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19.前世の関わり
とにかく、とクレイン様はわたしに向き直って言った。
「われらと違い、蛇族は引き際というものを知らぬ。あやつらは、逃げる相手をどこまでも追いかける。身を引くということをしないのだ。あいつらは過去、蛇族の執着に怯えて神殿に逃れた相手を、己が身もろとも焼き尽くすという、猟奇殺人事件まで引き起こしている。恐ろしいやつらよ」
つまり、鶴と蛇の違いは、犯罪かそうでないかっていう一点にかかっているというわけか。
「わたしも蛇族はちょっと苦手だね。かれらには洒落というものが通じない。無粋なやつらさ」
アンセリニ侯爵の言葉に、クレイン様が眉をひそめた。
「スワン、あやつらは犯罪者集団だ。人間をさらい、監禁する文化をよしとし、それを改めようとせぬ。いくら種族的特性とはいえ、あれはやり過ぎだ。あまつさえ、拒否する相手を殺してしまうなど、到底容認できぬ」
「それは僕だって同意見だけどね。問題は、蛇族が竜人族に次いで力が強い種族だってことだよ。蛇族に目を付けられた人間が、あいつらから逃げきれたことなんてあったかい?」
アンセリニ侯爵の言葉に、わたしはゾッとした。
たしかに、蛇族にさらわれた人間が、その後家族の元に戻ってきたなんて話、聞いたことないけど。
でも、それじゃわたしも……?
「ああ、大丈夫だ、エステル」
わたしの表情を見て、クレイン様が慌てたように言った。
「先ほども言ったが、そなたのことは私が必ず守る。これでも私は天人族の王子だし、一族の中でも力が強いほうだ。それに天人族は、種族的に蛇にとっては天敵のようなものだからな。たとえ蛇の王族であっても……」
「え」
わたしはクレイン様の言葉をさえぎって言った。
「あの、……ひょっとして、その蛇族の騎士って、王族でいらっしゃるんですか……?」
アンセリニ侯爵とクレイン様が気まずそうな表情になった。
「まあ……、今は国から出奔していて王籍も剥奪されてるらしいけど、ズメイ王国の第二王子、ユラン殿下で間違いないと思う」
「……今、ズメイ王国に照会中ゆえ、確たることは言えぬが……」
二人の答えに、わたしは真っ青になった。
それは、ほぼ確定といってるようなものでは。
なんてことだ。
ただの蛇族というだけでも厄介なのに、わたしは蛇族の王子に目を付けられたのか! しかも、またしても前世に!
「いったい、わたしは前世、何をしたんでしょうか……」
「私を助けてくれた!」
すかさずクレイン様が言い、わたしを抱き寄せた。
「大丈夫だ、心配いらぬ。たとえ蛇族の王子であろうと、そなたには指一本触れさせぬ」
「クレイン様……」
しかし、アンセリニ侯爵は難しい顔で言った。
「そうは言っても、ユラン殿下をあのまま拘束しておくわけにもいかないだろう。仮にも蛇族の王子なのだし」
「言いがかりをつけて、天人族の大使公邸を襲撃するようなヤツだぞ」
「……言いがかりっていっても……」
アンセリニ侯爵はちらりとわたしを見やった。
「もしユラン殿下の言が正しければ、後からやってきて彼女をさらったのは、クレイン、おまえということになるよ?」
「くり返すが、前世は前世、今は今だ。今、私とエステルは婚約者同士で、海より深く愛し合っている。蛇の世迷言などに付き合ってやらねばならぬ道理はない」
クレイン様はわたしを抱きしめたまま、堂々と言った。
色々とツッコミどころのある発言だとは思うけど、でも、何故かちょっとだけわたしは安心した。
良かった、クレイン様は蛇の王子様が相手でも、ぜんぜん怯んでないみたい。
わたしはちょっと落ち着いたので、気になることを聞いてみた。
「あの、その蛇の王子様は、前世でわたしとどういう関わりがあったんでしょう? わたしって人間だったんですよね? 蛇の王子様のことも、罠から救ったとか、そういう……?」
「いや」
