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13エサイアス視点
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「エサイアス様! しっかりしてくださいっ! 誰か、担架を! エサイアス様が負傷した」
俺は不定期に開く異次元の空間から出てきた魔獣達を討伐していた。
巨大な魔獣や小さいが何百と出てくる魔物達。空間から出てくる魔獣達を討伐する事が目的だ。仲間は傷つき疲弊していく。別れもよくある事だ。
俺もいつ死ぬか分からない。
俺には親も兄弟も居ない。物心ついた時には祖父母と今の邸で暮らしていた。父と母は王都外に現れた魔獣によって殺された。
この世界の人間全て、男も女も、老人から子供に至るまで剣術を習う。これは生き残るために仕方がない事なのだ。
この空間が無ければどれだけ人間は死なずに済んだのだろう。俺はそう思いながら戦いを続けている。
そんなある時、王都の近くの森で魔物が出たと報告が来た。
俺は部下と共に魔物を討伐しに向かった。俺が連れている部下は全部で十五名。何度も激戦を潜り抜けた猛者達だ。
俺が率いる騎士団は第二十騎士団。本来なら一番下の団で見向きもされないのだが、戦果を上げるごとに知名度も上がっていき、今ではこの国一番の有名な団になり、俺も英雄と言われるようになった。
「エサイアス様、魔物を発見しました! 体長五メートルの熊型の魔物です」
「全員配置につけ!」
掛け声と共に騎士達は動き出した。
「かかれ!」
号令と共に斬りかかっていく。
今回の魔物は動きが早く力はやや弱めといったところか。表皮が硬く、何度も斬りつけねばならず退治するには時間がかかりそうだ。
俺達は何度も斬りつけては離れ、攻撃を躱していくような戦法を取っていた。致命傷にはならなくても時間が掛ればこちらも怪我が増えていく。
「エサイアス様、魔獣が弱ってきました!」
「気を抜くな! あと少し頑張るんだ」
声を掛け合いながら攻撃していく。あと少し、というところで俺の隣にいた騎士が魔獣の爪に当たり倒れ込んだ。魔獣は隙を逃すはずがない。
倒れた騎士に襲い掛かろうと手を振り上げた時、俺は咄嗟に前に出た。
「団長!!」
俺は背中に一撃を食らった後、噛み付かれたようだ。
あぁ、俺の命はここまでか。
噛み付かれた瞬間そう思った。そこからの記憶は曖昧だ。騎士達は俺が噛みつかれた時、隙を見逃さず一斉に魔獣に斬りかかり、討伐したらしい。
俺はというと、噛み付かれたが、騎士達が一斉に斬りかかったため、パッと口から放して投げ捨てられたらしく、即死は免れたようだ。
怒号が聞こえる中、俺の意識はだんだんと遠のいていく。
その後、騎士達の手によりすぐに止血をして邸に運ばれたようだ。
邸に到着した時、血だらけで出血が止まらず主人の死を覚悟したとロキアは言っていた。
俺は微かに残る記憶の中で聞こえてきた声。
「隊長!気をしっかり!!」
「離れて!!!」
副官の声が聞こえていたと思ったら若い女性の声も聞こえてきた。
女性の声と共に急に柔らかな温もりが全身を包む感覚を感じた。俺は最後にこの優しい温もりに包まれて死ぬのだと思いながら意識を手放した。
そこから目を覚ましたのは三日後の事だった。
目を覚ますと自分のベッドの上だと気づいた。俺は死んだはずではなかったのか? そこで気づく。
背中の痛みが無い?
俺は仲間を庇って爪で背中を掻かれたはずだ。それに右の腰は噛みつかれたはず……だ。痛みが無い。神経が死んでしまったのだろうか? 恐る恐る腰に手を当ててみると、傷がない!!
これはどういう事だろうか。
驚いてガバッと布団から起き上がると、その場にいたロキアが気づいて慌てたように声を掛けてきた。
「エサイアス様!! 気が付かれましたか。急に起きてはなりません」
その言葉と同時に俺の身体はグラリと傾いてまたベッドへ倒れ込んだ。?? 一体どうなっているんだ? ロキアは侍女と共に俺の体の向きをまた元の位置に戻して話し掛けてきた。
「エサイアス様、目を覚まされたようで良かったです。かれこれもう三日は目覚めなかったので心配しておりました」
「ロキア、俺は怪我をしていたんじゃなかったのか? 死んだとばかり思っていたが……」
「エサイアス様が助かったのはナーニョ様のおかげなのです」
「……ナーニョ? 誰だ?」
「実は、エサイアス様が討伐に出ていた時に短期の空間が邸の中庭に開いたのです」
「何!? 短期の空間が……?」
そう、俺達が短期の空間と呼んでいる異次元の空間がある。魔獣や魔物が出てくる異次元の空間と何も出てこない異次元の空間がある。
大昔はそこから魔法を使う人間や獣人と呼ばれる種族が落ちてきたと記述が残っているのは知っていた。
我々はいつの頃からか異次元の空間が二、三日で閉じている事に気づいた。
別の種族は異次元の空間を閉じる術があるのではないかと議論されたが、こちらでは確認のしようがない。まさかその短期の空間から人が落ちて来ていたとは知らず驚いた。
「ナーニョ様は獣人でして、妹のローニャ様とこの地に、当家の中庭に落ちてきたのです」
獣人……。
まさか本当に獣人がいるとは。大昔の話なので獣人なんて作り話だろうと思っていたが、本当だったのか?
