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幕間 友の旅
02.技の試練
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すみません、なかなか書くのに手間どりました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーー
最初に迷宮へと入った時とおなじような白い光が収まった時、シュウと雫は先ほどの草原とはまた違う場所にいた。
「今度は室内か……」
「結構広いわね」
キョロキョロと周囲を見渡す二人。次の試練に関する情報を探しながらも、警戒を解かずに構えを取る。
転移されたのは、広大な部屋だった。西洋の古城を彷彿とさせるような作りをしており、静謐な雰囲気が漂っている。
天井にはまるで宮殿のダンスホールのように豪華なシャンデリアか吊り下げられ、壁一面に誰かもわからない肖像画が並んでいた。
ただひとつ違和感があるとすれば、ドアも窓もひとつもないことだろうか。まるで密室のように出口がない。
そして何より、一際目立つものがある。それは部屋の中央に堂々と鎮座する、三メートルはあるだろう巨大な鏡だ。
「……あれが怪しいな」
「他にそれらしきものはなさそうだわ」
アイコンタクトを取った二人は、恐る恐る鏡に近づく。後五十センチというところまで近づくと、曇り一つない鏡面にその姿が写り込んだ。
そうして改めてまじまじと自分たちの姿を見て、少し気恥ずかしさを覚える。初めて正装したときの感覚に似ているだろうか。
一見どこぞのアニメなどのキャラクターのコスプレに見える二人の格好は、しかし元の素材の良さと服の上質さでそれが当然のようになっていた。
「ふふん、さすが私ね」
「相変わらず自信家だな」
くびれた腰に手を当てて得意げな顔をする雫に苦笑するシュウ。まあそういうところも好きなポイントの一つなのだが。
『ーー挑戦者たちよ。汝らに〝技の試練〟を与える』
そんな二人の脳内に、もう何度か聞いた厳かな声が響いた。即座に緩めた気分を元に戻し、警戒する二人。
そのまま一分、二分と待つが……しかし一向に部屋の中に変化は訪れなかった。先ほどのように魔法陣から魔物が現れることもない。
不思議に思いながらも、感覚を研ぎ澄ませながらシュウはちらりと鏡の方を見て……途端に凍りついた。
『よぉ、俺』
「っ!?」
なぜならそこには、ポーズは同じだがシュウとは思えないような邪悪な笑みを浮かべたシュウが写っていたのだから。
驚愕に目を見開いていると、鏡の中のシュウは突如半身を引き、手に持っていた槍をこちらに突き出してきた。
槍は鏡面を突破し、シュウを貫かんと迫ってくる。咄嗟に槍の柄で受け止め、滑らせるようにいなすと飛び退く。
その光景を見た雫もまた鏡を見て、そこに映る妖艶な、しかし背筋が凍るような笑みを浮かべた自分を見て退避した。
『〝雷爆〟』
コンマ一秒の差で、雫がいた場所に雷が突き刺さり爆発した。着地した雫はそれを見て冷や汗を流す。
『あら、外してしまったわ』
『ククッ、中々やるなぁ』
全く同じ声で話しながら、鏡の中からもう一つの二人が出てくる。鏡面を通り抜けた瞬間、色が反転した。
もう一人のシュウは、白と青を基調とした衣装が艶のない黒と悍ましい血のような赤色に、髪が白く染まり槍が真新しい黒光りするものに。
対するもう一人の雫は黒に赤いラインの入った胴着が白く、赤は濁った青色に変わる。そしてシュウ同様に艶やかな髪が白髪に変化した。
まさに正反対。表情から服装全て、本当のシュウと雫とは対極の位置にいる存在。顔や体格だけが鏡写しの模造品だ。
「どういうことだ……?」
「私たちが、もう一人……?」
「俺たちはお前たちのコピー。何から何まで全て同じの影法師」
「さあ、私たちを超えてみなさい」
ドヒュッ!
