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第2章 王への道
七話 願いと笑顔
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あと2日早く完成させたかったのですが、定期テストの勉強で書けませんでした。申し訳ありません。
最後の部分、眠い中で書いたので多少変かもしれませんがご了承ください。
ーーー
エクセイザーとウィータを抱きしめること十数分。ようやく満足したのか、エクセイザーがゆっくりと俺から身体を離した。かくいう俺も、彼女のことを抱きしめられて気分が満たされている。
……いつか、シリルラのことも現実のこの腕で抱きしめたいものだ。全く同じ感覚を持っているとはいえ、あの世界では魂だけの状態だったからな。まあ、それは叶わないことだが。
《……いつか、来るといいですね》
ああ、来て欲しいよ。
離れていったエクセイザーはふっと微笑み、慈しむような顔で、それでいてどこか名残惜しそうに俺の頬を撫でた。
俺はそれに自分の手を重ね、その温もりを感じる。
エクセイザーは驚いたような顔をしたものの、すぐに嬉しそうな表情になった。
それが俺への愛情を表しているようで、どこかむず痒い。でも、悪くない感じだ。
「……なあ、そろそろいいか?」
そんな風にエクセイザーと触れ合っていると、おずおずとした女性の声が聞こえてきた。
ハッとして、慌ててエクセイザーの手を手放してそちらを向く。エクセイザーがちょっと残念そうな顔をした。
声を発した主……エクセイザーとともにこの場所にやってきた女性は、腰に手を当ててやれやれとでもいうようにため息を吐いた。少し恥ずかしくなる。
ていうか、ずっとエクセイザーとウィータの方に意識が向いてたけど、こいつもいたんだった。さっきまでのやりとり全部聞かれてたのか。
ちょっといたたまれない気持ちになるが、それを表には出さずにその女性の方へ向き直る。そしてもう一度ちゃんと彼女の姿を見た。
その女性の容貌は、俺の記憶の中にあるものと変わっていた。俺の知る彼女は同世代くらいだったのだが、顔立ちから幼さが完全に抜けて凛々しいものになっている。
唯一変わっていない勝ち気そうなつり目は、片方が右顔自体を覆う大きな眼帯で覆われており、代わりに残った隻眼はより鮮烈に輝いていた。
どこぞの某流星のごとく美しかった赤い長髪はバッサリと短く切り揃えられており、ショートヘアになっている。両側面からはふわふわとした赤毛に包まれたウサ耳が垂れ下がっていた。
装いも大きく変わっており、ノースリーブの黒いシャツと、内側からベルトで固定されたプレートのついたミニスカートをはいている。
四肢には同じ装飾の施された黒い薄皮のアームカバーとブーツを着用していて、神化したことにより特別製になった両目により、それらから強力な魔力が秘められていることを見抜く。
そして何より目を引くのは、天高くそそり立つ額の二本の角。細く長いそれは日本刀のように内側に沿っていて、非常に鋭そうだ。
赤い頭髪にウサ耳、鬼の角……この特徴を持っている人物は、俺が知っている中では一人しか心当たりがない。
「久しぶりだな……ヴェル」
「ああ、久しぶり龍人」
俺がヴェルと呼んだ女性……鬼人族と兎人族のハーフであり、かつて俺がイヴィルゴブリンたちから救った彼女はふっと不敵な笑みを浮かべる。
正式な名前をヴェルメリオというこいつとは、東部から追っ手に追われながら西部に逃げ込んできたところを助けたという過去を持つ。
追っ手の攻撃で腹に大穴が開いていたのを治療し、その後鬼人族と兎人族たちの安全が確保できるまで俺のログキャビンで共同生活を送っていた。
彼女と会話したのは十年前。助けを求めに北部へと向かった日の朝、寝ぼけ眼で俺の見送りに出てきた時の会話とも言えないやりとりを最後に眠りについた。
そうして俺が眠っている間にかなり変化していた彼女だが……どうやらその変化は、外見だけではないようだ。
「お前も、亜神になったのか?」
「……へえ、わかんのか。寝起きなのによくやるな?」
ニヤリと笑うヴェル。そう、彼女の体からエクセイザーのような亜神特有のオーラが感じられたのだ。以前ならばわからなかったが、同族になった今ならわかる。
