9 / 13
第九話 幼馴染~王太子ヘレミアス~
しおりを挟む
「可哀相なヘレミアス……」
ヘレミアスは母王妃にそう言われるのが嫌いだった。
母王妃がそう言い始めたのは、ヘレミアスが十二歳で女王国のカロリーナ王女と婚約したときからだ。
番とではなく、政略で結婚しなくてはいけない息子を憐れんでの発言だった。
(……莫迦らしい)
当時のヘレミアスは母王妃の言葉をそう受け止めていた。
十二歳、多感な年ごろのヘレミアスは、父王と母王妃の関係がどんなに番という言葉で取り繕ったところで不貞に過ぎないと考えていた。
不貞なだけではなく、異母兄ホアンの母親を犠牲にした血塗られた関係だ。
カロリーナ王女の妹王女がヘレミアスとの婚約を拒んだときに口にしたという、番を不貞の言い訳に使っている、という言葉そのままだ。
さすがに獣人族にとって大切な番という存在を否定する言葉なので、直接伝えられたわけではない。
獣王国の王家が独自につかんだ情報だ。
婚約が結ばれて、何度か手紙を交換した後で、ヘレミアスは父王の許可を得て一番信頼していた専属護衛騎士とともにカロリーナ王女を訪問した。
黒髪の王女はどこにも獣の特徴が無くて、獣人族とヒト族は違うのだとはっきり感じた。
だからといって嫌いになったりはしていない。番避けの宝石を受け取ってくれて、『番殺し』を飲むと言ったヘレミアスを案じてくれたカロリーナ王女には好意を抱いた。
それからはあまり会うこともなかったものの、手紙を交わし噂を聞くごとに心は近づいていった気がする。
(母女王と妹王女の名声に隠れてあまり評価されていなかったカロリーナが、私のために頑張ったことで認められるようになったと聞いたときは誇らしく感じたものだ)
獣王国の宮殿で中庭を歩きながら、ヘレミアスは隣に寄り添う側妃ペサディリャに視線を送った。
正妃であったカロリーナがいなくなった今、彼女を正妃にと望む番至上主義の獣人族は多い。
二代に渡って国王夫妻が番であれば、きっと素晴らしい幸運が獣王国に舞い込むと信じているのだ。
ペサディリャと出会ったのは、彼女がヘレミアスの専属護衛騎士と結婚する数ヶ月前のことだった。
神殿で頭角を現す異母兄ホアンに劣等感を持っていたヘレミアスにとっては、その専属護衛騎士こそが本当の兄のような存在だった。
急流を越えて女王国へ行ったときも、この専属護衛騎士と一緒だったのだ。
視線を交わした一瞬で熱情が燃え上がった。
ヘレミアスもペサディリャも互いが番だと察した。
察したけれど、そのときは想いを封じ込めると思った。番だと気づいたことなど打ち明けずに、ふたりは別れた。
ペサディリャと専属護衛騎士は幼馴染だった。
番の熱はないものの、互いを大切に思って生きてきたのだと聞いていた。
ヘレミアスとカロリーナもそうだった。十二歳というまだ未熟な年齢で出会い、王太子と王女という難しい立場に生まれた互いを慈しみ合って成長してきた。
──ただ、幼馴染という関係には刺激が足りなかったのかもしれない。
ヘレミアスは母王妃にそう言われるのが嫌いだった。
母王妃がそう言い始めたのは、ヘレミアスが十二歳で女王国のカロリーナ王女と婚約したときからだ。
番とではなく、政略で結婚しなくてはいけない息子を憐れんでの発言だった。
(……莫迦らしい)
当時のヘレミアスは母王妃の言葉をそう受け止めていた。
十二歳、多感な年ごろのヘレミアスは、父王と母王妃の関係がどんなに番という言葉で取り繕ったところで不貞に過ぎないと考えていた。
不貞なだけではなく、異母兄ホアンの母親を犠牲にした血塗られた関係だ。
カロリーナ王女の妹王女がヘレミアスとの婚約を拒んだときに口にしたという、番を不貞の言い訳に使っている、という言葉そのままだ。
さすがに獣人族にとって大切な番という存在を否定する言葉なので、直接伝えられたわけではない。
獣王国の王家が独自につかんだ情報だ。
婚約が結ばれて、何度か手紙を交換した後で、ヘレミアスは父王の許可を得て一番信頼していた専属護衛騎士とともにカロリーナ王女を訪問した。
黒髪の王女はどこにも獣の特徴が無くて、獣人族とヒト族は違うのだとはっきり感じた。
だからといって嫌いになったりはしていない。番避けの宝石を受け取ってくれて、『番殺し』を飲むと言ったヘレミアスを案じてくれたカロリーナ王女には好意を抱いた。
それからはあまり会うこともなかったものの、手紙を交わし噂を聞くごとに心は近づいていった気がする。
(母女王と妹王女の名声に隠れてあまり評価されていなかったカロリーナが、私のために頑張ったことで認められるようになったと聞いたときは誇らしく感じたものだ)
獣王国の宮殿で中庭を歩きながら、ヘレミアスは隣に寄り添う側妃ペサディリャに視線を送った。
正妃であったカロリーナがいなくなった今、彼女を正妃にと望む番至上主義の獣人族は多い。
二代に渡って国王夫妻が番であれば、きっと素晴らしい幸運が獣王国に舞い込むと信じているのだ。
ペサディリャと出会ったのは、彼女がヘレミアスの専属護衛騎士と結婚する数ヶ月前のことだった。
神殿で頭角を現す異母兄ホアンに劣等感を持っていたヘレミアスにとっては、その専属護衛騎士こそが本当の兄のような存在だった。
急流を越えて女王国へ行ったときも、この専属護衛騎士と一緒だったのだ。
視線を交わした一瞬で熱情が燃え上がった。
ヘレミアスもペサディリャも互いが番だと察した。
察したけれど、そのときは想いを封じ込めると思った。番だと気づいたことなど打ち明けずに、ふたりは別れた。
ペサディリャと専属護衛騎士は幼馴染だった。
番の熱はないものの、互いを大切に思って生きてきたのだと聞いていた。
ヘレミアスとカロリーナもそうだった。十二歳というまだ未熟な年齢で出会い、王太子と王女という難しい立場に生まれた互いを慈しみ合って成長してきた。
──ただ、幼馴染という関係には刺激が足りなかったのかもしれない。
2,270
あなたにおすすめの小説
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる