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第2章 王への道
二十七話 VSジェイド
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どうも、感想があまり来なくなってだんだんやる気が失せてきた作者です。
今回はジェイドです。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーー
「ーーであって。わかりましたかね、センパイ?」
「……はい」
ドグマとの熱い戦いを終えた俺は今、正座でシリルラにお説教されていた。どうやら、先ほどの戦いがよろしくなかったようなのだ。
あれくらいで、と思うが、本人曰くシドとの戦いで約束を守れず、一度死んだことでかなり心配性っぽくなってるらしい。
そう言われては反論もできず、大人しく説教を受けている次第だ。愛あってこその言葉なので、無碍にもできない。
というかわざわざセンパイ呼びになっているあたり、その怒り具合がよくわかる。反抗したらやべーやつだ。
「……ということですね。とりあえず一通り言ったので、ここら辺で勘弁してあげますね」
「はい、すみませんでした……」
「全くです……またセンパイが怪我をするところなんて、見たくないですからね」
いつもの超然とした様子は何処へやら、心配そうな表情をする彼女。それに俺は、しっかりと頷いた。
「わかった、気をつける」
「それでいいんですね。さあ、そろそろ次の試合ですね。気張って言ってくださいね」
「ああ」
正座を解いて立ち上がると、シリルラにドン、と背中を押される。それに再び勇気をもらい、俺はステージに向けて踏み出した。
舞台に出ると、あいも変わらず歓声がステージを包んでいた。それをどこか嬉しく思いながら、正面を見る。
「……………」
そこには、無言で佇んでいる仮面の女傑がいた。本戦で最も最初に勝利を収めた謎の戦士、ジェイド。
頑丈そうな皮鎧とは一転、薄汚れた外套を身に纏い、顔にはジェ◯ソン……間違えたホッケーのマスクを装着している。
そして、手には鞭へと変わる棍棒方の魔道具。あの時と全く変わらない姿は、彼女の強さを体現しているようだった。
「よろしく頼む」
「………」
近づいて挨拶をすると、意外にもジェイドは僅かにぺこりとした。反応があるとは思わず、目をパチクリとさせる。
だがすぐに気を取り直して、ステータスを6%まで【解放】し、尻尾と【神樹の子】を展開した。
拳を覆う【神樹の子】を前にして、ジェイドは全く動じない。これまでの試合も見ているはずだが、やはり肝が座っているな。
そんなジェイドも、無造作な棒立ちから腰を落とし、まるで俺の使う皇流のように棍棒を水平に構えた。
両者ともに準備が終わり、静寂が訪れる。ジェイドの仮面の奥にある瞳と、自分の瞳が交差した。
『それでは……始めっ!!!』
セレアさんの言葉とともに、大きく銅鑼の音が耳に届く。しかし先の二人とは違い、すぐに仕掛けることはなかった。
ジリジリと回転しながら、互いの隙が生まれるのを待つ。少しでも何か動きを見せれば、その瞬間動き出せるように。
「フッ!」
最初に動いたのは、俺からだった。一瞬で背後に回り、首筋を狙って手刀を落とす。
だが、入る寸前に間に差し込まれた棍棒によって防がれてしまった。ジェイドはそのままグリップを回転させ、鞭にして俺の手を巻き取ろうとする。
そうはさせるかと、すぐさま手を引き抜いて足払いをかける。それを軽やかな動きでジャンプして躱し、鞭を唸らせるジェイド。
風をきって迫る鞭を地面を這うような姿勢でかわし、長い尻尾をジェイドの腹めがけて横薙ぎに振るった。
しかしジェイドは不安定な体制から強引に体をひねって掠るだけにとどめ、着地して鞭を棍棒に戻すと振り下ろしてきた。
右腕の【神樹の子】をシールド型に変形して受け、表面を擦らせるようにいなしてバランスを崩させる。
「ハッ!」
「………!」
そして変形させた左の刀を薙ぐ……が、いつのまにかもう一方の手に持っていた棍棒に防がれる。
一回り太く、まるでシドの持つ金棒のようなそれはよほど頑強なのか、僅かにしか【神樹の子】が食い込まない。
「いろんな棍棒を持ってるな!」
「………」
俺の言葉に応えることなく、カチリとボタンを押す音が耳に届く。かと思えば棍棒がパカリと開き、その中から規則的に並んだ穴が姿を現した。
ドドドドドドドッ!