亜神化というのは、生き物の限界を超越した時に存在の格が上がる現象。そこに至るには相応の努力が必要になる。どうやらヴェルは、亜神に至るほどの経験をしてきたようだ。
それは、彼女の失われた右目が証明していた。無機質な眼帯に覆われたそれを見て心の中に悔しさが生まれる。
なぜヴェルが目を失った時自分は眠っていたのか。仕方がないこととはいえ、守れなかったことが悔しい。
しかしそれは彼女の努力を否定することになるので、何も言わない。必要な休眠とはいえ眠りこけていた俺に何もいう資格はないだろう。
それにしても……エクセイザーも黒龍もヴェルも、俺の知っている時とは随分と変わった。そこから十年という月日の経過を感じる。
……ふと、急に恐怖が襲って来た。
皆変わっているのに、俺の心の時間は十年前で止まっている。その分手に入れた幸せもあるが、俺だけが取り残されたような気分だ。
脳裏にかつての日常が思い浮かぶ。賑やかで楽しい、シリルラやエクセイザー、ヴェル達に囲まれた西部での生活の日々。
他にも同じように助けた鬼人族……今では『神子』であることも判明している鬼人族のニィシャさん、兎人族の幼女レイも含めて全部で五人で暮らしていた。
料理をしたり、レイと遊んだり一緒に寝たり、たわいもない話をしたり。
今思い返せば、すごく楽しい時間だった。本来なら、二度と振り返ることすらできなかったはずの時間。
その時間は、もうない。ただあるのは失われた10年の時間。俺の知るかつての光景は、俺が死んだあの時終わったんだ。
ドクン。
それを自覚した途端…自分の中にある欲望に気がついた。エクセイザーとの約束とは違う、新たに俺の中に芽生えた願望。
俺は、もう一度取り戻したい。あの暖かい空間を。東部のことがあって考える暇もなかったが、異世界人である俺にとって、あのログキャビンは唯一の帰る場所だった。
おかえりと言われるたび、心の底が嬉しさに震えた。俺の作った料理を美味しいと言ってくれた時、涙が出そうになった。
あそこは紛れもなく、俺の〝家〟と言うべき場所。
すでに両親のいない俺が家族のように感じて、瑠璃や唯一の友人達の前以外で初めて心の底から笑うことのできた、最高の居場所だったんだ。
……もう遅いのかもしれない。ずっと眠っていた俺に、この願いを持つ資格はないのかもしれない。いや、間違いなく、寸分の違いもなくないだろう。
それでも、そうだとしてもこの願いは諦められない。なんて弱けなく、弱いのだろう、俺は。いつまでたっても、帰る場所を求めてしまう自立できない半人前だ。
でも、そんなこと最初から分かりきってる。俺は寂しがり屋だ。だから俺を受け入れてくれる誰かの温もりが欲しいんだ。
無い物ねだりだってこともわかってる。すでに失ってしまったものをいくら求めたって、手に入るのは残り物の断片だけだ。
だからこそ、今俺が求めるものはあの時と同じものじゃない。もっと別の、でもそれよりもさらに価値のある何かだ。
その何かがどんなものなのかはまだわからない。
けどそこに俺とシリルラ、エクセイザーヴェル、ニィシャさんやレイがいなくちゃ、成り立たないのだけはわかる。
それに……
「……お前もな」
「…? どうしたの、パパ?」
腕の中に抱いたままだったウィータを見下ろすと、不思議そうに首をかしげる。俺は微笑みながらなんでもないぞ、と首を振った。
高ぶっていた気持ちをウィータの頭を少し撫でて鎮めて、真剣な顔になってヴェルを見る。ずっと無言で考え込んでいた俺を、彼女は黙って待っていた。
そんなヴェルに内心感謝しながら、深呼吸をして気分を整える。そしてまっすぐ彼女の目を見ると意を決して口を開いた。
「すごいなヴェル。まさか亜神になるなんて」
「まあ、色々と無茶したけどな。ていうか、それを言うならお前なんか本当の神になってるんだからそっちの方がすごいだろ?」
「俺は別にすごくねえよ、ずっと寝てただけだからな」
「確かにな」
ふっと笑い合う俺たち。昔話していた時よりいくらか声音に余裕のようなものが感じられるな。大人の余裕というやつだろうか。
まあ、それはともかく。俺はウィータを抱えていない方の空いている片手をヴェルに向けてすっと差し出す。
「とにかく、これからまたよろしく。ずっと眠っててわからないことだらけだから色々と助けてくれ」
そう言って握手を求めるが…なぜかヴェルは呆れたような顔をして首を横に振った。あれっ、何か不機嫌にさせるようなことしたっけ?
