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第2章 王への道
二十九話 VSシド
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色々あってひどくやる気をなくしていた作者です。
今回で大武闘大会は終わりですが、あまりにも毎回お気に入りが減るばかりなので二章以降を書くかどうか迷っています。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーー
『さあ皆さん、長らく続いた大武闘大会もいよいよ大詰めを迎えました!数々の戦いを見て、とても心踊ったことでしょう!』
セレアさんの言葉に、大きな声を上げる観客たち。そこからは本当に楽しんでいたことがうかがえた。
中には、すでにステージの上に立っている俺に名前を呼んだり手を振ってくれる観客の人もおり、それに軽くお辞儀をする。
『そして、大武闘大会最後の大トリを締めるのはこのカード!一度膝をついたものの、これまで不敗!まさに神の名にふさわしい力を見せつけた皇龍人選手に立ち向かうのは、色々な意味で驚かせてくれた鬼メイド……シド!』
俺の他に、ステージの上に立つもう一人の人物……メイド服を身にまとった鬼人の女の名前が声高に宣言される。
すると、またしても声援があがった。しかし先ほどと違い、耳を澄ましてみれば「金棒でぶっ叩いてください」だの「罵ってくれー!」だの聞こえてくる。
……大怪我を負って恍惚とした顔する真性のドMにそんなことしてほしい人間とか、どれだけ変態なのだろうか。俺にはわからない。
「ふふ、ついにここまできましたよご主人様」
「……一応聞くけど、なんで参加したんだ?」
少々げんなりしながら聞くと、シドはいつもと違い、とても真面目な表情をした。
「そんなの、決まっています」
そういうシドに、自然と体がこわばる。こいつが現れてから一度として、ここまで真剣な表情を見たことがない。
いや、正確には真面目な顔は何度も見たことはあるが、それはほぼ全てドMな発言の前触れだったわけで。
もしや本当に、何かちゃんとした理由があるのだろうか。考えれば、こいつは元を正せば俺に倒され今の姿になったのだ。報復を考えている可能性もある。
甚振ってもらえるだのなんだの言ってたが、それ以外にこいつにとって俺と戦うことに、何かしらの大切な意味があるのかもしれない。
そう思い、俺も顔を引き締めて彼女の言葉に耳を傾けて……
「そんなの……ご主人様に心ゆくまで殴ってもらえるからに決まってるじゃないですか!」
「うん、そんなこったろうと思ったよ」
ハァハァと息を荒げから叫ぶシドに、俺は冷めた声で呟いた。うん、今のこいつがそんなご大層な理由持ってるわけないわ。
観客席の一部から聞こえてくるヒソヒソとした声をシャットアウトし、ステータスを10%【解放】して龍の鉄血を抜いた。
すると、ひとりでに皮膚の下から【神樹の子】のツタが姿を現し、龍の鉄血》を覆っていった。
そしていつしか、シドを起き抜けにぶん殴ったトゲ付きの棍棒に姿を変える。明らかに殺す気なその形状に、龍の鉄血の心情を察した。
盾手甲の方も棘のついたものに形状が変わったことに苦笑しながら、腰を落として構える。
「ふふ、そんなぶっとくて逞しいものでやっていただけるとは……恐悦至極!」
なんか卑猥な言い方をしたシドも、本戦の時とは裏腹に金棒を担いで腰を落とした。そして、互いの視線を交差させる。
『それでは…始めっ!』
「オォォオオオオオッ!」
銅鑼の音が響いたのと同時にシドの姿が消え、眼前に現れたかと思うと雄叫びをあげて両手で握った金棒を振り下ろしてきた。
