陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

文字の大きさ
63 / 81
第2章 王への道

二十七話 VSジェイド

しおりを挟む
どうも、感想があまり来なくなってだんだんやる気が失せてきた作者です。
今回はジェイドです。
楽しんでいただけると嬉しいです。


ーーー


「ーーであって。わかりましたかね、センパイ?」
「……はい」

   ドグマとの熱い戦いを終えた俺は今、正座でシリルラにお説教されていた。どうやら、先ほどの戦いがよろしくなかったようなのだ。

   あれくらいで、と思うが、本人曰くシドとの戦いで約束を守れず、一度死んだことでかなり心配性っぽくなってるらしい。

   そう言われては反論もできず、大人しく説教を受けている次第だ。愛あってこその言葉なので、無碍にもできない。

   というかわざわざセンパイ呼びになっているあたり、その怒り具合がよくわかる。反抗したらやべーやつだ。

「……ということですね。とりあえず一通り言ったので、ここら辺で勘弁してあげますね」
「はい、すみませんでした……」
「全くです……またセンパイが怪我をするところなんて、見たくないですからね」

   いつもの超然とした様子は何処へやら、心配そうな表情をする彼女。それに俺は、しっかりと頷いた。

「わかった、気をつける」
「それでいいんですね。さあ、そろそろ次の試合ですね。気張って言ってくださいね」
「ああ」

   正座を解いて立ち上がると、シリルラにドン、と背中を押される。それに再び勇気をもらい、俺はステージに向けて踏み出した。

   舞台に出ると、あいも変わらず歓声がステージを包んでいた。それをどこか嬉しく思いながら、正面を見る。

「……………」

   そこには、無言で佇んでいる仮面の女傑がいた。本戦で最も最初に勝利を収めた謎の戦士、ジェイド。

   頑丈そうな皮鎧とは一転、薄汚れた外套を身に纏い、顔にはジェ◯ソン……間違えたホッケーのマスクを装着している。

   そして、手には鞭へと変わる棍棒方の魔道具。あの時と全く変わらない姿は、彼女の強さを体現しているようだった。

「よろしく頼む」
「………」

   近づいて挨拶をすると、意外にもジェイドは僅かにぺこりとした。反応があるとは思わず、目をパチクリとさせる。

   だがすぐに気を取り直して、ステータスを6%まで【解放】し、尻尾と【神樹の子セフィラ】を展開した。

   拳を覆う【神樹の子セフィラ】を前にして、ジェイドは全く動じない。これまでの試合も見ているはずだが、やはり肝が座っているな。

   そんなジェイドも、無造作な棒立ちから腰を落とし、まるで俺の使う皇流のように棍棒を水平に構えた。

   両者ともに準備が終わり、静寂が訪れる。ジェイドの仮面の奥にある瞳と、自分の瞳が交差した。



『それでは……始めっ!!!』



   セレアさんの言葉とともに、大きく銅鑼の音が耳に届く。しかし先の二人とは違い、すぐに仕掛けることはなかった。

   ジリジリと回転しながら、互いの隙が生まれるのを待つ。少しでも何か動きを見せれば、その瞬間動き出せるように。

「フッ!」

   最初に動いたのは、俺からだった。一瞬で背後に回り、首筋を狙って手刀を落とす。

   だが、入る寸前に間に差し込まれた棍棒によって防がれてしまった。ジェイドはそのままグリップを回転させ、鞭にして俺の手を巻き取ろうとする。

   そうはさせるかと、すぐさま手を引き抜いて足払いをかける。それを軽やかな動きでジャンプして躱し、鞭を唸らせるジェイド。

   風をきって迫る鞭を地面を這うような姿勢でかわし、長い尻尾をジェイドの腹めがけて横薙ぎに振るった。

   しかしジェイドは不安定な体制から強引に体をひねって掠るだけにとどめ、着地して鞭を棍棒に戻すと振り下ろしてきた。

   右腕の【神樹の子セフィラ】をシールド型に変形して受け、表面を擦らせるようにいなしてバランスを崩させる。

「ハッ!」
「………!」

   そして変形させた左の刀を薙ぐ……が、いつのまにかもう一方の手に持っていた棍棒に防がれる。

   一回り太く、まるでシドの持つ金棒のようなそれはよほど頑強なのか、僅かにしか【神樹の子セフィラ】が食い込まない。

「いろんな棍棒を持ってるな!」
「………」

   俺の言葉に応えることなく、カチリとボタンを押す音が耳に届く。かと思えば棍棒がパカリと開き、その中から規則的に並んだ穴が姿を現した。


ドドドドドドドッ!


