降り積もる記憶の彼方から

椎葉ユズル

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last scene.

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 ふ、と目が覚めると温かい腕の中だった。
 遼太郎は目を擦りながら、昨夜のことをぼんやりと思い出そうとする。見慣れない天井。広いベッド。手を動かすと、硬い腹筋に触れた。

 がばっと起き上がろうとして、腰に感じた鈍痛のために起き上がれずまた元の位置に戻る。「ん……」と身じろいだ隣で寝息をたてている自由に跳ねた黒髪の持ち主をそっと見やる。

 ……そうだった。俺……。

 いろいろなことが思い出されて、遼太郎は頬がかあっと熱くなってきたのを感じた。

 ……気持ちよすぎて意識がトぶなんて、初めてだ。

 今年の誕生日は、初めてのことが多すぎる。
 遼太郎は腕で顔を覆って、大きなため息をついた。



 体はあちこち痛むが、桜並木が見たくてむりやり体を起こした。
 まだ太陽は昇ったばかりだ。その辺にあった黒木の服を拝借し、遼太郎は出窓のカーテンを開いた。
 昨夜、あそこで佇んでいたのが、遠い過去のようだ。

 感傷にふけっていると、寝室の引き戸が乱暴に開かれた。下着姿の黒木が慌てたように出てきて、遼太郎の姿を見ると、ほっとしたように息をついた。

「もう……びっくりさせないでくださいよ。帰っちゃったかと思った……」
 寝癖で大変なことになっている髪型すら愛しいと思ってしまう。恋心とはやっかいなものだとつくづく感じた。

「悪い。そんなに驚くと思わなくて……」
 背中からぎゅっと抱きすくめられ、少し面映ゆい。おはようございます、とささやいてくるのに、おはようと返す。

「あと、お誕生日おめでとうございます」
「もうだんだんめでたくなくなってきたけどな」
 腕の中でため息をつく。くすり、と笑われて首筋がくすぐったい。

「もう少しベッドでゆっくりしたかったなあ」
 黒木が頬を摺り寄せてくる。
「……また、今度な」
 はい、と素直な返事が降りてくる。また次があると思うと、羞恥と期待で体が火照ってきた。

 くしゃん、と背中から聞こえてきたので、恥ずかしさもあって「何か着てこい」と長い腕を引き剥がした。



「あれ、完成したのか?」

 作業台の上のログハウスが目に留まり、寝室から戻ってきたトレーナー姿の黒木に尋ねる。すでに屋根が乗せられ、見た目は完璧だ。

「だいたいは。あと内装と……あ、そうだ」
 ちょっと見てもらえます? と遼太郎を作業台の方へ促す。

「中でランプが灯るんです。これ、押してみてください」
 と、スイッチを差し出される。

「わあ、すげえ」
 小さな窓から灯りがもれてくる。ドアの横にもランプがついており、同時にほのかな灯りをもたらす。
 黒木と二人で、しばらくともしびを眺める。

「なんかいいなあ、こういうの」
「……俺は、遼太郎さんがいてくれるだけで幸せいっぱいです」
「……バカ」

 照れ隠しに暴言を吐くと、額にキスを落としてくる。物足りなくなって遼太郎が顔を上げると、それに応えるように黒木が唇を寄せてきたので、遼太郎はそっと睫毛を伏せた。


 last scene. 〈了〉

 ありがとうございました! あと黒木視点の後日談へと続きます(*^_^*)
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