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2026新作
愛が終わるとき【托卵】
坊や。
坊や、ちょっと来てちょうだい。
お話があるの。
そんな拗ねた顔をしないで。
坊やなんて呼ぶのはこれが最後なんだから。
ううん。こうやってお話しするのもこれが最後よ。
母様……私ね、この家を出ようと思ってるの。
なんで? あらあら、坊やはもう知っていると思っていたわ。
ええ、そうなのよ。
坊やは私が産んだのではないの。
あの人……先代のご当主様の愛人だった女の子どもなの。
あの人ったら白い結婚だった私のところへいきなり坊やを連れて来てね、お前の子どもとして育てろ、なんて言ったのよ?
酷い殿方だと思わない?
……だけど、私はあの人を愛していたの。
坊やを大事に育てたら、私を愛してくれるのではないかと夢見るくらいに。
あの人とあの女の末路は知っているわよね?
あの女が情夫と睦み合っているところにあの人が行ってしまって、あの人と情夫が乱闘になったの。あの人を刺して情夫は逃げて、あの人は息も絶え絶えの体で、あの女を殺して心中したの。
あの人はそんなにあの女を、坊やの母親を愛していたのね。
どうしたの、坊や?
私がいなくなったら、この家はどうなるのかって?
情けないことを言わないで。
坊やはもうこの家の当主なのよ?
この王国の貴族子女と裕福な平民の通う学園でも勉強してきたでしょう?
大丈夫。坊やが私よりも信じているこの家の古株使用人達と一緒に頑張れば、きっと上手く行くわ。
ふふ、私の持参金がなければ、とっくに首になって路頭に迷っていた人々だけど、坊やはあちらの人達のほうが好きなのでしょう?
私の実家の援助?
まあ、坊やったら! そんなものもらえるはずがないでしょう?
この前、学園で私の姪に婚約破棄を告げたのはだぁれ?
坊やじゃないの。
姪っ子はとても傷ついていてね、今も自室に閉じこもっているようよ。
弟がね、言うのよ。今だったら姉上の生活だけなら面倒見てやる、ただしあのガキを選ぶのなら貴女も見捨てる、って……
ああ、誤解しないでね、坊や。
自分の生活が大事で、この家を出ていくんじゃないの。
私ね、坊やのことを愛していたわ。
使用人達に乗せられるまま私のことを厭うていても。
私によく似た姪っ子を嫌って貶めて、挙句の果てに婚約破棄までしても。
あの人に似ている坊やを愛していたわ。
婚約者である私の姪っ子を足蹴にして、あの女にそっくりな男爵令嬢と浮気をしたのも、あの人に似たから仕方がないと受け入れていたの。
でもね、それって勘違いだったみたいなの。
坊やってば、あの人の子どもじゃなかったんですもの。
この前ね、あの人を刺して逃げていた情夫が十数年ぶりに見つかったの。
私が王都騎士団に呼ばれてたの覚えているかしら?
情夫の顔を知っていたから呼ばれていたの。
だって私、坊やの母親が大っ嫌いだったのよ?
あの人を奪い返すためにも、あの女になにか問題がないかどうか調べるに決まってるでしょ?