唸りを上げて落ちてくる金棒を、俺も両手で柄を握った棍棒で受け止める。その瞬間、衝突面からこれまでで一番の衝撃波が生じた。
俺を中心にクレーターが出来上がり、エクセイザーの結界が激しく軋みをあげる。たった一撃でこの力、相変わらず常識はずれの強さだ。
「さすがご主人様、この程度では受け止められてしまいますか……!」
「結構ギリギリだ、よっ!」
言い返しながら、棍棒をかち上げて前蹴りを叩き込む。シドは避けることなく、ていうかむしろ自分からくらいにきて吹っ飛んだ。
「ああ、この突き刺さるような痛み!もっとしてくださいお願いします!」
「お断りだ!」
指先から【神樹の子】のツタを射出し、シドの全身を搦めとる。そのまま腕を横に振り、場外に投げとばそうとした。
しかし、なされるがままだと思ったシドは予想に反して四肢を伸ばし、ツタを弾き飛ばす。そしてステージの上に着地する。
「申し訳ありませんが、場外は遠慮させていただきます。私の望みはご主人様に思う存分ボコボコにされることなので」
「……そうかよ。ならこっちも容赦しないからな」
「望むところです!さあ蹴るなり殴るなり斬るなり、なんなりと!」
さあ!と両手を広げるシドに、俺は自分の顔がひきつるのがわかった。こいつを喋らせれば喋らせるほど、俺の風評はひどくなる一方だろう。
仕方がなく、左手に霊力を集中させてステージに叩きつけた。すると石の鎖が飛び出してシドを拘束する。
それを確認すると接近、無防備に両手を広げて待っているシドを棍棒でぶん殴った。かっ飛ぶシドの頭。
立て続けに返す刀でもう一度殴り、その力を利用して一回転しさらにもう一回攻撃を与え、鎖ごとシドの体を破壊する。
「これでどうだ?」
「………ふふ、良い攻撃です。しかし、未だ我が身は満足しておりません!」
血まみれの顔で、これ以上ないってくらいの期待を込めた笑顔を向けてくるシド。きっと俺の顔は苦虫を百匹くらい噛み潰したような顔をしているだろう。
こいつはさっき、思う存分ボコボコにされることが望みと言っていた。なら勝ち負けではなく満足するだけの痛みを与えてやれば、適当に降参か何かすると推測できる。
はぁ……と深い溜息を吐きながら、棍棒の他に蹴りやパンチで攻撃を開始した。幸い全く動かないので、他のことに思考を割かない分無駄に鋭さが増していく。
「ぐふっ、がはっ……ふひひひひ、気持ち良いです」
「……………」
サドでもないのに何でこんなことやってんだ俺と思いながら、無我の境地で気持ち悪い笑みを浮かべるシドをぶん殴った。
『りゅ、龍人選手が一方的にシド選手を殴っているーー!?しかし本人はとても嬉しそうです!きっと特殊な趣味を持っている方々なのでしょう、保護者の方は速やかにお子様の目と耳をお塞ぎください!』
「おい、俺をこいつと同類に入れないでくれ!」
抑揚がありつつもどこか淡々とした口調という器用な声で実況するセレアさんに、思わずそちらを振り返って叫んでしまった。
断じていうが、俺はこいつと同じ変態でもなければドSでもない。今この場にいる変態は紛れもなく、シドだけのはずだ。
「ご主人様、手が止まっていますよ!さあ、早く続きを!」
「……なんでご主人様って呼びながらお前がそんな命令してんのか心の底からわからんが、俺も早く終わらせたいのは同じだ」
そう言うと、それまで何も付与効果を付けていなかった攻撃に霊力や【神樹の子】を纏ってより高威力にして攻撃した。
しかし、しばらくそうしているとある違和感に気がついた。シドがいつまでたっても、どんな攻撃を受けても倒れないのだ。
それはシドが真性の変態だからとか亜神クラスの力の持ち主だからとかそういう問題ではなく、明らかに死ぬレベルの攻撃でも膝もつかない。
実際全身の骨を粉砕するような技も仕掛けているのだが、全く倒れる気配がない。というより、再生速度が上がっている……?