示し合わせたように息のあったセリフを吐いたもう一つの二人は、言い終えるのと同時に搔き消える。
次の瞬間、殺気を感じた二人はその方向へ槍を、あるいは札の力を纏った脚を繰り出した。そしてそれはコピー品たちの攻撃を防ぐ。
「ククク、やるなぁ」
「なんだっ、このパワーとスピードは……!」
「くっ、足が痺れて……!」
「ほらほら、早くしないと体に風穴が空いちゃうわよ?」
余裕の表情を浮かべながら、攻撃を繰り出してくるコピー品たち。圧倒的な能力の高さに二人は翻弄された。
「フッ!ハッ!セイッ!」
「ぐ、ぉおおおっ!?」
流れるような動きで繰り出される槍に、後退しながら応戦するシュウ。一部の付け入る隙もない、凄まじい攻撃だ。
一瞬で防戦一方に陥ったシュウは、いよいよ壁際まで追い詰められる。しかしそれを逆に利用し、シュウは壁を蹴ってコピーの背後に回った。
「ハッ!」
そしてコピーの心臓めがけ、槍を繰り出す……が、ガキィンッ!!という硬質な音とともにいとも容易く防がれた。
瞠目する暇もなく、後ろ蹴りが腹に炸裂する。直前に自ら後ろに飛んで力を半減させるが、その威力にたまらず吐血した。
「ごふっ……!」
「弱いなぁ。こんなものかぁ?」
つまらなさそうに槍で肩を叩き、冷めた目で見下すコピー。シュウはギッと奥歯を噛み締め、コピーを睨み返すと槍を一閃した。
コピーはそれを鼻先を掠めるか掠めないかギリギリのところで躱し、バックステップで距離を取ると手招きする。それに乗ったシュウは攻撃を開始した。
「シッ!」
「うふふっ!」
一方その頃、雫と雫のコピーもまた戦闘を繰り広げていた。雫の放った中断蹴りを足ごと軽く蹴り飛ばすコピー。
バランスが崩れかけるが、そのまま体を倒すと駒のように足一本で回転して回し蹴りを叩きつけた。が、これも防がれる。
「今度は私が行くわよ」
それまで回避、あるいはいなしてばかりいたコピーは、突然攻撃に転じる。岩山を穿つような前蹴りをなんとか避ける雫。
だが、コピーの攻撃はそこで終わりではなかった。体を支えていた脚に力を込め、さらに一歩分前へ跳んだのだ。
その体制のままあげていた脚を引くと、バネのように弾けて雫の脇腹に文字通りブーツの先が〝突き刺さる〟。血を吐く雫。
刹那の瞬間に行われたそれは、霧咲流の術の一つ。雫が何よりも得意としている技であり、その分威力の高さもよく知っていた。
「かふっ……」
「油断大敵よ!」
動きの止まった雫に脚を引き、膝蹴りを顔にかますコピー。とっさに腕をクロスして受け止める。ミシリという嫌な音がした。
結局衝撃を受けきれず、吹き飛ばされる雫。「きゃっ」という凡そこの場には似つかわしくない悲鳴をあげ、床の上を転がった。
三メートルほど転がってようやく止まると、立ち上がって脇腹を抑える。ぬめりとした嫌な感触が手のひらに伝わってきた。
「くっ、はぁ、はぁ、急急如律令」
術式構成の難易度が高く、貴重な治癒の札を使って霊力の力を増幅し、傷を高速治療する。スッと痛みが引いていった。
「これで、まだなんとかなるわね」
「ガッ!」
深く息を吐く雫の前に、コピーの袈裟斬りにやられたシュウが落ちてくる。シュウはすぐに立ち上がり、口元の血を拭った。
「ぐっ、こいつ強え……!」
「あいにく、こっちもよ。それに……なぜか技にキレが出ない」
「奇遇だな、俺もだ」
雫の言葉に苦々しい顔で同意するシュウ。そう、実は先程から二人は技にキレが出ないでいた。もう何千何万と繰り返し修練したはずなのにだ。
訓練を始めた初心者さながらに力に翻弄され、本来の十分の位置も威力を発揮できないでいる。まるで弱体化でもしたようだ。
このまま戦い続ければ、いずれコピーになぶり殺しにされるのは目に見えている。なんとか打開策を考えなくては。
「そら、いつまでも休めると思うな!」
「まだ試練は終わってないわよ!」
だが、そうは問屋が卸さない。殺気を全開に襲いかかってくるコピーに、二人はやむなく迎撃体制を取った。
そしてまたしても始まる一方的な攻防。元来オリジナルであるはずの二人が追い詰められ、模造品の二人が圧倒的な力を振るう状況へと陥っていた。
「どうしたどうした!お前の力はその程度か!」
「ぐっ……!」
「模造品の私たちに押されて、どんな気分かしら?」
「このっ……!」
悔しげに歯噛みをする二人に、コピーたちはクスクスと嘲笑するように笑う。本当にいい性格をしたコピーだ。
しかし、状況がよろしくないのは事実。すでにかなりの数の傷を負っており、特にシュウは衣装が白色なだけあって血の赤が顕著に滲んでいた。
「こういうのはどうだ?ハッ!」
攻撃を中断し、後ろに飛び退いたコピーが槍を床に突き刺す。するとシュウの周りの床が変形し、棘のようになって射出された。
槍を高速で回転させ、それを盾にして防ぐシュウ。そこに追い打ちをかけるように雫のコピーが札で暴風を吹かせ、体を揺らした。
ドスッ !
