悪の組織のバイトが活躍したらダメですか?

くらげさん

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戦隊

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 バタンとロッカーの扉を閉める。俺はバイト仲間に話しかけた。

「今日の先輩は誰だっけ?」

「今日はダブジザー先輩だよ」

「マジかよ!? 制服戦隊とやんのか。アイツらの攻撃痛てぇんだよ」

「制服戦隊といえばまた1人増えたらしいぞ」

「アイツら何人になるんだよ」

 俺は更衣室に設置されている転送装置に入る。そして腰のベルトの横腹辺りを押す。シャッと仮面が装着された。

「15人目だ」

「もうバイトの俺たちが帰ったら集団リンチと変わんねぇだろ」


 シュンと、更衣室から山岳地帯に風景が変わった。

 俺は先輩たちから声だけは褒められる。今日も精一杯声を出す。

「キーキー! キーキー!」


 ダブジザー先輩は悪の力を貰って人とザリガニが融合した姿になっている。

「セイフグセンダイ! ヨグギダナ!」

 人型のザリガニなんだけど、肝心な腕と手だけ人だ。武器はハサミなんだが、手で持っている状態だ。
 なんでザリガニと融合したんだろうと言う見た目をしている。
 
 フィルンダー先輩よりも奢ってくれるからダブジザー先輩は好きだ。

 たまに下水道みたいな匂いがするが、そんな時はバケツ一杯の水を背中から身体全体にかけてあげると、ギギギと口から泡を出しながら喜ぶ。


「トウ!」「トゥ!」「やぁ!」「はぁ!」「やぁ」「……」「トウ!」「フッ!」「トウ!」ッバタ!「ヴぅ」「ハッ!」「トゥ!」「やぁ!」「フゥ!」「トウ!」

 赤い制服の奴がカッコ良く決める。15人も居ると登場シーンから時間が掛かる。まさに特撮の映画のようだ。

 俺は登場シーンで失敗して足を引きずっているオレンジ色の制服の奴が心配だ。

「赤く煌めく情熱の星! 制服レッド!」

「青く静かなる清流の星! 制服ブルー」

「緑仰ぐ吹きすさぶ疾風の星! 制服グリーン」

「黄色くスマイル! バチバチ! バチバチ! 雷鳴の星! 制服イエロー」

「結ぶ繋ぎの恋の星! 制服ピンク」

 登場セリフを大声で言って動く、最後には制服の校章を見せてドヤ顔。まぁ、マスクで顔は見えないけど。

 登場シーンがセリフも合わせると凄く時間が掛かる。

 こんな時には「キーキー!」なんて言えない。礼儀は守らないと。

 オレンジの制服の奴は足を抑えたまま登場セリフは飛ばされていた。

「繋がる正義は悪を何倍にも明るく照らす! 輝く一等星! 1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「8」「9」「11」「12」「13」「14」「15」

「「「「「制服戦隊カーストジョウイジャー」」」」」

 
 ババンと制服戦隊の決めゼリフと共に後ろの方で爆発が起きる。爆発のタイミングはバッチリで、拍手したい衝動に駆られる。

 爆発のタイミングをミスると、負けた時に先輩方が飲み会の席で『最初が悪かった』『盛り上がりが足りなくて、ヤル気が出なかった』とネチネチ言ってくる。

 今日の爆発の担当誰だっけ? あぁ岡村か。アイツは毎回完璧だ。バイトだけどな。

 俺よりも後に入ってきた岡村は俺を置いて、もうそろそろバイトをやめて、悪の組織の幹部候補に出世すると聞く。岡村は俺よりもすげぇな。

 そうしたら俺が育てたとか言えるんだろうか? 後輩だったわけだし、俺が教えたし。

 後輩って言えるのはやっぱり、身分が同じ時だけか? そうだよなぁ。

 一人納得して「キーキー!」と鳴く。

「オマエラ、カカレ!」

「キー!」

 ダブジザー先輩の声で制服戦隊に特攻する。

「やべ!」

 レッドのところに来てしまった。レッドは俺の腹にパンチを一発お見舞し、くの字に折れ曲がったところで、背中から肘で叩き落とした。

 腹の痛てぇし、背中も痛い。息ができない。

 制服戦隊嫌いだわ~。

 俺が地面に横になっていると、すぐさまバイト仲間が肩を貸してくれる。

「おい早く転移しないと、ロボットが来て死ぬぞ」

「あのレッド、マジでッ!」

「俺もパープルに銃で撃たれた」

「お前大丈夫かよ」

「なんとかな」

 怖ぇ、戦隊は容赦ねぇんだよな。

 傷ぐらいなら支給されている悪の力が内包された応急薬なんとかなるが、欠損は一時悪の組織の病院に通わないといけなくなる。

 死ねば、そのまま死だ。


 後ろを見ればダブジザー先輩は制服戦隊からのリンチを受けて瀕死だ。

 そしてレッドが学生証から大砲を出して、トドメを刺す。本当に人間か?

 爆発と共にダブジザー先輩は空に着きそうな程にデカくなる。


 俺たちがダブジザー先輩を応援するのはここで終わる。ロボットが来たら俺たちなんて蟻のように潰されて殺される。

 制服戦隊のロボットは全機飛行型で合体してロボットになる。


 バイト仲間が転移石を使い、山岳地帯から更衣室に戻って来た。

 更衣室はバイト仲間のうめき声で埋めつくされていた。

 歩きながらシャッと仮面の装着を解除して、自分のロッカーに着くと、ロッカーを開けてスーツを脱ぐ。

「なんだよ、もう帰んのか?」

「はぁ」

 俺はバイト仲間にクソデカ溜め息を吐いた。

「彼女いないお前らとは違う。俺、今から彼女と会うんだ」

「「「「はぁ?」」」」

 俺は殺気に満ちた涼やかな更衣室を抜けて、魔法少女のもとへ急いだ。





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