そこからすさまじい速度で、超至近距離で鉛玉が射出される。とっさに両手の【神樹の子】を解除して体をそらした。
一瞬で何十もの鉛玉が、目と鼻の先をかすめていく。こんなのを受けたらたまったものではない。
鉛玉の射出が終わるのを待って、後ろに飛び退く。隣を見れば、ステージに無数の鉛玉が突き刺さっていた。
『ジェイド選手、龍人選手の猛攻を退けた!そして新たな第3の棍棒!今度は固定砲台のような仕込み武器です!』
鉛玉を全て射出し終えた棍棒は、煙を上げて元の形に戻る。ジェイドはそれを背中にしまい、代わりに青い棍棒を取り出した。
「一体何本持ってるんだか……」
というか、あの外套の背中の部分、〝アイテムポーチ〟になってるよな。明らかに普通にしまえる大きさじゃないし。
「……………」
相変わらず無言で、ジェイドは青の棍棒を横に降る。すると棍棒に切れ込みが入り、隙間から棘が飛び出して回転し始めた。
棍棒自体も棘とは逆回転を始め、とんでもない凶器と化す。殺意の塊みたいな棍棒に、俺は頬を引きつらせた。
「うん?」
さて、どうするかと思ったところで、頬を何かに叩かれる。
見れば、ネックレスになっていた龍の鉄血がふわふわと浮いていた。そういえばずっとこのままだったな。
「自分を使えってことか?」
肯定するようにコクコクと頷く龍の鉄血。なんだか、尻尾を振る犬を幻視した。
「わかった。一緒にジェイドを倒そうか」
その言葉に龍の鉄血は震え、俺の首元から飛び出すと変形していき、剣の形へと戻った。
それをキャッチしてグリップを握り、鞘から引き抜く。すると、鮮烈に輝く真紅の刃が姿を現した。
『龍人選手、どこからか真紅の剣を取り出した!怪しい輝きを放つその剣の切れ味はどれほどのものでしょうか!?』
恐ろしいほどに美しい刀身に見惚れながら、完全に引き抜く。その瞬間、鞘が溶けるようにスライム状になった。
鞘だったものは前腕を包み込んでいき、固形に戻っていく。ほどなくして、龍の頭を模したような手甲になった。
「……お前も大概なんでもありだな」
龍の鉄血に苦笑しながらも、半身を引き、腰を落として構える。さあ、龍の鉄血の初陣だ。
ビュゴッ!
ジェイドの姿が搔き消え、目の前に現れる。その腕に握られた、超高速で回転する青い棍棒が迫ってきた。
「シッ!」
そして、俺はそれを龍の鉄血で斬った。五つに分割し、地面に落ちる棍棒。
『な、なんと龍人選手、ジェイド選手の棍棒を斬ってしまったー!あの剣、生半可な切れ味ではありません!それを使いこなす龍人選手の技量の高さも伺えます!』
「っ!?」
「ハァッ!」
流石に驚いて一瞬動きを止めたジェイドに、袈裟斬りをお見舞いする。ハッとして防御態勢に入るが、防ぐ棍棒ごと叩き斬った。
そのまま斬れるかと思ったが、残っていた青い棍棒のグリップで剣の腹を叩かれて軌道がずれた。
仮面の表面を削るだけに終わった龍の鉄血から逃れ、グリップを投げ捨てたジェイドは膝蹴りを放ってきた。
「なんの!」
即座に顔を【神樹の子】で覆ってガードし、逆にその足を掴んで思い切り投げ飛ばす。
どうなったかと【神樹の子】を解いて見ると、ジェイドは二メートル強の新たな棍棒をステージに突き刺していた。あれで止まったんだろう。
「流石にそう簡単にやられてはくれないか……いけるか、龍の鉄血?」
当然、とでもいうように震える龍の鉄血。それに頼もしさを覚えながら、切っ先をジェイドに向ける。
「……………」
無言で立ち上がったジェイドもステージから棍棒を引き抜き、真ん中の部分をひねる。すると棍棒にスパークが走った。
棍棒を脇に挟んだジェイドは半身を引き、こちらに手招きしてくる。かかってこい、という意味か。
「鞭、固定砲台、回転ときて、次は電気棒か……レパートリーが豊富だなっ!」
「………っ!」
言いながら縮地で距離を詰め、龍の鉄血を振るう。ジェイドがこれまでに比べて長大な棍棒で受け止めた。
先ほど同様そのまま斬ろうとしたが、特別製なのか斬ることができなかった。ならば、手数で攻めるまで。
「ハァアアアアッ!」
「っ!」
唐竹、袈裟斬り、逆袈裟斬り、横薙ぎ、ありとあらゆる角度から龍の鉄血を叩き込む。
しかしジェイドは、ことごとくを棍棒で受け止めていた。その動きはいっそ流麗で、思わず一瞬見惚れてしまう。
「ッ!」
「っと!」
不意に、斬撃と斬撃の間を狙うように棍棒で突いてくる。コートの袖をかすめ、装飾が火花を散らした。
だが、好都合だ。尻尾を棍棒に巻きつかせると、絡め取って奪い取った。体勢が崩れるジェイド。
『龍人選手、ジェイド選手の棍棒を奪い取った!無防備になるジェイド選手、一体どうなる!?』
「……くっ」
「ハァッ!」
驚異的な速度で身を引くジェイドに、俺は手が届かなくなる前に龍の鉄血を縦に一閃した。
……ピシッ
一拍遅れて、ジェイドのホッケーマスクの中心に線が入り、パッカリと割れた。その瞬間、ジェイドは手で顔を隠して飛び退る。
『決まったーー!龍人選手の一撃がクリーンヒット!ジェイド選手の仮面が破壊されました!』
手で顔を隠したジェイドは、ステージの真ん中で硬直していた。指の隙間から、こちらを見る瞳が覗いている。
「顔を隠したまま戦いますか?」
「……………」
俺の言葉にぴくりと反応したジェイドは、一瞬逡巡したようなそぶりを見せた後、ゆっくりと手を離す。
そして、その中から出てきたのは……
「………え?」
「……久しぶりだね、リュート」
かつて、 西部の『小人の森』統率者であったハイオークの、オグさんだった。あまりの驚きに、一瞬頭が真っ白になる。
ジェイドの正体が、オグさん。その事実はあまりにも衝撃的すぎた。なぜなら、オグさんは行方不明だったからだ。
復活した後、一番最初に西部で知り合ったこともあって、挨拶をしに行こうと思ってたが、戦争終結直後から姿を消していたのだ。
彼女の居場所を聞いたとき、エクセイザーは親友であるがゆえに、オグさんが行方知れずなことを悲しんでいた。
それが、なんで……
「なんで、あなたがここに……」
「それは……君を倒すためだよっ!」
「っ!」
次の瞬間、オグさんが目の前に現れた。そしてまた新たなチェーンソーのような棍棒を手に持ち、振り下ろして来る。
「ハッ!」
「ぐっ!」
動揺しながらも、俺は龍の鉄血でそれを止めた。だがパワーはあちらの方が上なのか、押し込まれる。
仕方がなく、【転移】スキルで離れたところに離脱した。そこで地面に膝をつき、荒い息を吐く。
「はぁ、はぁ……!」
さっき、動きが全く見えなかった、今の【解放】しているステータスでは追えないほどの速度で動いたのか!?