「そのナーニョという人物が俺を助けたのか……?」
「はい。血だらけで運ばれてきたエサイアス様の止血をしていた時に彼女は部屋に入ってきて魔法で傷を癒やしたのです。ナーニョ様から失った血は戻らないので当分動かさないようにと仰っておりました」
「その人物は今、どこに?」
「客間で過ごしてもらっております」
「そうか、会ってお礼を言わないとな」
「エサイアス様、今は目覚めたばかりです。少しお休みください」
「あぁ、わかった」
ロキアが語った獣人の話。にわかには信じ難かった。だが、背中の傷も腰の傷もその他戦闘で出来た小さな傷が全てなくなっている。
身体はすぐにでも討伐に行けるほど元気なのだ。俺は平気だろうとベッドから起き上がったのだが、ロキアが言っていたように血がないため、すぐに貧血で視界が歪み、ベッドに倒れこんだ。
……もどかしい。
そこから三日間はベッドで静養し、食事をいつもより多めに摂って過ごした。
六日目にはようやく執務を出来るまでには回復した。俺がベッドの住人となっている間、王宮から体調の確認が来た。
確認したい事がある、登城するようにと。
きっとナーニョの事を聞きたいのだろう。
俺を連れてきた部下が彼女の魔法を見ていたらしいからな。その後、医者にもみてもらったというからその辺から話が漏れたのかもしれない。
そしてロキアにナーニョが今どうしているのか聞いてみた。
彼女達は大人しく部屋で過ごしているようだ。千切れた本を何度も読み返して勉強したり、こちらが用意した刺繍のセットを使い、刺繍をしたりしていたのだとか。
獣人は同じような生活水準なのだろうか?
容貌はというと、猫種の獣人の女の子で二人ともとても愛らしく、人間と違うのは耳や尻尾だけのようだ。王都に出れば一躍人気者になるだろうと言っていた。
そんなに可愛いのか。
俺は会う事を少し楽しみに回復するのを待っていた。
そして動けるようになってから改めて助けてもらった彼女達は執務室に呼んだ。
ロキアと共にナーニョは部屋へ入ってきた。
彼女を見た瞬間、時が止まったかと思った。
頭の上に付いている耳と大きく丸い目は不安そうにしながらもこちらを見ている。
……可愛い。
俺は言葉を失った。ガタリッと思わず肘をついていたのを忘れてしまうほどに。
邸で用意したと思われる質素なワンピースから尻尾が見える。確かに猫だ。くりっとした丸い目にふわふわの毛。ピコピコ動く尻尾。俺が過ごしてきた人生の中で初めてそう思った。
こんなにも可愛い子が俺の怪我を治してくれたのか。
形容しがたい感覚だ。天にも昇るような思いとはこの事だろうか。
俺は怯える彼女達に警戒されないように努めて紳士的に振舞った。それはもう、今までにないほどだ。
きっとロキアは笑いを堪えているに違いない。
そして彼女達は魔法が使える事を言っていた。これが本当ならこの世界は彼女達をきっかけに平和な世の中になるのではないかと思った。そしてなんと彼女は十五歳。
俺達の世界では十八歳が成人だ。まだ子供だ。
彼女たちの持つ可能性に掛けてみたい。
だが、可愛いナーニョ嬢を誰からも守りたいとも同時に思う。そして俺は無理なお願いをしてしまった。もう一度彼女の魔法が見てみたいと。彼女は不安そうにしている妹を宥めた後、俺に魔法を掛けてくれた。
……これは凄い。
凄いとしか言いようがない。
俺は十五歳で学院を出てからずっと戦いに明け暮れていたといっても過言ではない。
騎士の勲章とも言えるほどたくさん怪我もしてきた。しっかりと治療されずに傷跡が残る事が殆どだ。古傷が痛む事もある。
その痛みで儚くなった幾人もの仲間を思い出すくらいだ。だが、その傷跡が全て綺麗に無くなっている。
奇跡だ、奇跡としか言いようがない。
明日は彼女達と王宮へ向かう。
絶対に俺は彼女をどんな物からも守ろうと心に誓った。
俺は不定期に開く異次元の空間から出てきた魔獣達を討伐していた。
巨大な魔獣や小さいが何百と出てくる魔物達。空間から出てくる魔獣達を討伐する事が目的だ。仲間は傷つき疲弊していく。別れもよくある事だ。
俺もいつ死ぬか分からない。
俺には親も兄弟も居ない。物心ついた時には祖父母と今の邸で暮らしていた。父と母は王都外に現れた魔獣によって殺された。
この世界の人間全て、男も女も、老人から子供に至るまで剣術を習う。これは生き残るために仕方がない事なのだ。
