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最終話 貴方の明日に寄り添いたくて
青みがかった灰色の瞳で私を真っすぐに見つめて、ベルントは言った。
「貴女が私以外の男と結ばれるのは嫌です。明日も、明後日も、五十年後もずっと、貴女に寄り添っているのは私でありたい。だから殿下が貴女に婚約破棄を告げるのを待ってから、事件を解決したのです。嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした」
ベルントは私の護衛騎士に戻ったわけではない。
国に属している魔導騎士なのだから、王太子の婚約者でもない貴族令嬢の護衛騎士になど出来はしない。まあフィッシェ公爵家は何代か前に王家から分かれた家なのだけど。
そもそも旧大陸の遺跡都市調査で活躍した彼が、家臣という立場でひとつの家に独占されるのは良くない。
ベルントは私の新しい婚約者候補なのだ。
この王国を離れて、今後も旧大陸の共和国で遺跡都市調査に励む予定の彼といるほうが、廃太子の元婚約者なんていう難しい立場となった私も楽だろうとおっしゃって、お父様が彼に話を持ち掛けてくださったのだ。
とはいえ、最終的に決めるのは私。
アレクサンダー殿下との婚約のときもそうだった。
お父様は私に甘いのである。
そんな私に甘いお父様はベルントが時間を戻したことまではご存じではない。殿下と私の関係について知らされて、あの夜会ではベルントに協力してくださっていただけだ。
アレクサンダー殿下との関係が上手く行っていなかったことを相談しなかった件については、お叱りを受けてしまった。
お父様もお兄様も殿下の浮気には気づいていらっしゃったのだけど、私がなにも言わなかったので対処出来ないでいたのだ。
今ならわかる。王命でも、王命だからこそ、ふたりの心が離れていてはいけなかった。
男爵令嬢と例のならず者は処刑された。彼らが害しようとしたときの私は王太子の婚約者で準王族だったし……そうでなかったとしても貴族令嬢に冤罪を着せようとしていた虚偽告訴犯と暴行未遂犯だ。どちらも反省して更正出来るような動機ではなかった。
「ふふ」
「ベルント?」
「貴女の髪に触れるのは幼いころ以来ですね」
「そうね」
「……貴女が王太子妃となっても近衛騎士として仕え続けると約束していましたが、無理だったかもしれません。私は、自分で思うよりも貴女を愛している。たとえアレクサンダー殿下が貴女を愛して、貴女が幸せに過ごしていらっしゃっても、いつか耐え切れなくなっていたでしょう」
「怖いことを言うのね」
「はい。男は怖いものなんですよ。貴女は気をつけなくてはいけません」
ベルントが私の髪から手を離したのが、少し寂しい。
彼の恋の相手が私だったことが、とても嬉しい。
私は彼を見つめた。
「……廃太子の元婚約者なんていう扱いにくい傷物令嬢でも、貴方は良いの?」
「貴女でなければ駄目なのです。明日も、明後日も、五十年後もずっと……」
「私もよ。明日も、明後日も、五十年後もずっと、貴方に寄り添っているのは私でありたいわ。だから、私の婚約者になってくださいませ」
「かしこまりました。ゲルダ様、涙が……」
「嬉し涙よ。後、ゲルダで良いわ。婚約者なのですもの」
ふたりきりの馬車の中、魔導騎士が泣き方を思い出した泣き虫令嬢にキスをする。
ふたりはこれからも寄り添い合って生きていくのだ。
明日も、明後日も、五十年後も……私が先に死んだらどうするのかしら? そのときは時間を戻したりしないよう、これから重々言っておかなくてはね。
……ベルントが時間を戻したのはこれが初めてよね?
これまでは私に前の記憶がなかっただけなんてことはないわよね?
とりあえず後でじっくり彼に聞いてみようと、私は思った。
「貴女が私以外の男と結ばれるのは嫌です。明日も、明後日も、五十年後もずっと、貴女に寄り添っているのは私でありたい。だから殿下が貴女に婚約破棄を告げるのを待ってから、事件を解決したのです。嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした」
ベルントは私の護衛騎士に戻ったわけではない。
国に属している魔導騎士なのだから、王太子の婚約者でもない貴族令嬢の護衛騎士になど出来はしない。まあフィッシェ公爵家は何代か前に王家から分かれた家なのだけど。
そもそも旧大陸の遺跡都市調査で活躍した彼が、家臣という立場でひとつの家に独占されるのは良くない。
ベルントは私の新しい婚約者候補なのだ。
この王国を離れて、今後も旧大陸の共和国で遺跡都市調査に励む予定の彼といるほうが、廃太子の元婚約者なんていう難しい立場となった私も楽だろうとおっしゃって、お父様が彼に話を持ち掛けてくださったのだ。
とはいえ、最終的に決めるのは私。
アレクサンダー殿下との婚約のときもそうだった。
お父様は私に甘いのである。
そんな私に甘いお父様はベルントが時間を戻したことまではご存じではない。殿下と私の関係について知らされて、あの夜会ではベルントに協力してくださっていただけだ。
アレクサンダー殿下との関係が上手く行っていなかったことを相談しなかった件については、お叱りを受けてしまった。
お父様もお兄様も殿下の浮気には気づいていらっしゃったのだけど、私がなにも言わなかったので対処出来ないでいたのだ。
今ならわかる。王命でも、王命だからこそ、ふたりの心が離れていてはいけなかった。
男爵令嬢と例のならず者は処刑された。彼らが害しようとしたときの私は王太子の婚約者で準王族だったし……そうでなかったとしても貴族令嬢に冤罪を着せようとしていた虚偽告訴犯と暴行未遂犯だ。どちらも反省して更正出来るような動機ではなかった。
「ふふ」
「ベルント?」
「貴女の髪に触れるのは幼いころ以来ですね」
「そうね」
「……貴女が王太子妃となっても近衛騎士として仕え続けると約束していましたが、無理だったかもしれません。私は、自分で思うよりも貴女を愛している。たとえアレクサンダー殿下が貴女を愛して、貴女が幸せに過ごしていらっしゃっても、いつか耐え切れなくなっていたでしょう」
「怖いことを言うのね」
「はい。男は怖いものなんですよ。貴女は気をつけなくてはいけません」
ベルントが私の髪から手を離したのが、少し寂しい。
彼の恋の相手が私だったことが、とても嬉しい。
私は彼を見つめた。
「……廃太子の元婚約者なんていう扱いにくい傷物令嬢でも、貴方は良いの?」
「貴女でなければ駄目なのです。明日も、明後日も、五十年後もずっと……」
「私もよ。明日も、明後日も、五十年後もずっと、貴方に寄り添っているのは私でありたいわ。だから、私の婚約者になってくださいませ」
「かしこまりました。ゲルダ様、涙が……」
「嬉し涙よ。後、ゲルダで良いわ。婚約者なのですもの」
ふたりきりの馬車の中、魔導騎士が泣き方を思い出した泣き虫令嬢にキスをする。
ふたりはこれからも寄り添い合って生きていくのだ。
明日も、明後日も、五十年後も……私が先に死んだらどうするのかしら? そのときは時間を戻したりしないよう、これから重々言っておかなくてはね。
……ベルントが時間を戻したのはこれが初めてよね?
これまでは私に前の記憶がなかっただけなんてことはないわよね?
とりあえず後でじっくり彼に聞いてみようと、私は思った。
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