「……いや、違う」
「ふふ、お気づきになられましたかご主人様」
俺がある仮説を想像してそうこぼした瞬間、それまで笑ってるか気持ち良いと言っているだけだったシドが喋った。
冷めた目を向けると、彼女はしてやったりといった顔をしている。その顔にもしや、と自分の仮説に確信を強めた。
「お前、俺に攻撃されるたびに強くなってるな?」
「ご名答、さすがはご主人様です。では特別にお教え致しましょう、我が力の真実を」
ヒュン、と目の前に半透明の板のようなものが出現する。それはステータスを見る時に出てくるものに似ていた。
これは覚醒してから学んだことだが、この世界では本人が許可した相手にはステータスやスキルを開示することができるのだ。
自分の力を他者に晒す、それは非常に危険な行為であり、よほど信頼している相手にしか能力を開示することはない。それを今、シドは俺にやっていた。
嫌な予感を覚えながら、シドの開示したスキルを見る。するとそこには……
……【被虐の徒】
称号スキル。
所有者の決めた特定の相手からダメージを受けた場合、その数値に比例してステータスに一定の加算を実行する。
このスキルを所持するものはごく稀であり、主に所有者は被虐趣味者が該当している。
……………なんだこの壊れスキルは。
「つまり、お前は……」
「そう、ご主人様が私に攻撃をするたびに私は強くなる。それはつまり……ご主人様が限界になるまで永遠に甚振ってもらえるというわけです!これこそ我がご主人様への愛の結晶!素晴らしきかなこの痛み!」
もうやだこのヘンタイ、誰かなんとかしれくれない?
どうです、凄いでしょと言わんばかりに胸を張るシドに、俺は激しい頭痛を覚えた。思わずこめかみを指でグリグリとする。
これまで色んなことを経験してきたが、これほど面倒なことがあっただろうか。いや、おそらくない。ていうかこれ以上なんてあってたまるか。
このまま続ければ、本当にこいつのいう通り俺は最後には100%ステータスも能力も開放するハメになる。それは今後出てくるであろう敵を考えると、非常によろしくない。
それ以前に、ほんの少し霊力を本気で発しただけで天変地異が起こるのだ。100%の力など出す前に、確実にこの大陸が海の藻屑になる。
《戦いの最中に失礼しますね、龍人様。シド様のことについて一つ、ご提案がありますね》
さて、どうしたものか……と考えたところで、観戦しているシリルラからテレパシーが送られてきた。そして送られてきたのは、シドに勝つ方法。
《……というのはどうでしょう》
「………マジか」
そしてその方法は、かなりリスキーなものだった。色々と問題がある上に、下手したらシドの発言を放置する以上の風評被害になる恐れがある。
それ以前に、シドに効くかどうか自体怪しい。しかし、その方法以外に何もないのもまた事実であった。
「……はぁ。やるしかないか」
「? どうしたのですご主人様、早く次の攻撃を……」
「あー、シド。俺はこれからお前に、最後の攻撃をする。覚悟しろ」
俺の言葉にシドは首を傾げたものの、「最後ということはすごい攻撃が来るんですね、お願いします!」とか言って構えた。
快く快諾したことに安堵しながらも、ここで拒否してくれれば他の手を考えられたのにと残念にも思う。しかし、了承してしまったものは仕方がない。
なので、いい加減覚悟を決めて深く深呼吸をし……そして、シドを抱きしめた。ピシッと固まるシドの体。
『な、龍人選手がシド選手を抱きしめた!?一体どういった攻撃をするつもりなのでしょう?』
「ご、ごごごごご主人様!?」
動揺した声を上げわたわたと慌てるシド。よし、シリルラの予想通りの反応だ。さらに抱きしめる力を強める。
するとビクンッ!と震えた後、脱力して膝をついた。手から金棒が落ち、重苦しい音を響かせる。これ幸いと、俺は真っ赤な顔のシドの耳元に顔を近づけた。
