元OLの異世界逆ハーライフ

砂城

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第一章 ハイディン編

ガルドさんとデートです(前編)

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 私の服と靴が出来上がるのは明日なんだけど、ロウの方はもうちょっとかかるらしく、三日後に取りに行く予定になっていた。というか、そっちの方が普通の対応で、私の分は『月姫』用の特別早仕上げコースにしてくれているようだ。とは言え、私のだけ早く仕上がってもあまり意味はないんだよね。

「そうなると、私の希望の『オシャレしてデート』は、少なくとも四日後になるってことよね。それまでただ待ってもらってるのも申し訳ないから、その間に二人のお願いもきいておきたいな。ガルドさんからになるけど……?」
「レイがそれでいいのなら、俺に異存はない」
「ロウもそれでいいっつーんなら、お言葉に甘えることにすっかな」

 ロウの許可も得て、まずはガルドさんの希望の『ご褒美』を言ってもらうことになったのだけど――。

「一日、レイちゃんを独占してぇ」
「却下だ」
「おいおい。そりゃねぇだろう」

 それを聞いた途端のロウの台詞に、ガルドさんが苦笑する。

「ロウがそう言うのは予想がついてたけどよ。流石に、こりゃ譲れねぇ」
「お前と俺は、二人でレイの亭主だ。それが不満だと言うのなら……」
「不満って訳じゃねぇよ。けど、たまにはいいじゃねぇか。お前ぇはさんざん、レイちゃんを独占してきただろ? 俺だって、そういうことをしてみてぇ――それによ。別に『ご褒美』の中身が被ったって悪いわけじゃねぇだろ」
「む……」

 私のことは置いてきぼりにして、何やら男二人の密談みたいになってますが……それって、まずは私の同意を取り付けるのが先なんじゃないでしょうか? それにこんな内容でホントにいいのかしら。私のよりも更に安上がりというか、安直な気がするよ?

「俺がレイちゃんを独占した後は、今度はお前ぇが……てのもいいんじゃねぇか? 亭主が二人共、一日ずつ良い思いと我慢ってのは、これ以上はねぇってくらい公平だろ?」
「……確かにそうではある、な……」
「じゃ、決まりでいいよな?」
「仕方がない……」
「ってことで、レイちゃん、よろしく頼むぜ」

 あっさりとロウを丸め込んだガルドさんが、さわやかな笑顔でそう言う。

「二人がそれでいいなら、私は構わないけど……ホントにそんな事でいいの? 若干、私のお願いと被ってる気もするし、ロウも別のお願いがあったりしたんじゃないの?」
「いや、俺は特には考えていなかった。その場になれば、何か思いつくだろう程度だったから、問題はない」

 おいおい……それなのに『ご褒美』『ご褒美』と言っていたのか。最初からこれを狙っていたと思われるガルドさんとはかなりの落差があるが、ロウらしいと言えばらしいんだろうな。
 ともあれ、本人たちがそれでいいと言うのなら、そう言うことにしましょうか。

「で、何時からにするかだけどよ――そうだな、明日の朝から、明後日の朝までってことにしてぇんだが……?」
「……夜もか?」
「一日っつったらそう言う事だろ。次はお前ぇの番なんだから、ここは心の広いところを見せるとこだぜ」

 改めてその内容を提示され、私が答えるよりも早く、ロウが不満気な声を上げる。が、この期に及んで、またも反対するようなことはなかった。

「レイちゃんもそれでいいよな?」
「うん。それじゃ、明日一日、よろしくお願いしますね、ガルドさん」

 しかし、丸一日ってことは、お泊りも入るんだろうな。アレコレと準備――は、別にいらないか。まとめて魔倉に放り込んであるんだからね。
 そうと決まって、その夜はおとなしく寝た――はずがない。二日、いやその前もあるから三日か。お預けだった分をしっかりと取りたてられて、おかげで翌朝のスタートが若干遅れてしまった。ガルドさんはそのことでぼやいていたようだが、だったら少しは手加減してくださいよ。