首をかしげる俺にヴェルは仕方がないなとでもいうように所在なさげに揺れる俺の手を押し戻すと、ニッと笑った。その顔に少しどきりとする。
《……龍人様?》
うっ、ほ、ほんのちょっとだって!
って、それはともかく。今はヴェルだ。
「そんなの、いちいち頼むまでもないだろ?だって……私達は家族みたいなもんなんだからさ」
「………え?」
ヴェルの言葉に、呆然とした声を上げる。俺とヴェル達が、家族?
「なんだよその顔は。忘れたとは言わせないぜ? お前は私のことを助けてくれた。 私のために怒ってくれたし、守ってくれた。なら今度は私が助ける番だ。困った時に助け合うのは、家族じゃなくてなんなんだ?」
そう堂々とした声音で、自信に溢れた笑顔で言うヴェルに俺は心を貫かれるような錯覚を覚えた。衝撃が頭の中を支配する。
やがてそれは歓喜へと変わり、全身に行き渡っていく。それによりにやけそうになる顔を俯くことで隠した。
……そっか、家族か。ヴェルの方も、そんな風に思ってくれてたのか。俺の感じていた温かさは、俺だけのものじゃなかったんだ。
それが嬉しくて、どこかもどかしい。人に言ってもらえて初めて、俺の中の記憶の光景は確かにあったのだと実感することができた。
思わず涙までこぼれ落ちそうになるが、それは流石にあれなのでグッと堪えて顔を上げる。
そして先ほどのヴェルのような笑みを浮かべた。
「…ああ。それじゃ頼んだぜ、ヴェル」
「おう、任せろ」
「これ、お主たち。妾を蚊帳の外に盛り上がるでない。龍人の妻は妾じゃぞ」
「あっ、ごめんごめん」
「…ふん、それを言うなら私だって……」
ゴニョゴニョと何事か呟くヴェル。あまりにも小さすぎて聞きとることができなかった。
「何か言ったか?」
「…なんでもねえよ。それより、これからどうするんだよ?」
「そうだなぁ……」
まず、俺今の『遥か高き果ての森』がどう言う状態なのか全く知らないんだよな。何せ十年だ、人間なら瞬く間に時代が進んでいる。
それに、さっきからなんだか変な感覚もする。なんと言うか、大地と魂の一部ががリンクしているような……『遥か高き果ての森』そのものと繋がりでもしたのだろうか。
「それについては、私から説明させていただきますわ」
「うわっ!?」
突如後ろから聞こえてきた女性の声に反射的に飛び退いた。さっきまでなんの気配も感じなかったのに、いったい何者だ!?
