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10.鶴の寿命
「待って、……待ってください」
わたしは何度も深呼吸した。
何かの間違いという可能性もある。落ち着け、自分。
「どうした、エステル? 顔色が良くないようだが、気分でも悪いのか?」
「いえ、あの、ちょっと理解が追いつかないというか、……クレイン様、よろしいでしょうか? ちょっとお伺いしたいのですが」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
鷹揚にうなずくクレイン様に、わたしはおそるおそる言った。
「まず、時系列を整理させてください。……クレイン様は、二十年前、わたしに命を救われたんですよね?」
「うむ。……そなたは優しく、とても美しい人間だった。罠にかかっていた私を助けてくれて……、死にかけていた私を救ってくれたというのに、そなたは謙虚で慎み深く、名を問うた私に『名乗るほどの者ではない』と言って去っていったのだ……」
うっとりした目で見つめられ、その破壊力に「ヒィ」と奇声が出かかったが、わたしは気力でこらえた。
「そ、そうですか。……ていうか、わたし、クレイン様の命を助けたというより、ただ罠を外しただけなんでは?」
「いや」
クレイン様は首を横に振った。
「私も不思議なのだが、そなたに助けられた時、私はたしかに瀕死の状態だった。だが、なぜかそなたの手で罠を外してもらった時、痛みが消えたのだ。怪我自体もずいぶんと軽くなったような……」
「気のせいでは?」
「そんなことはない! 本当にあの時の私は死にかけていた! でも、そなたのおかげで生き返ったのだ!」
クレイン様はムキになって反論するけど、どう考えてもわたしは大したことしていないような気がするんだけどなあ……。
しかし、アンセリニ侯爵はクレイン様をフォローするように言った。
「まあ、エステルが疑うのも無理はないんだけどね、クレインの言うことにも一理あるんだよ。一目惚れした運命の相手のためなら、鶴はほんとにあり得ないような力を発揮するから。好きな相手に会えたら風邪が治ったとか、骨折が治ったとか、よく聞く話だし」
風邪はともかく骨折は、いくらなんでも話を盛りすぎでは。
「えーっと、そ、その後のことですけど、クレイン様は、恩返しをしようとわたしを探したけど、見つからなかった。ここまではいいですね?」
「ああ。……怪我が癒えた後、大陸中を飛び回って探したのだが、そなたは見つからなかった……」
「水中にいたんじゃないかい?」
アンセリニ侯爵の突っ込みに、わたしは思わず吹き出した。
「ちょっ、何をおっしゃるんですか! わたしって前世、人間だったんでしょう? それなのに、なんで水中!」
「まあ、それはそうなんだけどねえ」
アンセリニ侯爵は納得いかない様子で言った。
「鶴が、これと決めた相手を探し出せないなんて、ありえない話なんだよ。クレインは、王族の中でもとくに力が強いのに。こいつが大陸中を飛び回って、しらみつぶしに探したっていうのに、それでも見つけられなかったんだからねえ。何か通常ではあり得ないような、そんな場所にいたとしか考えられないよ」
そんなこと言われても、前世の自分がどこにいたかなんてわかりません。
「よいのだ。今は、こうしてエステルのそばにいられるのだから。婿入りもできることだし」
「待ってください話が飛躍しすぎです!」
わたしは両手を上げてクレイン様の話を止めた。
「話を戻しますよ。……そして現世、今の話です。クレイン様は、わたしを見つけました」
「ああ! そうだ、あの祝賀会で私はそなたを見つけたのだ! あの時のことは忘れられぬ! そなたは輝いていた……、あの輝き、美しい光を見つけたあの時、生きていてよかったと、そう思った……」
「え。あ、そ、そう……、なんですか……」
クレイン様は、幸せそうに続けた。
「うむ。二十年前から、ずっとそなたを探しつづけていたからな。兄にはもう諦めろとまで言われていたし、喜びもひとしおだった……」
そこで、ふとわたしは気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、クレイン様は今、おいくつでいらっしゃるんですか?」
獣人族は、成人すると見た目がほぼ変化しない種族が多いから、人間のわたしには年齢がよくわからないことが多い。二十年前にわたしに命を助けられたってことは、少なくとも二十歳以上ということになるわけだけど。
「私の年齢か? 今年で百二十一歳だ」
つらっと答えたクレイン様に、わたしは思わずむせた。
「ひ、ひゃく、にじゅういち……」
「うむ。そなたと出会ったのは、ちょうど百歳を越えたあたりで、成人したばかりだったな……」
懐かしげに瞳を細めるクレイン様。
天人族は謎に包まれた一族だけど、その寿命についても様々な噂が流布している。数百年とか、中には数万年とか言われていて、まさかと思っていたのだが。
