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43.監禁大好きお兄様

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凍りついた私に、お兄様が淡々と告げた。
「これからまたしばらく、わたしは屋敷に戻れぬ。わたしがいない間は、屋敷から出るな」
「……あのー、それって、また襲撃の予定があるとか、そういう理由で……?」
「いや、おそらく襲撃はない。ただ、わたしがおまえを外に出したくないだけだ」
さらっと答えるお兄様。

私はバカだが、それでも経験から学んだことがある。
お兄様は、冗談は言わない。特に、こういう物騒なセリフを口にする時は。

お兄様、本気で言ってる。
本気で私を閉じ込める気だ!

「な、なんでですか? 別に命の危険がないなら、外出くらい」
「本気で言っているのか?」

お兄様の剣呑な眼差しに、本能が「今すぐ土下座して謝れ!」と最大警報を鳴らした。

「あ、ああ、いえいえ、ちょっと聞いてみただけです。ただ、その、王太子殿下に」
「黙れ」
静かな声音に、息が止まった。

お、おふぅ……。
久しぶりに、お兄様の、最大級の怒りを感じる。

ちらっとお兄様を見ると、お兄様は暗く淀んだ眼差しで前を見据えていた。

こ、こ、こええええ!
なになになんなの、どうしちゃったのお兄様!

私はオロオロしてお兄様に声をかけようとしたが、黙れと言われたことを思い出し、口をつぐんだ。

ど、どうしよう。
とりあえず、黙れと言われた以上は、しゃべらないほうがいいよね?

私は手を伸ばし、膝の上で固く握りしめられているお兄様の手を、そっと握ってみた。
ぴくっとお兄様の手が動いたが、お兄様はかたくなにこっちを見ない。

さすさす、とお兄様の手の甲を撫でてみた。

さすさすさす……。

バッとお兄様に手を振り払われた。
「きさま!」
やっとお兄様が私を見た。両耳が真っ赤だ。

「きさま何を考えている!? どういうつもりだ!」
いや、それ私のセリフなんですけど。

「……しゃべってもいいですか?」
「いい……、いや、良くない」
「どっちなんですか」
お兄様は私から目をそらした。

「……おまえから、王太子殿下の話を聞きたくない」
なんだそれは。
「うーん、えーっと、じゃあリリアの話は?」
「リリア?」
お兄様が私を見た。

「おまえの学友のことか? たしか今は、王妃殿下付きの侍女をしていたな」
さすが詳しい。というか、私が貴族に疎すぎるだけなんだけど。
「そう、そのリリアについてなんですけど、いいですか?」
「……いいだろう、話せ」

なんでそんなにエラそうなんですか。
とは思ったが、もちろんそんなこと口には出せない。
「あのー、今日は、リリアに頼んで、一緒にリーベンス塔に行ってもらったんです」
「それは知っている。……だが、何故だ?」

「リーベンス塔の囚人を、治療しようと思って。それで、あの、リーベンス塔に入るには、許可が必要なので、えーっと……、偉い人に頼むことにしました」
王太子殿下と言えないから、大変バカっぽい言い回しになったが、それで正解だったようだ。
お兄様は怒らず、ただ怪訝な表情を浮かべて私を見た。

「……おまえの行動は、さっぱりわからぬ。以前から奇矯な振る舞いをすると思っていたが、最近は輪をかけて酷くなった」
ひどい言われよう。
お兄様、昔から私のこと、わーこいつバッカでー、とか思ってたってこと?

「一つだけ、確認したいことがある」

お兄様が、真剣な表情で私を見た。
「おまえが今日、王宮を訪れたのは、王太子殿下に会うためではないのだな?」
「え、違います。さっき言ったじゃないですか」
なに聞いてたんですかお兄様。
「……そうか」
お兄様は、ほっとしたように息をついた。

「それならいい。……リーベンス塔の囚人を癒そうとした理由も、言いたくないなら聞かぬ」
言いたくないって言うか、言っても信じてもらえないだろうから、言えないだけなんですけど。

王太子殿下とは婚約の話もあったし、王家も敵ではないにせよ、いつ裏切るかわからない厄介な協力相手みたいな存在だから、お兄様が色々警戒してナーバスになっても仕方ないとは思う。

「お兄様、心配おかけしてすみませんでした」
「……ああ」
私が謝ると、お兄様はかすかに笑った。
「もういい。気にするな」

良かった。もう怒ってないっぽい。

しかし、お兄様が私の行動を警戒する度合いは、マックスに達してしまったらしい。
馬車が屋敷に到着するなり、お兄様は私に「ただちに部屋に戻って休め」と命令した。
言う通りにしようと部屋に戻りかけた時、お兄様が家令に矢継ぎ早に指示を出しているのが聞こえた。

「マリアが勝手に外出しないよう、監視をつけろ」とか、「マリアが屋敷を抜け出そうとしたら、これを使え」って、なんか魔道具らしきものを手渡してたんだけど……。

また監禁ですか、お兄様。
……なんだってお兄様は、やたら私を監禁したがるんだ?
闇の伯爵だから?
これもなんか、小説の設定なの?
ただのお兄様の嗜好とかだったりしたらヤだなあ……。

とにかく、考えるのは後にしよう。これ以上、疲れること考えたら、ほんと倒れる。
私は問題を先送りにすることに決め、そそくさと部屋に戻ったのだった。
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