降り積もる記憶の彼方から

椎葉ユズル

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later scene.1(黒木side)①

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 ――また雪が降り始めた。

 昼時なのに空はどんよりと薄暗い。今日は朝から降ったり止んだりを繰り返している。
 佐野さんと買い物にでも行こうかと考えていたが、寒いし、ゆったり部屋で過ごすのもいいかなと思い直し今に至る。

 窓の方を向いてソファに座り、ずっと読み耽っていた膝に乗せた本から顔をあげて出窓の外を眺めていると、俺の背中に寄りかかっていた佐野さんがふとこちらを見上げる気配がして振り返った。手にはゲーム機のコントローラーが握られている。

 佐野さんがうちに来るようになって、最新のゲーム機を購入してしまった。今、佐野さんは戦国時代のシミュレーションゲームにハマっているらしく、テレビからはひたすらその音楽や雄叫びのような台詞が流れて来る。
 本を広げた俺に『……うるさくない?』と遠慮がちに訊いてきた佐野さんが可愛くて、『全然平気です』と笑顔で答えた。

 佐野さんがじっと見つめてくるのでドギマギしてしまう。



 あの日……佐野さんの誕生日に初めて肌を重ねて。佐野さんは男同士初めてだろうし、いきなり最後までなんて身体に負担かけるだろうし我慢しようと思ってたのに。
 まさか佐野さんからあんな台詞出てくるなんて想像もしてなかった。

 俺も余裕なくなって、勢いにまかせちゃったところあるから……佐野さん、痛かったと思うんだけど……嫌になってないかなあ。そう思うと、なかなかそういう雰囲気になだれこめない。……でも、嫌ならうちに来ないよな、うん。――けど。
 いざ、押し倒して「無理だ」って言われたら……へこむなあ。

 背中に感じているぬくもりが心地よくて離れがたかったが、沈黙に耐えかねて
「コーヒー、飲みます?」
 と訊くと、
「うん」
 と返ってきたので立ち上がってキッチンへと向かった。

 香ばしい匂いを漂わせたコーヒーカップをふたつ手に、またソファへと戻る。ひとつを佐野さんに渡し、先ほどの位置へと体を戻すと、もぞもぞと佐野さんがくっついてきたのでほっとした。



「……お前、コーヒー淹れるの上手いよな」
「好きなんで」
 ふうん、と俺からテレビ画面に視線を移す。
 何か言いたげな瞳にさらにドギマギする。

「あ、こいつ。島左近」
「へえ。めちゃくちゃイケメンですね」
 こういう顔が好みなのかな、と画面に映ったシュッとした顔を眺める。ゲームのキャラクターにまで嫉妬してどうするんだ。自分でも呆れる。

「……ちょっとお前に似てるよな」
「え」
 予想外の言葉に思わず目を見開く。佐野さんは穴のあくほど俺の顔を見つめてくる。……ものすごく照れる。

「そんなに見ないでください……」
 と片手で口元を覆った。佐野さん、目力強いんだよな。目大っきいし。
「……俺、お前の手、なんか好きかも」
 視線を外さずぐいぐい寄って来て、手をとられる。

「――な、何なんですか、もう」
「あ、いや深い意味はないよ? 手のひら大きいわりに、指が細くて長くていいなあって……」

 深い意味なくてこれ? もう、これわざと? 誘われてる俺!? え、どっち!?

「佐野さん……歯に衣着せないというか。思ったことズバズバ言うタイプですよね」
 背中をつーっと汗が流れていく。何かを試されてる気がしてならない。

「あー……うん。そうかも」
 やっと手を離してくれてほっと息をつく。佐野さんが照れたように後ろ頭を掻いた。

「俺、昔それで結構失敗したからさ。あんまり自分の感情出さないようにしてたんだけど。でも、お前にはその必要がないっていうか……」
「佐野さん……?」



 佐野さんの言いたいことを量りかねて、首をかしげる。でもすぐに、まあいいや、とテレビに視線を戻されてしまった。
 しばらくゲームのBGMと効果音だけが部屋を包む。集中してるのかなと思いきや、佐野さんが視線はそのままに口を開いた。

「考えたらさあ、俺突っ走ったよなあ。初心者なのに」
 え、いきなりその話?
「……そうですね、かなり」
 佐野さんの綺麗なラインを描く横顔を見つめる。そしていろいろ思い出して体が火照ってきた。

「あんなに迫られて俺も余裕なくしちゃって。もうちょっと落ち着いてしたかった……です」
「え、そんなに恥ずかしいことした? 俺」
「……いきなり女豹のポーズは反則ですよ。その前のも」

 まさか初めての夜に咥えられるなんて。
「そういえばあれ、気持ちよかった? 俺、あんなのしたことないしさ、やり方とか全然分かってなかったけど、お前どうだったかなって……」

 そんなの言葉にできませんって!
 俺はもう耐えられなくなって、佐野さんの顎をとらえた。

「佐野さん、無自覚に煽りすぎ!」
「え、え? 俺別に何も……んんっ、待てって、ちょ、セーブさせて……っ!」


 
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