陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第2章 王への道

十九話 大武闘大会、開催

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これから二日、あるいは三日おきに更新します。
楽しんでいただけると嬉しいです。

ーーー


   ひどく耳障りなその声に、それまで穏やかだった自分の心が急速に冷たくなっていくのを感じる。

   声のした方向を振り返ってみれば、そこにはいかにもDQNですよと言わんばかりの、ニヤニヤとした笑みを浮かべた奴らがいた。

   数は六人。先頭のひときわでかいやつを含めて全員、額に角を生やしている。鬼に類する亜人か魔物だろう。

   全員が全員、ピアスを耳や鼻につけていて、ごつい指輪だの目が眩むピカピカとしたネックレスだの、派手な装飾品を身につけてる。

   服のほうも炎の刺繍やドクロの装飾、挙げ句の果てには何故か漢字で夜露死苦ヨロシクと書いてある。どこで手に入れたかはともかく、壊滅的なファッションセンスだ。

   なにより……そいつら全員、リーゼントだった。長さに差こそあるものの、立派なリーゼントを生やしていたのだ。無駄に完成度が高い。

   まさにヤンキーですよと主張してるような集団は、祭りの空気に当てられて興奮してるのか、あるいは酔ってるのか頬に朱が差していた。
   
   俺はいくつか、嫌いな人種がある。基本どんな相手でも同じ風に接するが、この人種だけは許せないというものだ。


   そのひとつに、人様に迷惑をかけて何も思わず、むしろ楽しんでるようなタイプがある。


   これは、過去の経験からくるものである。そうすることで自己を認識しているのか、単純に快楽を感じているのかは知らないが、心の底から嫌いだ。

   話は聞かないし、自分が常に上だと思っているし、力に訴えれば自分の思い通りになると思ってる。

   具体的にいうと、この顔で男物の制服を着てるもんだから、コンビニの前にたむろしてるような不良とかによく馬鹿にされた。

   人を指差して笑ってるわ、気にしてることを散々誹謗してくるわ、俺が反応しないのをいいことに、優越感に浸った顔で罵倒してきた。

   その場所を利用する人のこと、何より俺のことなんか全く考えてない。

   故に、礼儀礼節を重んじる陰陽師としての憤り半分、自分自身の嫌悪半分で、特にこのタイプは嫌いだ。


   まあ長々と自分語りしたわけだが、要するに目の前の奴らが、その人種に該当していそうなのだ。

   念のため体を動かして、シリルラとウィータを守るような位置に立つ。

   そして眼を尖らせて、警戒しながら鬼たちに話しかけた。

「……確かに、かなり大胆なことは言った。何か文句があるならーー」
「いやあ、痺れたぜ!お前の演説!」
「……………は?」

   思わず、俺は呆けた声をあげた。

   先頭にいた鬼の言葉に、面食らってしまったのだ。おそらく、かなり間抜けな顔になっているだろう。

「まさか、あれだけの人数を前にあんなとんでもねえ宣言するなんて、とんだ根性だぜ!」
「お前度胸あんだな!」
「ククッ、久々にブルッちまったぜ……」
「だが、そこに痺れる憧れるゥ!」

