嫌われ者のネクロマンサー

くらげさん

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4話

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◇◇◇◇


 王は、追手を出した。

 白の魔女を、連れ戻せ。

 理由は、あまりにも馬鹿げていた。

 王都に呼ばれた名のある魔女、星篝ほしかがりの魔女が、他の専門家たちが黙り込む中、こう言ったのだ。

「化け物のような症状は、白の魔女の血を飲ませれば、治るかもしれない」

 根拠はない。理論もない。
 ただの白の魔女の魔法を理解できない嫉妬だったのかもしれない。

 それは願望に近い推論だった。

 だが王は、それにすがった。理屈ではなく、願いに。

 王である前に、王妃を失うことを恐れる、一人の人間として、王妃を救える可能性が、ほんの一筋でもあるのならと、どんな理屈でも構わない。盲目になり、命令した。

「白の魔女を捕らえろ。生きて、城へ連れて来い」

 こうして兵は動いた。


◇◇◇◇


 数日後、村に見慣れない兵が現れる。

 鉄靴が地面を叩く音。鎧の擦れる音。それだけで、空気が殺伐としていった。

「ネクロマンサーを探している。服装は白の外套をまとっている」

 低く、よく通る声。

 その言葉に、村民がざわついた。

「ネクロマンサーって?」
「王都から逃げた魔女だ」
「化け物を作ったって噂の……」

 囁きは、いつの間にか確信めいた声色に変わっていく。

 セレナは、少し離れた場所からその光景を見ていた。

 白い外套は、もう持っていない。すでに焼いた。

 それを着ている限り、セレナは『物語の都合がいい魔女』に担ぎあげられると知っていたからだ。

 名前を捨てても。善行を忘れ去られても。魔法で救った命が、誰の記憶にも残らなくなっても。

「……私の血で、治るなら」

 セレナは、そう呟きかけて、言葉を飲み込んだ。

 治らない。そんな都合のいい魔法は存在しない。

 それを一番よく知っているのは、死者を蘇らせた、セレナ自身なのだから。

 全容を知っているセレナは、息を殺し、顔を伏せる。


 だが、兵の視線が、顔を伏せたセレナの動きで止まった。

 村民たちは皆、噂話に夢中で兵を見ている。
 ただ一人、セレナだけが、最初から最後まで兵を見なかった。

 恐れているのではない。
 見てはいけないものを知っている者の、視線だった。

 兵は、違和感を覚えた。

「おい」

 鉄靴が、地面を鳴らす。

「顔を上げろ」

 兵は、セレナに詰め寄った。

 村民の中でジークだけが、動いていた。

「待ってくださいよ」

 セレナと兵の間に肩を入れ、ジークは兵に眉をひそめていた。


◇◇◇◇


 嫌な音だと、ジークは思った。

 鉄靴が地面を叩く音は、村の空気を壊す。
 いつもは風と獣の声しかしないこの場所に、王都の匂いを運んでくるのは、呑気な馬車のカツカツとした騒音だけだったはずだ。

「ネクロマンサーを探している。服装は白の外套をまとっている」

 その言葉を聞いた瞬間、ジークの胸の奥がざわついた。

 理由は分からない。けれど、その言葉が放たれた瞬間、村の空気が変わったのは確かだった。

 噂話が、声になる。声が、断定になる。人は、誰かを悪者にする時だけ、こんなにも息が合う。

 白い外套の女。

 兵の言葉を聞いたとき、ジークはセレナを思った。

 ジークがセレナをチラリと見ると、俯いている。視線を落とし、息を殺し、まるで最初からこの光景を覚悟していたかのような。

 おかしい。

 怖がっている、とは違う。村の誰よりも、落ち着いている。それが、逆に不自然だった。

 兵の足が、動いた。

「おい」

 低い声。その一言で、ジークの背中が凍る。

「顔を上げろ」

 次の瞬間、ジークの身体は勝手に動いていた。

「待ってくださいよ」

 気づいた時には、彼はセレナの前に立っていた。

 理由など、後からいくらでも付けられる。だが今は、ただこのままではいけないと思った。

「この人がネクロマンサーだって証拠、あるんですか」

 兵は、じっとジークを見下ろした。

「白い外套は着てないし、昔からセレナはここで暮らしていた。村の連中に聞いても、怪しいことなんて」

「黙れ」

 一言で、遮られた。

 剣の柄に置かれた兵の手が、わずかに動く。

「王命だ。疑わしい者は連行する」

 疑わしい。その言葉は、やけに軽く聞こえた。

 疑わしいだけで、連れていく。疑わしいだけで、人生を奪う。

 ふと、ジークは背中に視線を感じた。

 振り返ると、セレナがこちらを見ていた。

 初めて、ちゃんと目が合った気がした。

 怯えているわけじゃない。
 助けを求めているわけでもない。

 それより、諦めている。

 彼女は、何を知っているのか。
 何を、隠しているのか。

 それでも。

「……この人は、ただの村人です!」

 ジークの声は、思ったよりも震えていなかった。

 正しいかどうかなんて、分からない。
 だが、ここでの選択を間違えば、きっと一生後悔する。

 兵は、しばらくジークを見下ろし、やがて、言った。

「連れて行く」

 その言葉で、ジークは悟った。

 セレナが、もう逃げる気がないことも。助けられることを望まないのも分かっていた。


「やれるものなら、やってみろよ」

 それでも、ここで黙る理由にはならなかった。











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