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第53話 ターニングポイント

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◇◇◇◇



 違う階に行けるワープホールはもう止まっているだろうか。

 斜めになってる廊下を走って進む。

 途中、上の階へ行く時に閉まってるセキリュティゲートがあったが、それも空奏の魔術師の仮免許をかざしたら開いた。

 ザル過ぎる空奏の魔術師の拠点を小馬鹿にしつつ上の階に入った。


「日影君」

「日影様」

 黒川と白井さん、それと空奏の魔術師が僕の前に現れた。

 しかも空奏の魔術師は人気モデルと人気アイドル。どちらも女性で強さ的にはお姉さん先輩と同レベルか、それ以下の力がある。オッサンよりも強いなんてことはないはずだ。

 模擬戦で黒川と白井さんが戦ってたから、お姉さん先輩に聞いたことがある。『私よりは弱い』と言っていた。

「日影君、なんでこんな馬鹿なことを!」

 黒川から馬鹿と言われて思う。

 馬鹿なことか……そうだな。僕も馬鹿だって思うよ。でも聞いたんだ、大切な人の大切な想いを。

 僕の憧れている空奏の魔術師が善なら、僕のやっている事は悪なのだろう。

 でも善がお姉さん先輩を見捨て、悪がお姉さん先輩を助けられるなら、僕は死んでも悪をとる。

 だから……。


「僕には大切な事だ」


「そうか、君がそう言うならそうなんだろう」

 黒川が僕に背を向ける。

「日影様、話はこれが終わったら聞くと言うことで」

 白井さんが僕に背を向ける

 えっ? 訳が分からない。何も聞かないで味方になろうとしてくれてるのか?

 二人はインターン先の空奏の魔術師に飛び掛る。

 混乱してるが、僕にはそんな暇無いと、二人が戦ってる間を僕は駆け出した。



 僕は上層階に着いた。

 空奏の魔術師と雷華が才能を使って戦っている。

「やっと来た!」

 聞き覚えのある声に耳を傾けると僕の肩に何かが置かれた。その瞬間に視界が変わる。


「はい、最上階」


 デカい部屋に転移させられた。横を見るとお姉さん先輩は居て、僕の肩に置かれていたのはお姉さん先輩の左手。

 そしてお姉さん先輩の視線の先を追っていくと、僕はゴクリと喉を鳴らす。


 イスに座ったアイツ。夢で見たことがある未来の僕の最大の敵。

 ムシャムシャと気色悪い音を鳴らすアブノーマルスキル。

才能劣化アブノーマルスキル 異次元暴食グラトニー

 アイツはヤバい!


「月夜先輩! ここから逃げましょう! アイツはヤバ……い。えっ?」


 お姉さん先輩の上半身が何かに食われたように黒い穴が空いていた。

 ストンと肩に置かれていた左手が落ちた。

「俺の能力を知っているみたいだけど、どうしてかな?」

 呆気に取られていると、アブノーマルからは話しかけられた。

「おい月夜先輩は何処へやった」

「へへへ」

 なにが可笑しいのかソイツはケラケラと笑い。

「よく見てみろ。お前の横に死体が転がってるだろ」

 ソイツは「視力がないのか」と僕を煽る。

「レアスキルの味だ。まぁまぁの味だったな」

「お前の馬鹿舌はどうでもいい。月夜先輩を元に戻せば、僕はそのまま月夜先輩を連れて帰る」

「俺にメリットがないじゃないか」

「メリット? 僕がお前を殺さないという事は、メリットとしては充分じゃないのか?」


 ケラケラとしていたソイツの笑いが止まる。

「ざんね~んでした~。俺は食うだけ、元には戻せない」

 またしてもソイツはケラケラと笑う。

 僕は一歩ずつソイツに近づいていく。

 そのあいだに黒い穴が現れ、僕は食われ続けるが、僕はそれでも止まらない。

 僕の外から見れば、僕は一歩進む毎に食わて、食われた所が不自然にすぐに治り、完全回復を見せている。

 くちゃくちゃ煩いソイツの目と鼻の先に来たら、ソイツは笑う事が出来なくなっていた。


「じゃお前を殺す準備を始めるか」


 僕は一回目の後悔を刻んだ。




◇◇◇◇




「私たちのような空奏の魔術師になりたいって言ってたアンタがね」

 インターンの先輩は俺から距離をとった。

「俺は一度後悔したんです。白井さんも同じ気持ちだったと思います」

 脳裏にチラつく日影君が倒れる姿。

「俺の憧れた空奏の魔術師はどんなに敗北濃厚な戦いだって、助けてと言われたら助けるんですよ」

「そんな都合がいい空奏の魔術師はいない」

「居たでしょさっき、先輩の目の前に」

「あぁ、さっきの彼ね。ノーマルスキルの雑魚って聞いたけど」

「マンションの前で何を見てたんですか? だから日影君は誰かに助けてと言われたんでしょう。その人を必ず助けて」


 そんな魔法を実現する。


「その時の日影君は負けないですよ」


 俺は拳に時を溜めた。

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