   そんな俺の見てる前で、口々にそういうヤンキー鬼たち。そこに嘲りの感情はなく、思った通りのことを口にしているのがわかる。

   しばらくその状態で固まっていたが、やがてハッとして我を取り戻す。あ、危ない危ない、情報処理が追いつかなくなるところだった。

   ていうか……予想と全く違うじゃねえか。あれだけ一人語りで前置きしたくせに、なんだか恥ずかしい。

   全然、悪そうな奴らじゃない。それどころか、未だ騒いでいるヤンキー鬼たちの言葉を聞くと、むしろ俺のことを褒めてた。
  
  挙げ句の果てには、いつのまにかリーダーっぽいやつが肩を組んでた。肩にがっしりと太い腕が回されている。

「……あの、お前らは一体?」

   勘違いしていた恥ずかしさで、恐る恐る聞くと、「あん?」と俺の顔を覗き込むリーダーのヤンキー鬼。リーゼントの圧がすげえ。

   しばらく俺のことを見てたヤンキー鬼だったが、いきなり頭に手を当てて大声で笑い始めた。

   それを肩を組んでいるため、至近距離で聞く羽目になって脳が揺れる。なんつー声量だよ。

「そういやまだ自己紹介してなかったな。俺たちは人呼んで『突破林隊ツッパリーズ』!頼みとあらば火の中水の中、地の果てだって戦う傭兵隊だ!」

   子供が見たら震え上がりそうな凶悪な笑顔で、ヤンキー鬼はそういった。


●◯●


   かなり怖い笑顔でサムズアップして、自分たちの名前を高らかに宣言したヤンキー鬼。どうだ?かっこいだろ!と言わんばかりの顔である。

   いや、『突破林隊ツッパリーズ』って……なんだその変な当て字が付いていそうなネーミングは。ていうか今、サムズアップした時キランって歯が光ったぞ。

「んでもって、俺様はヘッド怒愚魔ドグマだ!おら、てめえらも挨拶しな!」
「副リーダーの刃忌バキだ!」
「我輩は髃嶺グレイである!」
「俺ァ、剛魔留ゴマルっつーんだ!」
「俺っちは凛凛リリィだ!」

   ドグマに従って、次々と挨拶してくるヤンキー鬼たち。自己紹介するたびにポーズを取って、すげえ暑苦しい。ていうか最後のやつは可愛い名前だなおい!

   呆気にとられながらも、一通り紹介されたので俺も「皇龍人だ」と簡潔に自己紹介しておく。

   すると、全員がはじめましての握手しよう!とか言って迫ってきた。ちょ、だからリーゼントの圧がすごい!

