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第34話 神の弓

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 勇者が門の結界まで開けて入って来ていた。

 衛兵の獣人たちには門の中は私が守ると言って、入って来るなと指示を出した。

 勇者に引き連れて、人がわんさか入って来る。

 どうせ神同士の争いには人は入って来れないから、私は勇者だけを相手にしたらいいと思ったのに。

 勇者の後に入って来た一人の女が現れたことにより私の目論見が外れる。

「シャリル・マクスエルス」
「あら? 昔みたいにシャリルちゃんと言っても良いのよ、テトナちゃん」

 私が名前を言うと、舌なめずりをしてテトナちゃんと反応してきた。

「私たちを裏切って、人に成り下がっても私一人が神の力を持つのが許さないと、滑稽ですね」
「殺した神の血をすすれば神の力が手に入る。神器を欲している強い身体を探していたら丁度見つけてね。運が良いと神殺しでもやろうかなって」
「そんな迷信を」
「やって見ないと分からないわよ。神から成り下がった人たちの血で試しても、神の力は戻らなかった。次は本当の神の力を持っているテトナちゃんで試すことにするわ」

 あぁ、だから私たちに敵対した神たちがいないのか。私の目でも見れないから、どうしたのかと思っていた。

 私はヒビ割れた剣を左手に呼び出す。

「来て」

 レクシア、私を守って。

「私を人に成り下げた剣。神になったらその剣でラクゼリアを殺す」
「神性もないのに随分と舐めたことを言ってくれたね。私に勝とうと言うんだ、人が」

 シャリルの舐めた態度がここに来て、改まる。

「おい、テトナ。神だった時は私の方が神性は高かったよなぁ」
「覚えてないよ。だった時? いつの話をしているの?」

 シャリルのこめかみがピクピクしている。私を睨んで殺気まで垂れ流している。

 登場した時には百八十度違った。

「レクシアみたいな嫌味を言いやがって、レクシアとラクゼリアの後ろを着いていく金魚の糞だったクセに」
「そうかもね。でも金魚の糞の死んだ血を啜りたいと言う人がいるんだけど、その人の名前も考えてよシャリルちゃん」

 シャリルは勇者に前に手を突き出す。

「おい勇者、弓を貸せ」
「は、はい!」

 ポーチから弓を出した勇者は弓をシャリルにやった。

 勇者は両手斧を持っている。

「じゃあ指示通りに」
「はい」

 勇者とシャリルが二手に割れて動いた。


 私はレクシアみたいにこの武器を扱えない。視界に収めないとスキルの効果を全員に付与することは不可能。

 両手斧の力を使っていたのか、ステータス超向上のスキルが敵味方全員に付与される。

 シャリルを見失って、上から矢が降ってくる。

 その矢どれもが、私を狙っていなく、地面に刺さる。

 周囲を見渡しても、シャリルがいなく、続々と矢が地面に刺さる。

 勇者は両手斧を持ったまま動かない。勇者は私の能力を知っていると見ていい。私の神の力の効果でレクシアの剣が届く範囲では斬ったと言う結果も与える。

 刀の神器があるからシャリルは勇者に伝えやすかったのかな。

 私を狙う気がない矢が降ってくる時間に飽き飽きして、もうこっちから攻めようと勇者に狙いを定める。


 狙いを定めた時に矢が人に変わった。

 神の力で斬った結果を与え、そのままマナも吸われて、死んで行った。

 そう言えば勇者が入って来て、後ろにいた人たちが居なくなっていることに今気づいた。

 そしたら矢の数だけ、人が目の前に現れることになる。

 私のスキルは一対一を想定しているもので、大勢を相手にするものでは無い。

 なんで勇者がガログスの両手斧を持っているかと思ったら、人を強化することは目的か。

 レクシアの剣を持っておかないと、時間や空間で攻撃されたら一瞬で終わっちゃう。

 続々と矢が人に変わって、その人たちは武器を持っていなく、私の動きを止めようと襲いかかってくる。

 私の神の力で一人一人目の前で死んで行くのに、その人たちは気にもせずに手を広げて私を捕まえようとする。

 レクシアの剣の効果で、両手斧の効果が人にも掛かっている。そのせいで人の動きが異常に速い。

 私に触れるものまで出てきた。

 これは不味いと、私は勇者に駆け出す。


 すると雨が降ってくる。

 妖精の国では雨が降らない、と上を見れば人が降ってきた。

 しかもその人たちも地面に落ちるまで、私を捕まえようとしてくるのだ。

 斬ったと結果を与えて、地面に落とす。

 勇者の距離が一向に近づかない。


「鬱陶しい」

 また上から落ちてきた人を斬ったと結果を与えて、地面へ落とす。

 が、それは出来なかった。

 生きてなかったから。


 それに気づいた時には遅かった。

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