陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第2章 王への道

六話 いざ試練へ

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感想、こないものですね……。
楽しんでいただければ幸いです。


ーーー


   瑠璃の言葉に、ポカーンとする二人。その顔はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔であり、二人の美形な顔が台無しだった。

   シュウと雫はまるで魂を奪われたようにぼんやりとした感覚にとらわれている。いきなり告げられた言葉に情報処理が追いつかず、一時的に我を忘れているのだ。

   だが、やがて脳がその言葉を完全に理解すると次はその顔に驚愕の表情が浮かび上がっていく。胸の内に秘めたその思いは、程なくして声として吐き出された。

「……はっ!?  えっ、はぁっ!?」
「ほ、本当なの!?」
「勿論ですね。嘘をつく必要がありませんね」

   いつも通り冷静沈着に答える瑠璃。しかしその口元には僅かな笑みが浮かんでいた。対照的に、シュウたちは頭を抱えて困惑する。

「マ、マジか…まさか冗談で言ってたことが本当に起こるなんて……」
「驚きを禁じえないわね……」
「私も最初はそうでしたね。困惑するのも無理はありませんね」

   平坦ながらも嬉しさの滲み出る声音でいう瑠璃に、シュウと雫はようやくあの教室での心底嬉しそうな笑顔の意味を悟った。あの時既に、瑠璃はシリルラと繋がっていたのだ。

「で、でも、だとしたら今龍人はどこにいるんだ?さっきもう一人の方のお前と繋がったって言ってたよな?それなら……」
「…残念ながら、探ってはみたのですが特別な場所にいるのか、どこにいるのかはわかりませんでしたね。ただ、片割れと繋がったことから必然的にセンパイがいると分析しただけですね」
「なるほど……それじゃあ、今私たちがいるこの場所は何なの?  あの魔法陣もそうだけど、いきなり異世界に呼ばれるなんて…」
「では、順を追って説明していきますね」

   そうしてシリルラは、先程龍人の位置を割り当てようとヒュリスを構築するシステムにアクセシスした際ついでに手に入れておいたこの世界のことについて話し始めた。

   ステータスや魔法の概念が存在すること、この世界に生きる四つの種族に分けられた生物のこと、魔物の進化や秘境、ダンジョンのことまで、知ったことのほとんどをわかいつまんで説明をしていく。

   おおよそ三十分に渡る説明を受けた二人はもとより持ち合わせている優秀な適応力と判断力をもってして、今自分たちがどういう世界に放り出されたのかを理解した。

   そこから、自分たちがこの世界で生きていく上で何が必要なのかを考え始めようとする。この切り替えの早さは龍人に通ずるものがあった。

   まず最初にやるべきは、レベルを上げ力を身につけることだろう。ステータスという概念を最大限に活用し、どんな強大な敵にも負けないほど強くなることが目標だ。

   というのも、この世界には冒険者という職業がある。冒険者たちはギルドという組織に属し、村人に始まり町人、領主、貴族、国の重鎮、果ては王、あるいはギルドそのものから依頼を受けその報酬で生計を立てている。

   依頼の内容は多岐にわたり、採取・納品や魔物の狩猟あるいは討伐、要人護衛、ダンジョン探索、荷物配達、施設警備、エトセトラエトセトラ……数え上げればきりがない。
 
   冒険者になった際、高レベルかつ高ステータスで有用と思われればより難しい依頼を任され、その分報酬もはずみ余裕のある生活することができるのだ。

   その分命の危険も伴うが、あいにくここにいるのは既に一人前以上の腕前を持つ陰陽師と退魔師。どんなものが相手であろうと、そう易々と死にはしない。

   しかし、二人の真の狙いはそこではない。たしかに生活の基盤を作るためにというのもあるが……もう一つ、二人には力を求める目的がある。

   それはそれとして、それ以前にここがどういった場所なのかわらかない。レベルアップのための経験値の稼げる場所でなければ、そもそも力をつけるも何もなかった。

   現在この島について二人が知っているのは瑠璃が転移の座標を変更するのに使った、自分たちが最初に立っていた台座があるということだけだ。

   頭の良い二人は台座のことからここが重要な場所に間違いない、と結論を出すが、そこから先は情報が足りないので仕方がなく瑠璃の話の続きを聞くことにした。

  ウンウンと唸っていた二人が諦めて話を聞く体制になったのを見計らい、瑠璃は再度は話をし始める。

「まず私達をこの世界に喚んだのは、この世界の人間達ですね。教室に現れたあの魔法陣は、世界間転移のためのものですね」
「でも、どうして……?」
「テンプレの勇者召喚、ってか?」

