死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。

豆狸

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12・彼を見た。

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 翌日、朝食の前に庭へ出た私は、懐かしい人間に出会った。
 お母様が生きていたころ、王都にあるサジテール侯爵家の庭を整えてくれていた庭師だ。
 義母に追い出されてすぐベリエ大公に声をかけられて、こちらに雇われたのだという。お元気だったときのお母様の話をいろいろと教えてくれた。

 それからニナが作ってくれた温かい料理を食べた。
 朝食を終えても大公は戻られなかったのでニナと魔術学院へ向かい、馬車の中で昼食用のサンドイッチを渡された。ポール殿下とセリア様のことで同情や嘲笑の視線を向けられるのが嫌で学食へ行けなかった私が、ずっとお昼を抜いていたことを知っていたらしい。
 知っていたのはニナではなくベリエ大公なのでしょうね。

 私が教室へ入ると、ざわめきが消えた。
 今日は登校なさっていたポール殿下が私を見る。
 彼も昨日白い貴婦人の話を聞いたのだろうか。

「おはようございます、ポール殿下」
「……おはよう」

 殿下は席を立って、私の前までやって来た。
 ベリエ大公よりも背が高く筋肉質な体を曲げて、エメラルドの瞳で私の顔を覗き込む。
 な、なんなのでしょう? 声を出せないでいる私をマジマジと見つめて、彼は無邪気な少年のような笑みを浮かべて言う。

「やっと俺を見たな」
「……」

 すぐに教師が来て、授業が始まって良かったと思う。
 心臓の動悸が激しい。初めて見るポール殿下の笑みに私は少しときめいてしまったのだ。
 ベリエ大公の婚約者になったのに、なにをしているのかしら。

 でも彼の言う通りだ。初恋の少年とはまるで違う笑みだった。
 本当に彼のことを見ていれば、違う、ともっと早くに気づいたはずだ。
 これまではずっと自分の勝手な思い込みを重ねていた。幼いころからの婚約者だったというのに、私は今日、初めてポール殿下ご本人を見たのだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 昼休みが来た。

「……うふふ」

 ニナのサンドイッチが楽しみだ。私の好きな海老と卵を入れてくれたのだという。
 どこで食べようかしら。あまり人目のないところがいいわね。
 中庭? 裏庭? 図書室の横の木の下?

「ドリアーヌ」
「ポール殿下」
「話がある、生徒会室へ来い。昼食はバティストに学食から運ばせる」

 殿下は一年生だが生徒会長だ。
 ご入学前はベリエ大公がなさっていた。基本的には選挙で選ばれる生徒会長だが、王族が在学しているときは王族がする決まりになっている。
 実務はバティスト様をはじめとする未来の側近達がしている。私の異母弟もそのひとりだ。彼らとセリア様は、いつも生徒会室で昼食を摂っていた。

「生徒会室は……」
「ああ、そなたは異母弟と不仲であったな。安心しろ。ほかのものは下がらせる。バティストも料理を運ぶだけだ。内密の話がしたい」

 白い貴婦人の話だろうか。

「……密室でふたりきりは問題です。私はベリエ大公殿下の婚約者なのですから」
「そうだったな。ならば図書室横の木の下にしよう。人の耳はないが、図書室から見えるから誤解を生まない」
「それでしたら。あ、でも私はお昼を持って来ておりますので、学食の料理は必要ありません。メイドがサンドイッチを作ってくれたのです」
「クレマンがそなたのために王宮からメイドを引き抜いたのだったな。ニナ、だったか?」

 クレマンはベリエ大公のお名前だ。
 私は頷いた。

「とても良くしてくれます。……どうしてこんなに良くしてくれるのかしら?」

 ベリエ大公が私に良くしてくださるのは贖罪でお礼だとおっしゃっていたけれど、ニナの献身の理由はわからない。
 それほどサジテール侯爵家にいたときの私は哀れに見えたのかしら。
 つい漏らしてしまった独り言に、私を先導して歩き始めていた殿下が反応する。

「そんなの当たり前だろう?」
「殿下はご存じなのですか?」
「あの娘は、そなたが立案してクレマンが実行した貧民街改革で救われた人間のひとりだ。ほんの数年で王宮に雇えるほどのメイドを育てられる計画を立てたそなたも実行したクレマンも文官達の称賛の的だ。それに比べて魔術ひとつ使えない武芸莫迦の王太子殿下は、と余計なことまでほざいているがな」

 王宮の文官と殿下の確執は、もう始まっていたようだ。
 私は首を傾げた。ポール殿下も魔術を使っているはずだ。

「殿下は魔術実習の授業で魔獣を倒していらっしゃいますよね?」
「剣圧とともに魔力を放って屠っているだけだ。属性もわからず制御もできぬものは魔術とは言わぬそうだ」
「一昨日、殿下の視線を受けたとき私はとてつもない衝撃を受けました。ベリエ大公殿下が瞳に魔力を集めて人の心の色を見るように、殿下も瞳に魔力を集めて威圧する魔術をお使いなのではないでしょうか?」
「む……一昨日か。あのときは悪かった」

 恥ずかしそうに謝罪の言葉を口にする彼の顔も、初めて見るものだった。
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