 ほとんど昼食みたいな朝食を済ませた後、ガルドさんと二人で宿を後にする。明日の朝まで戻らない予定だから、ロウはここでお留守番になる。そのロウに、私の魔倉を預けたのは、それがガルドさんのリクエストだからだ。
 女性にはいろいろと必要なものがあるんですけど……と言ったのだけど、それも全部、今日一日は自分が賄うと断言されてしまったら、それに従うしかないだろう。『一日独占される』ってののオプションとして、その期間はガルドさんの希望を最優先にすることになっている――何時、そんなことが決まったんだっけ? とは思ったが、意外と無欲(?)な希望だったこともあって、了承しちゃったんだよね。
 スカートとブラウスという軽装で、ハンカチや手鏡が辛うじて入る小さなバッグだけをもってのお出かけです。ガルドさんも当然、プレートメイルじゃなくて普通の服装ですよ。

「さて、と……まずは買い物と行こうぜ」
「え? 昨日、行ったでしょ?」
「ありゃ、あれとして、今日は今日でちょいと、な」

 ああ、今日はガルドさんの買い物なのか――と、そう思ったのだけど、違いました。
 最初に連れていかれたのは、女性用の小物を扱うお店だった。様々なアクセサリーや、化粧品なんかが置いてある。高級品じゃないけどチープすぎもしないお値段で、あっちの世界でいうなら、高校生だとちょっと敷居が高いけど、大学生や就職したてのOLにはちょうどいい感じかもしれない。
 ガルドさんがドアを開けてくれて、レディーファーストで先に店に入る。ロウはこういうことはしないから、ちょっとドキドキしちゃう。

「昨日のお店もそうでしたけど、こんな場所、よく知ってましたね?」

 ロウだったら、足を踏み入れるどころか、近づくことさえ拒否る類の店だろう。それなのにガルドさんは平気な顔をしているし、なんていうのかな――驚くべきことに、それほど浮いてもいない。ほとんどが女性客の為、男性ってことで目立ってはいるが、ぼーっと突っ立っているんじゃなくて、品物を手に取ったり、さり気なく他の人の邪魔にならないように移動したりと、巨体にも関わらずそれなりに溶け込んでいる。
 最初に出会った頃の脳筋そうな印象や、ロウと一緒の時の男くさいムードが、今はきれいに影を潜めていて、中身が別人だとか言われたら信じてしまいそうなくらいだ。

「まぁ、俺もハイディンはそこそこ長ぇからな。レイちゃんよりは詳しいぜ」

 口調は流石にいつものガルドさんのものだが、それも今は少し柔らかく聞こえる。

「まぁ、そんなことはどうでもいい。女の子ってなぁ、いろいろと必要だって言ったのはレイちゃんだぜ。その必要なもんを探さなくていいのか?」
「え? でも、一晩の事だし……」
「たとえ一晩だろうが、要るもんは要るだろ? 何が幾つ必要なのかは俺にゃわからねぇから、レイちゃんが選んでくれねぇとどうしようもねぇ」

 だったら、元々あるのを持ってくればいいような気がするんだけど――あー、はい。これも男の甲斐性ってやつですね。
 ここがものすごい高級品――あっちの世界の例を挙げれば、エス○ィ―○ーダーや、クリ○ークだのシャ○ルだのとかね――を扱うお店じゃなくて、私の金銭感覚でもギリギリ甘えることを許容できる価格帯が主だっていうのも、ガルドさんの計算のうちなんだと思う。
 それが理解できたので、やっぱり申し訳なく思う気持ちはあるんだけど、ここはひとつ、私も腹をくくって、お買い物を楽しませてもらうことにする。

「えっとね、これとこれ……それからこっちも、かな」
「こういうのは使わねぇのか?」
「ガルドさん、香水だよ、それ。狩りに行くのにそんな匂いをさせてたら、獲物が逃げちゃうよ」
「今日は別に獲物を狙ってるわけじゃねぇんだし、いいじゃねぇか。レイちゃんに似合うと思うぜ」
「どんな香り? ……あ、確かに、こういうの好きかも」