  全員と握手し終える頃には、俺はぐったりとしていた。ドグマがそんな俺を見て豪快に笑い、バシンッ!と背を叩く。地味に痛え。

「つーわけだ!これから夜露死苦ヨロシク!」
「いや、どういうわけだよ……」
「いやあ、この祭りは最高だよな!」
「…………」

   訂正。話の脈絡がなくて、こっちの言うことを聞かないのは予想通りだ。そしてリーゼントの圧がすごい。

   俺がジト目で見上げていると、ドグマはようやく俺が状況を理解していないのがわかったのかバツが悪そうな顔をした。

「いや、いきなりすまねえな。見かけたら思わず話しかけたくなっちまってよ!」
「……やっぱり、あの演説に不満が?」

   俺の言葉に「いんや、それはさっき言った通り痺れたぜ!」と首を横に振るドグマ。それじゃあ一体なんなのだろうか。

「ほれ、お前最初にウチの親父の店に行ったろ?」
「親父…ああ、あのランガ飴の」

   そういえば、あの屋台の店主も鬼だった。なるほど、あの店主の息子さんだったのか。

「そうそう、それが親父だ!親父の作ったランガ飴、美味えだろ!?」
「ああ。娘も喜んでたよ」
「おう、あの肩車してたちびっ子か!」

   ドグマはぐるぐると辺りを見渡し、いつのまにか俺のズボンの裾を掴んで隠れていたウィータを見つけた。

  ニンマリと笑った ドグマはそのでかい体をしゃがみ込ませ、ウィータに視線を合わせるようにする。そしてニカッと笑った。

「ようリュウトのちびっ子、俺は怒愚魔ドグマ!お前はなんて言うんだ?」
「……ウィータ」
「そうか、ウィータか!ウチのランガ飴、美味かったか?」

   ドグマの言葉にぴくっ、と反応したウィータは、ちょこんと俺の背後から顔を出す。そしてこくこくと頷いた。

「そうかそうか!  ウチの親父、ランガを使ったスイーツとか作っててよ!  きっと気に入るぜ?」

   ……あの店主、パティシエだったのか。筋骨隆々の鬼がスイーツを作ってるのを想像すると、なんかシュールだな。

   大きな声で喋るドグマに、怯えた様子だったウィータはスイーツ、と聞いた瞬間完全に顔を出した。

   俺を含めた屋敷に住んでる皆が知ってることだが、ウィータは大のスイーツ好きである。特に好きなのはクッキーで、前に作ったら大喜びしてた。

「……スイーツ、甘い?  美味しい?」
「おう、最高だぜ!」
「……パパ」

   すぐさまこちらにキラキラとした目を向けてくるウィータ。口に出さずとも、その目を見れば言いたいことは一目瞭然だった。

「…わかった、いつか行こうな」
「ん!」

   嬉しいのか、ぴょんぴょん飛び跳ねるウィータに思わず微笑んでしまう。ふと隣を見れば、立ち上がったドグマも同じような顔をしてた。

   ……やっぱりこいつ、ただのいいやつだ。見た目で判断しそうになるなんて、俺はとんだ馬鹿野郎だな。

「へへ、ガキが喜んでくれんなら頑張らねえとな」
「お前も作るのか?」
「まあな……っと、そういや、本当の目的を忘れてたな」
「目的?」

   俺がおうむ返しに聞き返すと、ドグマはニヤリと凶悪な顔に笑みを浮かべた。

「ちょっとお前に挨拶しとこうと思ってよ……大武闘大会、俺は最後の五人まで残る。首を洗って待ってやがれ」

   そう言って、ドグマは自信ありげな顔でドン、と俺の胸に拳を軽く当てた。握られたその拳の硬さに、こいつが強いことをすぐに悟る。

   ……なるほど。要するに、宣戦布告ってわけか。いいだろう、相手が誰であれ、俺のやることは変わらない。

「ああ、その時は全力で相手する」
「ククッ、いいぜその顔。今から戦うのが楽しみだぜ!」

   歯をむき出しにして笑ったドグマは、体を翻し去っていった。『夜露死苦』の文字が刻まれたその背中を、じっと見据える。

「随分と濃い魔物に目をつけられましたね」

   ドグマの大きな背中と、それについていくヤンキー鬼たちの後ろ姿を見ていると、突然シリルラの声が隣から聞こえた。

   やがて見えなくなった彼らから視線を外して、隣を見下ろす。すると彼女は、しれっとした顔でいつの間にかそこにいた。

   ドグマが絡んできた時点で、彼女の気配はどこかに消えていた。神化してより鋭くなった感覚でも、全く捉えられないほど一瞬で。

「……期待されちまった以上、無様な様は見せられなくなったな。ていうかお前、一人だけ隠れてたな?」
「さて、なんのことやら」

   こてん、と態とらしく首をかしげるシリルラに苦笑いしながら、俺はウィータの手を取ってデートを再開するため、歩き始めた。



   数時間後に開かれる、大武闘大会に想いを馳せながら。


●◯●


   ウィータを交えた、シリルラとのお祭りデート。その最中にあったドグマとの出会いより、数時間後。



『皆様、お待たせいたしました!これより本日の大イベント、大武闘大会を開催いたします!』



   魔道具である拡声器を通して大きく響いた女性司会の声に、観客たちは歓喜の声をあげた。それは大きな音の渦となり、会場を包み込む。

   歓声の嵐が渦を巻くその場所は、西広場に存在する『大闘技場コロッセオ』。

   最大百万人を収容できるそこでは、観客席一杯に魔物や人が詰まっていた。皆口々に、祭りの始まりを喜び叫ぶ。

   観客席がぐるりと円形に取り囲む形状になっており、その中に放送席が設置されている。

   そしてその中心には、戦う選手として参加したやつらがいた。総勢五百人強の、千差万別の姿形を持つ戦士たち。

   彼らの表情は様々だ。自信に満ち溢れたもの、観客席に手を振るほど余裕なもの、これから始まる闘争に笑うもの。

   それぞれの姿勢を見せる選手達に、観客の音量のボルテージはどんどん上がっていく。凄まじい熱気だ。

   そして、それを見ている俺が今、どこにいるかというと……

『司会進行はわたくし、一度喋らせたら止まらない!戦いの実況に命を賭ける女、バンシーのセレアがお送りいたします!そして解説には……』
『新生秘境政府統括、エクセイザーじゃ。此度解説を預からせてもらった』
『同じく解説の皇龍人だ、よろしく頼む』

   マイクを持った茨の冠を頭に乗せた緑髪の少女に続いて、俺と、隣に座ったエクセイザーも挨拶する。すると、観客が雄叫びをあげた。

   そう。俺は今、放送席にいた。あれだけ大胆なことを言った手前、最後に戦うまで何もしないのも落ち着かないので、解説の席に座っている。

『さて。今回の大武闘大会、解説の龍人さんの提案ということですが……随分と大胆な宣戦布告をなされたとか!』
『はい、その通りです。それは今も変わりません。最後の五人となる方々と、正々堂々戦って勝利します』
『ふっ、大した自信じゃな。それでこそ妾の旦那様じゃ』
『おっと、ここで驚きの新事実です!ということは、ご息女のウィータ様の父親にあたるのでしょうか?』
『そうじゃ。共に過ごした時間はまだ短いが、龍人は立派に父親をやっておるぞ』