それで情夫の存在に気づいたの。
もちろん普通にあの人に伝えても、金蔓でしかない私の言うことを聞くわけがないわ。
だからいろいろ考えてね、あの女のところへ情夫が来ているときにあの人が訪れるよう仕事や予定を調節したの。
私、白い結婚の冷遇妻だったけど、この家の運営は任されていたのよ。
自分を傷つけることしかしない相手のために仕事に励んでただなんて、我ながら莫迦だと思うわ。
ああ、今考えると、あの人が死んだときに実家へ戻っていれば良かったわ。
まあでも今からでも遅くはないのかしら。
学園で同級生だった彼が、今では王都騎士団で活躍していらしたし。
私を忘れられなくて独身のままだなんて言ってくださったし。
うふふ、坊やの前でごめんなさいね。ともあれあの女の情夫の顔を確認しに行ってね、気づいたの。
坊やはあの人の子どもじゃないって。あの女の情夫の子どもだって。
もともとあの女が托卵するために、情夫に似たあの人を選んだんでしょうね。
そうしたらね、冷めちゃったの。これまでの愛が全部。
違うわ、坊やへの愛じゃなくてよ。
坊やへの愛なんか、最初からないもの。あの人を愛していたから、あの人に似ていると思っていた坊やも愛していたの。
愛そうとしていただけかもしれないわね。
百年の愛も冷めてしまったのよ。
あの人ってば、私がどんなに愛を捧げても振り向いてくれない特別な素晴らしい殿方じゃなくて、浮気相手に騙されて托卵されてた間抜けだったんですもの。
可哀想だとは思うわ。
でも私にしたことを考えれば、私があの人に同情する筋合いなんてないでしょ?
あの女と情夫の子どものために人生をすり減らす意味もね?
坊や……いいえ、ご当主様。そういうことなので、これでお別れです。貴方のこれからのご多幸をお祈り申し上げます。
あらあら、泣かないで?
貴方が泣くとあの女そっくりになるのよ?
ふふふ、そうね。
どうせならあの世にいる実の母親に泣きつきなさい?
さっきはご当主様と呼んであげたけれど、貴方はこの家の人間ではないのだから、いずれ貴族家乗っ取りの罪で裁かれるわ。
学園の卒業前だから未成人扱いで死刑は免れると良いわね。
とはいえあの女のいるところへ行くのも悪くないのではなくて?
貴方の本当の父親も近いうちに貴族殺し未遂と貴族家乗っ取りの罪で同じ場所へ行くのだもの。
きっと実の両親と一緒に楽しく過ごせるわ。
……貴方達をだれよりも憎んでいるだろうあの人も待っているのでしょうけど。ふふふ、気持ちが冷めて愛が終わる前なら、あの人と会えるのを羨ましいと思っていたかもしれないわね。今は違うけど。
<終>
坊や、ちょっと来てちょうだい。
お話があるの。
そんな拗ねた顔をしないで。
坊やなんて呼ぶのはこれが最後なんだから。
ううん。こうやってお話しするのもこれが最後よ。
母様……私ね、この家を出ようと思ってるの。
なんで? あらあら、坊やはもう知っていると思っていたわ。
ええ、そうなのよ。
坊やは私が産んだのではないの。
あの人……先代のご当主様の愛人だった女の子どもなの。
あの人ったら白い結婚だった私のところへいきなり坊やを連れて来てね、お前の子どもとして育てろ、なんて言ったのよ?
酷い殿方だと思わない?
……だけど、私はあの人を愛していたの。
坊やを大事に育てたら、私を愛してくれるのではないかと夢見るくらいに。
あの人とあの女の末路は知っているわよね?
あの女が情夫と睦み合っているところにあの人が行ってしまって、あの人と情夫が乱闘になったの。あの人を刺して情夫は逃げて、あの人は息も絶え絶えの体で、あの女を殺して心中したの。
あの人はそんなにあの女を、坊やの母親を愛していたのね。
どうしたの、坊や?
私がいなくなったら、この家はどうなるのかって?
情けないことを言わないで。
坊やはもうこの家の当主なのよ?
この王国の貴族子女と裕福な平民の通う学園でも勉強してきたでしょう?
大丈夫。坊やが私よりも信じているこの家の古株使用人達と一緒に頑張れば、きっと上手く行くわ。
ふふ、私の持参金がなければ、とっくに首になって路頭に迷っていた人々だけど、坊やはあちらの人達のほうが好きなのでしょう?
私の実家の援助?
まあ、坊やったら! そんなものもらえるはずがないでしょう?
この前、学園で私の姪に婚約破棄を告げたのはだぁれ?