 甘すぎないフルーティな香りだ。

「んじゃ、これも追加な。それと、こっちも……」
「それは何?」
「今のと同じ香りの泡石(こっちでの石鹸のことね)だ。せっかく付けんのに、別のにおいが混じってちゃ台無しだろ?」
「……ガルドさん、ほんとにすごいね」

 香りが混じるとか、普通男性は気が付かないと思う。いや、自分でいろいろつけたりしないから、却って相手の香りには敏感になるのかな? どちらにしろ、『女性の扱い』についてはロウが足元にも及ばないのがよくわかりました。

 結局、当初の予定よりも余分に買い物をすることになり――お会計の時には「レイちゃんはあっちな」と、少し離れた場所にやられて、合計がいくらになったのかさえ教えてもらえなかった。
 しかも、お買い物はこの一軒だけじゃなかった。
 次に行ったのは、また違う服屋さんだ。昨日のところよりもややカジュアルというか、お手頃なお値段のものが置いてあるところで、ここでワンピースを、ガルドさんの見立てで買うことになった。

「寸法直しで、すこし時間を頂きます」
「ああ。一刻(約二時間)ほどしたら受け取りにくる」

 そんな短時間で直しが済むのは、ガルドさんの眼力です。私に似合いそうで、しかもサイズもあうものを、まるで手品みたいに選び出していた。おかげでウエストを少し詰めるだけで済んだ。その程度ならわざわざ直しをしなくてもいいと思うんだけど、そこは拘りがあるらしい。

「ってことで、その間にちょいと小腹でも満たしておこうぜ」
「はーい」

 本日の私はガルドさんの専属だから、なんでもいうとおりにしますよ。先ほどのものに加えて、また新しい服まで買ってもらって、ちょっと散財しすぎな気もするけど、ガルドさんがすごく楽しそうなので注意するのは諦めた。それに実際のところ、私もすごく楽しい。次はどんなところへ連れて行ってくれるだろうと、ワクワクしちゃってるよ。
 そして、そんな私の期待を裏切ることなく、ガルドさんが選んだのはテラスのある小洒落たカフェみたいなところだった。
 お昼には遅くお茶には少し早い時間帯だったので、それほど混んでもいなかったから、いい席を確保することが出来た。
 ガルドさんに椅子を引いてもらい腰かけると、魔法みたいに目の前にメニューが差し出される。

「ホント、こういうの慣れてる感じですよねぇ」
「ま、それなりに、な」

 さっきと同じような問答を繰り返しつつ、軽食とお茶を頼む。ガルドさんはもうちょっとがっつり系の物と、ワインを注文していた。それらが運ばれてきて、歩き回ったせいで空いていたお腹を満たし、のどを潤す。
 その間に、何となく向かいに座ったガルドさんを眺めていると――その食べ方がとてもきれいなのに気が付く。いつもはもっとワイルドに食べてると思うんだけど?

「どうした、レイちゃん。俺の顔になんかついてるか?」
「あ、いえ……じろじろ見てごめんなさい」
「いや、レイちゃんに見詰められるんならいつでも歓迎だけどよ――どうした? なんか、聞てぇことでもあるのか?」

 カンが良いのは、ロウと同じですね、ガルドさん。というか、ロウにもさんざん言われたけど、私の顔が分かりやすすぎるんだろう。
 ここで否定してもどうせ無駄なので、思い切って言ってみた。

「ガルドさんって、どういう人なのかなって思ってたんです」
「あん?」

 あ、流石に漠然とし過ぎたか。反省して言い直す。

「ガルドさんは、凄腕の放浪者で、ロウの前からの知り合いで、私の旦那様の一人なわけなんですけど――考えてみたら、それ以外の事は何も知らないんだな、って思って」

 私の事は洗いざらい白状したけど、ガルドさんについては『本気で惚れた』と言われたこと以外は、ほとんど知らないままだ。それで旦那様にしちゃった私は、少し思い切りが良すぎたかもしれない。まぁ、それを後悔とかは、全くしてないんだけどね。