「ガァッ……!」
盾をすり抜け、左肩に棘が突き刺さる。焼けるような痛みにシュウは呻き、無理やり右手で引き抜くと棘を投げ捨てた。
「ふふふふふ!」
「それ以上はやらせないわ!」
傷口を抑えて荒い息を吐くシュウに雫のコピーが追撃をかけようと札を取り出すが、雫が弱いながらも蹴りを放って妨害した。
雫のコピーの興味がそちらに移り、雫と戦い始める。それを横目に、シュウはコピーをギロリと睨みつけた。
「はぁ、はぁ、クソッタレが……!」
(一体、どうすりゃ………っ?)
悪態をついたシュウは、ふと待てよと思った。
あのコピーは最初に鏡から出てきた時、なんと言っていただろうか。記憶違いでなければ、〝何から何まで全て同じの影法師〟と言っていたはずだ。
それなのになぜ、これほどの実力の差が出ているのか。影法師たちは鋭い攻撃と鉄壁の防御をし、逆にシュウたちは力に振り回されて……
「……っ!そういうことか……!」
「ほぉ……気がついたか」
ある考察を思い浮かべたシュウに、コピーがニヤリと笑って呟く。その言葉に、シュウはその考えが当たっていると確信した。
故にそれを伝えるべく、視線はコピーに向けたまま雫に向かって叫んだ。
「雫!」
「何よシュウ!今ちょっと苦戦して……」
「乗り越えろ!」
シュウの言葉に、疑問符を浮かべる雫。しかしすぐに最初の言葉を思い出し、そういうことかと理解した。
「なるほど……やってやろうじゃない!」
「さぁて、どこまで持つかしらぁ?」
手招きをするコピーに雫は不敵に笑い、炎の札をブーツに貼り付けて纏うとコピーに向かって戦いを挑んだ。
それを見たシュウもまた、深く息を吐く。腰を落とし、両手で槍の柄を握ると半身を引いた。そして最後に目を瞑る。
「なんだ、諦めたか?」
「…………………」
「だんまりか……まあいい、それならこちらから行かせてもらうっ!」
槍を腰だめに構え、疾走するコピー。ほんの一瞬でシュウの前にたどり着くと、その胸板を切り裂くべく槍を振った。
三センチ、二センチ、一センチ……そしてついに胸元に槍が到達するその瞬間、シュウはカッと目を見開いた。
ギィンッ!!!
次の瞬間、シュウはコピーの槍を戦い始めてから初めてはじき返した。槍を打ち上げられ、瞠目するコピー。
「シィッ!!」
その隙を逃すまいと、シュウは次々と斬撃を繰り出す。一撃繰り出すたびに、どんどん鋭さが増していった。
「ぬっ、ぐぅっ!」
「フッ!」
「ぐぅッ!」
蹴りがみぞおちにめり込み、コピーは数歩後ずさる。片膝をつき、まるで先ほどのシュウのように荒く呼吸した。
「はぁ、はぁ……くく、ようやく理解したようだな、この試練の真の意味に」
「ああ……この試練は、〝力の試練〟で手に入れたスペックを使いこなすための試練だ」
笑うコピーに、シュウは槍の切っ先を向けて答える。その瞳に迷いはなく、絶対的な確信の光が戻っていた。
「技は本来、鍛えていくにつれ強くなる肉体能力に合わせて修練するもの。それをいきなりバカみたいな身体能力を得たら、ろくに技が使えなくなるに決まっている。それは逆も同じことだ。いくら素晴らしい技を持っていても、それを十全に使える力がなくてはいけない」
「そう、だからこそこの試練では〝力〟と〝技〟が合致したコピーを使い、急激に高まった力の制御を図る……よくぞ気がついた」
「お前の言葉が最大のヒントになったよ……さあ、こっからは本気でいくぜ」
ほんの少し前までと違い、非常に落ち着いた心境のシュウは構えをとる。コピーも立ち上がり、まったく同じ構えをとった。
「「ハァッ!」」
そして、激突。金属同士がぶつかり合う激しい音を立てながら音速で槍を打ち付け合う。今度はまったく同じスピードだ。
(暴流のようなパワーの手綱をしっかりと握り、かつ技と能力の呼吸を合わせる!)
