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第四話 愚かな騎士
あの夜会から数か月後、ジェローンは伯爵に叙爵された。ハイスの家と同格だ。
アルメとは不貞を理由に離縁している。
彼女の実家の男爵家は、肩代わりしてもらっていた借金が戻った上に慰謝料を請求されて破産し、家自体が消えた。
アルメの不貞相手も彼女の行方も秘匿されている。
第二王子はある夜会の後で重い病気に罹ってしまったため、女侯爵ニナとは離縁。
王宮の奥にある離宮で療養生活を送っている、ということになっている。
ジェローンが商人からの叙爵としては一般的な男爵や子爵ではなく、高位貴族である伯爵に叙されたのは第二王子がなにか関係している、などという噂は流れていない。本当の貴族は言ってはいけないことをわかっているのだ。
そして──ハイスもリアと離縁していた。
「最後まで彼女を利用してしまった」
「仕方ない、領地と領民のためだ。あんな女に引っかかったお前が悪い」
伯爵邸の執務室で溜息をつくハイスに、伯爵家当主である父が言う。
アルメの本命が第二王子だったのは事実だが、ハイスとスコルテン子爵令息も彼女の不貞相手だったことに間違いはない。
どちらの家も莫大な慰謝料を要求された。拒むことは出来なかった。第二王子のおこないの罪滅ぼしのつもりか、王家がジェローン伯爵に味方したのだ。
表向きはなにも起こっていないのに、ハイスの家もスコルテン子爵家も多額の借金を背負い込むことになってしまった。事業の失敗による負債だということにしている。
子爵家のほうはアルメの実家のようにいずれ消えてしまうかもしれない。
伯爵家は……リアと引き換えに慰謝料を免除された。ジェローンはリアを求めたのだ。
あのときの手紙は第二王子のものだったけれど、ジェローンはアルメの部屋からハイスの恋文も探し出してリアに確認させた。
ハイスが殺人計画を立てるわけがないと信じていたリアも、学園時代からのあれこれを思えば彼とアルメの不貞を疑う理由などなかったのだろう。一度婚約解消を申し出ていたくらいなのだ。
リアはハイスと離縁し、ジェローンへ嫁いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
伯爵令息ハイスは、幼いころから騎士に憧れていた。
一代限りの爵位の騎士爵ではなく、物語に出てくるような姫を守る騎士である。
ハイスが生まれた世代に王女はいなかったが、ハイスの心には守るべき姫がいる。
別れた元妻のリアだ。
彼女は強く賢く勇敢で、だれよりも気高い姫だった。
別れる前に、間違った相手を姫だと思い込む前に気づいていれば良かったのにと、今さら悔やんでもどうしようもない。
(せめてジェローン殿がリアを愛しているのなら良いのだが)
ハイスにはジェローンの気持ちがわからない。
もしかしたら、あの夜会のときに逆らわれたことを不快に思っての嫌がらせの求婚だったのかもしれない。
だがそうだとしても、今のハイスにはなにも出来ない。ハイスは騎士にはなれなかったのだ、これまでもこれからも──
アルメとは不貞を理由に離縁している。
彼女の実家の男爵家は、肩代わりしてもらっていた借金が戻った上に慰謝料を請求されて破産し、家自体が消えた。
アルメの不貞相手も彼女の行方も秘匿されている。
第二王子はある夜会の後で重い病気に罹ってしまったため、女侯爵ニナとは離縁。
王宮の奥にある離宮で療養生活を送っている、ということになっている。
ジェローンが商人からの叙爵としては一般的な男爵や子爵ではなく、高位貴族である伯爵に叙されたのは第二王子がなにか関係している、などという噂は流れていない。本当の貴族は言ってはいけないことをわかっているのだ。
そして──ハイスもリアと離縁していた。
「最後まで彼女を利用してしまった」
「仕方ない、領地と領民のためだ。あんな女に引っかかったお前が悪い」
伯爵邸の執務室で溜息をつくハイスに、伯爵家当主である父が言う。
アルメの本命が第二王子だったのは事実だが、ハイスとスコルテン子爵令息も彼女の不貞相手だったことに間違いはない。
どちらの家も莫大な慰謝料を要求された。拒むことは出来なかった。第二王子のおこないの罪滅ぼしのつもりか、王家がジェローン伯爵に味方したのだ。
表向きはなにも起こっていないのに、ハイスの家もスコルテン子爵家も多額の借金を背負い込むことになってしまった。事業の失敗による負債だということにしている。
子爵家のほうはアルメの実家のようにいずれ消えてしまうかもしれない。
伯爵家は……リアと引き換えに慰謝料を免除された。ジェローンはリアを求めたのだ。
あのときの手紙は第二王子のものだったけれど、ジェローンはアルメの部屋からハイスの恋文も探し出してリアに確認させた。
ハイスが殺人計画を立てるわけがないと信じていたリアも、学園時代からのあれこれを思えば彼とアルメの不貞を疑う理由などなかったのだろう。一度婚約解消を申し出ていたくらいなのだ。
リアはハイスと離縁し、ジェローンへ嫁いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
伯爵令息ハイスは、幼いころから騎士に憧れていた。
一代限りの爵位の騎士爵ではなく、物語に出てくるような姫を守る騎士である。
ハイスが生まれた世代に王女はいなかったが、ハイスの心には守るべき姫がいる。
別れた元妻のリアだ。
彼女は強く賢く勇敢で、だれよりも気高い姫だった。
別れる前に、間違った相手を姫だと思い込む前に気づいていれば良かったのにと、今さら悔やんでもどうしようもない。
(せめてジェローン殿がリアを愛しているのなら良いのだが)
ハイスにはジェローンの気持ちがわからない。
もしかしたら、あの夜会のときに逆らわれたことを不快に思っての嫌がらせの求婚だったのかもしれない。
だがそうだとしても、今のハイスにはなにも出来ない。ハイスは騎士にはなれなかったのだ、これまでもこれからも──
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