蒼帝と呼ばれ、夏の国は炎帝、秋の国は白帝、冬の国は玄帝と呼ばれている。
彼らは隠の社で衛門府から送られてきた悪しきものを消滅させたり、風読みを修行したりと日々切磋琢磨しているという話だ。
私たち天上人にとっての頂点であり、憧れの存在である帝様は私たちよりもずっと、ずっと過酷な生活をしている。
因みに葵の名無し様と呼ばれているのは髪の毛の色に由来する。白帝の名を名乗れない名無し様がこうして隠の社から出てきた時に呼び名がないと不便なためだ。
私は緊張しながら池に入るために名無し様に声を掛けた。
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