   うむ、と隣で頷くエクセイザーに俺は苦笑した。こうして褒められると、むず痒いというかなんというか。

『なんと!ですが、龍人さんは開会式にてとある女性からキスを受けていたと聞きましたが……そこのところはどうなんでしょう?』

   がくっ、と体勢を崩す。今の会話の後にその質問はいかがなものだろうか。この司会、かなり突っ込んでくるな。

『ふっ……それはご想像にお任せする』
『なるほど、つまりハーレム野郎ってことですね!』
『あんた歯に衣着せないな!?』

   いい笑顔でサムズアップするセレアさんに、俺は思わず叫ぶ。観客は一部ブーイングしていたが、大半が笑ってた。ちくしょう、恥ずかしい。

「おお、さすがリュウト!漢だぜ!」

   ……なんかドグマの声が聞こえた気がしたけど、スルーしとこう。

『さて、会場も盛り上がってきたところで、ルール説明に移ります!』

   セレアさんが元気な声で説明を始める。今回の大武闘大会は予選と本戦に分かれており、本戦は一ブロック八人で行われる。

   この大武闘大会は基本バトルロイヤル制で、再三の確認になるが、五つの各ブロックで最後に残った五人と俺が戦うことになる。

   ルールは全部で四つ。これを厳守しない場合、いかなる場合でもその場で失格になる。



一つ、相手が死ぬような攻撃は禁止、その場合即失格。故意ではなく事故の場合は厳格な判定の下、決定する。



二つ、場外に出る、あるいは降参の意思を示した場合そこで試合終了。



三つ、観客や司会、並びに解説などに危害を加えた場合は即刻退場。



四つ、各試合のインターバルは十五分間、試合開始時点で現れない場合、三十秒を過ぎた時点で失格。

   これらを守った上で大武闘大会は行われる。それなりに勝ち進んだもの…特に最後の五人まで残った選手には、政府、並びに〝統率府〟から賞金と景品がもらえることになっていた。

『また、今回はエクセイザー様が特殊な結界を張ってくださり、死なない限りは瀕死程度までなら、どんなダメージでも開始直前の状態にリセットされます!』
『うむ、存分に力を振るうが良い』
『どちらにせよ、ルールで相手を殺すのは禁止だが……まあ、この大会に参加するんだ、そのくらいはできるよな?』

   俺の挑発的な言葉に、戦士たちが各々の武器や拳を掲げながら雄叫びをあげた。そこからは自分たちの力を舐めるなという意思が、ありありと伝わってくる。

『では、次に肝心の予選ですが……今、ステージの上にいる全員でバトルロイヤルをしてもらいます!』
『一ブロック上限は五人、つまり五ブロックの合計で二十五人のみが本戦に進めることになる。さあ、己の力を示し、勝ち残れ!』

   二人がそう言った瞬間、選手たちはお互いを警戒し始める。次々と殺気が立ち上っていき、空気が緊張したものになっていった。

   剣呑な雰囲気がステージを満たす中、突如観客席の一番後ろが轟音を立てて変形を始めた。そして、中から巨大な黒い版がせり上がってくる。

   それに伴うように、壁に穴が開いて無数の丸い機械が飛び出してきた。それは小型ジェットを使って空を飛び、カメラを選手たちに向けている。

   程なくして、完全に姿を現した四枚の黒板に映像が浮かび上がった。そこには、丸い機械を見上げる選手たちの姿が写っている。

   あれはレイたち【三猿騎】や、軍部の使う装備を作っているやつの発明品らしい。要するにカメラとスクリーンだな。

   今回の大武闘大会は、この二つを使って実況解説を行う。スローモションや、録画再生機能も搭載した優れものだ。

『さて、それでは準備も整ったところで……大武闘大会予選、スタートです!』



   セレアさんが大きな声で叫んだ瞬間、大きな銅鑼の音が戦いの始まりを告げた。




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