ドグマも相当だったが、あれとは次元が違う。文字通り、生物としての格を超越しているような……
「ーー行くよ」
「くっ!?」
そこまで考えたところで、またしても刹那の瞬間にオグさんが接近して来る。本能的に身を引くと、鼻の先をチェーンソーがかすめる。
それだけで終わらず、二回、三回とチェーンソーが襲い来る。尻尾でなんとか体勢を保ちながら、体を仰け反らせてそれを避けた。
「フッ……!」
「ゴフッ……!」
そればかりに注目していると、鳩尾に足がめり込む。鋭い痛みとともに、ステージの上を転がっていった。
場外になる寸前で、右手から【神樹の子】を出し、ステージに突き刺して急停止する。
「ゴホッ、ゴホッ……!」
『りゅ、龍人選手が吐血した!?これまでどんな攻撃を受けても、一度も傷つくことのなかった龍人選手が、膝をつきました!』
咳とともに血を吐きながら、ジンジンと痛む腹を抑える。俺としたことが、まさか戦っている時に動揺するなんて……!
「でも、それよりも……」
今の攻撃で、痛みを感じ、血を吐いた。それすなわち、神や亜神を守る【Eの理】を突破したということ。
それは、オグさんがヴェル同様に、この10年の間に亜神になっていることを意味する。でなければ、攻撃が通る説明がつかない。
まずいな、本格的に油断できない。ステータスを制限して、舐めプみたいなことをしている余裕はないぞ。
「考え事をしてる暇があるなんて、余裕だね!」
「まさかっ!」
ギャリィンッ!
ステータス解放を10%まで引き上げて、迫ってきたオグさんの棍棒を受け止める。それでも、ようやく五分だった。
そのまま、超至近距離での戦闘が始まる。オグさんの膂力に物を言わせた猛攻を、俺は全力で凌ぐ。
「なんで、俺を倒すなんて……!」
棍棒と龍の鉄血を打ち合わせながら、オグさんの顔を見て問いかける。俺を倒すことに、なんの意味があるのだろうか。
「それは、君がこの国の守護者になろうとしているからだっ!」
「ぐぅっ!」
すると、怒りの声とともに棍棒が振り下ろされた。刀身に手を添え、歯を食いしばって受け止める。
「それが、どうしたんですか!」
「君を守護者にはさせない、君にこの国は背負わせない!」
「なんでそんなことを!」
「決まっているだろう!もう君が傷つくのを見たくないからだ!」
ドンッ!
「ガハッ!」
また腹に、今度は掌底が打ち込まれる。それは内臓にまで浸透し、俺はまた血を吐いた。
それでも両足に力を込め、必死に受け止める。そして鋭い眼光で、怒るオグさんの顔を見上げた。
「傷つくって、どういうことですか…!?」
「……忘れたとは言わせないよ。君は10年前、エクセイザーとともに、北部へと向かった。そしてそこで、あの黒鬼神の手先と戦って命を落とした」
確かにその通りだ。俺は、シドと全力で戦って、命を引き換えにして倒した。
「でもそれは、西部のために!」
「だからこそだ!君は下手をすれば、私たちのために自分の命を投げ出す!」
「それくらいの覚悟はできてます!今度こそ最後まで、守り切ってみせる!」
「違う!そんな大層なことじゃない!」
棍棒を押し込む力が強まる。龍の鉄血を支える腕が震え、少しずつ膝が折れていく。
「それじゃあ、なんだっていうんですか!」
「私は、私が君を傷つくのを見たくないだけなんだ!」
「……え?」
その言葉に、俺は間抜けな声をあげた。どういう、ことだ?
「どういう、ことですか?」
「……リュート、私はね。西部の【神子】なんだよ」
「なっ!?」
その言葉に、鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚えた。
【神子】、それは旧遥か高き果ての森の〝エナジーコア〟を管理する大精霊の分身を宿す四体の魔物のことだ。
そして俺が息を吹き返したのは、その大精霊の加護があったからこそ。それは、東部の【神子】であるニィシャさんを通して与えられた。
そんな【神子】の一人が、オグさん。もしかしたら身近にいるかも、なんて考えたことはあったが、まさか……
「でも、なんで今それを……」
「リュートを生き返らせた【大精霊の加護】。あれを与えるには、【神子】の持つ分身の力が過半数必要なの。ここまで言えばわかる?」
つまり、ニィシャさんと、オグさんがいたからこそ、【大精霊の加護】が与えられたってことか?
