男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

文字の大きさ
22 / 35

22 出入り禁止となった令嬢

しおりを挟む
「フラン様、お客様がお見えになっております」
「ここに私の客? 誰?」
「エフィン公爵令嬢です」

 従業員が私の問いに答えた。

 今日はブラジェク伯爵の立ち上げた商会で商品の検討会が行われていたの。

 最近は私もロイ様との結婚の日取りが決まり、商会の手伝いをするようになっていた。

「仕方がないわね。サロンへお通ししてちょうだい」
「畏まりました」
「お義父様、しばらく席を外しますね」
「ああ。私が対応しようか?」

「いえ、あの馬、公爵令嬢一人くらいいなせなければこれからやっていけないですもの」
「そうか。なら君に任せる。何かあればすぐに呼んで欲しい」
「わかりました」

 私は義父となる伯爵の申し出を断り、アーシャを連れて商会のサロンへと向かった。

「エフィン公爵令嬢、お待たせしました。今日は商会にどういったご用件でしょうか?」
「あなたっ! 遅いわよ。私が呼んだならすぐに来なさいよ」

 彼女は相変わらず自分の世界だけに生きているのね。

 後ろにいた護衛騎士たちの顔ぶれは前回とは変わっている。さすがにあれは公爵家でも問題になったのね。

「今日はどういったご用件でしょうか?」
「貴女に用があってきたのよ」
「……はあ。なんでしょうか」

 私はため息を吐きながら彼女を見ていると、彼女の後ろで控えていた従者が重そうな袋を抱えてテーブルの上に置いた。

「この袋には金貨三百枚あるわ。これで彼から手を引きなさい」

 私はついその様子に笑ってしまった。

「なんで笑うのよ!」
「いえ、失礼。ロイ様が金貨三百枚の価値しかないと? そのお金は公爵が用意したものではないでしょう?」

「そうよ。私の持てる財産よ。何が悪いの」

 彼女は本当に目先のことしか考えていないのね。このことを知れば公爵もさすがに怒ると思うけど。

 せっかく前公爵が自分の借金をブラジェク伯爵に押し付けられたのに孫がその借金をまた自分のところに戻そうとしているんだものね。

 教えてはあげないけど。

「エフィン公爵令嬢、このお金でブラジェク伯爵子息と婚約を破棄したとしてその後はどうするのです?」
「私が彼のことをずっと面倒みるわ」

「借金はどうするのです?」
「……それは。お父様がなんとかするわ」

「エフィン公爵令嬢とロイ様の婚約は今まで結ばれることはなかったでしょう? それはなぜか考えなかったのでしょうか?

 借金がある限り、これからも結ばれることはないでしょうね。ロイ様はずっとエフィン公爵令嬢に買われていろということなのかしら。奴隷がほしいのですか?」

「奴隷!? ロイ様は奴隷じゃないわっ! 貴女、失礼よ」
「お金で買うと言うのはそういうことではないですか? ああ、言葉が悪かったですね。愛妾でしたか」

「ロイ様を愛人なんかにはさせないわ。愛し合っているんですもの」

 私は彼女とこれ以上話すのも無駄だとは思ったけれど、一言だけは言っておこうと思った。

「エフィン公爵令嬢、もっと周りを見るべきですね。そのお金は領民が汗水たらして稼いだもの。

 あなた一人のお金ではないわ。それにロイ様は婚約解消しないと言ったの。それ以上でもそれ以下でもない。

 これ以上ロイ様に付き纏うようでしたらこちらとしても手を打たねばなりません」

「なによっ! 一介の男爵令嬢でしかない貴女に何が出来るっていうのよ! こんな商会すぐに潰せるんだからっ」

「国からブラジェク伯爵の商会に口を出すなと注意を受けているのを知らないのですか?」
「知らないわよ!!」

「話になりません。ブラジェク伯爵の事業を邪魔したいのならどうぞ国へ掛け合ってください」

 私がそう話をしていると、サロンに一人の男性が入ってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

派手にしない工房は、今日もちゃんと続いている

ふわふわ
恋愛
名門でも、流行でもない。 選ばなかったからこそ、残った場所がある。 街の片隅で、小さな工房を営む職人シオンと、帳簿と現実を見つめ続けるリリカ。 派手な宣伝も、無理な拡大もせず、ただ「ちゃんと作る」ことを選び続けてきた二人の工房は、いつの間にか人々の日常の一部になっていた。 しかし、再開発と条件変更という現実が、その場所を静かに揺さぶる。 移るか、変えるか、終わらせるか―― 迫られる選択の中で、二人が選んだのは「何も変えない」という、最も難しい決断だった。 特別にならなくていい。 成功と呼ばれなくてもいい。 ただ、今日も続いていることに意味がある。 これは、成り上がらない。 ざまぁもしない。 けれど確かに「生き方」を選びきった人たちの物語。 終わらせなかったからこそ辿り着いた、 静かで、確かな完結。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

政略結婚の作法

夜宮
恋愛
悪女になる。 そして、全てをこの手に。 政略結婚のために身分違いの恋人のいる王太子の婚約者となった公爵令嬢は、妹の囁きを胸に悪女となることを決意した。 悪女と身分違いの恋人、悪女になるはずだった妹の物語。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...