「……そういやそうだったな。レイちゃんは何にもきかねぇから、気にしてねぇのかと思ってたが」
「気にしてないってことも無いんだけど、とりあえずは聞かなくてもいいかな、とは思ってたかな」

 ロウもそうだが、ガルドさんはここにいるありのままの私に『惚れて』、一緒にいてくれる。だったら私も、今、目の前にいるガルドさんが『私の好きになったガルドさん』であれば、他の事は気にすまいとおもっていた。それに、放浪者の過去を詮索するのはご法度だ、と言われていたこともある。

「ロウの事も、レイちゃんはほとんど尋ねてねぇんだったよな?」
「故郷の話は聞かせてもらったよ」

 その話のついでに、家族構成なんかも聞いてはいる。けど、そこでロウがどんなことを思って、どんな風に育ったのかは、まだ何も知らないままだ。
 そして、ガルドさんについては、このハイディンで出会う前の事が、全くの白紙状態である。
 言いたくないことも勿論あるだろうし、無理に聞き出すつもりもないが、ここ数日、今まで見たことのないガルドさんを次々に目の当たりにした所為で、ちょっと好奇心が抑えきれなくなっちゃった。

「まぁ、俺の話つっても、それほど面白れぇ事はねぇよ。よくある事で――とはいっても、それでお茶を濁したんじゃ、レイちゃんも納得できねぇよなぁ」

 そう言って、ガルドさんが小さく笑う。

「あ、言いたくない事なら、別に聞かなくていいよ?」
「そう言う訳でもねぇが――ま、簡単に説明するなら、俺ぁ、騎士崩れだ。レイちゃんも薄々、気が付いちゃいただろうけどな」

 やっぱり――とは思わなかった。そもそも、『騎士』ってのが具体的にどんなものか知らないんだから仕方がない。ただ、今日の――それ以前もだけど――言葉や行動の端々を見て、ホントはきちんとした教育を受け、礼儀作法も躾けられて育った人なんだろう、とは感じていた。初対面の頃の脳筋ぶりが『フリ』なんだってのは、今更言うまでもない。

「騎士っていうと、士分だったんですか?」

 こっちでの身分制度ってのはざっくりと三つに分けられるときいている。平民、士分(騎士)、そして貴族(王族)だ。
 平民については説明はいらんだろう。貴族も大体わかると思う。残る『士分』なのだが、これがちょっと複雑だ。一代限りのものもあるし、そういう家として存在しているところもある。あっちの世界でのものを例に挙げて分かりやすく説明するとすると、江戸時代の一般的な武士や、庄屋さんとか、後は豪商とか、そう言った人々だ。武士以外だと、名字帯刀を許された人達、と思えば理解しやすいと思う。
 なので、てっきりそう言うお家の出なのかと思ったんだ。

「もうちょい上だな。歴史ばかりが長ぇ、落ちぶれ貴族の三男坊だった」
「貴族?」

 ……流石に、これは予想してなかった。ガルドさんには悪いけど、そうは見えない。絶対に、見えない! 貴族ってのは、もっとこう……ひ弱で、お上品で、偉そうなもんじゃないの? ガルドさんってむちゃくちゃ逞しいし、フリとはいえ言動はワイルドだし、偉そうどころかすごく親しみやすい性格だし。
 私のイメージの中の『貴族』って人種とは真逆だ。

「まぁ、貴族にもいろいろいるってこった。んで、三男ともなりゃ、家を継ぐ可能性はほとんどねぇんで、騎士団に放り込まれた訳だな。んで、そこでまたいろいろあってよ……レイちゃんが聞きてぇなら、洗いざらい白状するぜ」
「あ、いえ、いいです」

 聞きたくないと言えば嘘になるが、こんな往来で始める話じゃないだろう。それに、今日はガルドさんの『ご褒美』の為の一日だ。そう言う事で水を差すような真似はしたくない。