この空間が無ければどれだけ人間は死なずに済んだのだろう。俺はそう思いながら戦いを続けている。
そんなある時、王都の近くの森で魔物が出たと報告が来た。
俺は部下と共に魔物を討伐しに向かった。俺が連れている部下は全部で十五名。何度も激戦を潜り抜けた猛者達だ。
俺が率いる騎士団は第二十騎士団。本来なら一番下の団で見向きもされないのだが、戦果を上げるごとに知名度も上がっていき、今ではこの国一番の有名な団になり、俺も英雄と言われるようになった。
「エサイアス様、魔物を発見しました! 体長五メートルの熊型の魔物です」
「全員配置につけ!」
掛け声と共に騎士達は動き出した。
「かかれ!」
号令と共に斬りかかっていく。
今回の魔物は動きが早く力はやや弱めといったところか。表皮が硬く、何度も斬りつけねばならず退治するには時間がかかりそうだ。
俺達は何度も斬りつけては離れ、攻撃を躱していくような戦法を取っていた。致命傷にはならなくても時間が掛ればこちらも怪我が増えていく。
「エサイアス様、魔獣が弱ってきました!」
「気を抜くな! あと少し頑張るんだ」
声を掛け合いながら攻撃していく。あと少し、というところで俺の隣にいた騎士が魔獣の爪に当たり倒れ込んだ。魔獣は隙を逃すはずがない。
倒れた騎士に襲い掛かろうと手を振り上げた時、俺は咄嗟に前に出た。
「団長!!」
俺は背中に一撃を食らった後、噛み付かれたようだ。
あぁ、俺の命はここまでか。
噛み付かれた瞬間そう思った。そこからの記憶は曖昧だ。騎士達は俺が噛みつかれた時、隙を見逃さず一斉に魔獣に斬りかかり、討伐したらしい。
俺はというと、噛み付かれたが、騎士達が一斉に斬りかかったため、パッと口から放して投げ捨てられたらしく、即死は免れたようだ。
怒号が聞こえる中、俺の意識はだんだんと遠のいていく。
その後、騎士達の手によりすぐに止血をして邸に運ばれたようだ。
邸に到着した時、血だらけで出血が止まらず主人の死を覚悟したとロキアは言っていた。
俺は微かに残る記憶の中で聞こえてきた声。
「隊長!気をしっかり!!」
「離れて!!!」
副官の声が聞こえていたと思ったら若い女性の声も聞こえてきた。
女性の声と共に急に柔らかな温もりが全身を包む感覚を感じた。俺は最後にこの優しい温もりに包まれて死ぬのだと思いながら意識を手放した。
そこから目を覚ましたのは三日後の事だった。
目を覚ますと自分のベッドの上だと気づいた。俺は死んだはずではなかったのか? そこで気づく。
背中の痛みが無い?
俺は仲間を庇って爪で背中を掻かれたはずだ。それに右の腰は噛みつかれたはず……だ。痛みが無い。神経が死んでしまったのだろうか? 恐る恐る腰に手を当ててみると、傷がない!!
これはどういう事だろうか。
驚いてガバッと布団から起き上がると、その場にいたロキアが気づいて慌てたように声を掛けてきた。
「エサイアス様!! 気が付かれましたか。急に起きてはなりません」
その言葉と同時に俺の身体はグラリと傾いてまたベッドへ倒れ込んだ。?? 一体どうなっているんだ? ロキアは侍女と共に俺の体の向きをまた元の位置に戻して話し掛けてきた。
「エサイアス様、目を覚まされたようで良かったです。かれこれもう三日は目覚めなかったので心配しておりました」
「ロキア、俺は怪我をしていたんじゃなかったのか? 死んだとばかり思っていたが……」
「エサイアス様が助かったのはナーニョ様のおかげなのです」
「……ナーニョ? 誰だ?」
「実は、エサイアス様が討伐に出ていた時に短期の空間が邸の中庭に開いたのです」
「何!? 短期の空間が……?」
そう、俺達が短期の空間と呼んでいる異次元の空間がある。魔獣や魔物が出てくる異次元の空間と何も出てこない異次元の空間がある。
大昔はそこから魔法を使う人間や獣人と呼ばれる種族が落ちてきたと記述が残っているのは知っていた。
我々はいつの頃からか異次元の空間が二、三日で閉じている事に気づいた。
別の種族は異次元の空間を閉じる術があるのではないかと議論されたが、こちらでは確認のしようがない。まさかその短期の空間から人が落ちて来ていたとは知らず驚いた。
「ナーニョ様は獣人でして、妹のローニャ様とこの地に、当家の中庭に落ちてきたのです」
獣人……。
まさか本当に獣人がいるとは。大昔の話なので獣人なんて作り話だろうと思っていたが、本当だったのか?
