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第45話 王子様

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「一発目」

 僕は肩の温度を感じる間もなく、炎を纏った右拳を頬に受けて吹き飛ばされる。



「ゴホッ、ゴホッ、グッ!」

 吹き飛ばされる所までは覚えてる。

 僕は気絶していたのか。意識がほんの少しだけ、どこかに行っていた。危ない。

 宇宙空間のはずなのに、口の中からジャリジャリとする砂を吐き出した。土の味だ。

 地面がある。

 地面は消したはずなのに、と思うが、僕は仰向けになって動けないでいる。

 オッサンから殴られて、痛いなんてもんじゃない。

 凄く痛い! 顔が取れたんじゃないかと思うほどだ。

 はぁ、『共感覚ラビット』で痛みを感じないようにしているけど、それでも痛みを感じるのか。

 億が一勝てたとしても、この戦闘の余波で僕、死ぬんじゃないかな。

「すげぇな見直したぞ。気絶してもこの空間を維持して、チッ! マンションもダメか」

 オッサンは僕を気絶させて、才能が消えることを狙っていたようだ。

「オッサン。月夜先輩の眠りは死んでも死守して見せますよ」

 眠り姫の眠りは小人が守ってたような気がするな。

 あぁ、そうか。

 未来の僕のように一人でカッコ良く戦うなんて間違ってたんだ。

 仰向けから必死に立ち上がった所で、左手の指をパチン! と鳴らす。

 すると、僕がブレていく一人、二人、三人と。

 忍者の影分身みたいだなと、他人事のように思った。


「「「「「「「眠り姫を守る七人の小人とかどうですか?」」」」」」」


 オッサンは轟々と全身に炎を纏う。

 僕はその一瞬で、燃やされて死んだ。

「コイツじゃなかったようだな」

 オッサンはすぐに復活した僕を見ながら、あっという間に次の標的の胸を貫く。

 僕がオッサンを目を追うことは不可能。

 瞬間移動でもしてんの? 空間操作って事はお姉さん先輩と系統は一緒。

 なら、視界に捉えることは不可能と再確認する。


 僕は死んでいく。死んでいくが、すぐに復活する。

 七人の僕を殺し終わると、オッサンはチッと舌打ちする。

「おい、どこに隠れているんだ!」

 オッサンは大声を出すと、僕たちに視線も飛ばさずに、キョロキョロと周りを見ている。

「そんなに僕を探したいなら、炎の海でも出してくださいよ」
 
 炎の空間操作だから炎の海は無理なんじゃないか。

 だって一点集中型で範囲攻撃とか無いだろ。

「あぁ、それがあったな」

 そう言った瞬間にオッサンの後ろからボッボッボッボッボッと横一列に炎の柱ができて、すぐに凄くデカい炎の壁が出来上がった。


 えっ。

「かくれんぼは終わりだ」

 僕のフィールドを一直線上に横切ってるデカい炎の壁は、クネクネと波打ち崩壊した。

 崩壊した炎が波のように渦巻き、僕たちを飲み込む。

 壁だった炎が一瞬で炎の海になった。

 僕は六人の僕を囮に使って、空中に逃げる。

 オッサンの炎がオッサンを避けている?

 オッサンの居るところが炎の海のセーフティーゾーンか。

 流石にオッサンでも、これだけの炎の海をコントロールするのは不可能なのだろう。だから自分の所に炎を寄せ付けていない。

 オッサンを見下ろし、オッサン攻略のヒントを掴む事に必死になる。

 時間を稼ぐには攻略法は必須だろ。


「どこ行った!」

 僕が見下ろしていたはずなのに、オッサンはその場に炎の煌めきを残して消えた。

「やっと見つけた」

 オッサンの声が僕の後ろから聞こえる。
 
 顔だけ振り返ると、オッサンの右手は轟々と炎を纏い、構えとった。

 右手の炎は頭上に永遠と昇り、拳には青い炎の玉が出来上がる。

 この拳は相当なパワーを感じる。

 僕はオッサンの殺気で、蛇に睨まれたカエルのように、動けずにいた。


 オッサンは僕が展開する『共感覚《ラビット》』の中だ。

 情報の共有でオッサンと僕の時間の流れは同期されている。

 でもシンプルな現実の動きまでは僕の専門外だ。

 オッサンは現実の僕が反応出来ない速度で動く。オッサンの動きが見えてても、僕が反応出来る速度の限界はとうに過ぎている。

 まず右の拳を僕の顔面に当て、次は左手の拳に炎を集める。

 僕は人形のようにクルンっと横に一回転する。

 そのまま左の拳を僕の腹にめり込ませる。

 左の拳を抜き、右の拳に炎を溜めて、放つ。

 その繰り返し。時には顔面に、時には腕、時には足、時には胸、時には腹に。


 オッサンは「疲れた」と言い残し、僕の頬に向かって右の拳を打ち付ける。そして引っ張り、拳を下に向けた。



 あっ、死ぬ。



 オッサンの時間を貰っているから、集中すると時間がゆっくり進む。痛覚を切っているから痛みはないが、才能を切ったら死ぬ程痛いんだろうな。

 下は炎の海だ。

 僕はゆっくり炎の海に入っていく。炎の海にあるセーフティーゾーンの僕はそれを見つめながら、身を隠すのをやめた。


 オッサンはセーフティーゾーンに居た僕に気づくとチッと舌打ちする。

 オッサンは僕を見下ろし睨んでくる。

「お前、戦いをなんだと思っているんだ」

「オッサン怒んなよ。七人の小人がいたら……」

 オッサンは身体から青い炎を出して、全身から殺気が盛れているような感じだ。


「あと一人は王子様役だろ」


 僕はオッサンに笑って答えた。

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