陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第2章 王への道

九話 出発

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   決意を伝えた後、俺は目覚めて間もないためうまく動かせない、新しく神として生まれ変わった肉体に慣れるためにその日は泉のある広場にいて色々とやっていた。

   まずはじめに、十年間俺に繋がり続け、全身に行き渡っている『大精霊の大樹』改め『神樹』の枝の操作方法をベテランであるニィシャさんに教わったりした。

   この『神樹』は、別名セフィロトの樹とも言われているらしい。セフィロトの樹とは地球では生命の樹と呼ばれる代物で、その果実を口にしたものは神に等しい永遠の命を得るという。

   俺の繋がっていた『神樹』もその特性を宿しており、内部に無尽蔵の生命力を宿していた。それそのものが霊力を生み出しており、俺の治癒を促進していたのだ。

   そして……御神体であり、『神樹』のもう一つの核のようなものである俺の魂に、最初の〝禁断の果実〟がなっている。それは神になった俺の魂と同化したことで『神樹』と同等、あるいはそれ以上の生命力を生み出しているようだ。

   その生命力を養分として枝は生きているのだが、果実が魂と完全に一体化しているため、俺が死ぬ……つまり魂が消滅すれば一緒に果実も消える。枝は、それを全力で阻止しようとする。

   俺が転びそうになった時や黒龍が飛びかかってきた時……つまりダメージを負う事態になった時に枝が自動的に体を覆ったのは、俺という器を壊さないための防衛機能というわけだ。少々大げさな気がするが。

   また、器……俺自身が危機と感じた場合も勝手に動き出す。ズボンのようになって下半身を覆ったのは、見られて困ると俺が判断したから俺の記憶から最適なものをトレースしたのだ。

   ちなみにシャドーをしたりして拳や脚を繰り出した瞬間に枝が出てきたのは、体に力が入ったのが戦闘中であると勘違いして出てきたのだとか。過保護か。


閑話休題。


   それは裏を返せば、果実の力をコントロールできるようになれば枝を意のままに操れるということである。自在に操作できるようになれば色々と役に立つはずだ。

   すぐに思いつく使用用途としては、『神樹』の枝なだけあって硬度はそこらの金属より遥かに高いらしいので、強力な剣にも鎧にもなるだろう。

   というわけで、一切の武具を異形との戦い失っている俺はニィシャさんに教わりながら必死に果実の力を引き出せるよう鍛錬した。

   その結果、両腕の肘から先と膝から下に自由に枝を纏うことができるようになった。と言っても、最初はモンスターみたいな不格好な形だったが。最後の方では甲冑のような形を作れるようになれた。

   ついでに言うと、エクセイザーという最強の武器があるから別にいいかとも思ったが、それは本人がウィータや俺のことをいつでも抱きしめられなくなるから嫌だと言われたので断念した。

   考えてみてほしい。絶世の美女……それも自分の奥さんに上目遣いで囁かれたら、頷く以外に選択肢などあるのだろうか。というか、これをやられて断れる男がいるなら見てみたい。

   で、枝の一部をコントロールできるようになった後はエクセイザーとヴェルの二人に神化したことにより爆発的に増大したステータスのことについて教わった。

   まず、亜神は普段はそのステータスのほとんどを無意識に封印している。そのため普段は表示されている数値の百分の一まで抑えられているらしい。

   それでもなお莫大な数値だが、亜神たちはその封じられたその力を自分の意思によって必要に応じて解放し行使するのだ。

   しかしこの解放するための意思というのがかなり強いものでなくてはいけないようで、亜神になったにもかかわらず永遠に全力を発揮できない亜神もいるのだとか。

   固有スキルの欄にあった【解放】というスキルがそれであり、通常なら力を完全に使いこなせるほどの強靭な精神を手にした時に初めて発現するスキルらしい。

   亜神は、ただ力があるだけでは成り立たないというわけだ。明確な目的や信念があってこそ、その力を使う権利が与えられる。

   例えば、エクセイザーは西部地域……今はこの新生した秘境の頂点に立つものの一人として、この国の平和を守るという信念がある。それはヴェルも同じだ。

   あるいは、黒鬼神のように圧倒的な悪意も一つの強い信念と言えるだろう。エクセイザー曰く、奴は数百年もの間『遥か高き果ての森』の全てを蹂躙し支配しようとしていたらしいからな。その執念は凄まじいの一言に尽きる。

   俺の場合は、西部を……俺が愛する仲間たちを守ること。十年前のあの時から変わらない、俺の信念だ。眠りに落ち、シリルラと一緒にいた間も、一度としてその想いは揺るがなかった。

   今もそれは変わらない。ただ、西部地域からこの国にスケールが変わっただけだ。俺は、たとえ誰が相手であろうと皆を……俺の仲間を、家族を守ってみせる。

   その想いが功を奏したのか、通常なら早くても五年はかかる【解放】のスキルが最初から発現していた。これはかなりイレギュラーなことらしく、エクセイザーたちは驚いていた。