「壊れかけた魂に【加護】を植え付けたその時、私たちは、あなたの記憶を見た……そこで私は知ってしまった、あなたが誰かを守るのに執着する理由を」
「っ!」
……〝あの時〟の記憶を、見たのか。
彼女は、それまでの俺を跡形もなく破壊し、陰陽師という人を守る存在になることに逃げた理由を、知ったのか。
「その時、私は決めた。君をもう二度と、大衆のために戦わせない。私が君を守るのだと」
「……でも、俺は」
「それなのに君は、また誰かのために戦おうとしてる。それなら私が、ここで君を倒すっ!」
その言葉とともに、腹に鋭い拳が突き刺さる。内臓が破裂する感覚とともに、喉の奥から血塊がせり上がってきた。
「ふっ!」
「ぐぅっ……!」
それを吐く暇もなく、肘が肩の骨にめり込む。ボキリという嫌な音とともに、片腕の感覚がなくなった。
「シッ!はぁっ!」
「がっ、ぐふっ!?」
容赦無く、全身に攻撃を浴びせられる。一撃受けるごとに、攻撃を受けた部分が破壊されていくのがわかった。
嵐のような攻撃を、俺は無防備に受けることしかできない。〝あの時〟の記憶がフラッシュバックして、体が動かない。
そうしているうちに、全身がボロボロになっていた。全身から痛み、至る所から血が滴り落ちている。
「く、ぁ……」
たまらず、俺はステージに片膝をついた。意識が朦朧として、うまく思考がまとまらない。
それでも必死に倒れまいとしていると、影がかかる。見上げれば、血で赤く染まった視界の中でオグさんが俺を見下ろしてた。
「……これで終わりだよ。君は静かに、あの屋敷の中で暮らしていればいい」
その言葉とともに、高く振り上げた拳が振り下ろされる。
まるで処刑人の斧のようなそれは、俺の意識を刈り取る……
ーーたとえセンパイが■■■だとしても、大丈夫ですね。逆に、その力で私を守ってください、ね?
「……それは、お断りします」
……ことは、なかった。
俺は、オグさんの拳を掴み、しっかりと受け止めていた。そして強い意志を瞳に込め、オグさんを睨み上げる。
「なっ……!?」
「たとえ、俺にその資格がないとしても、許されないことだとしても……それでも俺は、この国の守護者になるっ!」
叫びながら、オグさんの拳を押し返す。両足でしっかりとステージを踏みしめ、力を振り絞って立ち上がった。
「はぁぁあああっ!」
裂帛の叫び声とともに、驚いて固まっているオグさんにストレートを繰り出す。ハッと我に返ったオグさんは、腕をクロスして防いだ。
構わず、拳を打ち出す。すると骨が砕ける感触が拳から伝わってきた。どうやら効いたようだ。
「ぐぅっ!?」
一歩、オグさんは苦悶の声をあげながら後退する。その期を逃さず、俺は両腕を全力でふるった。
先ほどとは逆に、ひたすら攻撃をする俺に、オグさんが防戦一方になる。攻撃を続けるほどに、より強く、より鋭くなってく。
そして……
「はぁっ!」
「かはっ!?」
ついに、拳がみぞおちにめり込む。オグさんは吐血し、腹を抑えながらよろよろと後退していった。
「ぐ、ぅぁ……」
そのまま、オグさんはステージの上に大の字に倒れた。わずかに身じろぎするものの、立ち上がることはない。
「はぁ、はぁ、ゴホッ、ゲホッ……」
かくいう俺も、張り詰めていた体から力が抜け、膝をついてしまった。この程度で、情けないにもほどがある。
荒い息を吐いている間に、【神樹の子】の副次的効果で傷が回復していく。数分もすると、完全に治癒した。
「……リュート」
「はぁ……あれ、オグさん?」
息を整えて見上げると、そこには無傷のオグさんがいた。まさか、彼女もスキルか何かで回復したのか?
「試合なら終わったよ。君の勝ちだ」
「…あ、そういうこと」
どうやら色々ありすぎて頭がこんがらがっている間に、試合終了していたようだ。結界の効果で元に戻ったのだろう。
そう内心自己完結しながら、立ち上がる。そして、沈鬱な表情をしているオグさんを見た。
「……どんなに」
「はい?」
「どんなに辛くても、この国を守るの?」
真剣な声音で問いかけてくるオグさん。その瞳には、まるで俺の決意をためすような光が宿っている。
「……はい。どんなことがあっても、俺はこの願いを諦めません」
「どんなに辛くても、くじけそうになっても、誰かに否定されたとしても?」
「どんなことがあっても、です」
「……決意は固い、か。私が何をいっても、打ちのめしても意味はなさそうだね」
「まあ、一度死んでますから。バカは死んでも治らないっていうでしょう?」
「まさにその言葉通りだね……はぁ~。この大会に参加した意味~、なくなっちゃったな~。まあ、その決意が知れただけでもいいかな~。それじゃああと二試合、頑張ってね~」
そう、俺の知っている昔の彼女のようなのんびりとした口調で言うと、オグさんはステージを去っていった。
