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第六話 中庭での再会
「それにしても……」
多忙な王太女の妹が中庭を去って、王姉である私は休日でも付き従ってくれている侍女が淹れてくれたお茶を飲みながら考えました。侍女達は侍女達でべつの日に休みを取っているのです。
獣王国は今、かなり苦しい状況になっています。
私も三年間の王太子妃生活で知りました。
結婚前はまだまだ余裕があるように見せかけていましたが、獣王国の食糧事情はかなり厳しくなっているのです。
我が国とつながる橋が完成したことで輸入が可能になったものの、二代続けての番による結婚の破綻も尾を引いています。
結婚とほかの契約は違うとはいえ、番が現れたら、ほかのすべてを後回しにしてでも番を優先するのではないかと言われたら、獣王国は反論しようがないのです。
どんなに値を吊り上げられても、言い値で買うしかない状況のようです。
獣人族の民が獣王国を離れて他国へ流出している問題もあります。
民が減ったから食糧が賄えるようになる、なんて単純な話ではありません。
その食糧を生産したり加工したり、各地へ運んだりする民もいなくなるということなのです。
他国へ流出している民は、妄信的に番を求めるのではなく、運命よりも自分の意思を大切にしたいと考える人々だという噂です。
ヒト族の国への定住を求める際に『番殺し』を飲むことで覚悟を証明しているのだとか。
今のところ『番殺し』の苦痛で亡くなった人が出たという報告はありません。
獣人族の民の多くは我が国への移住を望んでします。
母が獣王国の前の王妃殿下の親友だったからです。
前の王妃殿下のご実家の人々が、すでにこちらへ移住しているからもあるでしょう。
先ほど妹は、『獣王国の方』ではなく『獣人族の方』と言いました。
つまり獣王国に属していない獣人族の人と会うということです。どのようなご用事なのでしょうか。
まあ、妹や母は優しいので、私を遺恨のある獣王国の人と会わせるわけがないのですが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「要するに、お見合いですよ」
予定の日が来て、思い出の中庭で顔を合わせたのはホアン様でした。
「お、お見合いですか?」
「このまま獣人族とヒト族の間に溝が出来たままでは良くないでしょう?」
「はあ……確かに、私が獣人族の方と再婚すれば溝は消えるかもしれませんね。でもホアン様はよろしいのですか? 聖王猊下は独身でなければならないと聞いていますわ」
「大丈夫です、私は還俗しました。まだ手続きが残っているので公表はされていませんけれど、各国の最高位の方々にはお知らせしています」
「母と跡取りである妹は知っていたのですね」
私の立場では教えてもらえないのは当たり前のこととはいえ、こんなことでも選ばれないのだと思ってしまい、少し悲しい気持ちになりました。
季節の花の香りを運びながら、風がホアン様の白銀の髪を躍らせます。
白銀色の瞳が私を映しました。
「不安定な状態の国があることによる国際的な混乱を収めるためにはこの縁談が必要……と周囲を言いくるめて還俗したのですが、本当は違います」
「え」
ホアン様が微笑みます。
「カロリーナ姫、私は貴女を愛しています。貴女を愛しているから結婚したくて、ここへ来ているのです。私の妻になっていただけませんか?」
心臓の動悸が激しくなりました。
十二歳の私が夢見ていたように、ヒト族であっても獣人族の番ということはあり得るのです。
ただ、ヒト族はそれを認識しにくいので獣人族ほど番に執着しません。政略結婚や現在の結婚相手を優先出来るので、獣人族のような問題を起こさないのです。
「ホアン様、もしかして私は貴方の番なのでしょうか?」
ホアン様が薄い唇を開きます。答えを待つ間、自分の心臓の動悸が煩く感じていました。
「いいえ、違います」
「そうですか……」
ホアン様の答えに胸が締め付けられます。
私は二十三歳ですし、ホアン様は私よりいつつ年上の二十八歳です。
ふたりとも大人なのですから、番を認識しにくく執着しないヒト族の私はともかく、ホアン様が気づかないということはないでしょう。