   そこからすさまじい速度で、超至近距離で鉛玉が射出される。とっさに両手の【神樹の子セフィラ】を解除して体をそらした。

   一瞬で何十もの鉛玉が、目と鼻の先をかすめていく。こんなのを受けたらたまったものではない。

   鉛玉の射出が終わるのを待って、後ろに飛び退く。隣を見れば、ステージに無数の鉛玉が突き刺さっていた。

『ジェイド選手、龍人選手の猛攻を退けた!そして新たな第3の棍棒!今度は固定砲台のような仕込み武器です!』

   鉛玉を全て射出し終えた棍棒は、煙を上げて元の形に戻る。ジェイドはそれを背中にしまい、代わりに青い棍棒を取り出した。

「一体何本持ってるんだか……」

   というか、あの外套の背中の部分、〝アイテムポーチ〟になってるよな。明らかに普通にしまえる大きさじゃないし。

「……………」

   相変わらず無言で、ジェイドは青の棍棒を横に降る。すると棍棒に切れ込みが入り、隙間から棘が飛び出して回転し始めた。

   棍棒自体も棘とは逆回転を始め、とんでもない凶器と化す。殺意の塊みたいな棍棒に、俺は頬を引きつらせた。

「うん?」

   さて、どうするかと思ったところで、頬を何かに叩かれる。

   見れば、ネックレスになっていた龍の鉄血シラヌイがふわふわと浮いていた。そういえばずっとこのままだったな。

「自分を使えってことか?」

   肯定するようにコクコクと頷く龍の鉄血シラヌイ。なんだか、尻尾を振る犬を幻視した。

「わかった。一緒にジェイドを倒そうか」

   その言葉に龍の鉄血シラヌイは震え、俺の首元から飛び出すと変形していき、剣の形へと戻った。

   それをキャッチしてグリップを握り、鞘から引き抜く。すると、鮮烈に輝く真紅の刃が姿を現した。

『龍人選手、どこからか真紅の剣を取り出した!怪しい輝きを放つその剣の切れ味はどれほどのものでしょうか!?』

   恐ろしいほどに美しい刀身に見惚れながら、完全に引き抜く。その瞬間、鞘が溶けるようにスライム状になった。

   鞘だったものは前腕を包み込んでいき、固形に戻っていく。ほどなくして、龍の頭を模したような手甲になった。

「……お前も大概なんでもありだな」

   龍の鉄血シラヌイに苦笑しながらも、半身を引き、腰を落として構える。さあ、龍の鉄血シラヌイの初陣だ。


ビュゴッ!