その背中をしばらく見つめた後、俺もステージを後にする。
「センパイッ!」
通路に入った瞬間、シリルラが抱きついてくる。顔を胸に押し付けて肩を震わせる彼女の頭を、俺はそっと撫でた。
「………」
シリルラの頭を撫でながら、俺はオグさんのことを思い出す。
いつか、誰かが立ちはだかるとは思っていた。それがまさか、オグさんだとは思わなかっtが。
けど、俺はこの願いを絶対に叶える。たとえ誰に否定されようとも、絶対に。
何故なら、それは俺の……
「……あと二試合、頑張らなくちゃな」
俺は再び、決意を固めるのだった。
ーーー
読んでいただき、ありがとうございます。
感想をお願いします。
今回はジェイドです。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーー
「ーーであって。わかりましたかね、センパイ?」
「……はい」
ドグマとの熱い戦いを終えた俺は今、正座でシリルラにお説教されていた。どうやら、先ほどの戦いがよろしくなかったようなのだ。
あれくらいで、と思うが、本人曰くシドとの戦いで約束を守れず、一度死んだことでかなり心配性っぽくなってるらしい。
そう言われては反論もできず、大人しく説教を受けている次第だ。愛あってこその言葉なので、無碍にもできない。
というかわざわざセンパイ呼びになっているあたり、その怒り具合がよくわかる。反抗したらやべーやつだ。
「……ということですね。とりあえず一通り言ったので、ここら辺で勘弁してあげますね」
「はい、すみませんでした……」
「全くです……またセンパイが怪我をするところなんて、見たくないですからね」
いつもの超然とした様子は何処へやら、心配そうな表情をする彼女。それに俺は、しっかりと頷いた。
「わかった、気をつける」
「それでいいんですね。さあ、そろそろ次の試合ですね。気張って言ってくださいね」
「ああ」
正座を解いて立ち上がると、シリルラにドン、と背中を押される。それに再び勇気をもらい、俺はステージに向けて踏み出した。
舞台に出ると、あいも変わらず歓声がステージを包んでいた。それをどこか嬉しく思いながら、正面を見る。
「……………」
そこには、無言で佇んでいる仮面の女傑がいた。本戦で最も最初に勝利を収めた謎の戦士、ジェイド。
頑丈そうな皮鎧とは一転、薄汚れた外套を身に纏い、顔にはジェ◯ソン……間違えたホッケーのマスクを装着している。
そして、手には鞭へと変わる棍棒方の魔道具。あの時と全く変わらない姿は、彼女の強さを体現しているようだった。
「よろしく頼む」
「………」
近づいて挨拶をすると、意外にもジェイドは僅かにぺこりとした。反応があるとは思わず、目をパチクリとさせる。
だがすぐに気を取り直して、ステータスを6%まで【解放】し、尻尾と【神樹の子】を展開した。
拳を覆う【神樹の子】を前にして、ジェイドは全く動じない。これまでの試合も見ているはずだが、やはり肝が座っているな。
そんなジェイドも、無造作な棒立ちから腰を落とし、まるで俺の使う皇流のように棍棒を水平に構えた。
両者ともに準備が終わり、静寂が訪れる。ジェイドの仮面の奥にある瞳と、自分の瞳が交差した。
『それでは……始めっ!!!』
セレアさんの言葉とともに、大きく銅鑼の音が耳に届く。しかし先の二人とは違い、すぐに仕掛けることはなかった。
ジリジリと回転しながら、互いの隙が生まれるのを待つ。少しでも何か動きを見せれば、その瞬間動き出せるように。
「フッ!」
最初に動いたのは、俺からだった。一瞬で背後に回り、首筋を狙って手刀を落とす。
だが、入る寸前に間に差し込まれた棍棒によって防がれてしまった。ジェイドはそのままグリップを回転させ、鞭にして俺の手を巻き取ろうとする。
そうはさせるかと、すぐさま手を引き抜いて足払いをかける。それを軽やかな動きでジャンプして躱し、鞭を唸らせるジェイド。
風をきって迫る鞭を地面を這うような姿勢でかわし、長い尻尾をジェイドの腹めがけて横薙ぎに振るった。
しかしジェイドは不安定な体制から強引に体をひねって掠るだけにとどめ、着地して鞭を棍棒に戻すと振り下ろしてきた。
右腕の【神樹の子】をシールド型に変形して受け、表面を擦らせるようにいなしてバランスを崩させる。
「ハッ!」
「………!」
そして変形させた左の刀を薙ぐ……が、いつのまにかもう一方の手に持っていた棍棒に防がれる。
一回り太く、まるでシドの持つ金棒のようなそれはよほど頑強なのか、僅かにしか【神樹の子】が食い込まない。
「いろんな棍棒を持ってるな!」
「………」
俺の言葉に応えることなく、カチリとボタンを押す音が耳に届く。かと思えば棍棒がパカリと開き、その中から規則的に並んだ穴が姿を現した。
ドドドドドドドッ!