クレイン様はかぶりを振り、言った。
「あの蛇の騎士……、ユラン王子は、前世、西国の自由都市リドラに滞在中、そなたに出会ったのだと言っている。当時、リドラは今ほど治安が良くなかったため、街のならず者にからまれたのだそうだが、その際、そなたが助けてくれたのだと」
「……あの、蛇族なら人間よりずっと強いと思うのですが。街のならず者なんて、蛇族にかかれば瞬殺なのでは?」
アンセリニ侯爵も言っていたけど、蛇族は竜人族に次ぐ力の持ち主で、人間が敵う相手ではない。そもそも蛇族は、とても排他的な種族で自国から出ることも少なく、めったに人前に姿を現すこともないというのに、なんでそんなことに。
クレイン様が渋い表情で言った。
「ユラン王子は、前世、伴侶を探す旅に出ていたのだそうだ。ちょうどその頃、神聖帝国とズメイ王国は講和条約を結び、他の国々も次々にズメイ王国と国交を正常化していった。そのため、蛇族が他国を訪れることもさほど難しくはなかったのだ。……それでユラン王子は、人間の国にも足を踏み入れたのだが、その際、蛇族と知らずに街のならず者がからんできたのだと。下手をすれば相手を殺してしまうとためらっていた時、そなたが割って入り、ユラン王子を助けたのだそうだ。そなたも旅の途中だったらしいが……」
「あの、前世のわたしは、なんで旅なんかしてたんですか?」
どこかでたまたま、罠にかかったクレイン様と行き会ったことは……、まあ、奇跡的な確率だけど、そんなこともあるだろうと納得できる。でも、前世って今より旅行とか難しい時代だったはずだ。護衛を付けた貴族とか商人とかじゃなければ、そう簡単に旅なんかできなかったと思うんだけど。
「われらと違い、蛇族は引き際というものを知らぬ。あやつらは、逃げる相手をどこまでも追いかける。身を引くということをしないのだ。あいつらは過去、蛇族の執着に怯えて神殿に逃れた相手を、己が身もろとも焼き尽くすという、猟奇殺人事件まで引き起こしている。恐ろしいやつらよ」
つまり、鶴と蛇の違いは、犯罪かそうでないかっていう一点にかかっているというわけか。
「わたしも蛇族はちょっと苦手だね。かれらには洒落というものが通じない。無粋なやつらさ」
アンセリニ侯爵の言葉に、クレイン様が眉をひそめた。
「スワン、あやつらは犯罪者集団だ。人間をさらい、監禁する文化をよしとし、それを改めようとせぬ。いくら種族的特性とはいえ、あれはやり過ぎだ。あまつさえ、拒否する相手を殺してしまうなど、到底容認できぬ」
「それは僕だって同意見だけどね。問題は、蛇族が竜人族に次いで力が強い種族だってことだよ。蛇族に目を付けられた人間が、あいつらから逃げきれたことなんてあったかい?」
アンセリニ侯爵の言葉に、わたしはゾッとした。
たしかに、蛇族にさらわれた人間が、その後家族の元に戻ってきたなんて話、聞いたことないけど。
でも、それじゃわたしも……?
「ああ、大丈夫だ、エステル」
わたしの表情を見て、クレイン様が慌てたように言った。
「先ほども言ったが、そなたのことは私が必ず守る。これでも私は天人族の王子だし、一族の中でも力が強いほうだ。それに天人族は、種族的に蛇にとっては天敵のようなものだからな。たとえ蛇の王族であっても……」
「え」
わたしはクレイン様の言葉をさえぎって言った。
「あの、……ひょっとして、その蛇族の騎士って、王族でいらっしゃるんですか……?」
アンセリニ侯爵とクレイン様が気まずそうな表情になった。
「まあ……、今は国から出奔していて王籍も剥奪されてるらしいけど、ズメイ王国の第二王子、ユラン殿下で間違いないと思う」
「……今、ズメイ王国に照会中ゆえ、確たることは言えぬが……」
二人の答えに、わたしは真っ青になった。
それは、ほぼ確定といってるようなものでは。
なんてことだ。
ただの蛇族というだけでも厄介なのに、わたしは蛇族の王子に目を付けられたのか! しかも、またしても前世に!