多忙な王太女の妹が中庭を去って、王姉である私は休日でも付き従ってくれている侍女が淹れてくれたお茶を飲みながら考えました。侍女達は侍女達でべつの日に休みを取っているのです。
獣王国は今、かなり苦しい状況になっています。
私も三年間の王太子妃生活で知りました。
結婚前はまだまだ余裕があるように見せかけていましたが、獣王国の食糧事情はかなり厳しくなっているのです。
我が国とつながる橋が完成したことで輸入が可能になったものの、二代続けての番による結婚の破綻も尾を引いています。
結婚とほかの契約は違うとはいえ、番が現れたら、ほかのすべてを後回しにしてでも番を優先するのではないかと言われたら、獣王国は反論しようがないのです。
どんなに値を吊り上げられても、言い値で買うしかない状況のようです。
獣人族の民が獣王国を離れて他国へ流出している問題もあります。
民が減ったから食糧が賄えるようになる、なんて単純な話ではありません。
その食糧を生産したり加工したり、各地へ運んだりする民もいなくなるということなのです。
他国へ流出している民は、妄信的に番を求めるのではなく、運命よりも自分の意思を大切にしたいと考える人々だという噂です。
ヒト族の国への定住を求める際に『番殺し』を飲むことで覚悟を証明しているのだとか。
今のところ『番殺し』の苦痛で亡くなった人が出たという報告はありません。
獣人族の民の多くは我が国への移住を望んでします。
母が獣王国の前の王妃殿下の親友だったからです。
前の王妃殿下のご実家の人々が、すでにこちらへ移住しているからもあるでしょう。
先ほど妹は、『獣王国の方』ではなく『獣人族の方』と言いました。
つまり獣王国に属していない獣人族の人と会うということです。どのようなご用事なのでしょうか。
まあ、妹や母は優しいので、私を遺恨のある獣王国の人と会わせるわけがないのですが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「要するに、お見合いですよ」
予定の日が来て、思い出の中庭で顔を合わせたのはホアン様でした。
「お、お見合いですか?」
「このまま獣人族とヒト族の間に溝が出来たままでは良くないでしょう?」
「はあ……確かに、私が獣人族の方と再婚すれば溝は消えるかもしれませんね。でもホアン様はよろしいのですか? 聖王猊下は独身でなければならないと聞いていますわ」
「大丈夫です、私は還俗しました。まだ手続きが残っているので公表はされていませんけれど、各国の最高位の方々にはお知らせしています」
「母と跡取りである妹は知っていたのですね」
私の立場では教えてもらえないのは当たり前のこととはいえ、こんなことでも選ばれないのだと思ってしまい、少し悲しい気持ちになりました。
季節の花の香りを運びながら、風がホアン様の白銀の髪を躍らせます。
白銀色の瞳が私を映しました。
「不安定な状態の国があることによる国際的な混乱を収めるためにはこの縁談が必要……と周囲を言いくるめて還俗したのですが、本当は違います」
「え」
ホアン様が微笑みます。
「カロリーナ姫、私は貴女を愛しています。貴女を愛しているから結婚したくて、ここへ来ているのです。私の妻になっていただけませんか?」
心臓の動悸が激しくなりました。
十二歳の私が夢見ていたように、ヒト族であっても獣人族の番ということはあり得るのです。
ただ、ヒト族はそれを認識しにくいので獣人族ほど番に執着しません。政略結婚や現在の結婚相手を優先出来るので、獣人族のような問題を起こさないのです。
「ホアン様、もしかして私は貴方の番なのでしょうか?」
ホアン様が薄い唇を開きます。答えを待つ間、自分の心臓の動悸が煩く感じていました。
「いいえ、違います」
「そうですか……」
ホアン様の答えに胸が締め付けられます。
私は二十三歳ですし、ホアン様は私よりいつつ年上の二十八歳です。
ふたりとも大人なのですから、番を認識しにくく執着しないヒト族の私はともかく、ホアン様が気づかないということはないでしょう。
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