「あ、あの、ご主人様、何を……」
「シド。俺を愛しているというのなら、ここで降参してくれ。そしたら……もっと凄いことをしてやる。人目を気にせず、本気でだ」
「な、なんですとっ!」
「それも一週間ずっとだ。どうだ?」
「ぬ、ぬぬぬぬ……」
俺の提案に唸るシド。最後のダメ押しと言わんばかりにより一層強く抱きしめ、「頼む」と囁いた。「はうっ」と声を上げるシド。
俺がシリルラに提案された作戦はいたってシンプル、シドが望む以上のものを与えると約束し、この場は妥協させること。
この行動は、普段と反対の扱いをして動揺を誘うためのものだ。我ながらキモすぎて顔から火が出そうである。
だが必要なことだと羞恥心を抑えていると、シドがポツリと何事か呟いた。耳をすませてもう一度聞く。
「………一ヶ月で、妥協しましょう」
「……わかった。ありがとう、シド」
感謝を述べてさっさと離れる。シドも立ち上がり、司会席のセレアさんの方を向いた。
「審判、私は降参するぞ!」
『えっ、あ、はい。試合終了!シド選手、降参宣言により敗北!よってこの勝負、龍人選手の勝利です!』
銅鑼の音が響き、結界が発動してステージが元に戻る。
息を吐きながら元に戻った龍の鉄血を鞘に収めていると、シドが近づいてきた。そしてにこりと笑う。
「ご主人様、一ヶ月よろしくお願いします」
「………おう」
やや遅れて返事を返すと、シドは満足そうに頷いて踵を返した。そしてるんるんと擬音が聞こえてきそうな足取りでステージを後にする。
それをなんとも言えない気持ちで見届けながら、俺は深い溜息を吐いた。結局、問題を先延ばしにしただけである。
『ラストファイブVS龍神第5戦は、龍人選手の勝利に終わりました!宣言通り、五人の猛者に打ち勝ち、その力を示した龍人選手!皆様、どうか熱い拍手を!』
拍手をしてくれる観客席に、精神的な疲労を感じながらも手を振り返す。最後の最後に一番疲れさせてくれるとは、シドのやつ相変わらずだ。
『ではこれにて大武闘大会を終了いたします!20分後に本戦進出者とラストファイブの方に賞金と景品の受け渡しの後、閉会式を行います』
セレアさんが今後の予定を解説していくなか、俺は今一度五人の強者たちに勝利し、力を示すという目的を達成できたことに喜びを覚える。
そうして、長かった大武闘大会は終わりを迎えたのだった。
ーーー
次回は閉会式です。
感想をお願いします。
今回で大武闘大会は終わりですが、あまりにも毎回お気に入りが減るばかりなので二章以降を書くかどうか迷っています。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーー
『さあ皆さん、長らく続いた大武闘大会もいよいよ大詰めを迎えました!数々の戦いを見て、とても心踊ったことでしょう!』
セレアさんの言葉に、大きな声を上げる観客たち。そこからは本当に楽しんでいたことがうかがえた。
中には、すでにステージの上に立っている俺に名前を呼んだり手を振ってくれる観客の人もおり、それに軽くお辞儀をする。
『そして、大武闘大会最後の大トリを締めるのはこのカード!一度膝をついたものの、これまで不敗!まさに神の名にふさわしい力を見せつけた皇龍人選手に立ち向かうのは、色々な意味で驚かせてくれた鬼メイド……シド!』
俺の他に、ステージの上に立つもう一人の人物……メイド服を身にまとった鬼人の女の名前が声高に宣言される。
すると、またしても声援があがった。しかし先ほどと違い、耳を澄ましてみれば「金棒でぶっ叩いてください」だの「罵ってくれー!」だの聞こえてくる。
……大怪我を負って恍惚とした顔する真性のドMにそんなことしてほしい人間とか、どれだけ変態なのだろうか。俺にはわからない。
