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第七話 新しい朝
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朝は嫌いだった。
眠っている間に死んでしまって、目覚めずに済めばいいのにと毎晩眠る前に願っていた。婚約を破棄される前は王宮が救いの場所だったけれど、婚約を破棄されてからは王宮も地獄になった。
だけど夜明け前に目覚めて二度寝したにもかかわらず、その日の朝は爽やかだった。
「徹夜すると却って頭がすっきりするよな」
「それは気のせいだと思います」
ウルリヒ陛下と一緒に軽口を叩きながら、部屋に運ばれてきた、いつもより遅めの朝食を口にする。
世話をしてくれるのはヘルツェル帝国の人々だ。
みんな可愛らしい耳や尻尾を持っている。羨ましいと言ったらウルリヒ陛下が、帝国に戻ったら好きなだけ俺の耳と尻尾を触らせてやる、と言ってくださった。
「……ウルリヒ陛下」
「なんだ。そういやクリスティーネは食が細かったな。帝国基準の朝食だと量が多いか。貸せよ、残りは俺が食ってやる」
「ありがとうございます。でも、それだけじゃありません。私なんかの代わりにギュンター王国に精霊樹の実を与えて、ウルリヒ陛下が帝国で責められるのではないかと心配で」
「私なんか、とか二度と言うな。お前は俺の番なんだから。後、精霊樹の実については気にするな。宴にいたうちの高官ども、だれも止めようとしてなかっただろ? あんたが留学してたとき教えたように……いや、あのときは最後まで言わなかったんだよな?」
「精霊樹がふたつ以上実をつけたとき、ほかの精霊樹に移植するのは……というお話ですか?」
夢で出てきた会話に驚きながら、ウルリヒ陛下の顔を見る。
「おお、覚えてたか」
「最後まではお聞きしていません」
「だよな。聞いてたら精霊樹の実のことで俺が責められるなんて言うはずがない。それにあのときはまだ……いや、今はもう大丈夫だからこの機会に話しておこう。精霊樹の実は枯れかけた精霊樹に移植するとその精霊樹を元気にするが、同じ精霊樹にふたつ以上実ったときは……」
「皇帝陛下!」
話を遮ったのはヘルツェル帝国の高官のひとりだった。
「なんだよ、朝から。今の俺は客人だし、今日は急ぐ予定もないだろうが」
「ギュンター王国の王太子殿下が応接室にいらしています。陛下との謁見をお望みのようです」
王宮の客室とは寝室を含む複数の部屋がつながったものだ。
私達が眠ったこの寝室のほかにも応接室や簡易の執務室がある。
王族が謁見を望むなんて不思議な言い回しの気もするけれど、帝国の人間にとってはウルリヒ陛下が一番だからそういう言い方になるのは当然なのだろう。わかった、と言ってウルリヒ陛下は私が食べきれなかった朝食を飲み込んでくれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「クリスティーネ!」
支度を済ませて彼とふたり応接室へ向かうと、長椅子に座って待っていた王太子殿下が腰を浮かせて私の名前を呼んだ。
ウルリヒ陛下が王太子殿下を睨む。
「俺の番の名前を呼び捨てにしないでもらおうか」
「私の妻だ!」
「昨夜離縁して俺の妻となっただろうが。納得していたくせにどうした」
王太子電は苦しげな表情で俯き、絞り出すように言葉を口にした。
「朝起きたら、寝床にロイバーナがいなかった」
「新しい愛妾を囲えばいいじゃないか。今さら俺の番に色気を出すな」
「そうじゃない! そういうことではなくて……私はこれまでずっと、ロイバーナに魅了されていたんだ」
「王太子殿下も側近の方々も魅了されていないという調査結果ではなかったでしょうか?」
はしたなくも口を挟んでしまったのは、王太子殿下の発言があまりにも矛盾していたからだ。
ウルリヒ陛下が楽しげに笑って、私の頭を撫でた。
「そうだそうだ。俺達獣人は魅了を番の衝動だと思わされて利用されることが多かったから、昔から魅了の魔術には敏感なんだ。王太子殿下も側近達もあまりに様子がおかしかったから、俺の前の皇帝が直々に調査を要請したはずだぞ。まあ、ひとりの魔術師の調査結果程度で魅了されてないと言いきられたことで、ギュンター王国はヘルツェル帝国ときちんと付き合うつもりがないと理解したがな」
