天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

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覚悟と理想の境界線

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 白銀の光、その柱の下にそびえる光の神殿。

 ユリアは一人で神殿の扉を開ける。


 白銀の世界に佇む一人の女性。

 優雅な気品を持ち、銀髪の長い髪をなびかせて、ユリアを射抜く眼差しは翡翠に染まっていた。

『もう何人相手にしたが分からないがやっと来たか』

 凛とした声にユリアの緊張感も高まる。

「もう一人はどうした?」

 威圧された声にユリアは息を飲んで応える。

『私は一人です』

「そうか」

 ユリアの応えを銀髪の女性は一言で返すと腰に掛けている鞘から剣を引き抜く。



『私の名はミミリア・リル・ミリアード。正々堂々と勝負をしようか』



 その名前をユリアは……いや、この世界で知らない者はいない。

 剣の勇者を召喚した国として有名なミリアード。

 そしてこの世界で最強の名を冠する一人。


「忘れていたよ」

 何かを思い出した様な仕草をしたミミリアは懐から一つの仮面を取り出す。

「さっきまでは付けていたんだがな、魔人として名乗るのも忘れていた。まぁいいだろう」

 諦めて仮面をまた懐に戻すと懐かしむように優しい声音を出した。

「小さい頃に会ったきりだが大きくなったなユリア」

 会った記憶がない人物にユリアは首を傾げる。

「本当に幼かったしな、忘れていても可笑しくはない。リリアは剣聖や教職で夢を叶えるために一生懸命だった、ユウカ様もこの世界の発展に尽力してくだされた。だがクレス……アイツは許さん、いつも暇をしているのに娘を連れて来いと言っても来ない!」

 ユリアは父親クレスの言われように疑問を覚える。

 ミミリアとリリア、そしてユウカの三人はフィーリオン剣士学園に在籍している時に世界を救ったと言われている程の有名人だ。

 仲が良い事もリリアとユウカに聞かされて知っている。

 クレスとミミリアの接点がイマイチ分からなかった。

「貴方がパパの何を知ってると言うの!」

 ユリアの荒らげた声に眉を寄せるミミリア。

「少し怒らせてしまったかな。まさかフィーリオン剣士学園にクレスが居たことを知らないのか?」

「えっ? なんで魔力がないパパが昔の学園に入れたの?」

 魔力がなかったジークは学園に入る事も出来なかったのをユリアは知っている。

 ユリアはクレスが学園に入っていたなんて信じられなかった。

「クレスは昔から無駄な事は口が軽いのに肝心な事は話さないような奴だったからな」

 産まれてからユリアが見てきた父親はソファーで寝転んでいるだけの姿しか思い浮かばなかった。

「私を惑わせようとしてるの?」

「何故リリア程の者が、何故ユウカ程の者が、彼に惹かれたのか気になった事はないか?」

 気になったことは当然あるとユリアは思った。

 そしてとミミリアは話を続ける。

「貴様を惑わそうとする理由が私には無い」

「ママ達は気づいてない! あんなのが好きでも後悔するだけだよ!」

「リリア達がクレスといて後悔した姿なんて見たことがあるか?」

 クレスと一緒にいる時のリリアやユウカはいつも幸せそうな笑顔を絶やさない事をユリアは思い出す。

「それは自分自身に対して言ってるように聞こえるな。貴様はクレスを好きで何故嫌いになる理由を探している?」

 ユリアは核心を付かれて動揺する。それを誤魔化すように鞘から剣を抜くと大きな声を出す。

「う、うるさい!」

「貴様はいつか大切な者を傷つけ、無くなった後に後悔を刻む事になる」

 ユリアの頭の中にティアの笑顔がチラつく。

「じゃあどうしろって言うんですか!」

「私にそれを聞くのか? まぁクレスはどうでもいいが今貴様が思い浮かべた人物には心のうちを明かしてもいいかもしれないな」

 理想の姉として生きてきたユリアには妹の才能を嫉妬していたなんて言えるはずもない。

 だからこそ決断をする。

 ティアが迷わなくて済むようにティアの前を歩けるように……いや、肩を並べて歩けるように。


『私は理想じゃなきゃダメなんですよ!』


 地面を抉りユリアは駆け出す。
 


「やっとマトモな目をしたな」

 ミミリアは口元を釣り上げる。

「かかってこい」


 二人の剣はオーラの線を連れながら交わって離れる。

 ユリアの覚悟が乗った剣をミミリアは悠々と弾き返す。

 力の差は歴然だが理想は諦めない。

 何度も何度も剣を振るう。

 剣劇の最中にミミリアは口を開く。

「貴様の理想は一人で歩いて行く事なのか?」


『私の理想は前を歩いてる人と肩を並べて歩きたいだけ!』


 ユリアが一呼吸置いて瞬きをする瞬間。

 ミミリアの姿が消える。

 ぽんっとユリアの肩に手が置かれるとそこには何時の間にか距離を詰めていたミミリアの姿があった。

「試練は終わりだ」

「終わり?」

 突然の終了に唖然とするユリア。

「私は手加減が苦手でな、これ以上は本気を出さなくてはならない。すると何が不味いのかというと光の精霊神が黙ってないと言うことだ」

 ミミリアはユリアが付けてるブレスレットをゆびで指す。

 ユリアは視線をブレスレットに移すと金色の光が淡く光っていた。

「ユリアの覚悟は見せて貰った。次にどうするかはユリア次第だ」

「私は……」

 ユリアは自分から突き放してしまったティアに謝って許してもらおうなんて虫が良すぎると思ってしまう。

「私が何故一人かを聞いたと思う? 魔力を何故隠してるかは知らないがユリアは最初から一人で来てはいない」

「えっ?」

「早く行ってあげないでいいのか? ティアの事だ、リリアのように心配しているかもしれないぞ」

 ユリアは一人で泣きだしそうなティアを思い浮かべる。

 ミミリアの言葉にハッとなるとすぐさま扉に向かって行った。



 空間が崩壊し始めると光の精霊神シロが姿を現す。

『何故私がミミリアの邪魔をすると思うのですか?』

「精霊神なんて全員クレスの子供に甘いのは知っている。あと殺気を飛ばすのはやめてくれ」

『そんなに漏れていましたか。あまりにも可愛いのでミミリアさんが少しでも傷を付けようもんなら加勢をしていたかも知れませんね』

「本気の精霊神なんて私が骨を折りそうだ」

『ユリアちゃんの覚悟は最強にはなれない覚悟です。ユウ様のように自分が傷ついても大事な者を一人で守るような覚悟ではないからです』

「でもティアとユリアなら」

『はい。楽しみですね』

「ユリアの覚悟はクレスを追いかけた者が選んだ覚悟だ」

『えぇ、その通りですよ』


『今の私ではあの理想は眩しいな』


 クレスの負ける姿を想像出来ない二人は夢のような出来事を妄想して楽しげに笑っていた。

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