   で、そこまでは良かったのだが……ここで一つ問題が。実はこの封印というのは表示されている数値を上限としているのだが、俺の場合上限がないのだ。

   いや、それは少し語弊があるな。俺は、常にその上限が上がり続けている。それは俺が新たに手に入れたスキルが関係していた。

   【身体能力上昇】。かつては【身体能力超強化】という名前だったこのスキルは、神化したことによりとんでもないものへと変貌を遂げていた。

   その能力は……1日経過するたびに、神化した時の初期ステータスの五パーセントが上乗せされるというもの。つまり、毎日上限が五パーセントずつ上がっていくのである。20日もあれば二倍だ。

   シリルラに問い合わせたところ、【Eの理】で表示されるのは10.0Eまで。それ以上はこの世界のシステムでは測定が不能になり、エラーと表示されるらしい。

   その話を聞いてショック死するかと思ったが、どうやら神の精神はそこまで優しくないらしくほんの十秒程度でその事実を飲み込みやがった。神様怖いと思ったのはこれが初めてである。

   まあ、そんなわけでチートなんて言葉じゃ足りないようなぶっ壊れスキルを持ってしまったため、迂闊に力を解放するのはやめようという話になった。下手をしたら世界そのものが消し飛ぶ。

   で、ステータスの話はそこで一旦区切りがついたので、あとは黒龍とかに飛び方を教わったりした。泉から飛び出した時は勢いに任せただけだからな。

   で、あとやった事といえば……エクセイザーやニィシャさんと寝た。もちろんただ寝たんじゃなくて、意味深の方だ。ウィータのことはヴェルに任せた。

   これには正当な理由があり、俺が自分で生成した霊力を抑えきれないからである。それを体内から発散させてもらうためにやった。

   神々や精霊が生み出した自然に満ち溢れた霊力を取り込んで回復する人間とは逆に、今の俺は霊力を生み出す存在。『神樹』のこともあって、俺の体の中では相当量の霊力が生み出されている。

  何百年も亜神であるエクセイザーや何年か経っているヴェルはうまく消費しているらしいが、神として初心者である俺は自分の許容量の霊力があると中毒を起こしてしまう恐れがある。

   それを精として外に出すことで減らしたのだ。ぶっちゃけ気持ちよかったけど、やっている最中シリルラがモノローグのように淡々と実況中継してたからめちゃくちゃ精神を削られた。

   そんな感じで覚醒初日は過ごし、体力回復促進のために泉の中で寝て、割と爽やかな気持ちで目覚めた。

   そして今……俺はログキャビンに帰るために準備をしている。といっても、ほとんど何もないのでトレーニングしていたが。

   軽く体を動かしていると、昨日と同じ位置でスヤスヤと眠りこけていた黒龍がぱちっと目を開けて首をもたげる。そして階段の方を見た。

   つられて俺も見ると、ちょうど階段を登りきってエクセイザーが姿を現した。軽く汗をかいている俺を見て、近づいてきたエクセイザーは微笑む。

「朝から元気じゃのう、龍人」
「おはようエクセイザー。いや、なんか動いてないと落ち着かなくてさ」
《昨夜アレだけ元気だったくせに》
「うっ」

   そ、それは言わない方向でお願いします……。

「そうじゃな。これまではずっと一方的じゃったから、主導権を握られるというのもなかなか……」
「ちょ、ストップストップ!恥ずかしいからやめてくれ!」

   慌てていう俺にクスクスと笑うエクセイザー。笑い声は聞こえてこないが、シリルラからも心なしか楽しそうな感じが伝わってくる。

「っと、そうじゃ。龍人、これを」

   ひとしきり俺のことをからかって楽しんだエクセイザーは、背中に背負っていた包みを下ろして俺に差し出してきた。

   これは?と目線で問うと、いいから開けてみろと促してくるエクセイザー。俺は恐る恐る包みを受け取る。ちょっと重いが、ずっしりした感じゃない。

   一体なんだろうかと思いながら地面に置き、開いてみると……中にあったのは、洋服だった。それも素人の俺が一目見てわかるほどのハイクオリティなもの。

   試しに、一番上のものを手にとってみる。灰色の半袖のTシャツは肌触りが非常によく、魔法的な付与を施しているのか非常に丈夫そうだ。おそらく、そんじょそこらの攻撃ではビクともしない。

   Tシャツを皮切りに、他のものも手にとってみる。ズボン、ロングブーツ、ベルト、指ぬき手袋、ロングコート、パンツ。どれもこれも、服と武具両方の意味で超一級品だ。

   もはや神業といっても過言ではない服そのもののクオリティと、到底真似できないような超高位の魔法付与。見事にマッチしたそれらは、至宝の物を作り出していた。

   だが、それ以外のことでベルトとロングコートには興味を惹かれる。というのも…ベルトのバックルには狼の衣装が彫り込まれており、ロングコートの裏地に無数に刻まれた魔法陣に既視感を覚えたからだ。