そう思いながら先ほど俺が立っていた場所を見ると……そこには、一人の女性が佇んでいた。あらあら、と困ったように言いながら微笑んでいる。
どこからともなく現れた女性に、俺は瞠目して驚いた。なぜなら彼女もまた、ヴェルのように知っている人物だったからだ。
そこにいるのはすらりとした長身の、ほんわかとした笑みを浮かべながらもどこか得体の知れない色気を持った、そんな女性。初対面だったらどぎまぎすること間違いなしだろう。
その額からはヴェルのような角が生えており、髪色は美しい赤色。二つのその特徴は鬼人族に見られるものだ。
そして、その鬼人族の女性の正体は……
「ニィシャ、さん?」
「うふふ…お久しぶりですわ、リュウトさん」
鬼人族にして大精霊の分身を宿す『神子』である、ニィシャさんその人だった。
ーーー
読んでくださり、ありがとうございます。
感想をくださいお願いいたします。
最後の部分、眠い中で書いたので多少変かもしれませんがご了承ください。
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エクセイザーとウィータを抱きしめること十数分。ようやく満足したのか、エクセイザーがゆっくりと俺から身体を離した。かくいう俺も、彼女のことを抱きしめられて気分が満たされている。
……いつか、シリルラのことも現実のこの腕で抱きしめたいものだ。全く同じ感覚を持っているとはいえ、あの世界では魂だけの状態だったからな。まあ、それは叶わないことだが。
《……いつか、来るといいですね》
ああ、来て欲しいよ。
離れていったエクセイザーはふっと微笑み、慈しむような顔で、それでいてどこか名残惜しそうに俺の頬を撫でた。
俺はそれに自分の手を重ね、その温もりを感じる。
エクセイザーは驚いたような顔をしたものの、すぐに嬉しそうな表情になった。
それが俺への愛情を表しているようで、どこかむず痒い。でも、悪くない感じだ。
「……なあ、そろそろいいか?」
そんな風にエクセイザーと触れ合っていると、おずおずとした女性の声が聞こえてきた。
ハッとして、慌ててエクセイザーの手を手放してそちらを向く。エクセイザーがちょっと残念そうな顔をした。
声を発した主……エクセイザーとともにこの場所にやってきた女性は、腰に手を当ててやれやれとでもいうようにため息を吐いた。少し恥ずかしくなる。
ていうか、ずっとエクセイザーとウィータの方に意識が向いてたけど、こいつもいたんだった。さっきまでのやりとり全部聞かれてたのか。
ちょっといたたまれない気持ちになるが、それを表には出さずにその女性の方へ向き直る。そしてもう一度ちゃんと彼女の姿を見た。
その女性の容貌は、俺の記憶の中にあるものと変わっていた。俺の知る彼女は同世代くらいだったのだが、顔立ちから幼さが完全に抜けて凛々しいものになっている。
唯一変わっていない勝ち気そうなつり目は、片方が右顔自体を覆う大きな眼帯で覆われており、代わりに残った隻眼はより鮮烈に輝いていた。
どこぞの某流星のごとく美しかった赤い長髪はバッサリと短く切り揃えられており、ショートヘアになっている。両側面からはふわふわとした赤毛に包まれたウサ耳が垂れ下がっていた。
装いも大きく変わっており、ノースリーブの黒いシャツと、内側からベルトで固定されたプレートのついたミニスカートをはいている。
四肢には同じ装飾の施された黒い薄皮のアームカバーとブーツを着用していて、神化したことにより特別製になった両目により、それらから強力な魔力が秘められていることを見抜く。
そして何より目を引くのは、天高くそそり立つ額の二本の角。細く長いそれは日本刀のように内側に沿っていて、非常に鋭そうだ。
赤い頭髪にウサ耳、鬼の角……この特徴を持っている人物は、俺が知っている中では一人しか心当たりがない。
「久しぶりだな……ヴェル」
「ああ、久しぶり龍人」
俺がヴェルと呼んだ女性……鬼人族と兎人族のハーフであり、かつて俺がイヴィルゴブリンたちから救った彼女はふっと不敵な笑みを浮かべる。
正式な名前をヴェルメリオというこいつとは、東部から追っ手に追われながら西部に逃げ込んできたところを助けたという過去を持つ。
追っ手の攻撃で腹に大穴が開いていたのを治療し、その後鬼人族と兎人族たちの安全が確保できるまで俺のログキャビンで共同生活を送っていた。
彼女と会話したのは十年前。助けを求めに北部へと向かった日の朝、寝ぼけ眼で俺の見送りに出てきた時の会話とも言えないやりとりを最後に眠りについた。
そうして俺が眠っている間にかなり変化していた彼女だが……どうやらその変化は、外見だけではないようだ。
「お前も、亜神になったのか?」