   冗談半分の口調で言うシュウに、しかし瑠璃はなんとも言えない顔をした。

「……ただの勇者召喚だけならばまだ良かったですね」
「「だけ?」」

   疑問符を浮かべる二人に、瑠璃は神妙な顔で頷きながらとある事を明かす。

「あの魔法陣にある効力が付与されていましたね。そのため、私は座標を書き換えこの場所に転移させましたね」
「ある効力?」
「隷属魔法ですね」
「「なっ!?」」

   淡々とした声で明かされた事実に、シュウと雫は驚愕の声を上げる。まさかあのまま転移させられていたら奴隷になるとは思ってもみなかった。

   しかし、その驚きとは真逆に、瑠璃が咄嗟に座標を変更したことに納得した。召喚した理由はどうであれ、別の世界から呼びつけた上に隷属させるなど明らかにロクな人相手ではない。事前に防ぐのは必然とも言える。

   もし奴隷になっていたらと思うと、二人は背筋に薄ら寒いものを感じた。理由によっては、最悪の場合死ぬまで使い潰される可能性だってあるのだ。

   二人はそんなの真っ平御免である。彼らの力は人々を守るためにあるのであって、誰かの私利私欲のためのものではない。大昔から人を守るものとしての矜持が二人の心には強く根付いていた。

   怒りと屈辱が混ざりあった表情をする二人を瑠璃はなだめ、息を整えて話を再開させる。

「別の場所に転移できたのは奇跡に近かったですね。同じ構造をしている魔法陣の設置されたこの台座のおかげで出口を作る必要がなくなり、力の大部分を付与された効力の無効化に割けましたね」
「てことは、隷属魔法は……」
「はい、無事に無効化できましたね。その他にも精神支配、昏睡、強制的な身体強化など凡そ十以上もの魔法が付与されていたので有用な一部のもの以外は無効化しましたね」
「うわぁ、えげつないわね……」
「召喚しようとした奴は本格的に俺たちを奴隷にするつもりだったらしいな……」

   うんざりとした顔をする二人。かくいう瑠璃もまた、嫌らしいくらい複雑に絡み合っていた魔法を解除する面倒を思い出し少し嫌そうな顔をした。

「でも、それならお父さん達は…」
「………本来の召喚先に行った、ってことだよな」
「……申し訳ありません、現在の私の力では、最も近くにいたお二人を一緒に連れてくるのが限界でしたね」

   無表情を歪め、申し訳なさそうな顔をする瑠璃。龍人が死んでからほとんど変わらなかった彼女の表情が今日一日の中でいくつもの変化を見せているのは、果たしてこの世界に彼がいるからだろうか。

   それはともかく、少し落ち込む瑠璃に二人は慌てて気にしないように言った。二人だけとはいえ、十以上の魔法から解放して連れてきただけでも充分である。

  魔法を解除するのに割いた力を回せば全員とはいかないまでも、半分以上は連れてこれたはずだった。だが見過ごせる代物ではなかった以上、プラスマイナスゼロだろう。

   しかし、これでより一層強くなる必要が出てきた。なんとしてでもクラスメイトと猛を取り返し、自分たちを召喚しようとした謎に包まれた相手から解放しなくてはいけない。

   幸い、ここには今は力が半減しているとはいえ神である瑠璃と陰道のエキスパートである雫がいるので、取り返すことさえできれば魔法の解除はできる。
   
   相手は個人では到底なし得ない異世界召喚なんてことができる存在だ。少なくとも団体、あるいはどこかの国である可能性が高い。それを相手に互角以上に戦えなくては救出など夢のまた夢である。

