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前編 真実の愛・彼女の場合
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魔導学園の入学式の朝、私の三度目の人生が始まりました。
アルノー王国ギャルニエ公爵令嬢ベアトリーチェの一度目の人生は、婚約者のフリート王太子殿下に婚約を破棄されて不幸のどん底に沈みました。
二度目のときは一度目の経験を活かして婚約破棄を回避し、王妃となって──
今回の人生では殿下に真実の愛を確かめていただくつもりです。
どうして人生を繰り返しているのかはわかりません。
二度目のときは感謝しましたが、今回はもう普通に人生を終われたらいいなと思っています。……あの人と一緒に。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一度目と二度目の経験を活かし、今回は親友の伯爵令嬢カテリーネ様や子爵令嬢シャルロッテ様も幸せに出来るよう尽力していたら、魔導学園の三年間はあっという間に過ぎ去っていきました。
本日は魔導学園の卒業パーティです。
かなり遅れて会場に入ったのに、まだダンスどころか開幕の挨拶すら終わっていませんでした。イライラした様子で壇上に立っていたフリート殿下が私を見て眉を吊り上げます。
「遅かったな、ベアトリーチェ! 今夜私はそなたの罪を……その男はだれだ?」
あらあら。この方をご存じないのは仕方ないですけれど、会場の卒業生や在校生達にとっては、あなたとテナシテ男爵令嬢の後ろにいる下町風の薄汚れた男のほうが謎の人物でしてよ。
「この方は隣国の第四王子、エティエンヌ殿下であらせられますわ」
「第四王子?」
「僕は妾腹で、十五歳になったとき王位継承権も放棄したからね。公務には一切関わることなく隠すようにして育てられた男なんて、フリート王太子殿下がご存じないのは当然だよ」
それでも王太子殿下としては、隣国の情勢くらい確認しておくべきなのですけれどね。
いつなにが起こって、この方が担ぎ上げられるかわからないのですから。
「まさかその男と浮気をしていたのか、ベアトリーチェ。……いや、そんな雰囲気ではないな」
呟くフリート殿下を無視し、私は薄汚れた男に微笑みかけます。
「ハリ。エティエンヌ殿下の従者が人質に取っていた、あなたの奥方とご令嬢は助け出しました。もう嘘を言う必要はないですよ」
男は信じきれない様子で、エティエンヌ殿下の背後に立つ従者を見ました。
私の護衛騎士(王太子殿下の婚約者として妙な疑いを抱かれないよう女性です)に拘束されていた従者は、エティエンヌ殿下に睨まれて頷きます。
「はい。ギャルニエ公爵令嬢に隠れ家を急襲され、あなたの妻子は奪還されました。ですのでもう、彼女に雇われてテナシテ男爵令嬢を襲ったなどという嘘をつかなくても構いません」
「……おお……。ギャルニエ公爵家のご令嬢、あんたに罪を着せようとしていた俺を救ってくれるなんて、あんたは女神のようなお方だ。それに比べて……」
ハリはテナシテ男爵令嬢を睨みつけました。
彼は全身ボロボロです。フリート王太子殿下を始めとする男爵令嬢の取り巻き達にやられたのでしょう。
王国の財務を司る侯爵家のご子息に魔導士団団長のご子息、この学園で神学の教師を務める聖王猊下の甥御様、国一番の商会の跡取り──未来の国王の側近となるために集められた錚々たる顔ぶれですが、みんな男爵令嬢に夢中です。一度目と二度目は壇上側にいた騎士団団長のご子息は、今回は婚約者であるシャルロッテ様の隣にお立ちになっています。
「発言をお許しいただけるでしょうか、フリート王太子殿下」
「な、なんだ?」
「サミュエル、黙れ!」