「……へえ、わかんのか。寝起きなのによくやるな?」
ニヤリと笑うヴェル。そう、彼女の体からエクセイザーのような亜神特有のオーラが感じられたのだ。以前ならばわからなかったが、同族になった今ならわかる。
亜神化というのは、生き物の限界を超越した時に存在の格が上がる現象。そこに至るには相応の努力が必要になる。どうやらヴェルは、亜神に至るほどの経験をしてきたようだ。
それは、彼女の失われた右目が証明していた。無機質な眼帯に覆われたそれを見て心の中に悔しさが生まれる。
なぜヴェルが目を失った時自分は眠っていたのか。仕方がないこととはいえ、守れなかったことが悔しい。
しかしそれは彼女の努力を否定することになるので、何も言わない。必要な休眠とはいえ眠りこけていた俺に何もいう資格はないだろう。
それにしても……エクセイザーも黒龍もヴェルも、俺の知っている時とは随分と変わった。そこから十年という月日の経過を感じる。
……ふと、急に恐怖が襲って来た。
皆変わっているのに、俺の心の時間は十年前で止まっている。その分手に入れた幸せもあるが、俺だけが取り残されたような気分だ。
脳裏にかつての日常が思い浮かぶ。賑やかで楽しい、シリルラやエクセイザー、ヴェル達に囲まれた西部での生活の日々。
他にも同じように助けた鬼人族……今では『神子』であることも判明している鬼人族のニィシャさん、兎人族の幼女レイも含めて全部で五人で暮らしていた。
料理をしたり、レイと遊んだり一緒に寝たり、たわいもない話をしたり。
今思い返せば、すごく楽しい時間だった。本来なら、二度と振り返ることすらできなかったはずの時間。
その時間は、もうない。ただあるのは失われた10年の時間。俺の知るかつての光景は、俺が死んだあの時終わったんだ。
ドクン。
それを自覚した途端…自分の中にある欲望に気がついた。エクセイザーとの約束とは違う、新たに俺の中に芽生えた願望。
俺は、もう一度取り戻したい。あの暖かい空間を。東部のことがあって考える暇もなかったが、異世界人である俺にとって、あのログキャビンは唯一の帰る場所だった。
おかえりと言われるたび、心の底が嬉しさに震えた。俺の作った料理を美味しいと言ってくれた時、涙が出そうになった。
あそこは紛れもなく、俺の〝家〟と言うべき場所。
すでに両親のいない俺が家族のように感じて、瑠璃や唯一の友人達の前以外で初めて心の底から笑うことのできた、最高の居場所だったんだ。
……もう遅いのかもしれない。ずっと眠っていた俺に、この願いを持つ資格はないのかもしれない。いや、間違いなく、寸分の違いもなくないだろう。
それでも、そうだとしてもこの願いは諦められない。なんて弱けなく、弱いのだろう、俺は。いつまでたっても、帰る場所を求めてしまう自立できない半人前だ。
でも、そんなこと最初から分かりきってる。俺は寂しがり屋だ。だから俺を受け入れてくれる誰かの温もりが欲しいんだ。
無い物ねだりだってこともわかってる。すでに失ってしまったものをいくら求めたって、手に入るのは残り物の断片だけだ。
だからこそ、今俺が求めるものはあの時と同じものじゃない。もっと別の、でもそれよりもさらに価値のある何かだ。
その何かがどんなものなのかはまだわからない。
けどそこに俺とシリルラ、エクセイザーヴェル、ニィシャさんやレイがいなくちゃ、成り立たないのだけはわかる。
それに……
「……お前もな」
「…? どうしたの、パパ?」
腕の中に抱いたままだったウィータを見下ろすと、不思議そうに首をかしげる。俺は微笑みながらなんでもないぞ、と首を振った。
高ぶっていた気持ちをウィータの頭を少し撫でて鎮めて、真剣な顔になってヴェルを見る。ずっと無言で考え込んでいた俺を、彼女は黙って待っていた。
そんなヴェルに内心感謝しながら、深呼吸をして気分を整える。そしてまっすぐ彼女の目を見ると意を決して口を開いた。
「すごいなヴェル。まさか亜神になるなんて」
「まあ、色々と無茶したけどな。ていうか、それを言うならお前なんか本当の神になってるんだからそっちの方がすごいだろ?」
「俺は別にすごくねえよ、ずっと寝てただけだからな」
「確かにな」
ふっと笑い合う俺たち。昔話していた時よりいくらか声音に余裕のようなものが感じられるな。大人の余裕というやつだろうか。
まあ、それはともかく。俺はウィータを抱えていない方の空いている片手をヴェルに向けてすっと差し出す。
「とにかく、これからまたよろしく。ずっと眠っててわからないことだらけだから色々と助けてくれ」
そう言って握手を求めるが…なぜかヴェルは呆れたような顔をして首を横に振った。あれっ、何か不機嫌にさせるようなことしたっけ?
