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2巻
2-3
しおりを挟む「レイちゃん?」
私の右側で、どっかりと浴槽の縁に両腕を伸ばすガルドさん。その腕が私の肩を抱き込むように引き寄せた。
「我慢の限界?」
「まぁ、そんなとこだ――んな美味そうなもん目の前にぶら下げられて、ずっとお預けはねぇだろ?」
私としては、温泉だけで充分なんだけど。でも、三人でって言っちゃったのは私だし、そうなればこうなるのは予想できた。なので、この期に及んで「キャー」だの「何するの、エッチッ」とかいう反応はしない。いや、乙女的にはするべきなのか……?
「……のぼせないようにしてね」
「ああ、気をつける」
悩みはしたが、結局、いつもの調子で声をかけると、今度は左にいたロウから返事が来た。そっちもタイミングをうかがってたの?
内心で苦笑しながら、ガルドさんの腕に体を預け、唇を合わせる。
「ん……」
温泉で体が火照っているせいか、お湯から出ていたガルドさんの肩がひんやりと感じられて気持ちいい。重ねた唇の間に舌が入り込んできたので、それに応えていると後ろから項にキスされた。
「んむっ!」
いきなりダメでしょ、ロウ。ガルドさんの舌をかみそうになっちゃったよ。
「髪を上げていると、いつもより色っぽいな。特にこの辺りが……」
いやいや、だからそこはダメだって! 項が弱点なのわかってるでしょ?
今、私は髪をまとめてアップにしている。他の人も入る温泉なら、髪をお湯につけないのが基本ルールだ。その剥き出しになっている項から耳の辺りまで、ロウは丹念に唇を這わせながら後ろから胸の膨らみを柔らかく揉んできた。
ガルドさんはガルドさんで、私にキスしつつ肩に回してるのとは反対の腕でお尻を触っている。
「は……んっ……」
もう数えきれないほど二人には触れられてる場所なんだけど、お湯の中では初めてだ。いつもよりも柔らかに感じられるタッチに加え、手の動きに合わせてお湯が動くから……なんだか全身を愛撫されてる気になってしまう。
やばい。ただでさえ体が温まってるのに、そんなことされたら……
「だ、め……のぼせちゃうよぉ」
「お? すまねぇな」
早々にギブアップ宣言をした私を、ガルドさんが抱き上げてお湯から出してくれた。
ぐったりともたれかかっていると、移動して洗い場に腰を下ろす。勿論、私も一緒にだ。
「おい、ロウ。そこの――その箱ん中のもん、とってくれや」
「これか。泡石だな?」
暗くて私は気がつかなかったが、隅っこに浅い木箱が置いてあるようだ。ガルドさんに言われて、そこからロウが取り出したのは手のひらに乗るくらいの石鹸――泡石だった。
「これをどうする……ああ、なるほどな」
どうするも何も、お風呂で石鹸とくれば体を洗うに決まってる。ロウは木桶にお湯を汲んで、石を濡らして泡立てた。それを体に塗るのかと思ったら、ロウは自分のじゃなくて、私の体に塗り始める。
「ああんっ!」
ぬるぬるとした手が、私の体中をまさぐる。ガルドさんも手を伸ばして泡石を手に取ると、こっちは直接私の体に押し付けてきた。
胸の先端を泡石で擦られ、指とも唇とも違う固い感触で全身に震えが走る。焦らすように円を描いたり、時たま強く押し付けられたりして、その度にびくんと体が大きく震えた。
ロウは私のおへそから下辺りに、泡を塗り広げるのに夢中だ。くすぐったいのと気持ちがいいのとで体をよじると、泡石のぬめりもあってガルドさんの膝から滑り落ちてしまった。
「おっと、冷たくないか?」
「大、丈夫……気持ち、いい、よ」
石の床は少し冷たくて、火照った体に心地いい。床に寝そべる私の上に、ロウが覆いかぶさってくる。ぴったりと体を重ねると、ロウの体もヌルヌルになっちゃった。
「……ああ……」
身動きするたびに、ぬめった体同士が擦れて――勿論、あそこもだ。やばい、めっちゃ気持ちがいい。ロウも同じらしく、感極まったような吐息が唇から洩れる。
