まさか猫種の私が聖女なんですか?

まるねこ

文字の大きさ
73 / 125

73 二人の令嬢

しおりを挟む
「どうした?」
「エサイアス様に面会をしたいという者がおります」

 エサイアスは興味なさげに騎士に聞き返した。

「誰だ?」
「街長の娘、フローラ様とサロニア様です」
「今は忙しい。断ってくれ」
「畏まりました」

 騎士は一礼して部屋を出ていく。

「はぁ、ここの令嬢は厄介そうですね」
「あぁ、駐屯所に押しかけてくる令嬢はたまにいるが俺も好きじゃないな」
「私も苦手だ」

 隊長たちはうんざりした表情で話をしている。
 彼らは令嬢たちに慕われるのは嫌なのだろうか?

「何故なのですか?」
「あぁ、エサイアス様は貴族だから仕方がないが、第十二騎士団はほとんど平民か男爵で構成されているんです。

 王宮からの騎士と聞いて群がるが平民だと聞いて去っていく者の多い事。まだ去るだけならいいが、暴言もあるんですよ。どの令嬢も自分の好みや爵位の騎士を狙っている。浅ましい令嬢と多く接している分、我々もよく理解している」
「そんなことがあるのですね」
「街長の娘たちはエサイアス様目当てだろう」

 一人の言葉に隊長たちはうんうんとうなずいている。

 エサイアス様の対応はどうするのだろうか。

 少し気になる。

 女心としても複雑だ。機会を作り、素敵な男性に振り向いてもらいたいと思う令嬢たちの気持ちも理解できるし、声を掛けてくる女性たちに良い顔をするエサイアス様の姿を見たくないともう気持ちもある。

「興味ないな。前から言っているが、用がある者しか通すことはしない」
「そうなのですか?」

「あぁ、ナーニョ様。巡視などでよく街へ出掛けるが、貴族の中には英雄という名の名声を取り込みたい者は一定数いるんだ。中には袖の下を出す人たちもいる。相手をしているとキリがないんだ」
「そう、なんですね」

「ナーニョ様は今、神殿に守られているけれど、隙あらば力ずくで、という者もいる。気を付けて下さい」
「わかりました」

 確かに王族教育で発言や行動に気を付けるように言われていた。自分の立ち位置を自覚する。

 これからはもっと気を付けていこうと思う。


 この日は巡視の方法を少し話し合い、一緒に食事をしたあとで私は神殿へ戻った。

 もちろんファブロウ神官に『明日の午前中は巡視に参加し、午後に治療に入る』と伝えると神官は喜んでいた。


 翌日。

「エサイアス様、おはようございます」
「ナーニョ様、おはようございます。では出発しましょうか」

 騎士たちと共に出発しようとした矢先。

「「エサイアス様!! おはようございます!! どうかこれをお持ちになって」」

 街長の娘たちは二人とも籠を持ち、エサイアス様に声を掛けてきた。

 エサイアス様は騎士たちに一旦止まるように指示をした後、令嬢たちに声を掛けた。

「マードラ子爵令嬢、気持ちは感謝します。ですが、これから魔獣と戦うため香りの強いものは持ち歩けません」
「どうしてっ。私たちが朝から作った物を受け取ってくれないの?」
「そこの護衛、私たちは魔獣討伐に出る。すまないが二人を」

 エサイアス様は厳しい口調で護衛を呼びつけ、令嬢たちに離れるよう護衛に言いつける。

 護衛はエサイアス様に言われ、従った。
 二人は同行する私に気づき、睨みつけてきた。

 ……なんだか嫌な気持ちだ。

「エサイアス様! 帰ってきたらお食事しましょう。あっ、ちょっと、何するのよ!」

 街で待機する騎士は騒ぐ令嬢の壁となり、私たち巡回する騎士たちから距離を取った。

「では、出発!」

 私は彼女たちを横目に見つつ、騎士たちと街の外へ出た。

 まず街道から外れた場所を捜索する。小さな魔獣はかなり数がいたが、問題なく討伐していく。


 午前中だけで百を越える魔獣が討伐された。

 最新の研究から分かったのは、異次元から現れた魔獣は生殖機能が存在しない。つまり土地に根付いて繁殖する事はないのだ。

 ただこの世界に現れ、人間や獣たちを滅ぼしていくだけの生命体なのだとか。

 そして私が魔獣討伐に参加して初めて気づいたのだが、魔力を持つ魔獣が存在している。

 全ての魔獣という訳ではないが、大型の強い魔獣は魔力を持っていることが多いようだ。

 研究所に報告は出したので今後ローニャたちの方で研究が進められるだろう。

「あそこに空間の揺らぎがあります。浄化します」

 たまに見つかる空間の揺らぎ。

 この街に穴ができなかったのはたまたまだ。

 こうして事前に見つけることができて良かった。浄化魔法で揺らぎを消した。

 午前中の討伐を無事に終えることができた。

「本日もお疲れ様でした」
「ナーニョ様、お疲れ様でした」

 ナーニョはいつものように魔法を掛けてから神殿に向かった。

 本人はあまり気にしていないが、街の人たちはナーニョを特異な目で見ている様子だ。

 誰もナーニョには声を掛けようとしない。ナーニョの護衛たちも、ロダンとは違った雰囲気に警戒をしているようだ。

 ロダンの街ではナーニョの治療を感謝されており、最後は信奉者まで出そうな程だった。

 だが、歩いている所に声を掛けないのは討伐に行くためと知っていて邪魔をしてはいけないという配慮から声はかけられなかったが、この街ではよそ者が来たと警戒しているようだ。

「ナーニョ様、こちらが今街で怪我をしている者たちです」

 ロダンの街から運ばれてきた人や行商人と思われる。

 数も少ないためすぐに治療は行われた。

 ファブロウ神官は最初この街の人と同様に少しナーニョに疑いを持っていたようだが、治療を始め、怪我人を治すと手のひらを返す様に親切になった。

「ナーニョ様、明日もあります。どうぞ早めにお休みください」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて休ませて頂きますね」

 こうして一日目は早めに部屋へ戻ることができた。



 二日目、三日目も順調に討伐し、四日目の夜。

『お姉ちゃん!誕生日おめでとう』
『ありがとう。誕生日なんてすっかり忘れていたわ』
『そう思った! 旅の間は荷物になるからプレゼントを送るか迷ったんだけど、兄様と一緒に作ったの受け取って』

 ローニャから送られてきたのはリボンの付いた白いチャーム。何も魔法を彫られていない無骨な感じがする。

『ローニャ、このチャームは何? 素朴な感じね?』
『それはね、魔獣の骨からできているの。魔力が通しやすいんだよ! 何かあった時に指輪が無いと困るけど、これなら尻尾に付けていれば大丈夫かなって思って作ったの』

 ローニャの言葉に驚きながらも魔力を通してみる。

 ……魔力がすっと流れ、指先が安定している。それにとても馴染みがいい。

『ローニャ、これは凄いわ! 魔力の馴染みが今までの物とは比べ物にならないほど良いわ』
『でしょう?なんで私たちの世界で今まで使われてなかったのかなって思ったくらいだもん』
『きっと穴をすぐに塞ぐことで魔獣は少ないからじゃないかしら?』

『そうかもしれないね。でも、お姉ちゃんが喜んでくれて良かった!』
『ローニャ、ありがとう。大事に使わせてもらうわ』

 そういえば、今日は私の誕生日だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...