「ふふ、ついにここまできましたよご主人様」
「……一応聞くけど、なんで参加したんだ?」
少々げんなりしながら聞くと、シドはいつもと違い、とても真面目な表情をした。
「そんなの、決まっています」
そういうシドに、自然と体がこわばる。こいつが現れてから一度として、ここまで真剣な表情を見たことがない。
いや、正確には真面目な顔は何度も見たことはあるが、それはほぼ全てドMな発言の前触れだったわけで。
もしや本当に、何かちゃんとした理由があるのだろうか。考えれば、こいつは元を正せば俺に倒され今の姿になったのだ。報復を考えている可能性もある。
甚振ってもらえるだのなんだの言ってたが、それ以外にこいつにとって俺と戦うことに、何かしらの大切な意味があるのかもしれない。
そう思い、俺も顔を引き締めて彼女の言葉に耳を傾けて……
「そんなの……ご主人様に心ゆくまで殴ってもらえるからに決まってるじゃないですか!」
「うん、そんなこったろうと思ったよ」
ハァハァと息を荒げから叫ぶシドに、俺は冷めた声で呟いた。うん、今のこいつがそんなご大層な理由持ってるわけないわ。
観客席の一部から聞こえてくるヒソヒソとした声をシャットアウトし、ステータスを10%【解放】して龍の鉄血を抜いた。
すると、ひとりでに皮膚の下から【神樹の子】のツタが姿を現し、龍の鉄血》を覆っていった。
そしていつしか、シドを起き抜けにぶん殴ったトゲ付きの棍棒に姿を変える。明らかに殺す気なその形状に、龍の鉄血の心情を察した。
盾手甲の方も棘のついたものに形状が変わったことに苦笑しながら、腰を落として構える。
「ふふ、そんなぶっとくて逞しいものでやっていただけるとは……恐悦至極!」
なんか卑猥な言い方をしたシドも、本戦の時とは裏腹に金棒を担いで腰を落とした。そして、互いの視線を交差させる。
『それでは…始めっ!』
「オォォオオオオオッ!」
銅鑼の音が響いたのと同時にシドの姿が消え、眼前に現れたかと思うと雄叫びをあげて両手で握った金棒を振り下ろしてきた。
唸りを上げて落ちてくる金棒を、俺も両手で柄を握った棍棒で受け止める。その瞬間、衝突面からこれまでで一番の衝撃波が生じた。
俺を中心にクレーターが出来上がり、エクセイザーの結界が激しく軋みをあげる。たった一撃でこの力、相変わらず常識はずれの強さだ。
「さすがご主人様、この程度では受け止められてしまいますか……!」
「結構ギリギリだ、よっ!」
言い返しながら、棍棒をかち上げて前蹴りを叩き込む。シドは避けることなく、ていうかむしろ自分からくらいにきて吹っ飛んだ。
「ああ、この突き刺さるような痛み!もっとしてくださいお願いします!」
「お断りだ!」
指先から【神樹の子】のツタを射出し、シドの全身を搦めとる。そのまま腕を横に振り、場外に投げとばそうとした。
しかし、なされるがままだと思ったシドは予想に反して四肢を伸ばし、ツタを弾き飛ばす。そしてステージの上に着地する。
「申し訳ありませんが、場外は遠慮させていただきます。私の望みはご主人様に思う存分ボコボコにされることなので」
「……そうかよ。ならこっちも容赦しないからな」
「望むところです!さあ蹴るなり殴るなり斬るなり、なんなりと!」
さあ!と両手を広げるシドに、俺は自分の顔がひきつるのがわかった。こいつを喋らせれば喋らせるほど、俺の風評はひどくなる一方だろう。
仕方がなく、左手に霊力を集中させてステージに叩きつけた。すると石の鎖が飛び出してシドを拘束する。
それを確認すると接近、無防備に両手を広げて待っているシドを棍棒でぶん殴った。かっ飛ぶシドの頭。
立て続けに返す刀でもう一度殴り、その力を利用して一回転しさらにもう一回攻撃を与え、鎖ごとシドの体を破壊する。