「いったい、わたしは前世、何をしたんでしょうか……」
「私を助けてくれた!」
すかさずクレイン様が言い、わたしを抱き寄せた。
「大丈夫だ、心配いらぬ。たとえ蛇族の王子であろうと、そなたには指一本触れさせぬ」
「クレイン様……」
しかし、アンセリニ侯爵は難しい顔で言った。
「そうは言っても、ユラン殿下をあのまま拘束しておくわけにもいかないだろう。仮にも蛇族の王子なのだし」
「言いがかりをつけて、天人族の大使公邸を襲撃するようなヤツだぞ」
「……言いがかりっていっても……」
アンセリニ侯爵はちらりとわたしを見やった。
「もしユラン殿下の言が正しければ、後からやってきて彼女をさらったのは、クレイン、おまえということになるよ?」
「くり返すが、前世は前世、今は今だ。今、私とエステルは婚約者同士で、海より深く愛し合っている。蛇の世迷言などに付き合ってやらねばならぬ道理はない」
クレイン様はわたしを抱きしめたまま、堂々と言った。
色々とツッコミどころのある発言だとは思うけど、でも、何故かちょっとだけわたしは安心した。
良かった、クレイン様は蛇の王子様が相手でも、ぜんぜん怯んでないみたい。
わたしはちょっと落ち着いたので、気になることを聞いてみた。
「あの、その蛇の王子様は、前世でわたしとどういう関わりがあったんでしょう? わたしって人間だったんですよね? 蛇の王子様のことも、罠から救ったとか、そういう……?」
「いや」
クレイン様はかぶりを振り、言った。
「あの蛇の騎士……、ユラン王子は、前世、西国の自由都市リドラに滞在中、そなたに出会ったのだと言っている。当時、リドラは今ほど治安が良くなかったため、街のならず者にからまれたのだそうだが、その際、そなたが助けてくれたのだと」
「……あの、蛇族なら人間よりずっと強いと思うのですが。街のならず者なんて、蛇族にかかれば瞬殺なのでは?」
アンセリニ侯爵も言っていたけど、蛇族は竜人族に次ぐ力の持ち主で、人間が敵う相手ではない。そもそも蛇族は、とても排他的な種族で自国から出ることも少なく、めったに人前に姿を現すこともないというのに、なんでそんなことに。
クレイン様が渋い表情で言った。
「ユラン王子は、前世、伴侶を探す旅に出ていたのだそうだ。ちょうどその頃、神聖帝国とズメイ王国は講和条約を結び、他の国々も次々にズメイ王国と国交を正常化していった。そのため、蛇族が他国を訪れることもさほど難しくはなかったのだ。……それでユラン王子は、人間の国にも足を踏み入れたのだが、その際、蛇族と知らずに街のならず者がからんできたのだと。下手をすれば相手を殺してしまうとためらっていた時、そなたが割って入り、ユラン王子を助けたのだそうだ。そなたも旅の途中だったらしいが……」
「あの、前世のわたしは、なんで旅なんかしてたんですか?」
どこかでたまたま、罠にかかったクレイン様と行き会ったことは……、まあ、奇跡的な確率だけど、そんなこともあるだろうと納得できる。でも、前世って今より旅行とか難しい時代だったはずだ。護衛を付けた貴族とか商人とかじゃなければ、そう簡単に旅なんかできなかったと思うんだけど。
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