天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

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親子

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 いつからだろう。

 いつから戦っているんだろう。

 これは私の夢。

 いつも見てる私の夢。

 同じくらいの歳の銀髪の少年と私が剣を交えている。

 名も知らない少年の剣は昔の絵本の物語に出てくる剣の勇者が持つ金色のオーラを纏う黒剣にそっくりだ。

 あと少しで届きそうな私の剣はいつものように空を切る。

 小さい頃から何も変わってなく、私だってリリアママやユウカママに剣術を教わっているのにも関わらず目の前の少年には剣が届かない。

 まるで私に教えているかのように段階を踏んで強くなっている少年。

 しかも少年は私の全力をギリギリで綺麗に躱しながら私を見下し不敵に微笑む。

 その姿を見ているとその少年とパパの姿が重なる。

 私の神経を逆なでするような無神経な相手。


『……ちゃん』

 こんな奴には絶対に負けたくない!

『お姉ちゃん!』

 目を覚ますと私の最愛の妹が私の身体を揺すっていた。

「ティア?」

「もう、早くしないと遅刻だよ」

 ティアは私を起こしてすぐに部屋から出ていった。


 私も着替えを済ませて部屋から出ると良い匂いに連れられてダイニングに移動する。

 扉を開けるとリリアママ、ユウカママ、ティア、そして小さなドラゴンのアリアスちゃんが席に付いていた。

 私は少し寝坊した事を反省しながら席につく。

『遅いぞ』

 偉そうに。

 パパはいつも寝ているのに食事の時間だけは素早く動く。

 誰よりも先に座っているのだ。


 そして手を合わせて『いただきます』これが私の家のルール。

 食べる前にやらなくてはならない。

 食事が始まる。

 鶏肉のソテーに小さいパンが二個。

 そして果物を敷き詰めたスープ。

 私の好きな果物がゴロゴロと沢山入ったスープ、たまにリリアママが作ってくれる大好物のスープだ。

 私は味を期待しながらスプーンを手に取ってスープに手を伸ばす。

『お姉ちゃん、このスープ私が作ったんだよ!』

 ニコニコしているティア、私の手が止まる。

「そう、今日はティアも料理を作ったのね」

 基本的に食事を作るのはユウカママかリリアママの二人で私達姉妹は料理を手伝っている。

 朝は基本的にリリアママの担当だ。

 たまに料理の品を一品作らせて貰えたりするが、ティアの料理はお世辞にも美味しいとは思えないものが出来上がる。

 私は周りを見る。

 リリアママが私に向かって左目をパチッとウィンクしてきた。

「大丈夫よユリアちゃん、丁寧に教えたから」

 私はその言葉を信じてスープを口に運ぶ。

「お姉ちゃん美味しい?」

 心配そうな顔で見てくるティアに私は本当の事を口にする。

「美味しくない」

 私の言葉に肩を落とすティア。

 ほのかな苦味と酸味が口一杯に残って、薬を飲んだ後のように喉奥から不味さが湧き上がってくる。

『美味しいぞティア! もう一杯!』

 既に空になった器をティアに向けてもう一杯と催促をしているパパ。

「ほんとに?」

 私に不味いと言われてシュンとしていたティアに少し元気が戻った。

「あぁ、ティアには料理の才能があるな!」

 私はスープをもう一度口に運ぶ、これに才能? 嘘は私が一番嫌いだ。



『ご馳走様』

 パパは沢山作ってあったティアのスープを全部平らげてソファーに向かっていってしまった。

 私も食事を終えて、リリアママと私とティアで一緒に食器を洗う。


 一仕事終えた私はパパに尋ねる。

「なんで嘘なんかつくの?」

「なんの話だ?」

 パパは寝ながら私の言葉に返す。

「さっきのスープの事よ! 絶対美味しくなんかないのに……」

 ティアだって頑張って作っていることは知ってるけど嘘をつかれる方が絶対に嫌だと私は考えている。

「楽しみだろ」

 パパの口から突拍子もないような言葉が飛び出した。

「楽しみ?」

「あんだけ愛情がこもった料理だ、美味しいに決まってるし味も美味しいってなるとリリアの料理にすぐに追いつくな! 本当に楽しみだ」

 親バカってパパの事を言うのかな?

「それにお前の好物しか入ってなかったろ?」

 確かに言われてみれば好物しか入ってない。

「ティアは早起きしてリリアに教えて貰ってたからな、お前が笑顔になるような料理を作りたいって」

 いつも寝てるくせに。

「まぁお前の信じる正義ってのも大事な事だ、俺に似なくて良かったな」

 いつもボーとしてるくせに。

「早く学校いけ、競技大会だろ」

「今から行くよ! パパなんて嫌い!」

 私は机に置いていたカバンを持ってすぐさま部屋を出る。


 玄関で待ってたティアに笑顔を向ける。

 ティアに言うのは少し照れくさかったが妹の笑顔を見れるならと口を動かす。

『ティアの料理おいし……』

『ダメだよ! お姉ちゃん! いつかお姉ちゃんにも心の底から美味しいって言わせるぐらいの料理作るのが私の夢なんだから』

『大袈裟よ』

 私の揺らぎかかった信念を妹が支えてくれる、それが少し心地よかった。





『また嫌われた!』

 俺の何がいけなかったんだ!

『そういう態度だからだよ~』

「なんだユウカか」

「なんだってなんだよ~」

 頬をツンっとつついてくるユウカ。

「俺に似なくて良かったなんて言ってたね」

「あぁ聞いてたのか」



『なに言ってるのか……ユリアちゃんはクレス君にソックリさんだよ』



 俺に向けるユウカの声はいつもと一緒だが少し弾んでるように聞こえた。

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