【完結】美しすぎてごめんなさい☆

まるねこ

文字の大きさ
10 / 27

せっかく買ったクッキーが!

しおりを挟む
「エディット、有難う。助かったよ」

私はそう言いながら後ろを振り向くと、姉様達が私を見て恐ろしいものを見たかのような表情をしている。

「ブランシュ! 怪我はない? 大丈夫なの??」

 ふと私の服を見ると血がべっとりと付いていた。私は怪我していない。となるとさっきぶつかった誰かが怪我をしているんだわ。慌ててぶつかった人の方に視線を向けると、私とぶつかって力尽きたのか数メートル先で倒れている。

私は姉様達の止める言葉よりも先に身体が動いた。

「大丈夫ですかっ!?」

血まみれの男の人はどうやら誰かに襲われて斬られたようだ。

「ね、姉様っ!! この人斬られているわっ」

王都の治安は良い方だと聞いていたのに。

人が斬られるのは当たり前なの??

気が動転しながらも切られた箇所にハンカチを置いてその上から手でギュッと押さえる。

どうしよう。
血が止まらないわ。

子供の手ではどうしたって止まるわけもないのはわかっているけどなんとかしなきゃと必死になる。





「こ、この方はラーザンド辺境伯子息ではないかしら。ほらっ剣に家紋があるわ。急いでお連れしましょう」

姉様達は私と違いかなり冷静な様子。切られたという事は襲った人が近くにいるんじゃないかと思うのだけれど、我が家の護衛達はしっかりと私達を護衛してくれている。どうやら襲撃者達は私達を見るなりすぐに去っていったようだった。

「お嬢様、すぐに馬車にお乗りください」

エディットが馬車の扉を開け、手を伸ばす。私の後に姉様達。そしてラーザンド辺境伯子息と思われる人を護衛が担いで乗せて馬車は発車した。その間にも彼の血は止まることがない。

……死んでしまうかもしれない。

私の魔法、こんな時に使えないの……?

でも、かすり傷程度の回復しか望めなくても魔力が尽きるまで掛け続ければなんとかなるかもしれない。私は怖くなって必死に彼に手を当て魔法を掛けはじめる。私は一縷の望みを賭けて治癒魔法を掛け続ける。今までこんなに魔法を使ったことがないのでどうなるかも分からない。

「大丈夫だから、大丈夫。大丈夫よ」

私は自分に言い聞かせるように彼に言葉を掛け続けた。

「……ブランシュ。貴女、治癒魔法が使えたのね」

ロラ姉様がそう呟いた。馬車は三十分程で邸へと帰ってきた。そこから護衛達が医者を呼び客室に彼は運び込まれていった。母は血まみれの私を見て卒倒し、執事に支えられている。私はというと、血まみれのままでは困るのですぐに湯浴みとなった。

姉様達も客室に案内されて着替える事になった。マリルは青い顔をしながら『お嬢様が、お嬢様が』と泣きながら身体を洗ってくれて何だか申し訳なかった。

私は怪我一つしてなかったし、突然の事で興奮していたと思うの。湯浴みが済んでホッとしたらそのままソファへと倒れてしまったらしい。気が付くと朝になっていた。

「お嬢様が目を覚まされました!」

マリルは慌てて何処かへ知らせに行ったわ。暫くするとお母様や姉様達が部屋へ転がり込むように入ってきてギュウギュウと私を抱きしめた。

「く、苦しいですわ」

三人とも泣いている。

「姉様? どうしたの?」
「ブランシュ! 無事で良かった! 心配したのよ」
「そうよ。お医者様からは突然の事で身体が驚いたのだろうって。それと急激に魔法も使ったから魔力を回復させるために眠りについたみたいなの」

モニカ姉様がそう話をしてくれる。

「彼は、無事でしたか?」
「彼は無事よ。ブランシュのおかげで一命は取り留めたわ。深い傷は回復しているみたい。今はまだ眠っているから目覚めたら会うといいわ。ところでブランシュ、貴女、治癒魔法が使えたの?」
「……お母様。黙っていてごめんなさい。今までかすり傷しか回復させた事しかなかったし、使う事もないなって思って……」

私は黙っていたことを正直に言う。お母様も姉様達と視線を合わせ頷き合う。

「ブランシュ、貴女のしたことはとても尊い行いだわ。でも、これからも隠し続けなさい。人のいる場所では使ってはいけない、わかったわね? モニカもロラもこの事は絶対言ってはいけないわ」

いつもになく母は厳しい口調で言う。そうよね、ただでさえ私は狙われる身なのに治癒魔法が多少でも使えると分かればレア度が跳ね上がる。

「「「もちろんです」」」

私達の返事と共に母の顔もフッと力が抜ける。

「あーっ! せっかく買ったクッキーがっ! マリルとエディットと食べようとしていたのに。残念だわ」

私はクッキーを思い出してがっくりとなった。私の様子を見てマリルも母達も元の柔らかな雰囲気となった。

「ブランシュ、クッキーならまた買ってきてあげるわ。料理長だって作ってくれるわよ」
「えぇ、そうですね。お母様、今度料理長に頼んでみます」

 そこから母も姉様達も私の部屋で少し話をした後、姉様達は自分の邸へと帰ってしまった。

姉様達と離れるのはいつも寂しい。

姉様達が馬車に乗り込むギリギリまでずっと引っ付いていたのは仕方がないと思うの。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃
恋愛
バートン伯爵家のミアの婚約者、パーシーはいつも「魔法が使える人がいい」とばかり言っていた。 実はミアは幼いころに水の精霊と親しくなり、魔法も得意だった。 妹のリリーが怪我した時に母親に「リリーが可哀想だから魔法ぐらい譲ってあげなさい」と言われ、精霊を譲っていたのだった。 リリーはとっくに怪我が治っているというのにずっと仮病を使っていて一向に精霊を返すつもりはない。 それでもミアはずっと我慢していたが、ある日パーシーとリリーが仲良くしているのを見かける。 パーシーによると「怪我しているのに頑張っていてすごい」ということらしく、リリーも満更ではなさそうだった。 そのためミアはついに彼女から精霊を取り戻すことを決意する。

ヒロインだけど出番なし⭐︎

ちよこ
恋愛
地味OLから異世界に転生し、ヒロイン枠をゲットしたはずのアリエル。 だが、現実は甘くない。 天才悪役令嬢セシフィリーネに全ルートをかっさらわれ、攻略対象たちは全員そっちに夢中。 出番のないヒロインとして静かに学園生活を過ごすが、卒業後はまさかの42歳子爵の後妻に!?  逃げた先の隣国で、まさかの展開が待っていた——

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...