   ジェイドの姿が搔き消え、目の前に現れる。その腕に握られた、超高速で回転する青い棍棒が迫ってきた。

「シッ!」

  そして、俺はそれを龍の鉄血シラヌイ斬った・・・。五つに分割し、地面に落ちる棍棒。

『な、なんと龍人選手、ジェイド選手の棍棒を斬ってしまったー!あの剣、生半可な切れ味ではありません!それを使いこなす龍人選手の技量の高さも伺えます!』

「っ!?」
「ハァッ!」

   流石に驚いて一瞬動きを止めたジェイドに、袈裟斬りをお見舞いする。ハッとして防御態勢に入るが、防ぐ棍棒ごと叩き斬った。

   そのまま斬れるかと思ったが、残っていた青い棍棒のグリップで剣の腹を叩かれて軌道がずれた。

   仮面の表面を削るだけに終わった龍の鉄血シラヌイから逃れ、グリップを投げ捨てたジェイドは膝蹴りを放ってきた。

「なんの!」

   即座に顔を【神樹の子セフィラ】で覆ってガードし、逆にその足を掴んで思い切り投げ飛ばす。
   
   どうなったかと【神樹の子セフィラ】を解いて見ると、ジェイドは二メートル強の新たな棍棒をステージに突き刺していた。あれで止まったんだろう。

「流石にそう簡単にやられてはくれないか……いけるか、龍の鉄血シラヌイ?」

   当然、とでもいうように震える龍の鉄血シラヌイ。それに頼もしさを覚えながら、切っ先をジェイドに向ける。

「……………」

   無言で立ち上がったジェイドもステージから棍棒を引き抜き、真ん中の部分をひねる。すると棍棒にスパークが走った。

   棍棒を脇に挟んだジェイドは半身を引き、こちらに手招きしてくる。かかってこい、という意味か。

「鞭、固定砲台、回転ときて、次は電気棒か……レパートリーが豊富だなっ!」
「………っ!」

   言いながら縮地で距離を詰め、龍の鉄血シラヌイを振るう。ジェイドがこれまでに比べて長大な棍棒で受け止めた。

   先ほど同様そのまま斬ろうとしたが、特別製なのか斬ることができなかった。ならば、手数で攻めるまで。

「ハァアアアアッ!」
「っ!」

   唐竹、袈裟斬り、逆袈裟斬り、横薙ぎ、ありとあらゆる角度から龍の鉄血シラヌイを叩き込む。

   しかしジェイドは、ことごとくを棍棒で受け止めていた。その動きはいっそ流麗で、思わず一瞬見惚れてしまう。

「ッ!」
「っと!」

   不意に、斬撃と斬撃の間を狙うように棍棒で突いてくる。コートの袖をかすめ、装飾が火花を散らした。

   だが、好都合だ。尻尾を棍棒に巻きつかせると、絡め取って奪い取った。体勢が崩れるジェイド。

『龍人選手、ジェイド選手の棍棒を奪い取った!無防備になるジェイド選手、一体どうなる!?』

「……くっ」
「ハァッ!」

   驚異的な速度で身を引くジェイドに、俺は手が届かなくなる前に龍の鉄血シラヌイを縦に一閃した。

   
……ピシッ


   一拍遅れて、ジェイドのホッケーマスクの中心に線が入り、パッカリと割れた。その瞬間、ジェイドは手で顔を隠して飛び退る。

『決まったーー!龍人選手の一撃がクリーンヒット!ジェイド選手の仮面が破壊されました!』

   手で顔を隠したジェイドは、ステージの真ん中で硬直していた。指の隙間から、こちらを見る瞳が覗いている。

「顔を隠したまま戦いますか?」
「……………」

   俺の言葉にぴくりと反応したジェイドは、一瞬逡巡したようなそぶりを見せた後、ゆっくりと手を離す。

そして、その中から出てきたのは……

「………え?」
「……久しぶりだね、リュート」

   かつて、 西部の『小人の森』統率者であったハイオークの、オグさんだった。あまりの驚きに、一瞬頭が真っ白になる。
   
   ジェイドの正体が、オグさん。その事実はあまりにも衝撃的すぎた。なぜなら、オグさんは行方不明だったからだ。

   復活した後、一番最初に西部で知り合ったこともあって、挨拶をしに行こうと思ってたが、戦争終結直後から姿を消していたのだ。

   彼女の居場所を聞いたとき、エクセイザーは親友であるがゆえに、オグさんが行方知れずなことを悲しんでいた。

それが、なんで……

「なんで、あなたがここに……」
「それは……君を倒すためだよっ!」
「っ!」

   次の瞬間、オグさんが目の前に現れた。そしてまた新たなチェーンソーのような棍棒を手に持ち、振り下ろして来る。

「ハッ!」
「ぐっ!」

   動揺しながらも、俺は龍の鉄血シラヌイでそれを止めた。だがパワーはあちらの方が上なのか、押し込まれる。

   仕方がなく、【転移】スキルで離れたところに離脱した。そこで地面に膝をつき、荒い息を吐く。

「はぁ、はぁ……!」

   さっき、動きが全く見えなかった、今の【解放】しているステータスでは追えないほどの速度で動いたのか!?

   ドグマも相当だったが、あれとは次元が違う。文字通り、生物としての格を超越しているような・・・・・・・・・・・・・・・・・……

「ーー行くよ」
「くっ!?」

   そこまで考えたところで、またしても刹那の瞬間にオグさんが接近して来る。本能的に身を引くと、鼻の先をチェーンソーがかすめる。

   それだけで終わらず、二回、三回とチェーンソーが襲い来る。尻尾でなんとか体勢を保ちながら、体を仰け反らせてそれを避けた。

「フッ……!」
「ゴフッ……!」

   そればかりに注目していると、鳩尾に足がめり込む。鋭い痛みとともに、ステージの上を転がっていった。

   場外になる寸前で、右手から【神樹の子セフィラ】を出し、ステージに突き刺して急停止する。

「ゴホッ、ゴホッ……!」

『りゅ、龍人選手が吐血した!?これまでどんな攻撃を受けても、一度も傷つくことのなかった龍人選手が、膝をつきました!』

   咳とともに血を吐きながら、ジンジンと痛む腹を抑える。俺としたことが、まさか戦っている時に動揺するなんて……!

