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翌週、三回目の婚約者達とのお茶会が始まった。
「本日はローガン・ベイリー様と面会になっております」
そうしてマヤが持ってきたのは平民が着るような麻のワンピース。
「今日は何処へいくのかしら?」
私はもちろん平民の服を着た事もないのでマヤに着せてもらう。
「マヤ、この服ってドレスと違ってとっても軽くて動きやすいわね。平民は皆このような服をいつも着ているの?」
「えぇ。そうです」
「良いわね。私も毎日この服にしようかしら」
「そう言うと思いました。陛下は威厳を保たねばいけませんので難しいと思います。ですが、執務の時などはもう少し軽いお召し物に致しましょう」
「分かったわ」
少しがっかりしながらもマヤに髪を結われて帽子を被ってから部屋を出る。今日は護衛騎士達も平民の格好をしている。
「ふふっ。なんだかとっても新鮮ね」
そう話しながら王城の入り口まで進むと、ローガン様が花束を持って待っていた。平民の服を着ていても平民に少しも見えないローガン様はやはり公爵子息なのね。
「ローガン様、お待たせしましたわっ」
「クレア様、とても可愛いですね。では行きましょう」
私達はお忍びという事で辻馬車を装った馬車に乗り、王都の街に出掛けた。
「クレア陛下、街に出掛けた事がないと聞きました。どこか行きたい所はありますか?」
「ローガン様、私の事はクレアと呼んで下さい。しがない町娘ですから。街には出掛けた事がないので何があるかも分からないのです。お任せしますわっ」
――クレアは箱入りだからな。
グラン様がこっそり呟いている。
「そうですね。ここで陛下というには不味い。ではクレア、今流行りのカフェへと行ってみましょうか」
ローガン様と手をつなぎながら初めて王都の街を歩いた。
「ふふっ。田舎者でごめんなさい」
私はキョロキョロと街並みを見渡しながら歩いている。平民達の活気のある声を聞いてとても嬉しく感じる。
隣国や他の国ではスラム街などがあるという。治安はあまり良くないようだ。この国の治安がいいのはやはり国全体が結界で覆われているからなのだと思っている。
大地が潤い、民が飢える事がない。
この影響はとても大きい物だと感じているわ。
「物珍しさはすぐに慣れる。クレアに色々見てほしいんだ」
ローガン様の案内で入った一件の店。ここは王都で今一番人気のあるカフェ店のようだ。
川沿いに建てられているこの店は時折通る遊覧船を眺めながらケーキを食べる事が出来るらしい。私はメニューを見せてもらったけれどよく分からないわ。
「ローガン様、どう選べばよいかも分からないわっ」
「そうですね。では店の者にお勧めを持ってきてもらいましょう」
ローガン様はそう言うと、店員に声を掛け、お勧めを二つ持ってきてもらう事になった。
「ローガン様はいつもこの店に来るのですか?」
「いや、来た事はないですね。宰相はいつもここでケーキを奥方に買って帰ると言っていました。ご婦人には人気の店らしい」
確かに店内を見回すと、服は質素だが、佇まいは貴族のような人達が多くいた。そしてこちらを見て何かを話しているようす。
私がいる事がバレた……?