「……いいのか?」
「うん。ちょっとガルドさんの言動に違和感を感じてたんだけど、今の話を聞いて納得できたし」

 店に入る時のレディーファーストだとか、座る時にわざわざ後ろに回って椅子を引いてくれるとか、元が貴族や騎士と言われればなるほどと思う。ロウと一緒の時にやらないのは、そうすることでロウとの差を感じさせない心配りだろう。全く、どうしてここまで繊細な気遣いが出来る人を『脳筋』なんて思ったのか――ガルドさんの演技力がすごかったからなんでしょうけどね。

「ロウも知ってるの?」
「特に話したこたぁねぇが、あいつも勘がいいからな」

 なるほどね。そういえばロウも確か、族長さんのお家の出だとか言ってたな。族長と言えばそれなりの家柄だろうし、長男や次男じゃなくて、早くに家を出たのも一緒だ。ぱっと見、全然違うタイプなのに、以前から仲が良かった(?)のは、そう言うところも同じだからなのかもしれない。
 って……あれ? 私一人が、生粋のド庶民じゃないの。いいのかな、そんな相手の旦那さんなんかになっちゃって?

「昔がどうだろうと、今の俺ぁ、ただの放浪者だぜ、レイちゃん」
「……人の心の中を読むのは止めて下さい」 
 
 読んだのは心じゃなくて、表情かもしれませんが。
 しかし、改めてそう言ってくれて、ほっとしたのも確かだ。今になって、お貴族様でした、身分が違いますなんて言われても、ガルドさんと別れるなんてできない。
 ロウと同じく、ガルドさんも私の大好きで大切な旦那様なんだからね。


 そんな話をしていたので、気が付かないうち時間が経っていたようだ。空いていたお店も、午後のお茶をしに来た人たちで随分と立て込んできた。あまり長居をしても迷惑だし、そろそろ服の直しが終わった頃だろうということで席を立つ。
 その足でもう一度、先ほどの服屋に行くと、やはりちょうど出来上がったところだった。

「んじゃ、早速だけど着てくれよ」
「はーい」

 ぴったりと体にフィットするように直してもらったワンピースの色はミッドナイトブルー。シルエットはノースリーブのシンプルなAラインだが、共布の袖の短いボレロが付いている。裾はひざ下十五センチくらい。こちらでは女性が素足を見せるのはあまり推奨されないので、夏場でもみんなこれくらいの長さのものを着ている。私が履いていたスカートもこれくらいの長さだったしね。
 元から着ていたのは、ガルドさんに渡して魔倉に入れておいてもらう。私がもってるのはちっちゃなバッグだけだからね。それから先程買った小物のうちから口紅と香水を取り出してもらい、軽く化粧直しも終了だ。

「似合うぜ、レイちゃん。俺の見立ては確かだな」
「よくお似合いですよ」

 着替えを済ませてフィッティングルームから出てくると、ガルドさんとお店の人が褒めてくれた。

「さっきのも、早速付けてくれたんだな」
「うん、嬉しかったから、ついね」

 容器がアトマイザーじゃなかったので、手首の内側と膝の裏にちょんって感じで付けてみた。
 甘すぎない香りは、大人っぽいこのワンピースにも似合うと思う。っていうか、ガルドさんはこういうタイプが好みなのかな?

「良い香りだ――美味そうだしよ」
「フルーツ系の香りだからね」

 けど、くんくんと犬みたいに鼻をヒクつかせて匂いをかがれるのは、ちょっと恥ずかしいですよ。お店の人も、あらあらまぁまぁ、仲がいい事で、みたいな温ぬるい感じの目でこっちを見てるじゃないですか。

