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8.鶴と白鳥
「なぜおまえがここにいる!」
クレイン様が忌々しそうに言うと、
「僕はアヴェス王国の大使だからね。クレインこそ、使節団はとっくにアヴェスに戻ったというのに、なぜまだこの国に居残っているんだい?」
謎の美男子に問われ、クレイン様はぐっと言葉に詰まった。珍しい。いついかなる時も、独自論法で相手の斜め上をいくクレイン様が。
「あの、クレイン様。こちらは……」
「ああ、失礼。レディを前に名も名乗らぬとは、僕としたことが」
その美男子は、優雅に膝を折り、わたしの手をとった。その拍子に長い白銀の髪がふわりと風になびき、光を反射して輝いた。
……なんか、ちょっとした動きでもいちいちキラキラ輝いてしまうところとか、やっぱりクレイン様に似ている。年齢も近そうだし。
「僕はアヴェス王国大使、アンセリニ侯爵スワンだ」
そう名乗られ、わたしは納得した。
アンセリニというと、白鳥の一族か。天人族の中でも鶴と並んで美しいと言われている一族だ。そりゃキラキラしてるはずだわ。
「アンセリニ侯爵閣下」
わたしも膝を折り、挨拶を返した。
「スワンでいいよ。僕も君をエステルと呼ぶから」
アンセリニ侯爵が気さくに言う。
天人族の皆さまは、どうしてすぐ名前呼びをしたがるのか。
「スワン、いい加減エステルから離れぬか!」
クレイン様が、わたしとアンセリニ侯爵の間に割って入った。
「エステルは私の客人だ! とっとと失せろ!」
「失せろと言われても、大使公邸には僕も住んでいるからねえ」
アンセリニ侯爵はふっと鼻で笑い、さらに言った。
「だいたい、クレイン。君は彼女にあのことを伝えているのかい?」
「あのこと……?」
クレイン様は眉根を寄せ、アンセリニ侯爵を見た。
「なんのことだ」
「おやおや、忘れてしまったのかい? いやだねえ、これだから鳥頭は」
特大のブーメラン発言をかましながら、アンセリニ侯爵は嘲笑うように続けた。
「僕にできて、君にできないことさ。……君は泳げないんだよねえ、カナヅチ王子」
ウッ、とクレイン様が胸を押さえた。
「き、きさま、よくもそのような……」
「おや、僕は何か間違ったことを言っているかい? カナヅチ王子」
「………………」
黙ってしまったクレイン様を見やり、アンセリニ侯爵は勝ち誇ったようにわたしに言った。
「この様子では、クレインは君に真実を伝えていなかったようだね」
「ち、ちが……! 言う機会がなかっただけで! 別に私は彼女を騙すつもりは……!」
「しらじらしい」
アンセリニ侯爵は鼻を鳴らし、わたしに向き直った。
「エステル、真実を知ってどう思う? クレインは、泳げない。カナヅチなんだ。それを隠してたんだよ?」
いや、別にどうも思いませんが。
しかし、わたしが何か答える前に、クレイン様が必死な様子で言った。
「エステル! 違うのだ、私はそなたを騙すつもりなどなかった! ただ言うのを忘れていただけで……。今、包み隠さずすべてを伝えよう! たしかに私は泳げない! 鶴の一族は泳げないのだ! でも、翼は強いから大陸横断することだってできる! もしそなたが溺れても、服をくわえて飛んで助けよう! ちゃんと岸まで運ぶと誓うから!」
「水中に沈んだらどうする」
アンセリニ侯爵が突っ込みを入れ、わたしに流し目をくれた。
「僕なら、もし君が冬の湖で溺れても、泳いで岸まで連れていってあげるよ」
何その謎アピール。そして二人とも、なぜわたしが溺れる前提で話を進めるのか。
「ご親切にどうも。……しかしわたしは、今まで溺れたことはありませんし、これからもそのような予定はありませんので」
わたしの返事に、クレイン様が目を潤ませた。
「エステル……、ありがとう!」
ただ事実を伝えただけなのに、どうして感謝されるんだろう。アンセリニ侯爵は、チッと舌打ちするし。
「クレイン様、そろそろ公邸をご案内いただけますでしょうか」
わたしの言葉に、クレイン様はハッと我に返ったようにわたしを見た。
「そうであった。……すまない、エステル。中に入ろう」
「ではエステル、僕が公邸を案内してあげるよ」
アンセリニ侯爵が素早くわたしに申し出た。
「結構だ! エステルはわたしの客人だと言っただろう!」
「言っておくが、公邸に招いたというなら、僕の客人でもある。居候が大きな顔をするのはやめたまえ」
二人はいがみ合いながらも、中に飾られた絵画や装飾文様について丁寧に説明し、美しい公邸内を案内してくれた。