よく見ると女の人達は私よりローガン様を見ているようだわ。まぁ、私の顔なんて絵姿はまだ出回っていないし、普段も執務室から外へ出ないから知らない人が多いわよね。それにローガン様はとてもハンサムだもの。モテても可笑しくないわ。
「クレア、どうしました?」
「いえ、視線を感じるなと思って振り返ったら皆様ローガン様に熱い視線を向けていらっしゃるのですもの。驚いただけです」
「そうか。気にせず私の顔だけ見ていればいい。他の視線など気にならなくなる」
ローガン様はそう言うと微笑んで私を見つめているけれど、私は恥ずかしさで一杯になる。
「ふふっ。クレア、顔が真っ赤ですよ」
「だって、ローガン様がそんな事をおっしゃるからっ」
「嬉しいです。クレアが私を意識してくれていると思うと」
店員が持ってきたケーキで誤魔化す様に一口食べてみる。
「ローガン様、とても美味しいですっ。いつも料理長が用意してくれているのも美味しいけれど、また違った美味しさがありますね」
「クレアに喜んでもらえてよかったです」
二人でケーキを食べていると、店内に居た数人の令嬢達のグループがこそこそと話をしてこちらを向いている。そのうちの一人が押し出されるように声を掛けてきた。
「あ、あのっ。ローガン・ベイリー公爵子息様でしょうか?」
「本日はローガン・ベイリー様と面会になっております」
そうしてマヤが持ってきたのは平民が着るような麻のワンピース。
「今日は何処へいくのかしら?」
私はもちろん平民の服を着た事もないのでマヤに着せてもらう。
「マヤ、この服ってドレスと違ってとっても軽くて動きやすいわね。平民は皆このような服をいつも着ているの?」
「えぇ。そうです」
「良いわね。私も毎日この服にしようかしら」
「そう言うと思いました。陛下は威厳を保たねばいけませんので難しいと思います。ですが、執務の時などはもう少し軽いお召し物に致しましょう」
「分かったわ」
少しがっかりしながらもマヤに髪を結われて帽子を被ってから部屋を出る。今日は護衛騎士達も平民の格好をしている。
「ふふっ。なんだかとっても新鮮ね」
そう話しながら王城の入り口まで進むと、ローガン様が花束を持って待っていた。平民の服を着ていても平民に少しも見えないローガン様はやはり公爵子息なのね。
「ローガン様、お待たせしましたわっ」
「クレア様、とても可愛いですね。では行きましょう」
私達はお忍びという事で辻馬車を装った馬車に乗り、王都の街に出掛けた。
「クレア陛下、街に出掛けた事がないと聞きました。どこか行きたい所はありますか?」
「ローガン様、私の事はクレアと呼んで下さい。しがない町娘ですから。街には出掛けた事がないので何があるかも分からないのです。お任せしますわっ」
――クレアは箱入りだからな。
グラン様がこっそり呟いている。
「そうですね。ここで陛下というには不味い。ではクレア、今流行りのカフェへと行ってみましょうか」
ローガン様と手をつなぎながら初めて王都の街を歩いた。
「ふふっ。田舎者でごめんなさい」
私はキョロキョロと街並みを見渡しながら歩いている。平民達の活気のある声を聞いてとても嬉しく感じる。
隣国や他の国ではスラム街などがあるという。治安はあまり良くないようだ。この国の治安がいいのはやはり国全体が結界で覆われているからなのだと思っている。
大地が潤い、民が飢える事がない。
この影響はとても大きい物だと感じているわ。
「物珍しさはすぐに慣れる。クレアに色々見てほしいんだ」
ローガン様の案内で入った一件の店。ここは王都で今一番人気のあるカフェ店のようだ。
川沿いに建てられているこの店は時折通る遊覧船を眺めながらケーキを食べる事が出来るらしい。私はメニューを見せてもらったけれどよく分からないわ。
「ローガン様、どう選べばよいかも分からないわっ」
「そうですね。では店の者にお勧めを持ってきてもらいましょう」
ローガン様はそう言うと、店員に声を掛け、お勧めを二つ持ってきてもらう事になった。
「ローガン様はいつもこの店に来るのですか?」
「いや、来た事はないですね。宰相はいつもここでケーキを奥方に買って帰ると言っていました。ご婦人には人気の店らしい」
確かに店内を見回すと、服は質素だが、佇まいは貴族のような人達が多くいた。そしてこちらを見て何かを話しているようす。
私がいる事がバレた……?
よく見ると女の人達は私よりローガン様を見ているようだわ。まぁ、私の顔なんて絵姿はまだ出回っていないし、普段も執務室から外へ出ないから知らない人が多いわよね。それにローガン様はとてもハンサムだもの。モテても可笑しくないわ。
「クレア、どうしました?」
「いえ、視線を感じるなと思って振り返ったら皆様ローガン様に熱い視線を向けていらっしゃるのですもの。驚いただけです」
「そうか。気にせず私の顔だけ見ていればいい。他の視線など気にならなくなる」
ローガン様はそう言うと微笑んで私を見つめているけれど、私は恥ずかしさで一杯になる。
「ふふっ。クレア、顔が真っ赤ですよ」
「だって、ローガン様がそんな事をおっしゃるからっ」
「嬉しいです。クレアが私を意識してくれていると思うと」
店員が持ってきたケーキで誤魔化す様に一口食べてみる。
「ローガン様、とても美味しいですっ。いつも料理長が用意してくれているのも美味しいけれど、また違った美味しさがありますね」
「クレアに喜んでもらえてよかったです」
二人でケーキを食べていると、店内に居た数人の令嬢達のグループがこそこそと話をしてこちらを向いている。そのうちの一人が押し出されるように声を掛けてきた。
「あ、あのっ。ローガン・ベイリー公爵子息様でしょうか?」
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