成り行きで置いてきぼりになったガルドさんが気の毒で手を伸ばしたら、その手を掴まれて言葉にはしづらい場所へ誘導された。
手のひらがヌルヌルなので、時々びくっと動く大きなものを掴むのは大変だ。泡が付いてしまったから、口でするのはやめといたほうがいいかな。
ヌチヌチ、くちゅくちゅ……いやらしい水音と、時折こぼれる熱い吐息。しばらくそれらの音だけが浴室に響いていたけれど、やがてロウが我慢しきれなくなったみたいだ。
「そろそろ、いいか?」
「泡は流しとけよ」
誰に確認を取ってるんだ、と突っ込む余裕はない。腰から下にお湯がかけられて、洗い流されると、ロウの指が私のナカに入ってきた。
「まだぬめってるな。洗い流し損ねたか?」
「もうっ――知ってるくせにっ」
それは違うとわかってるだろうに、こういうところが意地悪だ。ロウの言うように、私のソコはすっかり潤っていて、やすやすと彼の指を呑み込んでいる。
最初は一本だったのが、すぐに二本、三本と増やされて、粘着質な水音が響く。軽く曲げた指先でイイところを的確に探り当てられ、ひっかくようにして刺激されると、快感のあまりにガルドさんを掴んでいた腕から力が抜けた。
「おっと――んじゃ、今度はこっちで、な?」
ざばーんっ、と豪快な水音がして、ガルドさんもお湯をかぶったみたいだ。その後、床に直接寝てた私の頭を腕で抱え上げて、唇に硬いものが押しつけられた。私は素直に口を開く。
「ん、むぅ……は、ぁ……」
「っ……ああ、いいぜ、レイちゃん……」
全部を咥えるのは無理だけど、できるだけ大きく口を開いて先っぽに舌を這わせる。ちょっとだけしょっぱい味がして、ガルドさんの口からかすれた声が洩れた。
「こっちも……そろそろいく、ぞ?」
指が抜かれ、大きなものがソコに宛がわれる感触がした。そのまま、ぐいっと押し進められて、エラの張った先端が私のナカを広げながら入ってくる。
「んぅっ! ……ん、んんっ」
一旦、一番奥まで入り込んだ後、ゆっくりとした動きで引き抜かれた。抜けるぎりぎりまで下がったら、小さな動きで入り口辺りを集中的に攻められる。傘みたいに先端が大きく張り出したロウのでやられると、すごく気持ちがいい。ロウも、私がこれが好きなのを知っていて、丹念に同じ動作を繰り返す。
激しい動きで奥を衝かれるのとは違う、ゆっくりとした速度で快感が高まっていく。
口でシテるガルドさんのに手を添える余裕も、まだなんとか残ってる。咥えきれなかった根っこの部分を、親指と人差し指で作った輪っかで刺激して、先端を強く吸い上げた。すると、びくっと大きく震えた後、熱い液体が口の中にあふれてくる。
「っつ!」
「おい。もう……か?」
「……やかましい。あんまり焦らしたら、レイちゃんがかわいそうだろうがよ。俺はまた後で楽しませてもらうぜ」
「それもそうだな……では」
まだ十分な硬さと大きさを残したまま、ガルドさんのが口から抜かれる。苦くて量も多いそれを全部飲み込むのは無理で、唇の端っこから流れ出た。
……これってかなりエロい絵面なんじゃない? 案の定、ごくりとつばを呑み込む音がして、ロウの動きが急に激しいものになる。
「あっ、あ……はぅ……ああんっ!」
私の足を両脇に抱え、体の中心に向けてロウが腰を打ち付けた。それまでとは違い、重点的に奥を攻められる。奥まったところにあるイイ部分を的確にとらえ、そこに向かって硬くて大きいモノが何度も衝き入れられた。
「くっ……レ、イッ」
「あ、あっ……あ、ついぃ……はぁ……あんっ!」
お湯から上がり、冷めかけていた体温が再び上昇する。揺さぶられ、衝き上げられ、気持ちのよさに泣き声にも似た嬌声がひっきりなしに私の口から洩れた。
ぐりぐりと最奥を衝かれ、密着した体で敏感な突起を押しつぶされる快感に、あっという間に頂点を極めてしまう。
「ああ、あっ――んぁあああっ!」
「っ……く、ぁ……」
ぎゅうぅぅ、っと私のナカがロウを締めつける。それに抗うように、もう一度だけ力いっぱい奥を衝かれた後、ロウのが一瞬大きくなり、中が熱いもので満たされた。
「……ん……、ふ、ぁ……」