「これでどうだ?」
「………ふふ、良い攻撃です。しかし、未だ我が身は満足しておりません!」
血まみれの顔で、これ以上ないってくらいの期待を込めた笑顔を向けてくるシド。きっと俺の顔は苦虫を百匹くらい噛み潰したような顔をしているだろう。
こいつはさっき、思う存分ボコボコにされることが望みと言っていた。なら勝ち負けではなく満足するだけの痛みを与えてやれば、適当に降参か何かすると推測できる。
はぁ……と深い溜息を吐きながら、棍棒の他に蹴りやパンチで攻撃を開始した。幸い全く動かないので、他のことに思考を割かない分無駄に鋭さが増していく。
「ぐふっ、がはっ……ふひひひひ、気持ち良いです」
「……………」
サドでもないのに何でこんなことやってんだ俺と思いながら、無我の境地で気持ち悪い笑みを浮かべるシドをぶん殴った。
『りゅ、龍人選手が一方的にシド選手を殴っているーー!?しかし本人はとても嬉しそうです!きっと特殊な趣味を持っている方々なのでしょう、保護者の方は速やかにお子様の目と耳をお塞ぎください!』
「おい、俺をこいつと同類に入れないでくれ!」
抑揚がありつつもどこか淡々とした口調という器用な声で実況するセレアさんに、思わずそちらを振り返って叫んでしまった。
断じていうが、俺はこいつと同じ変態でもなければドSでもない。今この場にいる変態は紛れもなく、シドだけのはずだ。
「ご主人様、手が止まっていますよ!さあ、早く続きを!」
「……なんでご主人様って呼びながらお前がそんな命令してんのか心の底からわからんが、俺も早く終わらせたいのは同じだ」
そう言うと、それまで何も付与効果を付けていなかった攻撃に霊力や【神樹の子】を纏ってより高威力にして攻撃した。
しかし、しばらくそうしているとある違和感に気がついた。シドがいつまでたっても、どんな攻撃を受けても倒れないのだ。
それはシドが真性の変態だからとか亜神クラスの力の持ち主だからとかそういう問題ではなく、明らかに死ぬレベルの攻撃でも膝もつかない。
実際全身の骨を粉砕するような技も仕掛けているのだが、全く倒れる気配がない。というより、再生速度が上がっている……?
「……いや、違う」
「ふふ、お気づきになられましたかご主人様」
俺がある仮説を想像してそうこぼした瞬間、それまで笑ってるか気持ち良いと言っているだけだったシドが喋った。
冷めた目を向けると、彼女はしてやったりといった顔をしている。その顔にもしや、と自分の仮説に確信を強めた。
「お前、俺に攻撃されるたびに強くなってるな?」
「ご名答、さすがはご主人様です。では特別にお教え致しましょう、我が力の真実を」
ヒュン、と目の前に半透明の板のようなものが出現する。それはステータスを見る時に出てくるものに似ていた。
これは覚醒してから学んだことだが、この世界では本人が許可した相手にはステータスやスキルを開示することができるのだ。
自分の力を他者に晒す、それは非常に危険な行為であり、よほど信頼している相手にしか能力を開示することはない。それを今、シドは俺にやっていた。
嫌な予感を覚えながら、シドの開示したスキルを見る。するとそこには……
……【被虐の徒】
称号スキル。
所有者の決めた特定の相手からダメージを受けた場合、その数値に比例してステータスに一定の加算を実行する。
このスキルを所持するものはごく稀であり、主に所有者は被虐趣味者が該当している。
……………なんだこの壊れスキルは。
「つまり、お前は……」
「そう、ご主人様が私に攻撃をするたびに私は強くなる。それはつまり……ご主人様が限界になるまで永遠に甚振ってもらえるというわけです!これこそ我がご主人様への愛の結晶!素晴らしきかなこの痛み!」
もうやだこのヘンタイ、誰かなんとかしれくれない?