主君であるエティエンヌ殿下の制止を無視し、フリート王太子殿下の返答を都合の良いように解釈して、隣国の従者サミュエルは語り始めました。
「我が主君エティエンヌ殿下がそちらのテナシテ男爵令嬢の処女を奪ったのは、彼女のほうから誘われたからです。エティエンヌ殿下の魅力が罪だといえば罪ですが、神が与えた美しさを罰する権利が人間にあるのでしょうか?」
「だ、ま、れ」
「そしてテナシテ男爵令嬢を通じて、フリート王太子殿下からこちらの国家機密を聞き出していたのは私の一存によるものです。あ、お金もちょっともらってました。ですがどちらも我が主君も我が祖国もなんら関与しておりません」
「家臣の起こした問題の責任は主人が取るものだ」
「おお、なんとお優しいエティエンヌ殿下! これぞ王者の風格でございますな!」
「……」
フリート王太子殿下は呆然とした顔で、私を見つめてきます。
ええ、混沌としてますわよね。
私もこのふたりについて調べ始めたときは途方に暮れました。今はもう慣れましたけれど、慣れて良かったとは思えません。できれば最初から関わり合いになりたくなかったです。
「フリート王太子殿下っ!」
「う、うむ?」
「すべての罪は僕にある。幸い祖国からは見捨てられている立場だ。この国の法できちんと処罰してくれ「駄目よ!」」
エティエンヌ殿下の口上を遮ったのはテナシテ男爵令嬢でした。……あらあら。
「エティエンヌはアタシと幸せにならなきゃ駄目なの! エティエンヌが隣国で認められるのに必要な情報とお金を集めるために、アタシは好きでもない男に体を任せたんだよ? フリート!」
「お、おう?」
「エティエンヌを処罰するなら、アタシも処罰して! フリートを騙してたのは悪かったと思うけど、アタシとエティエンヌは真実の愛なの!」
──『真実の愛』、ですか。
一度目の人生のときは、フリート王太子殿下とテナシテ男爵令嬢の間にあるものこそが真実の愛だと宣言した後、ハリの偽証で私を断罪して婚約を破棄なさったのですけれどねえ。
アルノー王国ギャルニエ公爵令嬢ベアトリーチェの一度目の人生は、婚約者のフリート王太子殿下に婚約を破棄されて不幸のどん底に沈みました。
二度目のときは一度目の経験を活かして婚約破棄を回避し、王妃となって──
今回の人生では殿下に真実の愛を確かめていただくつもりです。
どうして人生を繰り返しているのかはわかりません。
二度目のときは感謝しましたが、今回はもう普通に人生を終われたらいいなと思っています。……あの人と一緒に。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一度目と二度目の経験を活かし、今回は親友の伯爵令嬢カテリーネ様や子爵令嬢シャルロッテ様も幸せに出来るよう尽力していたら、魔導学園の三年間はあっという間に過ぎ去っていきました。
本日は魔導学園の卒業パーティです。
かなり遅れて会場に入ったのに、まだダンスどころか開幕の挨拶すら終わっていませんでした。イライラした様子で壇上に立っていたフリート殿下が私を見て眉を吊り上げます。
「遅かったな、ベアトリーチェ! 今夜私はそなたの罪を……その男はだれだ?」
あらあら。この方をご存じないのは仕方ないですけれど、会場の卒業生や在校生達にとっては、あなたとテナシテ男爵令嬢の後ろにいる下町風の薄汚れた男のほうが謎の人物でしてよ。
「この方は隣国の第四王子、エティエンヌ殿下であらせられますわ」
「第四王子?」
「僕は妾腹で、十五歳になったとき王位継承権も放棄したからね。公務には一切関わることなく隠すようにして育てられた男なんて、フリート王太子殿下がご存じないのは当然だよ」
それでも王太子殿下としては、隣国の情勢くらい確認しておくべきなのですけれどね。