「でも、それよりも……」

   今の攻撃で、痛みを感じ、血を吐いた。それすなわち、神や亜神を守る【Eの理】を突破したということ。

   それは、オグさんがヴェル同様に、この10年の間に亜神になっていることを意味する。でなければ、攻撃が通る説明がつかない。

   まずいな、本格的に油断できない。ステータスを制限して、舐めプみたいなことをしている余裕はないぞ。

「考え事をしてる暇があるなんて、余裕だね!」
「まさかっ!」


ギャリィンッ!


   ステータス解放を10%まで引き上げて、迫ってきたオグさんの棍棒を受け止める。それでも、ようやく五分だった。

   そのまま、超至近距離での戦闘が始まる。オグさんの膂力に物を言わせた猛攻を、俺は全力で凌ぐ。

「なんで、俺を倒すなんて……!」

   棍棒と龍の鉄血シラヌイを打ち合わせながら、オグさんの顔を見て問いかける。俺を倒すことに、なんの意味があるのだろうか。

「それは、君がこの国の守護者になろうとしているからだっ!」
「ぐぅっ!」

   すると、怒りの声とともに棍棒が振り下ろされた。刀身に手を添え、歯を食いしばって受け止める。

「それが、どうしたんですか!」
「君を守護者にはさせない、君にこの国は背負わせない!」
「なんでそんなことを!」
「決まっているだろう!もう君が傷つくのを見たくないからだ!」


ドンッ!


「ガハッ!」

   また腹に、今度は掌底が打ち込まれる。それは内臓にまで浸透し、俺はまた血を吐いた。

   それでも両足に力を込め、必死に受け止める。そして鋭い眼光で、怒るオグさんの顔を見上げた。

「傷つくって、どういうことですか…!?」
「……忘れたとは言わせないよ。君は10年前、エクセイザーとともに、北部へと向かった。そしてそこで、あの黒鬼神の手先と戦って命を落とした」

   確かにその通りだ。俺は、シドと全力で戦って、命を引き換えにして倒した。

「でもそれは、西部のために!」
「だからこそだ!君は下手をすれば、私たちのために自分の命を投げ出す!」
「それくらいの覚悟はできてます!今度こそ最後まで、守り切ってみせる!」
「違う!そんな大層なことじゃない!」

   棍棒を押し込む力が強まる。龍の鉄血シラヌイを支える腕が震え、少しずつ膝が折れていく。

「それじゃあ、なんだっていうんですか!」
「私は、私が君を傷つくのを見たくないだけなんだ!」
「……え?」

   その言葉に、俺は間抜けな声をあげた。どういう、ことだ?

「どういう、ことですか?」
「……リュート、私はね。西部の【神子】なんだよ」
「なっ!?」

   その言葉に、鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚えた。

   【神子】、それは旧遥か高き果ての森の〝エナジーコア〟を管理する大精霊の分身を宿す四体の魔物のことだ。

   そして俺が息を吹き返したのは、その大精霊の加護があったからこそ。それは、東部の【神子】であるニィシャさんを通して与えられた。

   そんな【神子】の一人が、オグさん。もしかしたら身近にいるかも、なんて考えたことはあったが、まさか……

「でも、なんで今それを……」
「リュートを生き返らせた【大精霊の加護】。あれを与えるには、【神子】の持つ分身の力が過半数必要なの。ここまで言えばわかる?」

   つまり、ニィシャさんと、オグさんがいたからこそ、【大精霊の加護】が与えられたってことか?

「壊れかけた魂に【加護】を植え付けたその時、私たちは、あなたの記憶を見た……そこで私は知ってしまった、あなたが誰かを守るのに執着する理由を」
「っ!」

……〝あの時〟の記憶を、見たのか。

 彼女は、それまでの俺を跡形もなく破壊し、陰陽師という人を守る存在になることに逃げた・・・理由を、知ったのか。

「その時、私は決めた。君をもう二度と、大衆のために戦わせない。私が君を守るのだと」
「……でも、俺は」
「それなのに君は、また誰かこの国のために戦おうとしてる。それなら私が、ここで君を倒すっ!」

 その言葉とともに、腹に鋭い拳が突き刺さる。内臓が破裂する感覚とともに、喉の奥から血塊がせり上がってきた。

「ふっ!」
「ぐぅっ……!」

 それを吐く暇もなく、肘が肩の骨にめり込む。ボキリという嫌な音とともに、片腕の感覚がなくなった。

「シッ!はぁっ!」
「がっ、ぐふっ!?」

 容赦無く、全身に攻撃を浴びせられる。一撃受けるごとに、攻撃を受けた部分が破壊されていくのがわかった。

 嵐のような攻撃を、俺は無防備に受けることしかできない。〝あの時〟の記憶がフラッシュバックして、体が動かない。

 そうしているうちに、全身がボロボロになっていた。全身から痛み、至る所から血が滴り落ちている。

「く、ぁ……」

 たまらず、俺はステージに片膝をついた。意識が朦朧として、うまく思考がまとまらない。

 それでも必死に倒れまいとしていると、影がかかる。見上げれば、血で赤く染まった視界の中でオグさんが俺を見下ろしてた。

「……これで終わりだよ。君は静かに、あの屋敷の中で暮らしていればいい」

 その言葉とともに、高く振り上げた拳が振り下ろされる。

   まるで処刑人の斧のようなそれは、俺の意識を刈り取る……



ーーたとえセンパイが■■■だとしても、大丈夫ですね。逆に、その力で私を守ってください、ね?