「あのー、失礼をお許しください。……よければ、その、鶴の一族の平均寿命を教えていただけないでしょうか」
わたしは何度も深呼吸した。
何かの間違いという可能性もある。落ち着け、自分。
「どうした、エステル? 顔色が良くないようだが、気分でも悪いのか?」
「いえ、あの、ちょっと理解が追いつかないというか、……クレイン様、よろしいでしょうか? ちょっとお伺いしたいのですが」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
鷹揚にうなずくクレイン様に、わたしはおそるおそる言った。
「まず、時系列を整理させてください。……クレイン様は、二十年前、わたしに命を救われたんですよね?」
「うむ。……そなたは優しく、とても美しい人間だった。罠にかかっていた私を助けてくれて……、死にかけていた私を救ってくれたというのに、そなたは謙虚で慎み深く、名を問うた私に『名乗るほどの者ではない』と言って去っていったのだ……」
うっとりした目で見つめられ、その破壊力に「ヒィ」と奇声が出かかったが、わたしは気力でこらえた。
「そ、そうですか。……ていうか、わたし、クレイン様の命を助けたというより、ただ罠を外しただけなんでは?」
「いや」
クレイン様は首を横に振った。
「私も不思議なのだが、そなたに助けられた時、私はたしかに瀕死の状態だった。だが、なぜかそなたの手で罠を外してもらった時、痛みが消えたのだ。怪我自体もずいぶんと軽くなったような……」
「気のせいでは?」
「そんなことはない! 本当にあの時の私は死にかけていた! でも、そなたのおかげで生き返ったのだ!」
クレイン様はムキになって反論するけど、どう考えてもわたしは大したことしていないような気がするんだけどなあ……。
しかし、アンセリニ侯爵はクレイン様をフォローするように言った。
「まあ、エステルが疑うのも無理はないんだけどね、クレインの言うことにも一理あるんだよ。一目惚れした運命の相手のためなら、鶴はほんとにあり得ないような力を発揮するから。好きな相手に会えたら風邪が治ったとか、骨折が治ったとか、よく聞く話だし」
風邪はともかく骨折は、いくらなんでも話を盛りすぎでは。
「えーっと、そ、その後のことですけど、クレイン様は、恩返しをしようとわたしを探したけど、見つからなかった。ここまではいいですね?」
「ああ。……怪我が癒えた後、大陸中を飛び回って探したのだが、そなたは見つからなかった……」
「水中にいたんじゃないかい?」
アンセリニ侯爵の突っ込みに、わたしは思わず吹き出した。
「ちょっ、何をおっしゃるんですか! わたしって前世、人間だったんでしょう? それなのに、なんで水中!」
「まあ、それはそうなんだけどねえ」
アンセリニ侯爵は納得いかない様子で言った。
「鶴が、これと決めた相手を探し出せないなんて、ありえない話なんだよ。クレインは、王族の中でもとくに力が強いのに。こいつが大陸中を飛び回って、しらみつぶしに探したっていうのに、それでも見つけられなかったんだからねえ。何か通常ではあり得ないような、そんな場所にいたとしか考えられないよ」
そんなこと言われても、前世の自分がどこにいたかなんてわかりません。
「よいのだ。今は、こうしてエステルのそばにいられるのだから。婿入りもできることだし」
「待ってください話が飛躍しすぎです!」
わたしは両手を上げてクレイン様の話を止めた。
「話を戻しますよ。……そして現世、今の話です。クレイン様は、わたしを見つけました」
「ああ! そうだ、あの祝賀会で私はそなたを見つけたのだ! あの時のことは忘れられぬ! そなたは輝いていた……、あの輝き、美しい光を見つけたあの時、生きていてよかったと、そう思った……」
「え。あ、そ、そう……、なんですか……」
クレイン様は、幸せそうに続けた。
「うむ。二十年前から、ずっとそなたを探しつづけていたからな。兄にはもう諦めろとまで言われていたし、喜びもひとしおだった……」
そこで、ふとわたしは気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、クレイン様は今、おいくつでいらっしゃるんですか?」
獣人族は、成人すると見た目がほぼ変化しない種族が多いから、人間のわたしには年齢がよくわからないことが多い。二十年前にわたしに命を助けられたってことは、少なくとも二十歳以上ということになるわけだけど。
「私の年齢か? 今年で百二十一歳だ」
つらっと答えたクレイン様に、わたしは思わずむせた。
「ひ、ひゃく、にじゅういち……」
「うむ。そなたと出会ったのは、ちょうど百歳を越えたあたりで、成人したばかりだったな……」
懐かしげに瞳を細めるクレイン様。
天人族は謎に包まれた一族だけど、その寿命についても様々な噂が流布している。数百年とか、中には数万年とか言われていて、まさかと思っていたのだが。
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