「さて、これで大体は揃えたが――残るは一か所だけだな」
「え? まだ行くの?」

 化粧品買ってもらって、服を買ってもらって、お茶もしたけど、これ以上、どこ行くのかな?
 流石に晩ご飯には早いし、まだお腹もすいてない。

「外側がおわったんなら、次は内側だろ」
「はい?」
 
 そして、何回目になるのか忘れたけど、よくぞこんなお店を知っていましたね、ってところへ連れていかれました。

「……ガルドさん」
「ん? なんだ、レイちゃん?」
「私の目が腐ってるんじゃないなら……ここ、下着屋さんに見えるんですけど?」
「そう見えるなら、大丈夫だ。レイちゃんの目は腐ってなんかねぇよ」
「そっか。よかった……じゃないでしょうっ?」

 所狭しと並んでいるのは、フリッフリでピラッピラで、しかもエッ○な下着ばかりです。
 とことんまで布の少ないショーツとか、付ける意味があるのか謎なブラジャーとか、もしかして裸でいるよりこれを着た方がいやらしいんじゃないですか? なベビードールとか……女の私でも赤面しちゃいそうな品物に囲まれて、どうしてガルドさんが平気な顔をしていられるのか不思議で仕方がない。

「こういうとこは、男客の方が多いんだぜ」
「そうなのっ?」
「男ってなぁ、惚れた女――自分の女房や、恋人、花街の馴染みとかでもいいが――に、こういうのを着せてぇって思うもんなんだよ。となりゃぁ、自然とそっちの客の方が多くなるって寸法だ」
「……確かに、女性がここに買い物に来るのは、よほどの決意と度胸がないと難しいでしょうねぇ」

 更に言えば、これを自分が着ると思うからはずかしいんであって、男性はそうじゃないってことだろう。
 中には可愛い感じのもあるにはあるんだけど、よくよく見るとショーツのクロッチ部分がぱっくり開くようになっていたり、ブラのカップもやっぱり開くようになっていたりするから油断できない。

「で、その……私にこの中から何かを選べ、と」
「俺が選んでもいいんならそうするぜ?」
「いえ、それは遠慮しておきます」

 ガルドさんのセンスがいいのはわかったが、こればっかりは任せられない。ものすごい奴――ストリングスな紐パンとブラジャーとか選ばれたらえらいこっちゃ。まぁ、こっちは基本的に紐パンじゃなかったら、膝までのだぶっとしたドロワーズって言うのになるんだけどね。冬場なら暖かくていいかもしれないけど、動きにくそうだから、今のところ私は紐パンを愛用してます。
じゃなくて――。

「何故にこれを買わないといけないのか、念のために教えてもらえます?」
「そりゃ決まってんだろ。これを着たレイちゃんに誘惑してもらうんだ」
「ゆ、誘惑っ?」
「今日は俺への『ご褒美』だろ? その仕上げにってことだな」

 なるほど、納得……しちゃいけないんだろうけど、しちゃいましたよ。

「ガルドさんって、ほんとに、なんていうか……」
「ん?」
「女性の扱いに慣れてますよねぇ」

 元々、今日はガルドさんのお願いなら何でもきくつもりだった。だから、もし最初にここに連れてこられたとしても、苦情は言うかもしれないけど、最終的にはその希望に沿ったと思う。けど、敢えてここを最後にした事により、それまでのあれこれで、いわば『ほだされた』状態になっていた私は、そうじゃなかった場合よりも素直にそのお願いがきけてしまっている。
  しかも、私のガードを緩める為だけに散財していたのではなく、一緒に買い物して、自分の好みの香りを選び、好みの服を着せるまでの過程をちゃんと楽しんでいたのだから恐れ入る。ガルドさん自身も楽しいって感じてくれていたことがこちらにも伝わって来て、だからこそ『それが希望だっていうなら叶えてあげよう』なんて思わされちゃってるんだけどね。
 ホントに、どこでこんなテクニックを養ってきたんだか……。
 半ば呆れつつも、店内のあちこちに目をやる。あんまり過激なのは嫌だけど、だからと言って大人しすぎるのもガルドさんの期待を裏切ることになるだろう。
 うーむ、難しい。
 さんざん悩んで――恐らく、これまでで一番、長いこと迷った。
 そして、迷いに迷った挙句に選んだのがどんなものだったかについては、今は内緒にさせてください。

 
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