カチリとピースがはまった、あるいは歯車が噛み合ったように、シュウの動きは一線を画したものへと変化していた。
それまでの劣勢が嘘のように、シュウはコピーをじりじりと後退させていく。同じ土俵に立ったのなら、あとは実戦の中でのレベルアップで勝つのみ。
「フッ!!」
「かはっ!?」
また、それは雫も同じことだった。コピーの鋭い蹴りをたやすくかわし、炎を纏った強烈な下段蹴りを太ももに入れる。
ガクンと体のバランスを崩したコピーに、さらに嵐のような蹴りをお見舞いして畳み掛ける。コピーはもうなんとか立っている状態だ。
コピーが苦し紛れに中断蹴りを放つが、その前に雫が跳躍して上段蹴りを顎に叩き込む。脳震盪を起こしよろけるコピー。
模造品は模造品ゆえにすでにその時点で完成されており、それ以上の成長はありえない。オリジナルで成長の余地がある二人が優勢になっていくのは、必然とも言えた。
そして……
「ハァッ!」
「くははっ、バカめ!」
またしても槍を弾かれたコピーは高らかに笑い、一回転すると最も得意とする刺突を繰り出した。
ドッ!
それを、シュウは右肩で受け止める。ニヤリと笑うコピーの一瞬の隙を突き、槍の柄をコピーの手ごとガッチリと掴んで身動きを取れなくした。
「なっ、お前……!」
「こっちの腕は大丈夫。お前もよく知ってんだろ?」
不敵に笑ったシュウは、事前に持ち替えていた左手の槍を握りしめると腕を引きしぼる。
「こいつでサヨナラだ、コピー!」
「ぐ、ぁぁあぁああああああぁぁあああぁぁっ!!!」
胸の中心に槍を突き込まれたコピーの全身に放射状にヒビが広がり、そこから光が漏れ……そして魔力の粒子になって爆散した。
「なかなか楽しかったわよ。ハァッ!」
「きゃぁあああああぁあああっ!」
同時に、雫が炎と雷を纏った蹴りを同じようにコピーの胸の中心に叩き込んで爆散させる。
しばらくとどめを刺したままの体制で余韻に浸っていた二人は、どちらからともなく姿勢を戻す。そうすると互いに近づいていき、鏡の前まで来るとハイタッチした。
互いの健闘をたたえあっていると、大鏡の鏡面に縦長の穴が出現する。ちょうど人一人通れそうな横幅だ。
『挑戦者たちよ、よくぞ〝技の試練〟を突破した。今後とも油断せず、試練に挑み続けるが良い』
厳かな声とともに、床が展開して台がせり上がってくる。そこには二つの巻物のようなものが。
それぞれ一つずつ手に取ると、ひとりでに淡く輝いた巻物からとあるものが脳内に流れ込んでくる。
「なるほど、これが今回の報酬ってわけだな」
「結構気が利いてるわね」
「そうだな……これで〝技の試練〟は終わりか」
「案外短くすんだわ」
ファサ、と髪を払う雫に思わず微笑みながら、シュウは穴の方を見る。この先に第三の試練が待ち受けているのだ。
雫と顔を見合わせ、頷きあうと手をにぎり合う。そして穴に向けて一歩踏み出し、その中へと足を踏み入れた。
こうして、二人は二つ目の試練を突破したのだった。
ーーー
読んでいただき、ありがとうございます。
感想をお願いします。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーー
最初に迷宮へと入った時とおなじような白い光が収まった時、シュウと雫は先ほどの草原とはまた違う場所にいた。