ぐったりとした私の下肢から、ロウのモノが抜き去られる。どろりとしたものがお尻のほうまで垂れていくのが感じられた。
余韻に浸ってる暇もなく、脱力しきってひくひくと震える体を、待ってましたとばかりにガルドさんが引き起こす。そのまま胡坐をかいた膝の上に後ろ向きに座らされてしまった。
「あ、やっ――ちょっと、休ませ……っ!」
「悪ぃな、レイちゃん」
体を下ろされると、すっかり復活を遂げていたモノが、ずぶずぶと私のナカに入ってきた。
膝の裏に入れた手で両足を大きく開かされ、子供に用を足させるようなポーズを取らされる。これじゃ繋がってるところがロウに丸見えだ。
「早い奴は、復活も早くてうらやましい限りだ」
「ぬかしやがれ」
そんな軽口をたたきつつも、ロウの視線はしっかりとそこに向けられていた。うっかり私もそちらを向くと、思いっきり開かされた私のソコがガルドさんの大きなモノをおいしそうに呑み込んでいるのが目に入る。中にたまっていた白い液体が押し出され、ガルドさんの赤黒いのに絡みついて――私の唇の周辺にはさっき出されたのがまだ残っているだろうし、更にエロさがアップしちゃってるよね、これ。
「かなりクるな、これは……温泉というのも、なかなかいいものだったんだな」
「だな、俺も再認識したぜ」
いや、その感想はかなり間違っていると思います。でも、指摘したくても余裕がありません。
ロウと会話をしながらも、ガルドさんは膝裏に入れた手で私の体を軽々と上下させ、ついでに時折自分の腰も衝き上げる。当然、その度に深いところまでいっぱいにされ、先ほどの残り火がまだ収まっていない体は、面白いほどにあっけなく燃え上がった。
「ひ、ぅんっ! ……ひ、ぁ……あ、あ……強す……ひぃっ」
たたきつける勢いで引きつけられ、一番奥を抉られる。体を起こしていることで内臓が下がっているからか、衝撃がものすごい。当然、快感も大きく、ガクガクと体が震えてしまう。
ガルドさんに揺さぶられている私の手をとって、ロウが自分のそこに触れさせるのだけど、復活したのを力なく握るのが精いっぱいだ。ロウは私の手の上に自分の手を添えて動かし始めた。
「く……」
「おいおい……復活が早いのはどっちだっつーんだ……」
苦笑しつつも、ガルドさんが私を衝き上げる速度は変わらない。あまりにも激しい動きに、胸の膨らみがぶるんぶるんと揺れた。
「やっ、ま……た、クる……キちゃ……う、よぉっ」
膝を引き寄せられ、ほとんど二つ折りにされた姿勢で、根元まで呑み込まされた。ぐりぐりぐりっと、捏ねまわすように腰を使われて閉じた瞼の裏に白いスパークが飛びまくる。
「ああ、あ……ひっ、ダメッ……」
ひときわ強い痙攣が全身に走り、ロウを握ってた手に力が入りすぎちゃったらしい。
「こ、こらっ……くっ!」
「やぁ、ぁっ! イッちゃ……ああああああっ!」
「俺も、出す……ぜ――こっちでも、しっかり飲んでくれ、よ――ぉっ!」
二ヶ所から同時に爆発の気配がする。顎から胸にかけて飛び散ったのがロウので、ものすごい勢いであそこからあふれ出たのがガルドさんの、だ。
……確か、お風呂って体をきれいにするところだよね。なのになんで、余計に……いや、皆まで言うまい。
感じすぎて身動きができない私を、ロウとガルドさんが二人がかりできれいにしてくれる。水瓶の水を飲ませられ、抱きかかえられてもう一回お湯に浸かっていると、ドアの外に人の気配がした。
「あのー……えらく静かですが、のぼせてませんよね? そろそろ時間なんですが?」
さっきの従業員さんらしい。静かと言うが、かなり大騒ぎしていた。それが聞こえなかったのは、結界を張っていたせいだ。
「ああ、大丈夫だ。もうすぐ出る」
「あ、生きてますね。よかった――それじゃ、次がつかえてるんで早めにお願いします」
「了解した」
人を近づけない機能は残したまま防音だけを解除して、こっちの声が届くようにする。ロウの返事に安心したような声を返し、従業員さんは立ち去った。
「――んじゃ、上がるか?」
「そうだな。十分に『温泉』を楽しませてもらったことだし、な」