そこからすさまじい速度で、超至近距離で鉛玉が射出される。とっさに両手の【神樹の子】を解除して体をそらした。
一瞬で何十もの鉛玉が、目と鼻の先をかすめていく。こんなのを受けたらたまったものではない。
鉛玉の射出が終わるのを待って、後ろに飛び退く。隣を見れば、ステージに無数の鉛玉が突き刺さっていた。
『ジェイド選手、龍人選手の猛攻を退けた!そして新たな第3の棍棒!今度は固定砲台のような仕込み武器です!』
鉛玉を全て射出し終えた棍棒は、煙を上げて元の形に戻る。ジェイドはそれを背中にしまい、代わりに青い棍棒を取り出した。
「一体何本持ってるんだか……」
というか、あの外套の背中の部分、〝アイテムポーチ〟になってるよな。明らかに普通にしまえる大きさじゃないし。
「……………」
相変わらず無言で、ジェイドは青の棍棒を横に降る。すると棍棒に切れ込みが入り、隙間から棘が飛び出して回転し始めた。
棍棒自体も棘とは逆回転を始め、とんでもない凶器と化す。殺意の塊みたいな棍棒に、俺は頬を引きつらせた。
「うん?」
さて、どうするかと思ったところで、頬を何かに叩かれる。
見れば、ネックレスになっていた龍の鉄血がふわふわと浮いていた。そういえばずっとこのままだったな。
「自分を使えってことか?」
肯定するようにコクコクと頷く龍の鉄血。なんだか、尻尾を振る犬を幻視した。
「わかった。一緒にジェイドを倒そうか」
その言葉に龍の鉄血は震え、俺の首元から飛び出すと変形していき、剣の形へと戻った。
それをキャッチしてグリップを握り、鞘から引き抜く。すると、鮮烈に輝く真紅の刃が姿を現した。
『龍人選手、どこからか真紅の剣を取り出した!怪しい輝きを放つその剣の切れ味はどれほどのものでしょうか!?』
恐ろしいほどに美しい刀身に見惚れながら、完全に引き抜く。その瞬間、鞘が溶けるようにスライム状になった。
鞘だったものは前腕を包み込んでいき、固形に戻っていく。ほどなくして、龍の頭を模したような手甲になった。
「……お前も大概なんでもありだな」
龍の鉄血に苦笑しながらも、半身を引き、腰を落として構える。さあ、龍の鉄血の初陣だ。
ビュゴッ!
ジェイドの姿が搔き消え、目の前に現れる。その腕に握られた、超高速で回転する青い棍棒が迫ってきた。
「シッ!」
そして、俺はそれを龍の鉄血で斬った。五つに分割し、地面に落ちる棍棒。
『な、なんと龍人選手、ジェイド選手の棍棒を斬ってしまったー!あの剣、生半可な切れ味ではありません!それを使いこなす龍人選手の技量の高さも伺えます!』
「っ!?」
「ハァッ!」
流石に驚いて一瞬動きを止めたジェイドに、袈裟斬りをお見舞いする。ハッとして防御態勢に入るが、防ぐ棍棒ごと叩き斬った。
そのまま斬れるかと思ったが、残っていた青い棍棒のグリップで剣の腹を叩かれて軌道がずれた。
仮面の表面を削るだけに終わった龍の鉄血から逃れ、グリップを投げ捨てたジェイドは膝蹴りを放ってきた。
「なんの!」
即座に顔を【神樹の子】で覆ってガードし、逆にその足を掴んで思い切り投げ飛ばす。
どうなったかと【神樹の子】を解いて見ると、ジェイドは二メートル強の新たな棍棒をステージに突き刺していた。あれで止まったんだろう。
「流石にそう簡単にやられてはくれないか……いけるか、龍の鉄血?」
当然、とでもいうように震える龍の鉄血。それに頼もしさを覚えながら、切っ先をジェイドに向ける。
「……………」
無言で立ち上がったジェイドもステージから棍棒を引き抜き、真ん中の部分をひねる。すると棍棒にスパークが走った。
棍棒を脇に挟んだジェイドは半身を引き、こちらに手招きしてくる。かかってこい、という意味か。
「鞭、固定砲台、回転ときて、次は電気棒か……レパートリーが豊富だなっ!」
「………っ!」
言いながら縮地で距離を詰め、龍の鉄血を振るう。ジェイドがこれまでに比べて長大な棍棒で受け止めた。
先ほど同様そのまま斬ろうとしたが、特別製なのか斬ることができなかった。ならば、手数で攻めるまで。
「ハァアアアアッ!」
「っ!」
唐竹、袈裟斬り、逆袈裟斬り、横薙ぎ、ありとあらゆる角度から龍の鉄血を叩き込む。
しかしジェイドは、ことごとくを棍棒で受け止めていた。その動きはいっそ流麗で、思わず一瞬見惚れてしまう。
「ッ!」
「っと!」
不意に、斬撃と斬撃の間を狙うように棍棒で突いてくる。コートの袖をかすめ、装飾が火花を散らした。
だが、好都合だ。尻尾を棍棒に巻きつかせると、絡め取って奪い取った。体勢が崩れるジェイド。
『龍人選手、ジェイド選手の棍棒を奪い取った!無防備になるジェイド選手、一体どうなる!?』
「……くっ」
「ハァッ!」
驚異的な速度で身を引くジェイドに、俺は手が届かなくなる前に龍の鉄血を縦に一閃した。
……ピシッ
一拍遅れて、ジェイドのホッケーマスクの中心に線が入り、パッカリと割れた。その瞬間、ジェイドは手で顔を隠して飛び退る。
『決まったーー!龍人選手の一撃がクリーンヒット!ジェイド選手の仮面が破壊されました!』
手で顔を隠したジェイドは、ステージの真ん中で硬直していた。指の隙間から、こちらを見る瞳が覗いている。
「顔を隠したまま戦いますか?」
「……………」
俺の言葉にぴくりと反応したジェイドは、一瞬逡巡したようなそぶりを見せた後、ゆっくりと手を離す。
そして、その中から出てきたのは……
「………え?」
「……久しぶりだね、リュート」
かつて、 西部の『小人の森』統率者であったハイオークの、オグさんだった。あまりの驚きに、一瞬頭が真っ白になる。
ジェイドの正体が、オグさん。その事実はあまりにも衝撃的すぎた。なぜなら、オグさんは行方不明だったからだ。
復活した後、一番最初に西部で知り合ったこともあって、挨拶をしに行こうと思ってたが、戦争終結直後から姿を消していたのだ。
彼女の居場所を聞いたとき、エクセイザーは親友であるがゆえに、オグさんが行方知れずなことを悲しんでいた。
それが、なんで……
「なんで、あなたがここに……」
「それは……君を倒すためだよっ!」
「っ!」
次の瞬間、オグさんが目の前に現れた。そしてまた新たなチェーンソーのような棍棒を手に持ち、振り下ろして来る。
「ハッ!」
「ぐっ!」
動揺しながらも、俺は龍の鉄血でそれを止めた。だがパワーはあちらの方が上なのか、押し込まれる。
仕方がなく、【転移】スキルで離れたところに離脱した。そこで地面に膝をつき、荒い息を吐く。
「はぁ、はぁ……!」
さっき、動きが全く見えなかった、今の【解放】しているステータスでは追えないほどの速度で動いたのか!?