「……それは、お断りします」

……ことは、なかった。

   俺は、オグさんの拳を掴み、しっかりと受け止めていた。そして強い意志を瞳に込め、オグさんを睨み上げる。

「なっ……!?」
「たとえ、俺にその資格がないとしても、許されないことだとしても……それでも俺は、この国の守護者になるっ!」

 叫びながら、オグさんの拳を押し返す。両足でしっかりとステージを踏みしめ、力を振り絞って立ち上がった。

「はぁぁあああっ!」
 
 裂帛の叫び声とともに、驚いて固まっているオグさんにストレートを繰り出す。ハッと我に返ったオグさんは、腕をクロスして防いだ。

 構わず、拳を打ち出す。すると骨が砕ける感触が拳から伝わってきた。どうやら効いたようだ。

「ぐぅっ!?」

 一歩、オグさんは苦悶の声をあげながら後退する。その期を逃さず、俺は両腕を全力でふるった。

 先ほどとは逆に、ひたすら攻撃をする俺に、オグさんが防戦一方になる。攻撃を続けるほどに、より強く、より鋭くなってく。

そして……

「はぁっ!」
「かはっ!?」

 ついに、拳がみぞおちにめり込む。オグさんは吐血し、腹を抑えながらよろよろと後退していった。

「ぐ、ぅぁ……」

 そのまま、オグさんはステージの上に大の字に倒れた。わずかに身じろぎするものの、立ち上がることはない。

「はぁ、はぁ、ゴホッ、ゲホッ……」

 かくいう俺も、張り詰めていた体から力が抜け、膝をついてしまった。この程度で、情けないにもほどがある。

 荒い息を吐いている間に、【神樹の子セフィラ】の副次的効果で傷が回復していく。数分もすると、完全に治癒した。

「……リュート」
「はぁ……あれ、オグさん?」

 息を整えて見上げると、そこには無傷のオグさんがいた。まさか、彼女もスキルか何かで回復したのか?

「試合なら終わったよ。君の勝ちだ」
「…あ、そういうこと」

 どうやら色々ありすぎて頭がこんがらがっている間に、試合終了していたようだ。結界の効果で元に戻ったのだろう。

 そう内心自己完結しながら、立ち上がる。そして、沈鬱な表情をしているオグさんを見た。

「……どんなに」
「はい?」
「どんなに辛くても、この国を守るの?」

 真剣な声音で問いかけてくるオグさん。その瞳には、まるで俺の決意をためすような光が宿っている。

「……はい。どんなことがあっても、俺はこの願いを諦めません」
「どんなに辛くても、くじけそうになっても、誰かに否定されたとしても?」
「どんなことがあっても、です」
「……決意は固い、か。私が何をいっても、打ちのめしても意味はなさそうだね」
「まあ、一度死んでますから。バカは死んでも治らないっていうでしょう?」
「まさにその言葉通りだね……はぁ~。この大会に参加した意味~、なくなっちゃったな~。まあ、その決意が知れただけでもいいかな~。それじゃああと二試合、頑張ってね~」

 そう、俺の知っている昔の彼女のようなのんびりとした口調で言うと、オグさんはステージを去っていった。

 その背中をしばらく見つめた後、俺もステージを後にする。

「センパイッ!」

 通路に入った瞬間、シリルラが抱きついてくる。顔を胸に押し付けて肩を震わせる彼女の頭を、俺はそっと撫でた。

「………」

 シリルラの頭を撫でながら、俺はオグさんのことを思い出す。

 いつか、誰かが立ちはだかるとは思っていた。それがまさか、オグさんだとは思わなかっtが。

 けど、俺はこの願いを絶対に叶える。たとえ誰に否定されようとも、絶対に。

何故なら、それは俺の……

「……あと二試合、頑張らなくちゃな」

俺は再び、決意を固めるのだった。

ーーー

読んでいただき、ありがとうございます。
感想をお願いします。
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...