「……それ、なんか違う気がするんだけど……」
体力が底をついていて、二人の手を借りて服を着ながら、しみじみと思う。
次からは一人で入ろう。毎回これじゃ、体がもたないよ……と。
第二章
温泉を堪能した(された?)翌日。私達は、オルフェンに来た最大の目的である魔導ギルドを訪れた。
建物は放浪者ギルドとあまり変わらない大きさだったけど、看板はこっちのほうが大きいかな。しょっちゅう出入りする人がいて、当然と言えば当然かもしれないが、その全員がローブを着てる。
入り口の扉を開けて中に入ると、そこもローブを着た人でいっぱいだった。
私はローブ着用だけど、ロウとガルドさんはそうじゃないので、ここだと目立っちゃう。けど、ちらりとこちらを見る人はいても、ほとんどの人は無視、というか全く気にしてないみたいだ。品定めみたいな視線がバンバン飛んでくる放浪者ギルドとは、かなりムードが違う。
「すみません、少しお尋ねしたいんですが」
「はい、どのようなご用件でしょう?」
奥にあるカウンターへ行って、そこの人に声をかける。黒っぽい髪の痩せた男性が、丁寧な口調で応じてくれた。真面目そうな顔つきといい、まるで市役所の人みたいだ。
「このオルフェンの街で魔術を教えてくれるところはありませんか?」
「魔術を? ――失礼ですが、どなたが学ばれるのでしょう?」
「私です」
「貴女が、ですか?」
心底不思議そうに問い返された。
うん、言いたいことはわかります。ローブ着てるし、杖持ってるし、どう見ても立派な魔法使いですよね、私。
「はい。私も多少は魔術を使いますが、すべて我流なんです。なので、改めて基礎からしっかりと学びたくて、このオルフェンに来たんです」
「我流? いや、しかし……うーん。確かにきちんとした基礎は必要ですけれど……失礼ですが、年齢を教えていただけますか?」
「十七歳です」
少し悩んだ様子の受付の人に質問されたので、素直に答える。嘘じゃないよ、この体はぴっちぴちの十七歳だもんね。けど、年齢を告げたら更に悩み込まれた。十七だとまずいの?
「あの……?」
「ああ、失礼を。いえ、確かに当ギルドでは魔術を教えることもやっております。ただ、その年齢が十二歳から十五歳までなのですよ」
おお、やっぱりあったのか、魔法学校! けど年齢制限があるの?
「そこは十五歳までじゃないとダメなんですか?」
「ダメ、と言いますか……そこでは三年かけて基礎から教えていくのです。もしどうしてもそこで学びたいとおっしゃるのならば、子供らと共に三年間学んでいただくことになりますが……?」
え? それはちょっと……。さすがに三年は長すぎる。
「ほかの方法はないんですか?」
「そうですね。それ以外ですと、個人に教えを乞うことになるかと思います」
「そういう人を紹介してもらえるんでしょうか?」
「それは可能です。弟子をとり、彼らに教えつつ研究をしている者がオルフェンには大勢いますからね。ただ、そういう者に弟子入りするのは、一定の知識を持っていることが前提です。基礎から学びたいという者に、一から教えてくれる人がいるかどうか……」
なるほど。要するに中学校卒業程度の学力があって初めて、弟子入りできるって感じなのか。
しかし、そうか。うーむ、困ったな。オルフェンに来さえすれば、すぐに魔術を習えると思っていたのに、計画がくるった。
「ここで悩んでいても仕方がない。実際に会って頼んでみたらどうだ」
「あ、そっか……」
表向きは受け入れてなくても、頼めば引き受けてくれるかもしれないよね。
「だったら、直接お願いしてみたいので、そういう方を紹介していただけますか?」
「ええ、それは構いません。……しかし、本当に訪ねるおつもりですか?」
「はい――何か問題でも?」
「いえ、そんなことはありませんが……では、取りあえず何人かお教えします」
彼は数人の名前が載ったリストを渡してくれた。ただ、なんだろうな? その表情がかなり微妙だったんだよね。気の毒そうなというか、かわいそうな人を見る感じ?
