まさか猫種の私が聖女なんですか?

まるねこ

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11エサイアス・ローズルード・シルドア

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「君がナーニョ嬢か?」

 私は彼を見てビクッとロキアさんの後ろに隠れた。あの時、興奮していたせいか全く顔を覚えていなかった事に今更ながら気づいた。

 エサイアス様は邸の主でこの国の英雄と聞いていたけれど、とても若い人だった。

 私の後ろでローニャも隠れている。その様子をロキアさんもエサイアス様もクスクスと笑っている。

「そちらに掛けてほしい」

 私達は言われるままソファに座った。ふかふかのソファはとても高級そうだ。私達庶民がこんな場所に呼ばれるのは似つかわしくないことこの上ない。

「ロキアから君が私の傷を治したと聞いた。私は魔物と対峙していてあの時の怪我で死を覚悟していた。助けてくれた君に感謝したい」
「え、あ、いえ。当たり前の事をしただけですから……」

「ところでその耳は本物かな?」
「はい。私達は魔物に追われて異界の穴へ落ちてしまったのです。私も妹も人間の血が濃い猫種の獣人です」
「……獣人。今、この世界に獣人が存在しないのは知っているだろうか」

「ええ。殆どの獣人はこの世界に落ちて来ないと思います。落ちる前に異界の穴を閉じますから」
「異界の穴を閉じる? やはりそんな事が出来るのか?」
「ええ。魔法使いなら可能です」

 私の言葉にエサイアス様は驚いた顔をしている。

 この世界に魔法使いは居ないのだろうか?

 この世界の事情を知らない私にとってエサイアス様の驚きは新鮮だった。

「私の傷も一瞬で治したと部下たちが言っていた。もしかして君が使ったのも魔法なのだろうか?」
「? ええ。回復魔法で怪我を治しました」

「君は魔法使いなのか?」
「いえ、見習い、というか……魔法使いの試験に合格してこれから魔法使いになる予定だったので正確には魔法使いではないです」
「そうか。君は異界の穴を閉じられるのだろうか?」

「異界の穴を閉じる魔法が刻まれた道具があれば可能だと思います」
「それは作る事が可能なのか?」
「……それは、分かりません」

「そうか、すまない。ところで横にいるローニャ嬢はナーニョ嬢に似ているが、姉妹なのかな?」
「は、はい。妹のローニャです。十一歳です」
「ローニャ嬢もナーニョ嬢と同じく魔法が使えるのかい?」
「は、い。姉ほどではありませんが使えます」

 ローニャは今までにないほど尻尾をギュッと身体に巻きつけ、ビクビクと震えながら答えている。

「そこまで怖がらなくても大丈夫だ。獣人はみんな魔力を持っているのかな?」

 ローニャの代わりに私が答える。

「大昔の獣人は持っていなかったそうです。人間が穴から落ちて来た時に魔法使いだったようで人間と獣人が交わり、私達は魔力を持っています。獣人でも獣の血が濃い場合は魔法が殆ど使えない人もいます。私達のように人の血が濃く出ている場合は魔力量も多いそうです」

 私達獣人は魔力を持っているが、物を媒介して魔法を使う。媒介する物は指輪が一般的だ。そして大昔にいた人間と違うところといえば魔法を使う用途ごとに物を変えなければならないの。

 人間は呪文で様々な魔法を行使していたようだが、獣人には発音が難しく、物に呪文を刻み、使うようになった。
 当初は杖や服など様々な物に書かれていたが、持ち歩きやすい装飾具、特に指輪を使うことに落ち着いたのだ。

 私はなるべく丁寧に伝わるように話をする。

「魔法は、色々使えるのか?」
「私達獣人は媒体を通して魔法を使うことが多いのですが、獣人には発音しづらい言葉もあるので媒体に最初から詠唱の言葉を刻んでおくのが一般的です」
「そうか。ナーニョ嬢は回復の魔法が使える物を持っているという事でいいだろうか? ローニャ嬢も?」
「そうですね」

 エサイアス様は何かを理解するようにうなずきながら考えている。

「君は私の邸の庭に落ちてきた。だから私が君達姉妹を保護することになるだろう。だが、君が使った回復魔法はとても貴重な能力だ。どうかこの世界をよくするために協力を願えないだろうか。この世界に魔法使いはいない。
 つまり今魔法が使えるのはナーニョ嬢とローニャ嬢のみだ。現状、異界の穴を閉じる術もない。いつも魔獣や魔物との戦いを騎士達は毎日のように繰り返している。どうか助けて欲しい」

 私はその言葉にどう返せば良いか分からず困った。

 まだ魔法使いとして一歩も踏み出していない私が騎士達の役に立てるのかどうか。

 安易に返事をしていいのかも分からない。異世界へ来たばかりで右も左も分からない状況だ。

 それに私が守るべきはローニャ。妹だけは何があっても守り抜く事を決めている。

「エサイアス様、突然そのような事を言われてもナーニョ様は困ってしまいます。ナーニョ様はまだ十五歳になったばかり。そんな幼子に責任を押しつけるのは酷でしょう」

 ロキアさんが助け船を出してくれた。

 この世界の成人は何歳なのだろう?

「そうか、十五歳だったのか。すまない。魔法が使えると知って一人先走ってしまった。でも、それほどこの国の現状は良くない。このまま進めば人間は魔獣に負けてしまう。そうなる前に、なんとかしたいんだ」
「そう、なんですね」

「それに、ナーニョ嬢には申し訳ないのだが、私が負傷した時に君が魔法を使って治療してくれただろう? 部下も医者もそれを目撃してしまった。話が広がり、それは国王の耳にまで届いた。国王が君を呼んでいるんだ」

 国王が呼んでいる?
 国王って国の王様だよね?

 私の魔法がそれほどなのかと不思議な気分になる。ここの人間は魔法が使えないのであれば私達の世界に落ちてきた人間は別世界の人間なのだろうか?

「わ、私達は国王様に会うことになるのでしょうか?」
「あぁ、もちろん私も行くからその辺は心配しなくて大丈夫だ。ただ、国王には魔法の事を話さなければならないと思う」
「はい」
「私の体調を考慮して待たせていたから明日にでも会う事になる。大丈夫、国王は優しい人だから心配いらないよ」
「は、はい……」
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