坊やじゃないの。
姪っ子はとても傷ついていてね、今も自室に閉じこもっているようよ。
弟がね、言うのよ。今だったら姉上の生活だけなら面倒見てやる、ただしあのガキを選ぶのなら貴女も見捨てる、って……
ああ、誤解しないでね、坊や。
自分の生活が大事で、この家を出ていくんじゃないの。
私ね、坊やのことを愛していたわ。
使用人達に乗せられるまま私のことを厭うていても。
私によく似た姪っ子を嫌って貶めて、挙句の果てに婚約破棄までしても。
あの人に似ている坊やを愛していたわ。
婚約者である私の姪っ子を足蹴にして、あの女にそっくりな男爵令嬢と浮気をしたのも、あの人に似たから仕方がないと受け入れていたの。
でもね、それって勘違いだったみたいなの。
坊やってば、あの人の子どもじゃなかったんですもの。
この前ね、あの人を刺して逃げていた情夫が十数年ぶりに見つかったの。
私が王都騎士団に呼ばれてたの覚えているかしら?
情夫の顔を知っていたから呼ばれていたの。
だって私、坊やの母親が大っ嫌いだったのよ?
あの人を奪い返すためにも、あの女になにか問題がないかどうか調べるに決まってるでしょ?
それで情夫の存在に気づいたの。
もちろん普通にあの人に伝えても、金蔓でしかない私の言うことを聞くわけがないわ。
だからいろいろ考えてね、あの女のところへ情夫が来ているときにあの人が訪れるよう仕事や予定を調節したの。
私、白い結婚の冷遇妻だったけど、この家の運営は任されていたのよ。
自分を傷つけることしかしない相手のために仕事に励んでただなんて、我ながら莫迦だと思うわ。
ああ、今考えると、あの人が死んだときに実家へ戻っていれば良かったわ。
まあでも今からでも遅くはないのかしら。
学園で同級生だった彼が、今では王都騎士団で活躍していらしたし。
私を忘れられなくて独身のままだなんて言ってくださったし。
うふふ、坊やの前でごめんなさいね。ともあれあの女の情夫の顔を確認しに行ってね、気づいたの。
坊やはあの人の子どもじゃないって。あの女の情夫の子どもだって。
もともとあの女が托卵するために、情夫に似たあの人を選んだんでしょうね。
そうしたらね、冷めちゃったの。これまでの愛が全部。
違うわ、坊やへの愛じゃなくてよ。
坊やへの愛なんか、最初からないもの。あの人を愛していたから、あの人に似ていると思っていた坊やも愛していたの。
愛そうとしていただけかもしれないわね。
百年の愛も冷めてしまったのよ。
あの人ってば、私がどんなに愛を捧げても振り向いてくれない特別な素晴らしい殿方じゃなくて、浮気相手に騙されて托卵されてた間抜けだったんですもの。
可哀想だとは思うわ。
でも私にしたことを考えれば、私があの人に同情する筋合いなんてないでしょ?
あの女と情夫の子どものために人生をすり減らす意味もね?
坊や……いいえ、ご当主様。そういうことなので、これでお別れです。貴方のこれからのご多幸をお祈り申し上げます。
あらあら、泣かないで?
貴方が泣くとあの女そっくりになるのよ?
ふふふ、そうね。
どうせならあの世にいる実の母親に泣きつきなさい?
さっきはご当主様と呼んであげたけれど、貴方はこの家の人間ではないのだから、いずれ貴族家乗っ取りの罪で裁かれるわ。
学園の卒業前だから未成人扱いで死刑は免れると良いわね。
とはいえあの女のいるところへ行くのも悪くないのではなくて?
貴方の本当の父親も近いうちに貴族殺し未遂と貴族家乗っ取りの罪で同じ場所へ行くのだもの。
きっと実の両親と一緒に楽しく過ごせるわ。
……貴方達をだれよりも憎んでいるだろうあの人も待っているのでしょうけど。ふふふ、気持ちが冷めて愛が終わる前なら、あの人と会えるのを羨ましいと思っていたかもしれないわね。今は違うけど。
<終>
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