   ということで、これからの方針は自然と固まっていった。ステータスを極限まで鍛え上げ、冒険者をして生活費を稼ぎながらクラスメイト達の行方を探す。

「ていっても、まずここどこだよって話なんだよな……」
「近くにダンジョンか秘境でもあればいいんだけど…」
 
   うーん、と首をひねる二人に瑠璃は一瞬瞑目し、もう一度世界のシステムに入ると情報を収集した。そしてとあることに気づく。

「……お二人とも、どうやら運がいいようですね」
「え?」
「運がいいって、どういうことだ?」
「ついてきてください」

   クルリと踵を返して歩き始める瑠璃に、二人は慌ててついていく。瑠璃を先頭に、三人は壁が崩れ落ち、埃の積もる廃墟となった神殿の中を進んでいった。

   迷いのない足取りで瑠璃は地下へとつながる階段を塞いでいる瓦礫の山の前に立つと手をかざす。すると瓦礫が瑠璃色のオーラに覆われ、一瞬で風化した。

   代わりに現れた階段の奥には暗闇が広がっており、数百年ぶりに解放されたからか不気味な風が内側が吹き風化した瓦礫の粒を押し流す。それが止むと、瑠璃は足を踏み入れた。

   シュウ達二人を伴い、薄暗い通路の中石階段と革靴の裏側がぶつかる硬質な音を立てながら降っていく。すると魔法なのか、壁に添えつけられた台座に炎が灯って行く道を照らしていく。

   崩落を気にしながらも直線の階段を進み続けていると、唐突に三人の視界が開けた。大きな広場に出たのだ。

   そしてその広間には、巨大な壁画が存在していた。色とりどりに彩られたそこに描かれているのは偉大なる太古の戦い。全ての種族が手を取り合い、世界に対する巨悪に立ち向かうものだ。

   白い翼を何十枚も生やした歪な笑いを浮かべる絶世の美女の右半身と、耳元まで裂けた狂笑を浮かべグロテスクな翼を広げる男の左半身を持つ怪物相手に、勇者が剣を振りかざし、エルフや悪魔達が魔法で異形の呪いを防ぐ。

   崩れ落ちそうになる同胞を獣人が支えその傷をエルフが癒し、寸胴のドワーフと赤い肌のオーガが舞い踊りくじけそうになる戦士達の心を奮い立たせる。美しい銀の髪を靡かせ龍の女神が怪物の翼を断ち、いかなるものをも破壊する白角の鬼が天より引き摺り下ろす。

   まさしく聖戦。生きとし生けるものすべてが己の命をかけ平穏を求めた、英雄達がその形が異なる手を取り合い、一丸となって立ち上がった奇跡の時代。人はそれを、神代と呼び今もなお讃える。

   感動的かつ壮大なその壁画にシュウと雫が圧倒され呆然と立ち尽くす中、瑠璃は一歩壁画に近づくと両手をかざす。そして自らの神力を行使した。



ズズズズズ………!



   神の力を感じ取った壁画は数百年ぶりにその古び錆びたカラクリを目覚めさ、己の責務を全うしようと動き出す。部屋全体が震え、パラパラと小石が落ちてきた。

「うおっ、ゆ、揺れる!?」
「い、一体何が……!?」

   困惑した声を上げるシュウ達に構わず、なおも瑠璃は神力を発する。するとその力を認めたとでもいうように、壁画の中心が内側へとへこんだ。

   そのくぼんだ部分を中心に放射状に亀裂が広がっていき、まるで花が開くようにゆっくりと壁画が開いていく。その内側にはさらにもう一つ壁があり、それも左右にずれた。するとまたもう一つ壁が現れる。

   都合5回、何重にも厳重に重ねられた壁がすべて開くと、その先には光り輝く台座が堂々と鎮座していた。すでに起動しており、白色の魔法陣が出現している。

   それを目視で確認した瑠璃は神力の放出をやめた。そして全身を捉える疲労感を深く息を吐くことで体の外に押し出す。そうすると体の向きを変え、後ろにいるシュウ達に語りかけた。

「……これは、先ほど説明した三大ダンジョンのうちの一つ、【至高なる迷宮】の入り口ですね。ここならば短期間で力を磨くことができるでしょうね」
「…マジかよ」
「都合いいわね……」

