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13章
13章
しおりを挟む裏口から店の中へ戻ると、カウンターには出番を終えた龍生と、颯が座っていた。
「やっほー聴いてたよ~」
にっこり微笑んでひらひら手を振ってくる。――長年の勘で怒っているのが分かる。
颯にまで聴かれたのはまずかった。だが恋人である龍生が出演するのに、来ない可能性の方が低い。そんなことにまで気が回らないほど動転していたのだろうか。
「腑抜けた演奏しやがって」
ビールの入ったグラスを傾けながら、龍生も毒づく。
「……悪い」
一応、プロとしてステージに立つ以上、言い訳はきかない。
「なんか心ここにあらずってカンジだったよ。智弥らしくない」
颯にはピアノの音色で何もかも伝わってしまいそうだ。意識の奥底で芽吹きそうな微かな想いまで。
そんな颯の口髭についたビールの泡に気づき、隣に座る龍生が指で拭ってやる。
ジャズとクラシック。ギターとピアノ。ジャンルも楽器も違う。外見も、服の趣味も、醸し出す雰囲気すらも全く違う。それなのに、二人が並んでいるとジクソーパズルのピースがぴたりと合わさったような、充足感に満たされるのはなぜだろう。
――ねえ、おじちゃん。
――颯ちゃんがね、死にたいって言ってるの。おれじゃ力が足りないから、おじちゃん止めてくれない?
――……誰がおじちゃんだよ。
二人を引き合わせたのは自分だと自負してやまない智弥だが、こんなにも仲睦まじい姿を見せられると照れくさくなる。
「ところでそちらは? 智弥の恋人?」
「ち、違います!」
繋いでいた手をぱっと離される。ぬくもりが遠ざかっていく。
酔いは冷めたかと思ったが、顔が赤い。
「……大丈夫か?」
心配になってのぞきこむと、ふいっと顔を逸らされた。
「だ……大丈夫っ」
「帰り、送ってくから。もうちょい出番あるんだけど、それまで待てるか?」
「う……うん」
一人ではまたこっちが不安になる。
「僕たちまだいるから、一緒に待ってるよ」
颯がピースした手を裏返して目元に当てた。最近テレビで女性アイドルがやっていたのを見て真似しているらしい。――やるか? 口髭生やしたおっさんが。
「頼む」
「ひとつ貸しな」
横から龍生が口を挟んでくる。
「……へえへえ」
不安げにこちらを見上げてくる光希に気づき、
「一応、紹介しとくな。あの口髭のおっさんが高屋敷颯。俺のピアノの師匠で、うちの親の同級生。んで、こっちのオールバックのおっさんが小野田龍生。ギターの方の師匠」
「よろしくね」
颯が強烈なウィンクをかましてくるのを、思わず避けるように体を反らす。
「……まあ、悪いひとたちじゃないから」
光希に智弥との関係を根掘り葉掘り訊いてくるだろうが、背に腹は変えられない。
「いってらっしゃ~い」
颯がにこにこと手を振った。
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