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第4話 人気者

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 教師は僕を警戒しながらテストを配っていた。

 もちろんと言うべきか、このテスト用紙には能力を制限する素材が編み込まれている。

 初めの合図と共に放送が流れ、BGMが大音量で流れ出す。

 これも能力を制限する音、スキルキャンセラーだ。

『テスト中は静かに受けろ』

 そんな事がありえるのか? 大昔のテスト風景が羨ましいとすら感じる。

 能力を上手く使える奴が天才なんかとチヤホヤされてた時代らしい。

 僕もどうせならそんな世界に行ってみたい。

 名前の欄に『解ける問題を片っ端から書け』と書く。

 僕の能力は情報の共有。能力の名は『共感覚ラビット

 見た物を他人に見せる力だ。

 このスキルキャンセラーは十分に一度、一秒間の隙が出来る。

 テストが配られる直前と、あとは十分起きだ。

 教師は僕の能力を知っているが、小学生の時から『インビジブルボディ』と伝えてある。

 影が薄くなる能力。

 僕は小学校の終わり頃まで、その能力だと信じて疑わなかった。

 能力が違ったのなら、なんで僕に友達が出来ない! ボッチ飯しかしたことねぇわ!

 そんな事は置いておいて、もうそろそろ十分になる。

 僕は再度能力を起動する。

 全体に能力を発動すると、教師まで範囲内に入ってしまう。

 一人を省いて全体に能力を行使するのは、単純でいて、凄く難しいと聞くが、僕は難なくやってみせる。

 何十年省かれてたと思ってんだ? そんな僕が一人を省るくらい造作もない。

 ブォンと能力が僕を起点に波紋のように広がると、僕の机に置いてあるテスト用紙が真っ黒に染まる。

 それをクリーンな状態に戻して、再度能力を行使する。

 あとは答えが分かっている所をなぞるように書くだけだ。

 僕はやり切った安堵感と共に、チラリと教師を見る。

 教師は何事もなかったように僕から視線を切ると、終わりのベルが鳴り響く。

 テスト回収の時間だ。


 全員のテストにすぐさま目を通していく教師。

 落とす気満々でいた教師は悔しそうに呟いた。

「全員合格だ。教師への挑発行為は慎むように……あと、勉強よく頑張ってるな」

 教師はそう言って教室から出て行った。



 教室中が歓喜の渦に巻き込まれる。

 僕の肩を叩いてお前のお陰だ! と言う奴や、お辞儀してありがとうを言う奴。

 感謝の言葉を残していくクラスメート共。

 大半の生徒が僕に感謝を示した。

 ……お前ら勉強しとけや。

 そんな中、清楚ギャルなクラスメートが「余計なお世話」と、僕に言い残していったのも印象的だった。
 
 緑山さんも振り返り。

「ほら、私の言う通り」

 何故か得意気だった、悪い気はしない。


 そんな僕のお昼は……ボッチ飯だった。


 えっ? 人気者どこいった?

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