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9・めくるめくめく、めくるめく?
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「……エギル……」
甘く艶やかな低い声が、耳元で私の名前を囁く。
そういえば、前世のことは思い出したけど、前世の自分の名前は思い出せないんだよなあ。今世でフォルセティ侯爵家の両親に新しい名前を名付けられた時点で忘れてしまったのかもしれない。これからはこの世界で生きていくんですよ、ということで。
くすぐったくて、でも心地良く、体の奥をほんのりと熱くするような吐息を耳に感じて瞼を上げる。
「ファ……っ!」
私にのしかかっていた彼の名前を叫びかけたら、人差し指でそっと唇を塞がれた。
なにか魔術でも使っているのか赤いひと房が煌めいていて、暗闇でも端正な顔がわかる。ああ、ホント顔は好きだわあ。
もしや『YoursAge』であった仲間による夜這いイベント? でもちょっと状況が違い過ぎる。あれは宿屋オンリーのはずだ。
私は小声で彼を嗜めた。
「……誇り高きレーヴァティン帝国の第一皇子殿下が制圧した国の元貴族令嬢に手を出したりしたら、ヴィゾフニル皇帝陛下がお怒りになりますよ?」
皇帝ヴィゾフニルは、前世日本で一番有名だったと思われる戦国武将をリスペクトして作られたキャラクターだと言われていた。
魔王と呼ばれるほど苛烈で軍律に厳しく、美しくない行いをしたものは重臣であっても斬り捨てる。もちろん皇子皇女であってもだ。
ファヴやレギン様に勝るとも劣らない美しさの3Dモデル(髭付き)、皇帝なのに結構イベントで顔を合わせることなどから、彼の皇妃がゲームに登場しないのは結婚イベントが隠されているからではないか、という噂もあったっけ。
私の上でファヴが微笑む。
「同意の上なら問題はないでしょう?」
「同意しません。というか、どうやって入って来られたのです。警備兵やメイドを身分で黙らせたのですか?」
「まさか。今日この国のダンジョンで見つけた指南書で習得した『隠密』を使って、気づかれないように入って来たんですよ。彼らに罪はありません」
体術も習得してたんだ、ファヴ。
そんでもって私が取ろうと思ってた『隠密』の指南書も見つけてたんだ。……いつの間に? あれってまた生える系の隠しアイテムだったけなー?
まあ敏捷1の私を出し抜いて行動するくらい、彼には簡単なことだろう。前世のゲームの中だったら仲間のステータスも見られるんだけど、今世は自分のしか見られないんだよね。聖術習得して『鑑定』の指南書買おうかしら。でも私呪術習得してるから、対抗する属性の聖術覚えようとしたらスキルポイントが大量に必要なんだろうなあ。
「ねえ、エギル……貴女は私のことが好きでしょう? ずっと私の顔に見惚れていましたものね。顔だけが目当てというのは悲しいですが、貴女だったら許してあげます」
「……っ! わ、わ、私は皇妃になどなれませんっ!」
ファヴは皇太子になることに異常なほど拘っている。
それは、皇帝ヴィゾフニルの血筋の証である赤いひと房が、魔術やスキルを使うときにしか煌めかないということ──ああ、今煌めいているのは『隠密』使ってるからか、なんか矛盾してるけど──にコンプレックスを持っているからだった。
普段から赤いひと房がはっきり見えているレギン様やレヴィル様は、好感度が低くても聖剣欲しさにプレイヤーキャラを殺したりしない。
「構いませんよ。公務が嫌なら側妃になってください。なんなら、私が帝位を棄てましょう。貴女のためなら惜しくはない。冒険者夫婦として、大陸中のダンジョンを制覇して回りましょうか。貴女が言っていた通り、ダンジョンでカフェを開いてもいいですね。私は貴女のために魔物を狩ります。貴女の『料理』が毎日食べられたら幸せです」
明らかな『料理』目当てっ!
どんだけ甘いものが好きなんですかっ!
帝位まで棄てちゃうの?
ああ、ゲームなら『黄金の首飾り亭』でセーブロードを繰り返して、敏捷上げて逃げ出せたのにっ! いや、一度に上がるのは3が最高だけど。
「……エギル……」
「ふぁっ!」
囁かれて、耳たぶを食まれて妙な声が出る。
前世の二十八年間も今世の二十八年間もこんな経験はない。だって喪女だもの。
そして、実は顔だけでなく、私はファヴの声も好きなのだった。なにそれ、どこから出してんの? 同じ人間の声? 『魅了』とか使ってない?
「可愛い声ですね……私を受け入れてください、エギル……」
イケメンめ! 美声イケメンめ! 自分が拒まれるとは全然思ってないな!