「今度は室内か……」
「結構広いわね」
キョロキョロと周囲を見渡す二人。次の試練に関する情報を探しながらも、警戒を解かずに構えを取る。
転移されたのは、広大な部屋だった。西洋の古城を彷彿とさせるような作りをしており、静謐な雰囲気が漂っている。
天井にはまるで宮殿のダンスホールのように豪華なシャンデリアか吊り下げられ、壁一面に誰かもわからない肖像画が並んでいた。
ただひとつ違和感があるとすれば、ドアも窓もひとつもないことだろうか。まるで密室のように出口がない。
そして何より、一際目立つものがある。それは部屋の中央に堂々と鎮座する、三メートルはあるだろう巨大な鏡だ。
「……あれが怪しいな」
「他にそれらしきものはなさそうだわ」
アイコンタクトを取った二人は、恐る恐る鏡に近づく。後五十センチというところまで近づくと、曇り一つない鏡面にその姿が写り込んだ。
そうして改めてまじまじと自分たちの姿を見て、少し気恥ずかしさを覚える。初めて正装したときの感覚に似ているだろうか。
一見どこぞのアニメなどのキャラクターのコスプレに見える二人の格好は、しかし元の素材の良さと服の上質さでそれが当然のようになっていた。
「ふふん、さすが私ね」
「相変わらず自信家だな」
くびれた腰に手を当てて得意げな顔をする雫に苦笑するシュウ。まあそういうところも好きなポイントの一つなのだが。
『ーー挑戦者たちよ。汝らに〝技の試練〟を与える』
そんな二人の脳内に、もう何度か聞いた厳かな声が響いた。即座に緩めた気分を元に戻し、警戒する二人。
そのまま一分、二分と待つが……しかし一向に部屋の中に変化は訪れなかった。先ほどのように魔法陣から魔物が現れることもない。
不思議に思いながらも、感覚を研ぎ澄ませながらシュウはちらりと鏡の方を見て……途端に凍りついた。
『よぉ、俺』
「っ!?」
なぜならそこには、ポーズは同じだがシュウとは思えないような邪悪な笑みを浮かべたシュウが写っていたのだから。
驚愕に目を見開いていると、鏡の中のシュウは突如半身を引き、手に持っていた槍をこちらに突き出してきた。
槍は鏡面を突破し、シュウを貫かんと迫ってくる。咄嗟に槍の柄で受け止め、滑らせるようにいなすと飛び退く。
その光景を見た雫もまた鏡を見て、そこに映る妖艶な、しかし背筋が凍るような笑みを浮かべた自分を見て退避した。
『〝雷爆〟』
コンマ一秒の差で、雫がいた場所に雷が突き刺さり爆発した。着地した雫はそれを見て冷や汗を流す。
『あら、外してしまったわ』
『ククッ、中々やるなぁ』
全く同じ声で話しながら、鏡の中からもう一つの二人が出てくる。鏡面を通り抜けた瞬間、色が反転した。
もう一人のシュウは、白と青を基調とした衣装が艶のない黒と悍ましい血のような赤色に、髪が白く染まり槍が真新しい黒光りするものに。
対するもう一人の雫は黒に赤いラインの入った胴着が白く、赤は濁った青色に変わる。そしてシュウ同様に艶やかな髪が白髪に変化した。
まさに正反対。表情から服装全て、本当のシュウと雫とは対極の位置にいる存在。顔や体格だけが鏡写しの模造品だ。
「どういうことだ……?」
「私たちが、もう一人……?」
「俺たちはお前たちのコピー。何から何まで全て同じの影法師」
「さあ、私たちを超えてみなさい」
ドヒュッ!
