天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

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喧嘩

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「リリア剣を出せ!」

「えっ?」

 リリアはユウカ達の傍で立ち上がり俺に歩み寄る。

「お兄ちゃん?」

 リリアは訳が分からないという目で俺に訴えかける。

 足元がぐらつき、視界が歪む。



『時間がないんだ! 早く剣を出して構えろ!』

 

 俺の大きな声にリリアは立ち止まる。

『リミテッド・アビリティー』

 俺は金色のオーラを纏う黒剣を何もない空間から引き抜く。

『天空の光よ、私に力を貸して』

 震える声で詠唱を終え、リリアは透明な剣を出す。



「リリアは小さい頃から鬱陶しくて俺は何時もつきまとわれて本当に迷惑だった」

 口から思っても無いことがベラベラと出てくる。

 本当は可愛くてしょうがなかった。

「リリアは何をするにも上手くできる、本当になんでも出来る天才がいるって思った時は嫉妬した。俺なんか剣だけだぞ? しかもその剣だってリリアは教えればすぐに吸収していくのが腹立たしかった」

 本当は凄く誇らしかった。

 自分の妹を世界中に自慢したいぐらいに。

「俺はリリアから離れて、リリアの顔を見なくていいようにしたかった! 俺はリリアが嫌いだからな」

 本当はずっと一緒に居たかった。

 俺と居るとリリアに危険が降りかかる。

 それがたとえ少しだとしてもその可能性があるなら俺はリリアと離れようと、リリアに嫌われようと、耐えられる。

 今までリリアの笑顔にどれだけ救われたのか分からないから。

「だから……だから俺は……」



『お兄ちゃんは嘘つくのが下手なんだよ』



 黙って聞いていたリリアが声を出す。

 するとポツリと黒剣を持ってる右手に冷たい感触が伝わる。

 雨だろうか?

 空を見上げても雲が一つもない。

 頬を伝う冷たい雫がポツリ、ポツリと地面に落ちていく。

 俺はこんな演技も出来ないのか。

『お兄ちゃんはリリアに嫌われようとしてるんだよね?』

 心の中を読まれたような感覚に陥る。

「お兄ちゃんを忘れていたリリアなら騙せるかも知れないけど、お兄ちゃんを知ってるリリアには通用しないんだから」

 何してんだろうな俺は。

 俺の事を忘れていたリリアにしたことを全部無しにしたい。

 全然俺らしくなかった気がする。

 俺は流れ続けている雫を強引に袖で拭う。

 嘘が下手とか……弱点が増えたな。

『俺らしくなかったな』

 

「うん!」

 満面の笑みで返されると少し照れる。

「もう俺は死ぬ」

 これは見ればわかるだろ。

 俺の身体が少しづつ粒子になっていってるからだ。

「うん……」

 リリアは周りを見渡す。

 フィリアに、ミミリアに、ユウカに。

 助かる方法がないかと。

 だけどみんな首を横に振る。

 嫌われて消える筈だったんだが予定変更だな。

 寂しそうな顔をするリリアに、今にも泣き出してしまいそうなリリアに。

「最後だぞ、リリア」

 俺は黒剣をリリアに向ける。

「俺を超えられるのは」

「お兄ちゃんの心残りはそれなの?」

「あぁ俺はもう死ぬ、だからせめて一人でも大丈夫って所をお兄ちゃんに見せてくれないか」

 リリアは透明な剣を構える。



『手加減してやるからかかってこいよ』



 俺の声と共にリリアが動く。

 俺の黒剣とリリアの透明な剣が触れ合うと剣劇が始まる。

 俺達を囲むように色とりどりの輝く玉になっている精霊達が回る。

 打ち合う度に、言葉を交わす度に、俺の身体が消えていく。

「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「大好き」

「あぁ」

「大好き」

「俺も大好きだ」

 もう力が入らない。

 俺の黒剣がリリアに弾かれ、剣劇の幕は唐突に終わりを告げる。

 キラキラと粒子になり消えていく黒剣。

 無防備になった俺の身体を包み込むようにリリアが抱き寄せる。

「とうとう追い付かれたみたいだな」

「追い付いてないよ」

「寂しいか?」

「うん」

「これをリリアにやろう」

 俺は左手の薬指から精霊の指環を抜くと、リリアのブレザーのポケットにしまう。

「何を入れたの?」

「寂しくならないようにリリアを守ってくれる魔法のお守りだ」

 周りの精霊達は何も言わない。

「リリアはダメな妹だった?」

 俺の胸に顔を埋めていたリリア、服の上からでも湿った感触が伝わってくる。

 俺はリリアの頭を優しく撫でる。

 涙を貯めた目で俺を見上げたリリアに精一杯の笑顔で答えることにした。



『世界一可愛い俺の妹だ』






 ニカリと笑ったお兄ちゃんがふっと溶けて支えを失った私は地面に膝をつく。

 嫌だよ。

 嫌だよ。

 もっと一緒に居たいよ。

 涙が止まらない。

 お兄ちゃんが残していった物を手に取る。

 それはネームプレートが二枚と銀色の指環。

「それはリリアに貸しておきます」

 青い光を放つアオイさんが私に一言告げるとキラキラと消えていく。

 精霊神さん達は必死で涙を堪えてるように私は感じた。

 ずっと涙を流している私と違って。

 私は弱い、これじゃお兄ちゃんに笑われちゃう。

 でも。

『なんで、なんで、私のお兄ちゃんが剣の勇者様なのよ、こんな事になるなら普通のお兄ちゃんでよかったよ』

 私は叫ばずにはいられなかった。

 ぽんっと肩を叩かれる。

 私はそれに振り向くと。

『クレス君なら帰ってくるよ、絶対に! 僕の直感が言ってるから』

 辛そうな顔で笑うユウカちゃんは本当に強いんだなって思った。

「うん、一緒に待ってようね」

「そうだね」

 ユウカちゃんの言葉を信じるなら次に会うときには。



『お兄ちゃんを超えられるように』







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