転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸

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39・転生魔王VS同担拒否ガチ恋強火勢

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「私の推しはマルス将軍なんです!」

 すっくと立ちあがり、聖女エクラは高らかに宣言した。

「ソ、ソウデスカ……」

 寄る辺なき魔王にはほかに返せる言葉がなかった。
 ギルマスを見つめてみても、諦めろ、と言わんばかりの優しい視線を向けられるだけ。さては経験済みだな?
 聖女は応接机に腕を立て、ぐいっと私に詰め寄ってくる。

「もともと私はウル様推しで!」

 マルス将軍のCVだった声優さんの名前が出てきた。
 低くて渋い声に熱狂的なファンを持つ人で、ウル様という呼び名は芸名(本名同じ)に漆の漢字があるのと、名前に『ウル』が入るキャラクターが当たり役だったからとか。
 筋肉質で逞しいキャラクターを演じることが多かった。――以上、前世のネット情報から。攻略情報検索してると、関係するべつの情報も引っかかったりするよねえ。

「先ほど話していた何度もお見舞いに来てくれてた友達は貝様推しで、病室で力尽きるまで互いの推しを語り合ったものです」

 入院患者が力尽きるまで語り合ったら駄目でしょう。
 ちな、貝様とは先々代の水の聖騎士で現辺境伯ランスのCVだった声優さんの名前だ。
 少しかん高い声でユーモラスにしゃべるのと甘くて色気のある声でねっとりしゃべるのを使い分けていて、貝様という呼び名は芸名(本名は違うらしい)に貝の漢字があるのと、やっぱり名前に『カイ』が入るキャラクターが当たり役だったから。バグオジ大御所声優さんの中では結構若手のほう。

「おふたりの共演は呼び名の由来となった当たり役以来だったので、ゲーム雑誌の情報を友達と夢中で読んだものです。……発売まで私が持ち堪えられたのはウル様への愛のおかげだと思っています。メインの攻略対象でもサブの攻略対象でもないことは残念でしたが絶対ルートがあると信じて何度もプレイいたしました! でも同じイベントの繰り返しでも少しも辛くなかったんですよ。画面越しに呼びかけてくれるウル様の声が私に力をくれたんです。ウル様の声は低くて渋い男性的な声なのですけれどときおり零れるあどけない少年のような声が最高で! 前世の『綺羅星のエクラ』では聖女が『神撃の巨刃』と『真赤まあかの火炎』を同時にお披露目したときに聞かせていただける自分が達せなかった極みへの憧憬と純粋な賞賛を込めた声がそれでした。ふたつの極大を同時に収めたときでないとセリフが違うので育成は難しかったのですがウル様のあの声を聞かせていただけるのなら苦労などチリも同然! むしろこの程度の苦労でお聞かせいただいて良いのですか状態です。だからといって極大を単体でお披露目したときの声がイマイチだというわけではありません。『神撃の巨刃』のときは妹分の成長を喜ぶ兄貴分としての朗らかな誉め言葉、『真赤まあかの火炎』のときはご自分は不得手な魔法を極めた聖女に対する大人の賞賛で、なのにどちらもそこに少しだけ負けず嫌いなマルス将軍の悔しさが滲んでいるのが……」

 聖女様、めっちゃ早口でしゃべるじゃん?

「とはいえ不得手とはいっても、それはご自分に厳しいマルス将軍の基準であって、先代聖女の専属聖騎士でいらしたのですから彼自身の魔法も優れたものです。ルートがないのでモンスター狩りや魔王退治にはご一緒できませんでしたが、聖女に指導をつけてくださるときに魔法名を叫ぶウル様の声が、もうっ!」

 まだまだ続きそうな気がして、私は目の前の応接机から茶碗を取ってコーヒーを飲んだ。
 シャルジュさんは長くしなやかな腕を伸ばして、執務机の引き出しからスイーツを取り出している。
 あ、聖女の実家で売ってるヤツだ。美味しいんだよね。食うか? と目線で尋ねられて首肯しようとしたとき――

「ところでソワレさん」

 聖女が応接机越しに体を乗り出して、私の両肩をがっしと掴んだ。

「ふぁ、ふぁい?」
「前世の私と友達は同担拒否ガチ恋強火勢でした。推しが同じだったとしたら、たぶんどちらかが死んでいたでしょう」

 やめてあげて! 自分のあずかり知らぬところでファンに殺し合いされる推しの気持ちになってあげて!
 推し活も同担拒否もガチ恋も自由だけど、推しが悲しむことはやめてあげようよ!
 てか……この聖女、厄介ファンってヤツなんじゃ?

「……あなたの推しはだれですか?」

 血走った目の聖女に問われて、魔王ピンチです!
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