示し合わせたように息のあったセリフを吐いたもう一つの二人は、言い終えるのと同時に搔き消える。
次の瞬間、殺気を感じた二人はその方向へ槍を、あるいは札の力を纏った脚を繰り出した。そしてそれはコピー品たちの攻撃を防ぐ。
「ククク、やるなぁ」
「なんだっ、このパワーとスピードは……!」
「くっ、足が痺れて……!」
「ほらほら、早くしないと体に風穴が空いちゃうわよ?」
余裕の表情を浮かべながら、攻撃を繰り出してくるコピー品たち。圧倒的な能力の高さに二人は翻弄された。
「フッ!ハッ!セイッ!」
「ぐ、ぉおおおっ!?」
流れるような動きで繰り出される槍に、後退しながら応戦するシュウ。一部の付け入る隙もない、凄まじい攻撃だ。
一瞬で防戦一方に陥ったシュウは、いよいよ壁際まで追い詰められる。しかしそれを逆に利用し、シュウは壁を蹴ってコピーの背後に回った。
「ハッ!」
そしてコピーの心臓めがけ、槍を繰り出す……が、ガキィンッ!!という硬質な音とともにいとも容易く防がれた。
瞠目する暇もなく、後ろ蹴りが腹に炸裂する。直前に自ら後ろに飛んで力を半減させるが、その威力にたまらず吐血した。
「ごふっ……!」
「弱いなぁ。こんなものかぁ?」
つまらなさそうに槍で肩を叩き、冷めた目で見下すコピー。シュウはギッと奥歯を噛み締め、コピーを睨み返すと槍を一閃した。
コピーはそれを鼻先を掠めるか掠めないかギリギリのところで躱し、バックステップで距離を取ると手招きする。それに乗ったシュウは攻撃を開始した。
「シッ!」
「うふふっ!」
一方その頃、雫と雫のコピーもまた戦闘を繰り広げていた。雫の放った中断蹴りを足ごと軽く蹴り飛ばすコピー。
バランスが崩れかけるが、そのまま体を倒すと駒のように足一本で回転して回し蹴りを叩きつけた。が、これも防がれる。
「今度は私が行くわよ」
それまで回避、あるいはいなしてばかりいたコピーは、突然攻撃に転じる。岩山を穿つような前蹴りをなんとか避ける雫。
だが、コピーの攻撃はそこで終わりではなかった。体を支えていた脚に力を込め、さらに一歩分前へ跳んだのだ。
その体制のままあげていた脚を引くと、バネのように弾けて雫の脇腹に文字通りブーツの先が〝突き刺さる〟。血を吐く雫。
刹那の瞬間に行われたそれは、霧咲流の術の一つ。雫が何よりも得意としている技であり、その分威力の高さもよく知っていた。
「かふっ……」
「油断大敵よ!」
動きの止まった雫に脚を引き、膝蹴りを顔にかますコピー。とっさに腕をクロスして受け止める。ミシリという嫌な音がした。
結局衝撃を受けきれず、吹き飛ばされる雫。「きゃっ」という凡そこの場には似つかわしくない悲鳴をあげ、床の上を転がった。
三メートルほど転がってようやく止まると、立ち上がって脇腹を抑える。ぬめりとした嫌な感触が手のひらに伝わってきた。
「くっ、はぁ、はぁ、急急如律令」
術式構成の難易度が高く、貴重な治癒の札を使って霊力の力を増幅し、傷を高速治療する。スッと痛みが引いていった。
「これで、まだなんとかなるわね」
「ガッ!」
深く息を吐く雫の前に、コピーの袈裟斬りにやられたシュウが落ちてくる。シュウはすぐに立ち上がり、口元の血を拭った。
「ぐっ、こいつ強え……!」
「あいにく、こっちもよ。それに……なぜか技にキレが出ない」
「奇遇だな、俺もだ」
雫の言葉に苦々しい顔で同意するシュウ。そう、実は先程から二人は技にキレが出ないでいた。もう何千何万と繰り返し修練したはずなのにだ。
訓練を始めた初心者さながらに力に翻弄され、本来の十分の位置も威力を発揮できないでいる。まるで弱体化でもしたようだ。
このまま戦い続ければ、いずれコピーになぶり殺しにされるのは目に見えている。なんとか打開策を考えなくては。
「そら、いつまでも休めると思うな!」
「まだ試練は終わってないわよ!」
だが、そうは問屋が卸さない。殺気を全開に襲いかかってくるコピーに、二人はやむなく迎撃体制を取った。
そしてまたしても始まる一方的な攻防。元来オリジナルであるはずの二人が追い詰められ、模造品の二人が圧倒的な力を振るう状況へと陥っていた。
「どうしたどうした!お前の力はその程度か!」
「ぐっ……!」
「模造品の私たちに押されて、どんな気分かしら?」
「このっ……!」
悔しげに歯噛みをする二人に、コピーたちはクスクスと嘲笑するように笑う。本当にいい性格をしたコピーだ。
しかし、状況がよろしくないのは事実。すでにかなりの数の傷を負っており、特にシュウは衣装が白色なだけあって血の赤が顕著に滲んでいた。
「こういうのはどうだ?ハッ!」
攻撃を中断し、後ろに飛び退いたコピーが槍を床に突き刺す。するとシュウの周りの床が変形し、棘のようになって射出された。
槍を高速で回転させ、それを盾にして防ぐシュウ。そこに追い打ちをかけるように雫のコピーが札で暴風を吹かせ、体を揺らした。
ドスッ !