ドグマも相当だったが、あれとは次元が違う。文字通り、生物としての格を超越しているような……
「ーー行くよ」
「くっ!?」
そこまで考えたところで、またしても刹那の瞬間にオグさんが接近して来る。本能的に身を引くと、鼻の先をチェーンソーがかすめる。
それだけで終わらず、二回、三回とチェーンソーが襲い来る。尻尾でなんとか体勢を保ちながら、体を仰け反らせてそれを避けた。
「フッ……!」
「ゴフッ……!」
そればかりに注目していると、鳩尾に足がめり込む。鋭い痛みとともに、ステージの上を転がっていった。
場外になる寸前で、右手から【神樹の子】を出し、ステージに突き刺して急停止する。
「ゴホッ、ゴホッ……!」
『りゅ、龍人選手が吐血した!?これまでどんな攻撃を受けても、一度も傷つくことのなかった龍人選手が、膝をつきました!』
咳とともに血を吐きながら、ジンジンと痛む腹を抑える。俺としたことが、まさか戦っている時に動揺するなんて……!
「でも、それよりも……」
今の攻撃で、痛みを感じ、血を吐いた。それすなわち、神や亜神を守る【Eの理】を突破したということ。
それは、オグさんがヴェル同様に、この10年の間に亜神になっていることを意味する。でなければ、攻撃が通る説明がつかない。
まずいな、本格的に油断できない。ステータスを制限して、舐めプみたいなことをしている余裕はないぞ。
「考え事をしてる暇があるなんて、余裕だね!」
「まさかっ!」
ギャリィンッ!
ステータス解放を10%まで引き上げて、迫ってきたオグさんの棍棒を受け止める。それでも、ようやく五分だった。
そのまま、超至近距離での戦闘が始まる。オグさんの膂力に物を言わせた猛攻を、俺は全力で凌ぐ。
「なんで、俺を倒すなんて……!」
棍棒と龍の鉄血を打ち合わせながら、オグさんの顔を見て問いかける。俺を倒すことに、なんの意味があるのだろうか。
「それは、君がこの国の守護者になろうとしているからだっ!」
「ぐぅっ!」
すると、怒りの声とともに棍棒が振り下ろされた。刀身に手を添え、歯を食いしばって受け止める。
「それが、どうしたんですか!」
「君を守護者にはさせない、君にこの国は背負わせない!」
「なんでそんなことを!」
「決まっているだろう!もう君が傷つくのを見たくないからだ!」
ドンッ!
「ガハッ!」
また腹に、今度は掌底が打ち込まれる。それは内臓にまで浸透し、俺はまた血を吐いた。
それでも両足に力を込め、必死に受け止める。そして鋭い眼光で、怒るオグさんの顔を見上げた。
「傷つくって、どういうことですか…!?」
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確かにその通りだ。俺は、シドと全力で戦って、命を引き換えにして倒した。
「でもそれは、西部のために!」
「だからこそだ!君は下手をすれば、私たちのために自分の命を投げ出す!」
「それくらいの覚悟はできてます!今度こそ最後まで、守り切ってみせる!」
「違う!そんな大層なことじゃない!」
棍棒を押し込む力が強まる。龍の鉄血を支える腕が震え、少しずつ膝が折れていく。
「それじゃあ、なんだっていうんですか!」
「私は、私が君を傷つくのを見たくないだけなんだ!」
「……え?」
その言葉に、俺は間抜けな声をあげた。どういう、ことだ?
「どういう、ことですか?」
「……リュート、私はね。西部の【神子】なんだよ」
「なっ!?」
その言葉に、鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚えた。
【神子】、それは旧遥か高き果ての森の〝エナジーコア〟を管理する大精霊の分身を宿す四体の魔物のことだ。
そして俺が息を吹き返したのは、その大精霊の加護があったからこそ。それは、東部の【神子】であるニィシャさんを通して与えられた。
そんな【神子】の一人が、オグさん。もしかしたら身近にいるかも、なんて考えたことはあったが、まさか……
「でも、なんで今それを……」
「リュートを生き返らせた【大精霊の加護】。あれを与えるには、【神子】の持つ分身の力が過半数必要なの。ここまで言えばわかる?」
つまり、ニィシャさんと、オグさんがいたからこそ、【大精霊の加護】が与えられたってことか?