その表情の意味を私達が理解したのは、それからすぐのことだった。
「……ぜ、全滅とは思わなかった」
「まぁ、元気出せよ、レイちゃん」
リストにあった人達のところを全部回り、めでたく最後の一人にもけんもほろろに断られた。がっくりと肩を落とす私を、ガルドさんが慰めてくれる。ロウは無言で、ぽんぽんと私の頭をたたいてくれた。
「……二人とも、さんざん付き合わせちゃってごめんね」
「俺達のことは気にするな。お前は自分のやりたいことをやればいい」
「そういうことだぜ――しかしまぁ、揃いも揃って妙な連中だったなぁ」
「うん」
なんていうか……うん、さすがは魔導の都。そこで弟子を取るほど立派な皆さんはすごかった。一言で言えば、お伽噺に出てくる『偏屈な魔法使い』を十倍くらい強化した感じ? 詳細は省くけど、少なくとも、もう一度チャレンジしてみようと思える人は一人もいなかった。
「でも、どうしよう……子供に交じって三年間学校に通うしかないのかな?」
「それも最終手段として考えに入れておいたほうがいいかもしれんが……おい、ガルド」
「あ? なんだ?」
「お前は俺達よりはこの街に詳しい。何か、いい案はないのか?」
「あー……顔見知りの魔術師ならいたが、何せ二年も前だから、今もオルフェンにいるとは限らねぇよ。それに、そいつがレイちゃんに何か教えられるとも思えねぇ」
「役に立たん奴だな」
「お前が無茶ぶりすぎんだよ……あ、いや、待てよ……?」
ん? なんだろう、ガルドさんが何かを考えるような表情になった。
「噂を聞いたことがあるだけで、知り合いってわけじゃねぇんだが……『はずれの賢者』――いや、『はぐれの賢者』だったかな? そう呼ばれてる奴がいるらしい」
「なんだ、それは?」
「オルフェンでも指折りの魔導師で、ついでに街一番の変わり者だって話だ」
「……アレらが、ここでは普通の魔術師らしいんだぞ? そんな場所で評判の偏屈者なぞ、想像したくもない」
ものすごーく実感のこもったロウのセリフに、その原因を作った身としては、非常に申し訳ない思いが込み上げる。しかし、それは兎も角、私はガルドさんが思い出してくれた話に食いついた。
「ねぇ、反対に考えたら? ロウが言うように、あの人達が普通の魔術師で、その中で変わり者扱いされてるなら、意外と普通の人だったりしないかな?」
「レイ……お前の前向きな姿勢はいいと思うが、いくらなんでも楽観的すぎるぞ、それは」
うん、まぁ、自分でもそう思わなくもない。けど、もう一度魔導ギルドに行って別の人を紹介してもらったとしても、結局は同じことになる気がするんだよね。だったら、ダメ元でその人に会いに行くのもいいんじゃないかな。
「まぁ、それでお前の気が済むのなら構わんが……それで、ガルド。そいつはどこにいるんだ?」
「確か、聞いた話じゃ街の中にはいねぇってことだったな。ここからちょいと離れたところに屋敷を構えてるとかなんとか……おい、済まねぇが、ちと尋ねてぇことがあんだがよ」
そういうと、ガルドさんが近くの商店の人に声をかけ、チップを握らせた後、その人のお家への道を尋ね始めた。
「『はぐれの賢者』、ウェンローヴァ様のお宅ですか? それならば、西門を出ると真っ直ぐな小道があるんで、それに沿って行けば到着しますよ。ただ、あのお方は滅多なことでは訪問者にお会いくださらないと思いますが……」
話の流れからして、ウェンローヴァというのがその賢者様の名前のようだ。そして、魔術には関係なさそうなお店の人まで『様』を付けて『お方』と言うくらいだから、オルフェンでは有名なんだろう。その上、人嫌いなのも有名、と。けど、今からビビッていても仕方がない。
即断即決は、放浪者の基本です。私達はお店の人に礼を言って、西門を目指して歩き出したのだけど――即断即決は、時に善し悪しだ。せめてお店の人に、方向だけじゃなくて距離も訊いておけばよかったと、後悔する羽目になってしまった。
オルフェンの西の門を出ると、確かに教えてもらったとおり、細い道が西に向かって伸びていた。
けれど、その道を歩き始めたはいいが、行けども行けどもそれらしいものが見当たらない。
一体、どんだけ離れてるんだ? そろそろ歩き始めて一時間は経ってる気がする。すぐに着くと思っていたので、勢いのままにオルフェンを出てきちゃったんだけど、帰り道を考えると、これはもしかして明日にしたほうがよかったパターンか?
予想外に遠かったことで出直しを考え始めた頃、先頭を歩いていたロウが前方の木々の間に建物があるのを見つけた。この先に住んでるのはウェンローヴァさんだけだとお店の人が言っていたし、あれがそうに違いない。
ほっとして、それを目指して足を速める――でも、結局そこからまたしばらくかかった。
合計で一時間半近く歩いたんじゃないかな。ここまでの間に、他の建物は全く見当たらなかったから、少なくとも半径数キロ以内には人は住んでないっぽい。人嫌いとは聞いていたけど、ここまで徹底してるとはねぇ……
そして、ようやくたどり着いた先にあったのは、それはそれは立派なお屋敷だった。
道の行き止まりに、でーんっと本館がそびえ立ち、その周りにいくつか小さな建物がある。馬屋とか、使用人さんの住まいとかかな。柵や門はなかったので、どこからがお屋敷の敷地なのかわからないけど、ご近所さんがいないから問題ないのだろう。
「こんにちはー、どなたかいらっしゃいますか?」
立派なお屋敷の立派な玄関の前で声を張り上げる。しばらくしてドアの向こうに人の気配がした。
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