「ガァッ……!」
盾をすり抜け、左肩に棘が突き刺さる。焼けるような痛みにシュウは呻き、無理やり右手で引き抜くと棘を投げ捨てた。
「ふふふふふ!」
「それ以上はやらせないわ!」
傷口を抑えて荒い息を吐くシュウに雫のコピーが追撃をかけようと札を取り出すが、雫が弱いながらも蹴りを放って妨害した。
雫のコピーの興味がそちらに移り、雫と戦い始める。それを横目に、シュウはコピーをギロリと睨みつけた。
「はぁ、はぁ、クソッタレが……!」
(一体、どうすりゃ………っ?)
悪態をついたシュウは、ふと待てよと思った。
あのコピーは最初に鏡から出てきた時、なんと言っていただろうか。記憶違いでなければ、〝何から何まで全て同じの影法師〟と言っていたはずだ。
それなのになぜ、これほどの実力の差が出ているのか。影法師たちは鋭い攻撃と鉄壁の防御をし、逆にシュウたちは力に振り回されて……
「……っ!そういうことか……!」
「ほぉ……気がついたか」
ある考察を思い浮かべたシュウに、コピーがニヤリと笑って呟く。その言葉に、シュウはその考えが当たっていると確信した。
故にそれを伝えるべく、視線はコピーに向けたまま雫に向かって叫んだ。
「雫!」
「何よシュウ!今ちょっと苦戦して……」
「乗り越えろ!」
シュウの言葉に、疑問符を浮かべる雫。しかしすぐに最初の言葉を思い出し、そういうことかと理解した。
「なるほど……やってやろうじゃない!」
「さぁて、どこまで持つかしらぁ?」
手招きをするコピーに雫は不敵に笑い、炎の札をブーツに貼り付けて纏うとコピーに向かって戦いを挑んだ。
それを見たシュウもまた、深く息を吐く。腰を落とし、両手で槍の柄を握ると半身を引いた。そして最後に目を瞑る。
「なんだ、諦めたか?」
「…………………」
「だんまりか……まあいい、それならこちらから行かせてもらうっ!」
槍を腰だめに構え、疾走するコピー。ほんの一瞬でシュウの前にたどり着くと、その胸板を切り裂くべく槍を振った。
三センチ、二センチ、一センチ……そしてついに胸元に槍が到達するその瞬間、シュウはカッと目を見開いた。
ギィンッ!!!
次の瞬間、シュウはコピーの槍を戦い始めてから初めてはじき返した。槍を打ち上げられ、瞠目するコピー。
「シィッ!!」
その隙を逃すまいと、シュウは次々と斬撃を繰り出す。一撃繰り出すたびに、どんどん鋭さが増していった。
「ぬっ、ぐぅっ!」
「フッ!」
「ぐぅッ!」
蹴りがみぞおちにめり込み、コピーは数歩後ずさる。片膝をつき、まるで先ほどのシュウのように荒く呼吸した。
「はぁ、はぁ……くく、ようやく理解したようだな、この試練の真の意味に」
「ああ……この試練は、〝力の試練〟で手に入れたスペックを使いこなすための試練だ」
笑うコピーに、シュウは槍の切っ先を向けて答える。その瞳に迷いはなく、絶対的な確信の光が戻っていた。
「技は本来、鍛えていくにつれ強くなる肉体能力に合わせて修練するもの。それをいきなりバカみたいな身体能力を得たら、ろくに技が使えなくなるに決まっている。それは逆も同じことだ。いくら素晴らしい技を持っていても、それを十全に使える力がなくてはいけない」
「そう、だからこそこの試練では〝力〟と〝技〟が合致したコピーを使い、急激に高まった力の制御を図る……よくぞ気がついた」
「お前の言葉が最大のヒントになったよ……さあ、こっからは本気でいくぜ」
ほんの少し前までと違い、非常に落ち着いた心境のシュウは構えをとる。コピーも立ち上がり、まったく同じ構えをとった。
「「ハァッ!」」
そして、激突。金属同士がぶつかり合う激しい音を立てながら音速で槍を打ち付け合う。今度はまったく同じスピードだ。
(暴流のようなパワーの手綱をしっかりと握り、かつ技と能力の呼吸を合わせる!)
