2 / 64
戦隊
しおりを挟むバタンとロッカーの扉を閉める。俺はバイト仲間に話しかけた。
「今日の先輩は誰だっけ?」
「今日はダブジザー先輩だよ」
「マジかよ!? 制服戦隊とやんのか。アイツらの攻撃痛てぇんだよ」
「制服戦隊といえばまた1人増えたらしいぞ」
「アイツら何人になるんだよ」
俺は更衣室に設置されている転送装置に入る。そして腰のベルトの横腹辺りを押す。シャッと仮面が装着された。
「15人目だ」
「もうバイトの俺たちが帰ったら集団リンチと変わんねぇだろ」
シュンと、更衣室から山岳地帯に風景が変わった。
俺は先輩たちから声だけは褒められる。今日も精一杯声を出す。
「キーキー! キーキー!」
ダブジザー先輩は悪の力を貰って人とザリガニが融合した姿になっている。
「セイフグセンダイ! ヨグギダナ!」
人型のザリガニなんだけど、肝心な腕と手だけ人だ。武器はハサミなんだが、手で持っている状態だ。
なんでザリガニと融合したんだろうと言う見た目をしている。
フィルンダー先輩よりも奢ってくれるからダブジザー先輩は好きだ。
たまに下水道みたいな匂いがするが、そんな時はバケツ一杯の水を背中から身体全体にかけてあげると、ギギギと口から泡を出しながら喜ぶ。
「トウ!」「トゥ!」「やぁ!」「はぁ!」「やぁ」「……」「トウ!」「フッ!」「トウ!」ッバタ!「ヴぅ」「ハッ!」「トゥ!」「やぁ!」「フゥ!」「トウ!」
赤い制服の奴がカッコ良く決める。15人も居ると登場シーンから時間が掛かる。まさに特撮の映画のようだ。
俺は登場シーンで失敗して足を引きずっているオレンジ色の制服の奴が心配だ。
「赤く煌めく情熱の星! 制服レッド!」
「青く静かなる清流の星! 制服ブルー」
「緑仰ぐ吹きすさぶ疾風の星! 制服グリーン」
「黄色くスマイル! バチバチ! バチバチ! 雷鳴の星! 制服イエロー」
「結ぶ繋ぎの恋の星! 制服ピンク」
登場セリフを大声で言って動く、最後には制服の校章を見せてドヤ顔。まぁ、マスクで顔は見えないけど。
登場シーンがセリフも合わせると凄く時間が掛かる。
こんな時には「キーキー!」なんて言えない。礼儀は守らないと。
オレンジの制服の奴は足を抑えたまま登場セリフは飛ばされていた。
「繋がる正義は悪を何倍にも明るく照らす! 輝く一等星! 1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「8」「9」「11」「12」「13」「14」「15」
「「「「「制服戦隊カーストジョウイジャー」」」」」
ババンと制服戦隊の決めゼリフと共に後ろの方で爆発が起きる。爆発のタイミングはバッチリで、拍手したい衝動に駆られる。
爆発のタイミングをミスると、負けた時に先輩方が飲み会の席で『最初が悪かった』『盛り上がりが足りなくて、ヤル気が出なかった』とネチネチ言ってくる。
今日の爆発の担当誰だっけ? あぁ岡村か。アイツは毎回完璧だ。バイトだけどな。
俺よりも後に入ってきた岡村は俺を置いて、もうそろそろバイトをやめて、悪の組織の幹部候補に出世すると聞く。岡村は俺よりもすげぇな。
そうしたら俺が育てたとか言えるんだろうか? 後輩だったわけだし、俺が教えたし。
後輩って言えるのはやっぱり、身分が同じ時だけか? そうだよなぁ。
一人納得して「キーキー!」と鳴く。
「オマエラ、カカレ!」
「キー!」
ダブジザー先輩の声で制服戦隊に特攻する。
「やべ!」
レッドのところに来てしまった。レッドは俺の腹にパンチを一発お見舞し、くの字に折れ曲がったところで、背中から肘で叩き落とした。
腹の痛てぇし、背中も痛い。息ができない。
制服戦隊嫌いだわ~。
俺が地面に横になっていると、すぐさまバイト仲間が肩を貸してくれる。
「おい早く転移しないと、ロボットが来て死ぬぞ」
「あのレッド、マジでッ!」
「俺もパープルに銃で撃たれた」
「お前大丈夫かよ」
「なんとかな」
怖ぇ、戦隊は容赦ねぇんだよな。
傷ぐらいなら支給されている悪の力が内包された応急薬なんとかなるが、欠損は一時悪の組織の病院に通わないといけなくなる。
死ねば、そのまま死だ。
後ろを見ればダブジザー先輩は制服戦隊からのリンチを受けて瀕死だ。
そしてレッドが学生証から大砲を出して、トドメを刺す。本当に人間か?
爆発と共にダブジザー先輩は空に着きそうな程にデカくなる。
俺たちがダブジザー先輩を応援するのはここで終わる。ロボットが来たら俺たちなんて蟻のように潰されて殺される。
制服戦隊のロボットは全機飛行型で合体してロボットになる。
バイト仲間が転移石を使い、山岳地帯から更衣室に戻って来た。
更衣室はバイト仲間のうめき声で埋めつくされていた。
歩きながらシャッと仮面の装着を解除して、自分のロッカーに着くと、ロッカーを開けてスーツを脱ぐ。
「なんだよ、もう帰んのか?」
「はぁ」
俺はバイト仲間にクソデカ溜め息を吐いた。
「彼女いないお前らとは違う。俺、今から彼女と会うんだ」
「「「「はぁ?」」」」
俺は殺気に満ちた涼やかな更衣室を抜けて、魔法少女のもとへ急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる