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第30話 狂った歯車

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 私はモーブルから逃げている。

 さっきまで私は執務室に居た。国の資料に目を通していると、モーブルが部屋に入ってきた。

「ノエルが帰ってきたから一ヶ月、休みを貰うんじゃなかったの? もしかして私が恋しくなって、ノエルを置いて来ちゃったとか?」

 私は冗談を口にすると、モーブルの挙動が可笑しいことに気づいた。私と目も合わせないし、目が泳ぎまくっている。

「どうしたの?」
「神器が、神器で、神器は、神器で、神器が……」

 ん? モーブルから出る言葉は小さ過ぎて、神器しか聞こえない。

 立ち上がって、モーブルに近づく。

 するとモーブルは神器の剣をポーチから取り出し、私は激痛と同時に倒れた。

「うぐっ!」

 私は肩からお腹まで剣で斬られたみたいだ。

「な、んで、モーブル」

 息が切れ切れになる。だがモーブルは倒れている私に剣を突き立てて、背中を連続して刺した。

 モーブルに気持ちを伝えたのに、やっと報われたと思ったのに。

 そんなのないよモーブル。

 私は泣きながら、これが悪い夢だと思って、歯を食いしばる。

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。ずっと続く痛みを我慢して、夢だと割り切った。

 私はモーブルと付き合ったのよ、モーブルがそんなことをするはずが無い。

 ついに我慢しすぎたせいで、目の前が真っ暗に染まった。



 そして、目を開けると執務室の床で私は寝ていた。

 こんなところで寝て、モーブルも居ないし、夢か。

 立ち上がると服は破け、周りは血の海。夢? そんなことはなかった。

 壊れたフェニックスの指輪を眺める。フェニックスの指輪は一回限りの不死の加護を与えて、復活する。

「私は不老不死だからいらないって言ったのに、モーブル、アンタが何があるか分からないってくれたんでしょうが……」

 指輪を抜き取り、投げ捨てる。


 執務室の本棚の本を順番に直すと本棚か開いて、扉が出てくる。

 また本棚の本を適当に並び替えて、扉に入る。

 本棚の扉から入った部屋には服と、ポーチが置かれている。私は服を着替えてから、この国を出ることにした。

 モーブルは神器のことで頭がいっぱいになってた。神器が関連する人から何かモーブルに言ったのね。教会? の人、ここら辺はアタリが付く。

 私が死んでないことに気づいて、モーブルが探しに来た時はどうしようか。ココネの街の魔王とノエルをすぐに探索できる索敵能力と空間移動があるから、私が見つかるのは確実で、逃げ場がないことも分かる。

 この国に、この世界に私の逃げ場はない。


 隠し部屋から階段を下り終わって、通路を真っ直ぐに行くと三又に分岐する。ここから一番左の通路に行くと、また分岐、また分岐と永遠と分岐して行く。

 それでも一番左の通路を進んで行くと、やっと出口に着いた。階段を上り、古びた上にある扉を押す。

 力一杯に押すと、ガシャンと大きな音がなり、上の扉が開いた。

 随分とこの通路を使ってなかったから、土が覆いかぶさっていたのね。

 ここは森の中、隠し通路から出る。

 夜になり、辺りはシーンと静まり返っている。森から見下ろせば、ムーリク王国の城門が見えた。

 ノエルがこの国に帰ってきた時に、ノエルのお世話係第一号に選ばれて、お世話をされた時に言っていた。妖精の国はどうだろう。

 長い期間お兄様と世界樹の宿で暮らしていたと、訳の分からないことを言っていたけど、ノエルが嘘をつくはずがない、世界樹は絶対にある。

 なんか妖精は何処にでもいて、何処からでも妖精の国へ行けるらしい。

 私は木に問いかける。

「私はノエルの友達で、シフルさんに会いたいの」
『ノエルの友達?』
『ノエルの友達だ!』
『ノエルの友達かな~』

 妖精の姿は見えないが、至る所からノエルの名前が聞こえてきた。


 笑い声は聞こえて来て、数十分経つと。

『貴女がノエルの友達? 私がシフルよ』

 声がした方に目線をやると頬を突かれた。

 姿は見えないが、そこに居るのだと分かる。

『ノエルが私のことを言ったなら、貴女は信頼出来るわ。誰かに追われているようだし、このくらいで勘弁してあげる。ノエルが友達で良かったわね』

 妖精の国へ行けると言われて力が抜ける。

「何故私が追われていると?」
『自分の姿、見た方が良いわよ』

 私は自分の服を見る。蜘蛛の巣や、泥があちこちに付いていた。

『妖精の国は人の国との戦争で今は余裕が無いの。王女が魔王の国の刺客によって殺されたとか言って、知らないわよ。妖精の国が一晩で魔王の国へと名前が変わってて、心底人は誰かを敵にするのが上手いわね』

 私はもう殺されたことになっているの?

「ごめんなさい」
『……まぁ、アナタに言ってもしょうがないことだったわね。大抵力を持つ者が悪い、アナタには関係ないことだわ』

 私は妖精に手を引かれながら、妖精の言葉は胸に刺さった。

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