なんだかんだ言ってこの二人、仲良さそうだなあ。
クレイン様が忌々しそうに言うと、
「僕はアヴェス王国の大使だからね。クレインこそ、使節団はとっくにアヴェスに戻ったというのに、なぜまだこの国に居残っているんだい?」
謎の美男子に問われ、クレイン様はぐっと言葉に詰まった。珍しい。いついかなる時も、独自論法で相手の斜め上をいくクレイン様が。
「あの、クレイン様。こちらは……」
「ああ、失礼。レディを前に名も名乗らぬとは、僕としたことが」
その美男子は、優雅に膝を折り、わたしの手をとった。その拍子に長い白銀の髪がふわりと風になびき、光を反射して輝いた。
……なんか、ちょっとした動きでもいちいちキラキラ輝いてしまうところとか、やっぱりクレイン様に似ている。年齢も近そうだし。
「僕はアヴェス王国大使、アンセリニ侯爵スワンだ」
そう名乗られ、わたしは納得した。
アンセリニというと、白鳥の一族か。天人族の中でも鶴と並んで美しいと言われている一族だ。そりゃキラキラしてるはずだわ。
「アンセリニ侯爵閣下」
わたしも膝を折り、挨拶を返した。
「スワンでいいよ。僕も君をエステルと呼ぶから」
アンセリニ侯爵が気さくに言う。
天人族の皆さまは、どうしてすぐ名前呼びをしたがるのか。
「スワン、いい加減エステルから離れぬか!」
クレイン様が、わたしとアンセリニ侯爵の間に割って入った。
「エステルは私の客人だ! とっとと失せろ!」
「失せろと言われても、大使公邸には僕も住んでいるからねえ」
アンセリニ侯爵はふっと鼻で笑い、さらに言った。
「だいたい、クレイン。君は彼女にあのことを伝えているのかい?」
「あのこと……?」
クレイン様は眉根を寄せ、アンセリニ侯爵を見た。
「なんのことだ」
「おやおや、忘れてしまったのかい? いやだねえ、これだから鳥頭は」
特大のブーメラン発言をかましながら、アンセリニ侯爵は嘲笑うように続けた。
「僕にできて、君にできないことさ。……君は泳げないんだよねえ、カナヅチ王子」
ウッ、とクレイン様が胸を押さえた。
「き、きさま、よくもそのような……」
「おや、僕は何か間違ったことを言っているかい? カナヅチ王子」
「………………」
黙ってしまったクレイン様を見やり、アンセリニ侯爵は勝ち誇ったようにわたしに言った。
「この様子では、クレインは君に真実を伝えていなかったようだね」
「ち、ちが……! 言う機会がなかっただけで! 別に私は彼女を騙すつもりは……!」
「しらじらしい」
アンセリニ侯爵は鼻を鳴らし、わたしに向き直った。
「エステル、真実を知ってどう思う? クレインは、泳げない。カナヅチなんだ。それを隠してたんだよ?」
いや、別にどうも思いませんが。
しかし、わたしが何か答える前に、クレイン様が必死な様子で言った。
「エステル! 違うのだ、私はそなたを騙すつもりなどなかった! ただ言うのを忘れていただけで……。今、包み隠さずすべてを伝えよう! たしかに私は泳げない! 鶴の一族は泳げないのだ! でも、翼は強いから大陸横断することだってできる! もしそなたが溺れても、服をくわえて飛んで助けよう! ちゃんと岸まで運ぶと誓うから!」
「水中に沈んだらどうする」
アンセリニ侯爵が突っ込みを入れ、わたしに流し目をくれた。
「僕なら、もし君が冬の湖で溺れても、泳いで岸まで連れていってあげるよ」
何その謎アピール。そして二人とも、なぜわたしが溺れる前提で話を進めるのか。
「ご親切にどうも。……しかしわたしは、今まで溺れたことはありませんし、これからもそのような予定はありませんので」
わたしの返事に、クレイン様が目を潤ませた。
「エステル……、ありがとう!」
ただ事実を伝えただけなのに、どうして感謝されるんだろう。アンセリニ侯爵は、チッと舌打ちするし。
「クレイン様、そろそろ公邸をご案内いただけますでしょうか」
わたしの言葉に、クレイン様はハッと我に返ったようにわたしを見た。
「そうであった。……すまない、エステル。中に入ろう」
「ではエステル、僕が公邸を案内してあげるよ」
アンセリニ侯爵が素早くわたしに申し出た。
「結構だ! エステルはわたしの客人だと言っただろう!」
「言っておくが、公邸に招いたというなら、僕の客人でもある。居候が大きな顔をするのはやめたまえ」
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