「……それは失礼した。ロイバーナは、私達が魅了されていないかどうか調査した魔術師団長の庶子だったんだ」
眠っている間に死んでしまって、目覚めずに済めばいいのにと毎晩眠る前に願っていた。婚約を破棄される前は王宮が救いの場所だったけれど、婚約を破棄されてからは王宮も地獄になった。
だけど夜明け前に目覚めて二度寝したにもかかわらず、その日の朝は爽やかだった。
「徹夜すると却って頭がすっきりするよな」
「それは気のせいだと思います」
ウルリヒ陛下と一緒に軽口を叩きながら、部屋に運ばれてきた、いつもより遅めの朝食を口にする。
世話をしてくれるのはヘルツェル帝国の人々だ。
みんな可愛らしい耳や尻尾を持っている。羨ましいと言ったらウルリヒ陛下が、帝国に戻ったら好きなだけ俺の耳と尻尾を触らせてやる、と言ってくださった。
「……ウルリヒ陛下」
「なんだ。そういやクリスティーネは食が細かったな。帝国基準の朝食だと量が多いか。貸せよ、残りは俺が食ってやる」
「ありがとうございます。でも、それだけじゃありません。私なんかの代わりにギュンター王国に精霊樹の実を与えて、ウルリヒ陛下が帝国で責められるのではないかと心配で」
「私なんか、とか二度と言うな。お前は俺の番なんだから。後、精霊樹の実については気にするな。宴にいたうちの高官ども、だれも止めようとしてなかっただろ? あんたが留学してたとき教えたように……いや、あのときは最後まで言わなかったんだよな?」
「精霊樹がふたつ以上実をつけたとき、ほかの精霊樹に移植するのは……というお話ですか?」
夢で出てきた会話に驚きながら、ウルリヒ陛下の顔を見る。
「おお、覚えてたか」
「最後まではお聞きしていません」
「だよな。聞いてたら精霊樹の実のことで俺が責められるなんて言うはずがない。それにあのときはまだ……いや、今はもう大丈夫だからこの機会に話しておこう。精霊樹の実は枯れかけた精霊樹に移植するとその精霊樹を元気にするが、同じ精霊樹にふたつ以上実ったときは……」
「皇帝陛下!」
話を遮ったのはヘルツェル帝国の高官のひとりだった。
「なんだよ、朝から。今の俺は客人だし、今日は急ぐ予定もないだろうが」
「ギュンター王国の王太子殿下が応接室にいらしています。陛下との謁見をお望みのようです」
王宮の客室とは寝室を含む複数の部屋がつながったものだ。
私達が眠ったこの寝室のほかにも応接室や簡易の執務室がある。
王族が謁見を望むなんて不思議な言い回しの気もするけれど、帝国の人間にとってはウルリヒ陛下が一番だからそういう言い方になるのは当然なのだろう。わかった、と言ってウルリヒ陛下は私が食べきれなかった朝食を飲み込んでくれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「クリスティーネ!」
支度を済ませて彼とふたり応接室へ向かうと、長椅子に座って待っていた王太子殿下が腰を浮かせて私の名前を呼んだ。
ウルリヒ陛下が王太子殿下を睨む。
「俺の番の名前を呼び捨てにしないでもらおうか」
「私の妻だ!」
「昨夜離縁して俺の妻となっただろうが。納得していたくせにどうした」
王太子電は苦しげな表情で俯き、絞り出すように言葉を口にした。
「朝起きたら、寝床にロイバーナがいなかった」
「新しい愛妾を囲えばいいじゃないか。今さら俺の番に色気を出すな」
「そうじゃない! そういうことではなくて……私はこれまでずっと、ロイバーナに魅了されていたんだ」
「王太子殿下も側近の方々も魅了されていないという調査結果ではなかったでしょうか?」
はしたなくも口を挟んでしまったのは、王太子殿下の発言があまりにも矛盾していたからだ。
ウルリヒ陛下が楽しげに笑って、私の頭を撫でた。
「そうだそうだ。俺達獣人は魅了を番の衝動だと思わされて利用されることが多かったから、昔から魅了の魔術には敏感なんだ。王太子殿下も側近達もあまりに様子がおかしかったから、俺の前の皇帝が直々に調査を要請したはずだぞ。まあ、ひとりの魔術師の調査結果程度で魅了されてないと言いきられたことで、ギュンター王国はヘルツェル帝国ときちんと付き合うつもりがないと理解したがな」
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