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猫じゃらしの家
しおりを挟む何事にも答えは存在する。
もう少し上手く出来てれば、もう少し勝ちに貪欲じゃなかったら。
クランバトルでは自分のプレイだけに集中して最善の解答をしたつもりだったが全てが裏目に出た。
情けない。
通り過ぎるプレイヤー達全員が俺を馬鹿にするんだ。
見慣れぬ街並みを見ながらそんな風に思えてならなかった。
足を止め、ステータスを開く。
強制的に違う国に飛ばされたせいで全ての武器は没収されアイテムすらも残っていない。
中級クランに居たがそんなに良い装備やアイテムを持っていた訳じゃない。
勝利時の分け前も耐久値が少なくなった武器を直すか買い換えるだけ、後は全て換金して生活費や貯金をしていた。
今着てる防具は初心者に支給される装備で能力補正は何も無いがその代わり自動修復機能が備わっている。
これは強制的に転移しても取られなかったみたいだ。
俺が愛用していたプレイヤー全員が持ってる初心者装備。
それで金無しと馬鹿にされることもあったがコレも足でまといと言われる所以だったと思う。
ステータスの端に換金出来なかったそれなりのお金が目にチラつくが持っていてもただのゴミ。この国では使えない。
受付嬢のアリサさんが別れる際に少ないですがとお金を恵んでくれた。
そのお金は決して安くなく一万円もの大金を俺にくれたのだ。
『応援してます』
ニコッと笑うその仕草とその一言だけだが疲れきった心に酷く染み渡った。
感謝する暇もなくプレイヤーの波に押されてクランを出た。
戻るのも邪魔だろうと心の中でお礼を何度もする。
次に来る時にはと心に誓った。
俺はクランバトルの前に日課の魔物を狩りに行く。
運良くベータテストからReLIFEをやってるがこのゲームが始まって以来一日と欠かしたことは無い。
他の国ではどんな魔物が出るのか少しだけワクワクしていた。
その前に武器がいると武器屋をプレイヤー達に聞いて回る。
誰もが俺の服装を見てにこやかに勧めてくれたのは【猫じゃらしの家】という武器屋で何かと初心者プレイヤーに親切な店らしい。
どのプレイヤーもあの時はお世話になったと声を漏らしていた。
マップを頼りに店を探し出して中に入るとオッサンが睨みつけてくる。
『おい、小僧。金は持ってんのか? 冷やかしは他所でやれ、金が無いならさっさと帰んな』
愛想が悪いオッサンだった。
武器を見て回ると最高級品と書かれた武器は前の国では安値で叩き売りされる代物だった事に驚愕する。
百円セールで売られてる物が百万円セール状態だ
ぼったくりじゃないか。心の中で思うが口には出さない。
一万円で武器も買う事が出来ないとは……。
本当に冷やかしになったみたいだ。
他のお客さんもいるからか少しばつが悪くなり店を出ようと足を早める。
「チッ」
短い舌打ちが聞こえて振り向くと。
「俺の店を跨いで武器も持たずに帰ろうとするとは良い度胸だ」
カウンターからのそっと遅い動きで立ち上がり大きく歩を広げて俺の前に立ちはだかる。
「初心者の皮を被ったひょうきんな奴が現れたと思ったら金無しかよ」
ちらっと握られた一万円を見られたと思い咄嗟に腰の後ろに隠す。
『どれでも一本タダでくれてやるから二度と来んな』
え? 変な声が漏れてないだろうか。
オッサンは二度は言わんとカウンターに戻っていった。
どれでも一本?
ぼったくりだが初心者から始めるとしたら必要なクラスの装備が満遍なく揃っていてオッサンが作ったのか装飾も凝られている。
良く武器を見てみると職人としての腕は良いのか見た武器のどれもがレアリティ的に一段か二段高い能力が付与されている事も分かった。
前の国の価格では百円が三百円に変わるぐらいの物だが感心せずにはいられない。
俺の目に止まったのはオッサンの頭の上。
ガラスケースに収まっている刀と非売品の文字。
水色の刀身に白の刃紋が浮き出た刀。
目を凝らして見ると固定ダメージ【1】と破損耐性が付与されている。
武器を介して行われる全てのアクティブスキルの攻撃力は武器依存。
武器が強ければ強い程いいのだが初心者防具と同系統スキルが武器に施されているのは初めて見る。
すげぇとマジマジと見てしまう。
「ほう、見る目だけはあるようだな」
ハッとするとハゲたオッサンの頭部が口に触れそうになっていた。
あぶねぇ。
流石にアレをくれなんて図々しくて言えないから目線を切る。
「武器で固定ダメージそれも1だと致命的だと思わないか?」
オッサンはニヤッと笑い、それに釣られて俺も声を出す。
『『クリティカルは関係ない』』
オッサンは頭上に手を力強く出すとガラスケースがパリンと割れて青い刀が落ちてくる。
オッサンは危なげなく空中で取ると俺に刀を放り投げて来る。
カッコよく受け取れず腕に突き刺さるが全然痛くない。
刀を腕から抜いてオッサンと刀を交互に見る。
「お前は武器を持ってるまだ用があんのか?」
ギロっと睨みつけられるが俺は頭を下げる。
『ありがとうございます』
深々と下げる。
オッサンの厚意に甘えるだけしかできない今の自分が情けない。
俺はカッコ悪い奴だ。
アリサさんやオッサン。この国で恩返しする人がまた増えてしまった。
涙で濡らした顔をグシャッと袖で拭き取り顔を上げる。
オッサンは真剣に俺を見て俺の感謝の言葉を真摯に受け取っていた。
俺は店を出て再度店に向かって頭を下げた。
猫じゃらしの家で一部始終を見ていたプレイヤーが声を上げる。
「リグルのオッサン良いのか? 大事な物なんだろ」
「ライヤお前も用が済んだら俺の店からとっとと帰れ」
リグルは態度を変えずにライヤに言い放つ。
「最上位クランに居たリグルのオッサンが職人になって最初に作った武器なんだろ? そんな大事な物をタダで譲るなんて正気の沙汰じゃない」
「良いんだよ。お前はあの刀欲しいか?」
リグルは今はない刀を求めて視線を上に向けた。
「固定ダメージ『1』だろ? 正直に言うと意味ないよな」
「上級クランにいるお前もその程度か」
リグルはクツクツと楽しそうに笑う。
『あれだけのプレイヤーのお眼鏡に叶う程の物を作れたんだから俺はそれを誇りに思うだけだ』
ライヤがリグルの物言いを理解出来るのは五時間後の事だった。
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