カチリとピースがはまった、あるいは歯車が噛み合ったように、シュウの動きは一線を画したものへと変化していた。
それまでの劣勢が嘘のように、シュウはコピーをじりじりと後退させていく。同じ土俵に立ったのなら、あとは実戦の中でのレベルアップで勝つのみ。
「フッ!!」
「かはっ!?」
また、それは雫も同じことだった。コピーの鋭い蹴りをたやすくかわし、炎を纏った強烈な下段蹴りを太ももに入れる。
ガクンと体のバランスを崩したコピーに、さらに嵐のような蹴りをお見舞いして畳み掛ける。コピーはもうなんとか立っている状態だ。
コピーが苦し紛れに中断蹴りを放つが、その前に雫が跳躍して上段蹴りを顎に叩き込む。脳震盪を起こしよろけるコピー。
模造品は模造品ゆえにすでにその時点で完成されており、それ以上の成長はありえない。オリジナルで成長の余地がある二人が優勢になっていくのは、必然とも言えた。
そして……
「ハァッ!」
「くははっ、バカめ!」
またしても槍を弾かれたコピーは高らかに笑い、一回転すると最も得意とする刺突を繰り出した。
ドッ!
それを、シュウは右肩で受け止める。ニヤリと笑うコピーの一瞬の隙を突き、槍の柄をコピーの手ごとガッチリと掴んで身動きを取れなくした。
「なっ、お前……!」
「こっちの腕は大丈夫。お前もよく知ってんだろ?」
不敵に笑ったシュウは、事前に持ち替えていた左手の槍を握りしめると腕を引きしぼる。
「こいつでサヨナラだ、コピー!」
「ぐ、ぁぁあぁああああああぁぁあああぁぁっ!!!」
胸の中心に槍を突き込まれたコピーの全身に放射状にヒビが広がり、そこから光が漏れ……そして魔力の粒子になって爆散した。
「なかなか楽しかったわよ。ハァッ!」
「きゃぁあああああぁあああっ!」
同時に、雫が炎と雷を纏った蹴りを同じようにコピーの胸の中心に叩き込んで爆散させる。
しばらくとどめを刺したままの体制で余韻に浸っていた二人は、どちらからともなく姿勢を戻す。そうすると互いに近づいていき、鏡の前まで来るとハイタッチした。
互いの健闘をたたえあっていると、大鏡の鏡面に縦長の穴が出現する。ちょうど人一人通れそうな横幅だ。
『挑戦者たちよ、よくぞ〝技の試練〟を突破した。今後とも油断せず、試練に挑み続けるが良い』
厳かな声とともに、床が展開して台がせり上がってくる。そこには二つの巻物のようなものが。
それぞれ一つずつ手に取ると、ひとりでに淡く輝いた巻物からとあるものが脳内に流れ込んでくる。
「なるほど、これが今回の報酬ってわけだな」
「結構気が利いてるわね」
「そうだな……これで〝技の試練〟は終わりか」
「案外短くすんだわ」
ファサ、と髪を払う雫に思わず微笑みながら、シュウは穴の方を見る。この先に第三の試練が待ち受けているのだ。
雫と顔を見合わせ、頷きあうと手をにぎり合う。そして穴に向けて一歩踏み出し、その中へと足を踏み入れた。
こうして、二人は二つ目の試練を突破したのだった。
ーーー
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