どうです、凄いでしょと言わんばかりに胸を張るシドに、俺は激しい頭痛を覚えた。思わずこめかみを指でグリグリとする。
これまで色んなことを経験してきたが、これほど面倒なことがあっただろうか。いや、おそらくない。ていうかこれ以上なんてあってたまるか。
このまま続ければ、本当にこいつのいう通り俺は最後には100%ステータスも能力も開放するハメになる。それは今後出てくるであろう敵を考えると、非常によろしくない。
それ以前に、ほんの少し霊力を本気で発しただけで天変地異が起こるのだ。100%の力など出す前に、確実にこの大陸が海の藻屑になる。
《戦いの最中に失礼しますね、龍人様。シド様のことについて一つ、ご提案がありますね》
さて、どうしたものか……と考えたところで、観戦しているシリルラからテレパシーが送られてきた。そして送られてきたのは、シドに勝つ方法。
《……というのはどうでしょう》
「………マジか」
そしてその方法は、かなりリスキーなものだった。色々と問題がある上に、下手したらシドの発言を放置する以上の風評被害になる恐れがある。
それ以前に、シドに効くかどうか自体怪しい。しかし、その方法以外に何もないのもまた事実であった。
「……はぁ。やるしかないか」
「? どうしたのですご主人様、早く次の攻撃を……」
「あー、シド。俺はこれからお前に、最後の攻撃をする。覚悟しろ」
俺の言葉にシドは首を傾げたものの、「最後ということはすごい攻撃が来るんですね、お願いします!」とか言って構えた。
快く快諾したことに安堵しながらも、ここで拒否してくれれば他の手を考えられたのにと残念にも思う。しかし、了承してしまったものは仕方がない。
なので、いい加減覚悟を決めて深く深呼吸をし……そして、シドを抱きしめた。ピシッと固まるシドの体。
『な、龍人選手がシド選手を抱きしめた!?一体どういった攻撃をするつもりなのでしょう?』
「ご、ごごごごご主人様!?」
動揺した声を上げわたわたと慌てるシド。よし、シリルラの予想通りの反応だ。さらに抱きしめる力を強める。
するとビクンッ!と震えた後、脱力して膝をついた。手から金棒が落ち、重苦しい音を響かせる。これ幸いと、俺は真っ赤な顔のシドの耳元に顔を近づけた。
「あ、あの、ご主人様、何を……」
「シド。俺を愛しているというのなら、ここで降参してくれ。そしたら……もっと凄いことをしてやる。人目を気にせず、本気でだ」
「な、なんですとっ!」
「それも一週間ずっとだ。どうだ?」
「ぬ、ぬぬぬぬ……」
俺の提案に唸るシド。最後のダメ押しと言わんばかりにより一層強く抱きしめ、「頼む」と囁いた。「はうっ」と声を上げるシド。
俺がシリルラに提案された作戦はいたってシンプル、シドが望む以上のものを与えると約束し、この場は妥協させること。
この行動は、普段と反対の扱いをして動揺を誘うためのものだ。我ながらキモすぎて顔から火が出そうである。
だが必要なことだと羞恥心を抑えていると、シドがポツリと何事か呟いた。耳をすませてもう一度聞く。
「………一ヶ月で、妥協しましょう」
「……わかった。ありがとう、シド」
感謝を述べてさっさと離れる。シドも立ち上がり、司会席のセレアさんの方を向いた。
「審判、私は降参するぞ!」
『えっ、あ、はい。試合終了!シド選手、降参宣言により敗北!よってこの勝負、龍人選手の勝利です!』
銅鑼の音が響き、結界が発動してステージが元に戻る。
息を吐きながら元に戻った龍の鉄血を鞘に収めていると、シドが近づいてきた。そしてにこりと笑う。
「ご主人様、一ヶ月よろしくお願いします」
「………おう」
やや遅れて返事を返すと、シドは満足そうに頷いて踵を返した。そしてるんるんと擬音が聞こえてきそうな足取りでステージを後にする。
それをなんとも言えない気持ちで見届けながら、俺は深い溜息を吐いた。結局、問題を先延ばしにしただけである。
『ラストファイブVS龍神第5戦は、龍人選手の勝利に終わりました!宣言通り、五人の猛者に打ち勝ち、その力を示した龍人選手!皆様、どうか熱い拍手を!』
拍手をしてくれる観客席に、精神的な疲労を感じながらも手を振り返す。最後の最後に一番疲れさせてくれるとは、シドのやつ相変わらずだ。
『ではこれにて大武闘大会を終了いたします!20分後に本戦進出者とラストファイブの方に賞金と景品の受け渡しの後、閉会式を行います』
セレアさんが今後の予定を解説していくなか、俺は今一度五人の強者たちに勝利し、力を示すという目的を達成できたことに喜びを覚える。
そうして、長かった大武闘大会は終わりを迎えたのだった。
ーーー
次回は閉会式です。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
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