   ようやく開いた二人の口からこぼれ落ちた言葉は、そんなものだった。無理もない、こんなに都合よく目的を達成できる手段が現れたのだから。

   額を手で押さえるシュウと雫に、瑠璃はこの島がかつて神が召喚した勇者の鍛錬のための場所だったことを伝える。現在は人外魔境となっていることも。

   思っていた以上に重要な場所だったことに、二人は納得しながらもなんとも言えない表情をした。

「なんつーか、とんでもない場所だったんだな、ここ」
「……でも、これで私たちの目的を果たせるわ」
「…ああ、そうだな」

   雫の言葉に静かに頷くシュウ。目的を果たす手段がある以上、使わない手はない。二人は顔を見合わせて頷きあうと、一歩台座へ向けて踏み出した。

   そのまま瑠璃の横を通り抜けて確固とした足取りで進んでいく。そんな二人の背中に、瑠璃は「ご武運を」と言いながら軽く頭を下げた。

   瑠璃の声を聞きながら彫刻の施された白亜の通路を通り抜け、部屋に入ると一度台座の前で立ち止まる。そして互いの手を握り合って、その温もりで僅かに怖気付く心を抑え込んだ。

「……よし、いこう」
「ええ」

  互いに勇気をもらった二人は、同時に足を出して台座の上に乗る。するとその瞬間、ひときわ強く魔法陣が輝いた。

   その光に呼応するように、二人の脳内に何かが刻み込まれていった。それはこのダンジョンの仕組みを説明するものであり、シュウ達は大人しく耐える。

   数分してダンジョンのシステム説明が終わると、いよいよ魔法陣が回転し転送の準備が始まる。ようやくか、と身構える二人。





《ーー問おう、挑戦者よ。汝らは何のため、力を望む?》





   そんな二人の脳内に、突如男の声が響いた。驚く二人だが、これがダンジョンのシステムの一部だと理解しているので迷いなく答える。息を吸い、目を見開いてはっきりとした口調で。

「「友を支えるために」」

   そう、絶対的な不変を感じさせる強い声音で二人は叫ぶ。それに合格だとでもいうように魔法陣がさらに強く輝いた。




   二人が力を求める一番の理由。それは、龍人の助けとなるためだった。二人は地球にいた頃、独りで心を閉ざす彼に何もできなかったことを心底悔やんでいたのだ。

   あの頃……瑠璃がまだ地上に降りず、龍人が周囲から遠ざけられていた頃。自分に向けられる無数の奇異の目と一部の人間からの陰湿な行為に龍人の心はどんどん荒んでいき、閉ざされていった。

   勿論、その時もシュウ達は側にいようとした。だが人間不信に陥りかけていた龍人は自ら二人から距離を取っていたのだ。それは、彼の抱えるとある秘密のことにも関係している。

   日に日に表情を、気力を失っていきただただ陰陽師としての鍛錬に没頭するだけになっていく龍人に、二人は何もできなかった。圧倒的多数の人間に対し、二人はあまりにも無力だったのだ。

   ならばせめて、同じ人を守る仲間として隣に立とうとした。だが歴代最高と言われた龍人の力は圧倒的であり、その背中は遠く追いつけるようなものではなかった。

   悔しかった。何もできない自分たちの無力さが。憎かった。外見の特異性だけで龍人を判断しようとする人間達が。あまりの悲しさに、二人で涙を流した夜も幾度となくあった。

   だから、今度こそは。もう誰が何を言おうとも負けないように、自分の中に閉じ籠ろうとする龍人の手を掴めるように。そのために、全てを打ち破るほどの力を。

   二人のその真っ直ぐで、優しい感情にあふれた信念を試練を受けるに値するものと判断した魔法陣の光が弾け、二人の姿は包まれた。

(待ってろ、龍人……!)
(今度こそ、私達があなたを本当の意味で支える……!)




カッーーー!




   その決意を胸に覚悟を決める二人の姿を神秘的な光が部屋ごと覆い尽くしーーそしてそれが収まった時、二人の姿はどこにもなかったのだった。


ーー


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