「そのナーニョという人物が俺を助けたのか……?」
「はい。血だらけで運ばれてきたエサイアス様の止血をしていた時に彼女は部屋に入ってきて魔法で傷を癒やしたのです。ナーニョ様から失った血は戻らないので当分動かさないようにと仰っておりました」
「その人物は今、どこに?」
「客間で過ごしてもらっております」
「そうか、会ってお礼を言わないとな」
「エサイアス様、今は目覚めたばかりです。少しお休みください」
「あぁ、わかった」
ロキアが語った獣人の話。にわかには信じ難かった。だが、背中の傷も腰の傷もその他戦闘で出来た小さな傷が全てなくなっている。
身体はすぐにでも討伐に行けるほど元気なのだ。俺は平気だろうとベッドから起き上がったのだが、ロキアが言っていたように血がないため、すぐに貧血で視界が歪み、ベッドに倒れこんだ。
……もどかしい。
そこから三日間はベッドで静養し、食事をいつもより多めに摂って過ごした。
六日目にはようやく執務を出来るまでには回復した。俺がベッドの住人となっている間、王宮から体調の確認が来た。
確認したい事がある、登城するようにと。
きっとナーニョの事を聞きたいのだろう。
俺を連れてきた部下が彼女の魔法を見ていたらしいからな。その後、医者にもみてもらったというからその辺から話が漏れたのかもしれない。
そしてロキアにナーニョが今どうしているのか聞いてみた。
彼女達は大人しく部屋で過ごしているようだ。千切れた本を何度も読み返して勉強したり、こちらが用意した刺繍のセットを使い、刺繍をしたりしていたのだとか。
獣人は同じような生活水準なのだろうか?
容貌はというと、猫種の獣人の女の子で二人ともとても愛らしく、人間と違うのは耳や尻尾だけのようだ。王都に出れば一躍人気者になるだろうと言っていた。
そんなに可愛いのか。
俺は会う事を少し楽しみに回復するのを待っていた。
そして動けるようになってから改めて助けてもらった彼女達は執務室に呼んだ。
ロキアと共にナーニョは部屋へ入ってきた。
彼女を見た瞬間、時が止まったかと思った。
頭の上に付いている耳と大きく丸い目は不安そうにしながらもこちらを見ている。
……可愛い。
俺は言葉を失った。ガタリッと思わず肘をついていたのを忘れてしまうほどに。
邸で用意したと思われる質素なワンピースから尻尾が見える。確かに猫だ。くりっとした丸い目にふわふわの毛。ピコピコ動く尻尾。俺が過ごしてきた人生の中で初めてそう思った。
こんなにも可愛い子が俺の怪我を治してくれたのか。
形容しがたい感覚だ。天にも昇るような思いとはこの事だろうか。
俺は怯える彼女達に警戒されないように努めて紳士的に振舞った。それはもう、今までにないほどだ。
きっとロキアは笑いを堪えているに違いない。
そして彼女達は魔法が使える事を言っていた。これが本当ならこの世界は彼女達をきっかけに平和な世の中になるのではないかと思った。そしてなんと彼女は十五歳。
俺達の世界では十八歳が成人だ。まだ子供だ。
彼女たちの持つ可能性に掛けてみたい。
だが、可愛いナーニョ嬢を誰からも守りたいとも同時に思う。そして俺は無理なお願いをしてしまった。もう一度彼女の魔法が見てみたいと。彼女は不安そうにしている妹を宥めた後、俺に魔法を掛けてくれた。
……これは凄い。
凄いとしか言いようがない。
俺は十五歳で学院を出てからずっと戦いに明け暮れていたといっても過言ではない。
騎士の勲章とも言えるほどたくさん怪我もしてきた。しっかりと治療されずに傷跡が残る事が殆どだ。古傷が痛む事もある。
その痛みで儚くなった幾人もの仲間を思い出すくらいだ。だが、その傷跡が全て綺麗に無くなっている。
奇跡だ、奇跡としか言いようがない。
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