「壊れかけた魂に【加護】を植え付けたその時、私たちは、あなたの記憶を見た……そこで私は知ってしまった、あなたが誰かを守るのに執着する理由を」
「っ!」
……〝あの時〟の記憶を、見たのか。
彼女は、それまでの俺を跡形もなく破壊し、陰陽師という人を守る存在になることに逃げた理由を、知ったのか。
「その時、私は決めた。君をもう二度と、大衆のために戦わせない。私が君を守るのだと」
「……でも、俺は」
「それなのに君は、また誰かのために戦おうとしてる。それなら私が、ここで君を倒すっ!」
その言葉とともに、腹に鋭い拳が突き刺さる。内臓が破裂する感覚とともに、喉の奥から血塊がせり上がってきた。
「ふっ!」
「ぐぅっ……!」
それを吐く暇もなく、肘が肩の骨にめり込む。ボキリという嫌な音とともに、片腕の感覚がなくなった。
「シッ!はぁっ!」
「がっ、ぐふっ!?」
容赦無く、全身に攻撃を浴びせられる。一撃受けるごとに、攻撃を受けた部分が破壊されていくのがわかった。
嵐のような攻撃を、俺は無防備に受けることしかできない。〝あの時〟の記憶がフラッシュバックして、体が動かない。
そうしているうちに、全身がボロボロになっていた。全身から痛み、至る所から血が滴り落ちている。
「く、ぁ……」
たまらず、俺はステージに片膝をついた。意識が朦朧として、うまく思考がまとまらない。
それでも必死に倒れまいとしていると、影がかかる。見上げれば、血で赤く染まった視界の中でオグさんが俺を見下ろしてた。
「……これで終わりだよ。君は静かに、あの屋敷の中で暮らしていればいい」
その言葉とともに、高く振り上げた拳が振り下ろされる。
まるで処刑人の斧のようなそれは、俺の意識を刈り取る……
ーーたとえセンパイが■■■だとしても、大丈夫ですね。逆に、その力で私を守ってください、ね?
「……それは、お断りします」
……ことは、なかった。
俺は、オグさんの拳を掴み、しっかりと受け止めていた。そして強い意志を瞳に込め、オグさんを睨み上げる。
「なっ……!?」
「たとえ、俺にその資格がないとしても、許されないことだとしても……それでも俺は、この国の守護者になるっ!」
叫びながら、オグさんの拳を押し返す。両足でしっかりとステージを踏みしめ、力を振り絞って立ち上がった。
「はぁぁあああっ!」
裂帛の叫び声とともに、驚いて固まっているオグさんにストレートを繰り出す。ハッと我に返ったオグさんは、腕をクロスして防いだ。
構わず、拳を打ち出す。すると骨が砕ける感触が拳から伝わってきた。どうやら効いたようだ。
「ぐぅっ!?」
一歩、オグさんは苦悶の声をあげながら後退する。その期を逃さず、俺は両腕を全力でふるった。
先ほどとは逆に、ひたすら攻撃をする俺に、オグさんが防戦一方になる。攻撃を続けるほどに、より強く、より鋭くなってく。
そして……
「はぁっ!」
「かはっ!?」
ついに、拳がみぞおちにめり込む。オグさんは吐血し、腹を抑えながらよろよろと後退していった。
「ぐ、ぅぁ……」
そのまま、オグさんはステージの上に大の字に倒れた。わずかに身じろぎするものの、立ち上がることはない。
「はぁ、はぁ、ゴホッ、ゲホッ……」
かくいう俺も、張り詰めていた体から力が抜け、膝をついてしまった。この程度で、情けないにもほどがある。
荒い息を吐いている間に、【神樹の子】の副次的効果で傷が回復していく。数分もすると、完全に治癒した。
「……リュート」
「はぁ……あれ、オグさん?」
息を整えて見上げると、そこには無傷のオグさんがいた。まさか、彼女もスキルか何かで回復したのか?
「試合なら終わったよ。君の勝ちだ」
「…あ、そういうこと」
どうやら色々ありすぎて頭がこんがらがっている間に、試合終了していたようだ。結界の効果で元に戻ったのだろう。
そう内心自己完結しながら、立ち上がる。そして、沈鬱な表情をしているオグさんを見た。
「……どんなに」
「はい?」
「どんなに辛くても、この国を守るの?」
真剣な声音で問いかけてくるオグさん。その瞳には、まるで俺の決意をためすような光が宿っている。
「……はい。どんなことがあっても、俺はこの願いを諦めません」
「どんなに辛くても、くじけそうになっても、誰かに否定されたとしても?」
「どんなことがあっても、です」
「……決意は固い、か。私が何をいっても、打ちのめしても意味はなさそうだね」
「まあ、一度死んでますから。バカは死んでも治らないっていうでしょう?」
「まさにその言葉通りだね……はぁ~。この大会に参加した意味~、なくなっちゃったな~。まあ、その決意が知れただけでもいいかな~。それじゃああと二試合、頑張ってね~」
そう、俺の知っている昔の彼女のようなのんびりとした口調で言うと、オグさんはステージを去っていった。
その背中をしばらく見つめた後、俺もステージを後にする。
「センパイッ!」
通路に入った瞬間、シリルラが抱きついてくる。顔を胸に押し付けて肩を震わせる彼女の頭を、俺はそっと撫でた。
「………」
シリルラの頭を撫でながら、俺はオグさんのことを思い出す。
いつか、誰かが立ちはだかるとは思っていた。それがまさか、オグさんだとは思わなかっtが。
けど、俺はこの願いを絶対に叶える。たとえ誰に否定されようとも、絶対に。
何故なら、それは俺の……
「……あと二試合、頑張らなくちゃな」
俺は再び、決意を固めるのだった。
ーーー
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