いつなにが起こって、この方が担ぎ上げられるかわからないのですから。
「まさかその男と浮気をしていたのか、ベアトリーチェ。……いや、そんな雰囲気ではないな」
呟くフリート殿下を無視し、私は薄汚れた男に微笑みかけます。
「ハリ。エティエンヌ殿下の従者が人質に取っていた、あなたの奥方とご令嬢は助け出しました。もう嘘を言う必要はないですよ」
男は信じきれない様子で、エティエンヌ殿下の背後に立つ従者を見ました。
私の護衛騎士(王太子殿下の婚約者として妙な疑いを抱かれないよう女性です)に拘束されていた従者は、エティエンヌ殿下に睨まれて頷きます。
「はい。ギャルニエ公爵令嬢に隠れ家を急襲され、あなたの妻子は奪還されました。ですのでもう、彼女に雇われてテナシテ男爵令嬢を襲ったなどという嘘をつかなくても構いません」
「……おお……。ギャルニエ公爵家のご令嬢、あんたに罪を着せようとしていた俺を救ってくれるなんて、あんたは女神のようなお方だ。それに比べて……」
ハリはテナシテ男爵令嬢を睨みつけました。
彼は全身ボロボロです。フリート王太子殿下を始めとする男爵令嬢の取り巻き達にやられたのでしょう。
王国の財務を司る侯爵家のご子息に魔導士団団長のご子息、この学園で神学の教師を務める聖王猊下の甥御様、国一番の商会の跡取り──未来の国王の側近となるために集められた錚々たる顔ぶれですが、みんな男爵令嬢に夢中です。一度目と二度目は壇上側にいた騎士団団長のご子息は、今回は婚約者であるシャルロッテ様の隣にお立ちになっています。
「発言をお許しいただけるでしょうか、フリート王太子殿下」
「な、なんだ?」
「サミュエル、黙れ!」
主君であるエティエンヌ殿下の制止を無視し、フリート王太子殿下の返答を都合の良いように解釈して、隣国の従者サミュエルは語り始めました。
「我が主君エティエンヌ殿下がそちらのテナシテ男爵令嬢の処女を奪ったのは、彼女のほうから誘われたからです。エティエンヌ殿下の魅力が罪だといえば罪ですが、神が与えた美しさを罰する権利が人間にあるのでしょうか?」
「だ、ま、れ」
「そしてテナシテ男爵令嬢を通じて、フリート王太子殿下からこちらの国家機密を聞き出していたのは私の一存によるものです。あ、お金もちょっともらってました。ですがどちらも我が主君も我が祖国もなんら関与しておりません」
「家臣の起こした問題の責任は主人が取るものだ」
「おお、なんとお優しいエティエンヌ殿下! これぞ王者の風格でございますな!」
「……」
フリート王太子殿下は呆然とした顔で、私を見つめてきます。
ええ、混沌としてますわよね。
私もこのふたりについて調べ始めたときは途方に暮れました。今はもう慣れましたけれど、慣れて良かったとは思えません。できれば最初から関わり合いになりたくなかったです。
「フリート王太子殿下っ!」
「う、うむ?」
「すべての罪は僕にある。幸い祖国からは見捨てられている立場だ。この国の法できちんと処罰してくれ「駄目よ!」」
エティエンヌ殿下の口上を遮ったのはテナシテ男爵令嬢でした。……あらあら。
「エティエンヌはアタシと幸せにならなきゃ駄目なの! エティエンヌが隣国で認められるのに必要な情報とお金を集めるために、アタシは好きでもない男に体を任せたんだよ? フリート!」
「お、おう?」
「エティエンヌを処罰するなら、アタシも処罰して! フリートを騙してたのは悪かったと思うけど、アタシとエティエンヌは真実の愛なの!」
──『真実の愛』、ですか。
一度目の人生のときは、フリート王太子殿下とテナシテ男爵令嬢の間にあるものこそが真実の愛だと宣言した後、ハリの偽証で私を断罪して婚約を破棄なさったのですけれどねえ。
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