優しく蕩けるようなキスをされて──私はめくるめく一夜を過ごしてしまったのだった。
なんかいろいろあったし、された。ゲームの夜這いイベントは、暗転してウフーンって感じの音声が響くだけだったのになあ(全NPC共通)。
甘く艶やかな低い声が、耳元で私の名前を囁く。
そういえば、前世のことは思い出したけど、前世の自分の名前は思い出せないんだよなあ。今世でフォルセティ侯爵家の両親に新しい名前を名付けられた時点で忘れてしまったのかもしれない。これからはこの世界で生きていくんですよ、ということで。
くすぐったくて、でも心地良く、体の奥をほんのりと熱くするような吐息を耳に感じて瞼を上げる。
「ファ……っ!」
私にのしかかっていた彼の名前を叫びかけたら、人差し指でそっと唇を塞がれた。
なにか魔術でも使っているのか赤いひと房が煌めいていて、暗闇でも端正な顔がわかる。ああ、ホント顔は好きだわあ。
もしや『YoursAge』であった仲間による夜這いイベント? でもちょっと状況が違い過ぎる。あれは宿屋オンリーのはずだ。
私は小声で彼を嗜めた。
「……誇り高きレーヴァティン帝国の第一皇子殿下が制圧した国の元貴族令嬢に手を出したりしたら、ヴィゾフニル皇帝陛下がお怒りになりますよ?」
皇帝ヴィゾフニルは、前世日本で一番有名だったと思われる戦国武将をリスペクトして作られたキャラクターだと言われていた。
魔王と呼ばれるほど苛烈で軍律に厳しく、美しくない行いをしたものは重臣であっても斬り捨てる。もちろん皇子皇女であってもだ。
ファヴやレギン様に勝るとも劣らない美しさの3Dモデル(髭付き)、皇帝なのに結構イベントで顔を合わせることなどから、彼の皇妃がゲームに登場しないのは結婚イベントが隠されているからではないか、という噂もあったっけ。
私の上でファヴが微笑む。
「同意の上なら問題はないでしょう?」
「同意しません。というか、どうやって入って来られたのです。警備兵やメイドを身分で黙らせたのですか?」
「まさか。今日この国のダンジョンで見つけた指南書で習得した『隠密』を使って、気づかれないように入って来たんですよ。彼らに罪はありません」
体術も習得してたんだ、ファヴ。
そんでもって私が取ろうと思ってた『隠密』の指南書も見つけてたんだ。……いつの間に? あれってまた生える系の隠しアイテムだったけなー?
まあ敏捷1の私を出し抜いて行動するくらい、彼には簡単なことだろう。前世のゲームの中だったら仲間のステータスも見られるんだけど、今世は自分のしか見られないんだよね。聖術習得して『鑑定』の指南書買おうかしら。でも私呪術習得してるから、対抗する属性の聖術覚えようとしたらスキルポイントが大量に必要なんだろうなあ。
「ねえ、エギル……貴女は私のことが好きでしょう? ずっと私の顔に見惚れていましたものね。顔だけが目当てというのは悲しいですが、貴女だったら許してあげます」
「……っ! わ、わ、私は皇妃になどなれませんっ!」
ファヴは皇太子になることに異常なほど拘っている。
それは、皇帝ヴィゾフニルの血筋の証である赤いひと房が、魔術やスキルを使うときにしか煌めかないということ──ああ、今煌めいているのは『隠密』使ってるからか、なんか矛盾してるけど──にコンプレックスを持っているからだった。
普段から赤いひと房がはっきり見えているレギン様やレヴィル様は、好感度が低くても聖剣欲しさにプレイヤーキャラを殺したりしない。
「構いませんよ。公務が嫌なら側妃になってください。なんなら、私が帝位を棄てましょう。貴女のためなら惜しくはない。冒険者夫婦として、大陸中のダンジョンを制覇して回りましょうか。貴女が言っていた通り、ダンジョンでカフェを開いてもいいですね。私は貴女のために魔物を狩ります。貴女の『料理』が毎日食べられたら幸せです」
明らかな『料理』目当てっ!
どんだけ甘いものが好きなんですかっ!
帝位まで棄てちゃうの?
ああ、ゲームなら『黄金の首飾り亭』でセーブロードを繰り返して、敏捷上げて逃げ出せたのにっ! いや、一度に上がるのは3が最高だけど。
「……エギル……」
「ふぁっ!」
囁かれて、耳たぶを食まれて妙な声が出る。
前世の二十八年間も今世の二十八年間もこんな経験はない。だって喪女だもの。
そして、実は顔だけでなく、私はファヴの声も好きなのだった。なにそれ、どこから出してんの? 同じ人間の声? 『魅了』とか使ってない?
「可愛い声ですね……私を受け入れてください、エギル……」
イケメンめ! 美声イケメンめ! 自分が拒まれるとは全然思ってないな!
優しく蕩けるようなキスをされて──私はめくるめく一夜を過ごしてしまったのだった。
なんかいろいろあったし、された。ゲームの夜這いイベントは、暗転してウフーンって感じの音声が響くだけだったのになあ(全NPC共通)。
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