   これらは十年前、俺が使っていたグレイウルフのドロップアイテムと、ユキさんからもらったコートを修復、改造したものだと思われる。まさか残っているとは思わなかった。

   愛着のあるものをもう一度見れたことに感動しながら、エクセイザーに着替えるので目を逸らして欲しいと頼んだ。まあ、あれだけしたので今更感があるが。

   エクセイザーが後ろをついたのを見て、昨日と同じく下半身を覆っていた枝を解除してパンツを履く。ああ、懐かしきかなこの感触。そのまま他のものも着ていく。

   一通り着替えたので、エクセイザーに声をかける。すると彼女はこちらを振り返り……ほう、と呟いた。

「なかなか様になっておるではないか。さすがは妾の旦那様じゃ」
「お、おう、そうか?」
「うむ、かっこいいぞ」

   エクセイザーに褒められて思わず照れてしまう。照れ隠しにぽりぽりと頬をかいていると、エクセイザーがそれぞれの装備について説明してくれた。

   上品な黒色のズボンと渋い灰色のシャツはぴったりと体にフィットしており、非常に動きやすい。着る人間に合わせて大きさが自動調節される付与魔法のおかげだ。他にも対魔法、対物理、対汚れなどの付与が施されている。

   透き通るような青色の金属が縫い付けられたロングブーツはベルトで締める構造をしており、こちらには疲労吸収と足音消し、踏んだ罠の破壊、耐久、俊敏に極大の補正のかかる付与が込められている。

   手の甲に鬼の顔が彫り込まれた指ぬき手袋はなんとあの時切り落とした異形の腕を素材としているらしく、呪い無効、腕力、HP、体力に補正、対異常、衝撃波の付与がされている。

   ベルトの能力は変わらず、半袖になって下の丈が伸びたコートは元の腐食能力と対物理、対魔法に加えてコートそのものにミスリルを繊維状にして編み込んで防御力を底上げしているらしい。さらに一定以上の攻撃を無効化、反射する【死の加護】というものが付いている。

   そして、これら全てを装備すると初めて機能するスキル【自動修復】。破損した際、俺の霊力を消費して修復するのだ。これは破格の能力だろう。

そして、これらを作ったのは……

「ユキとガルスから伝言じゃ。『近いうちに顔を見に行く。覚醒おめでとう』と」
「……ああ、わかった」
「ふふ…さて、それでは行くか」
「おう」

 
グォ!


   黒龍が声を上げてしゃがみこむ。その背中には、いつの間にか鞍のようなものがつけられていた。早速それに乗り込みはじめる。

   細身とはいえ、幅が数メートルもある胴体に巻きついた皮に取り付けられた手すりを見つけ、そこから登ろうとする……が。

  …思いついた。ちょうど良い機会だ。散々からかわれた分、ここら辺でエクセイザーに少し仕返しをするとしよう。

「エクセイザー」
「ん?なんじーーッ!?」
   
   エクセイザーの背中と膝の裏に一瞬で手を差し込んで持ち上げる。所謂お姫様だっこというやつだ。そしてそのまま黒龍の方に歩いていった。
   
   突然のことに訳がわからず腕の中でオロオロとしているエクセイザーに内心してやったりと思いながら、軽くジャンプして鞍に飛び乗った。

   腰を下ろして鞍にまたがると、エクセイザーを足の間に座らせて手綱を取る。すると、エクセイザーがこちらをジロッと振り返った。

「……いきなりはずるいと思うのじゃが」
「散々からかってくれた礼だよ、っと!」



グォォオオ!!!



   エクセイザーに答えながら背中を蹴ると、黒龍が咆哮をあげながら立ち上がり、翼を広げた。二十メートル以上はあり、昔とは比べ物にならない大きさだ。

   かつて見た刃王竜神を思い起こさせる雄々しい翼を強く羽ばたかせ、黒龍は中に浮く。その風圧で泉の水に波紋が広がり、周囲の草木が激しく揺れた。

   広場を円形に覆っていた木よりも高く浮上した黒龍は、そのまま西部と思われる方向に体を向けて飛び始めた。

   全身を突き抜ける風に爽快感を感じていると、エクセイザーが背中を預けてきた。驚いて彼女を見下ろすと、いたずらげな笑みを浮かべている。

   先ほどのやり返しか。それならこっちももう一度やるまでだ。

   手綱を握っている手の片方を離して、エクセイザーを抱きしめる。ぴくっ、と肩が震えた。そしてもっと体重を預けてくる。

「……着くまで、このままでいてくれ」
「…おう」

   彼女の呟きに答えて、もう少し抱きしめる力を強くする。すると機嫌良さそうにエクセイザーは頷いた。

   そうして彼女の温もりを感じながら、俺は前を見据える。この先にあるだろう、世界の俺の帰るべき場所を夢想して。




さあ……家に帰ろう。

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