首をかしげる俺にヴェルは仕方がないなとでもいうように所在なさげに揺れる俺の手を押し戻すと、ニッと笑った。その顔に少しどきりとする。
《……龍人様?》
うっ、ほ、ほんのちょっとだって!
って、それはともかく。今はヴェルだ。
「そんなの、いちいち頼むまでもないだろ?だって……私達は家族みたいなもんなんだからさ」
「………え?」
ヴェルの言葉に、呆然とした声を上げる。俺とヴェル達が、家族?
「なんだよその顔は。忘れたとは言わせないぜ? お前は私のことを助けてくれた。 私のために怒ってくれたし、守ってくれた。なら今度は私が助ける番だ。困った時に助け合うのは、家族じゃなくてなんなんだ?」
そう堂々とした声音で、自信に溢れた笑顔で言うヴェルに俺は心を貫かれるような錯覚を覚えた。衝撃が頭の中を支配する。
やがてそれは歓喜へと変わり、全身に行き渡っていく。それによりにやけそうになる顔を俯くことで隠した。
……そっか、家族か。ヴェルの方も、そんな風に思ってくれてたのか。俺の感じていた温かさは、俺だけのものじゃなかったんだ。
それが嬉しくて、どこかもどかしい。人に言ってもらえて初めて、俺の中の記憶の光景は確かにあったのだと実感することができた。
思わず涙までこぼれ落ちそうになるが、それは流石にあれなのでグッと堪えて顔を上げる。
そして先ほどのヴェルのような笑みを浮かべた。
「…ああ。それじゃ頼んだぜ、ヴェル」
「おう、任せろ」
「これ、お主たち。妾を蚊帳の外に盛り上がるでない。龍人の妻は妾じゃぞ」
「あっ、ごめんごめん」
「…ふん、それを言うなら私だって……」
ゴニョゴニョと何事か呟くヴェル。あまりにも小さすぎて聞きとることができなかった。
「何か言ったか?」
「…なんでもねえよ。それより、これからどうするんだよ?」
「そうだなぁ……」
まず、俺今の『遥か高き果ての森』がどう言う状態なのか全く知らないんだよな。何せ十年だ、人間なら瞬く間に時代が進んでいる。
それに、さっきからなんだか変な感覚もする。なんと言うか、大地と魂の一部ががリンクしているような……『遥か高き果ての森』そのものと繋がりでもしたのだろうか。
「それについては、私から説明させていただきますわ」
「うわっ!?」
突如後ろから聞こえてきた女性の声に反射的に飛び退いた。さっきまでなんの気配も感じなかったのに、いったい何者だ!?
そう思いながら先ほど俺が立っていた場所を見ると……そこには、一人の女性が佇んでいた。あらあら、と困ったように言いながら微笑んでいる。
どこからともなく現れた女性に、俺は瞠目して驚いた。なぜなら彼女もまた、ヴェルのように知っている人物だったからだ。
そこにいるのはすらりとした長身の、ほんわかとした笑みを浮かべながらもどこか得体の知れない色気を持った、そんな女性。初対面だったらどぎまぎすること間違いなしだろう。
その額からはヴェルのような角が生えており、髪色は美しい赤色。二つのその特徴は鬼人族に見られるものだ。
そして、その鬼人族の女性の正体は……
「ニィシャ、さん?」
「うふふ…お久しぶりですわ、リュウトさん」
鬼人族にして大精霊の分身を宿す『神子』である、ニィシャさんその人だった。
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