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15・聖騎士様は恋に恋するお年頃③
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「調子いいみたいだね、フラム」
ここは聖女の住む神殿に併設された専属聖騎士の宿舎。
大地と水の聖騎士がキャラメルナッツカップケーキを前に語り合っていた間、炎と風の聖騎士はゲームテーブルで球を棒で突く遊びに興じていた。
そう、ソワレの前世でいうところのビリヤードである。
ビリヤードの九番ボールに値する太陽球を眠らせた炎の聖騎士フラムは、風の聖騎士ラファルの言葉に夜の底から視線を外した。集中して表情が消えていたフラムの顔が、いつもの気の良い好青年に戻って笑みを浮かべる。
「うん、そうみたいだ。いつもは考え過ぎて上手く行かないのに、今日は考える前に打ち筋がわかったよ」
「ふうん……」
「どうする、ラファル? 今夜は俺の勝ち逃げってことでいいかな?」
「冗談。本当の強さってものを君に見せてあげるよ、フラム」
「はは、お手柔らかにね」
田舎育ちの農家の次男フラムは、当然実家からでは通えないので宿舎で暮らしている。
この国の辺境伯家の次男として生まれ、通勤圏内に王都の辺境伯邸があるラファルが普通の貴族子息から見れば不自由な宿舎で暮らしているのは、今代の当主である年の離れた兄との関係がよろしくないからだ。
ラファルの兄は先々代の水の聖騎士で、名前をランスという。
ランスは当代の水の聖騎士リュイソーと同じ槍を使っていることもあり、風の聖騎士として弓を使う軽い性格の実弟よりもおっとりしたリュイソーとのほうが仲の良い生真面目な男だ。
大魔林に接した辺境伯領と王都を行ったり来たりしている多忙な男でもある。
最近は辺境伯領の近くに巨大なヴェノムラビットが出たとかで大変なようだ。ヴェノムラビット程度では聖女と聖騎士に出動命令は出ないし、そもそも就任したばかりの今の聖女はまだ実戦に出られる状態ではない。
再戦するためゲームテーブルに、太陽球を中心にして月、星、光、闇、水、風、大地、炎の球をひし形に置く。
フラムと球を並べていたラファルは、ふと気づいた。
炎の球を愛し気に見つめているフラムを緑色の瞳に映し、いつもは後ろで結っているけれど非番の今日は垂らしたままの柔らかな金の髪をかき上げて尋ねる。
「もしかしてフラム、好きな子ができたのかい?」
「ふあっ?」
たちまちフラムの顔が真っ赤になる。
彼はこういう話題に弱いのだ。
もちろん同じ世代の聖騎士仲間ラファルはそれを知っている。知っているので、これまでも散々からかってきた。
「今日の君の快進撃の理由がわかったよ。好きな子のことで頭がいっぱいで、打ち筋のことが二の次だったからなんだね? ふふふ、マルス将軍も良くおっしゃってるものね。フラムは考えてないときが一番強いって」
「ち、ち、違うって! ななな、なに言ってるんだよ、ラファル!」
「照れることないじゃないか、フラム。初恋だね、おめでとう。どんな子……ああ、もしかして君と同じ赤い髪の女性なのかな? そういえばさっきの勝負でも、炎の球のときだけ気合いが入り過ぎて私に譲ってくれたものね」
フラムは真っ赤な顔のまま、ブンブンと頭を左右に振り回す。
「ち、違うよ! 俺とソワレはそんなんじゃないんだ! 今日初めて会って、道に迷ってたのを冒険者ギルドまで案内しただけで!」
ここは聖女の住む神殿に併設された専属聖騎士の宿舎。
大地と水の聖騎士がキャラメルナッツカップケーキを前に語り合っていた間、炎と風の聖騎士はゲームテーブルで球を棒で突く遊びに興じていた。
そう、ソワレの前世でいうところのビリヤードである。
ビリヤードの九番ボールに値する太陽球を眠らせた炎の聖騎士フラムは、風の聖騎士ラファルの言葉に夜の底から視線を外した。集中して表情が消えていたフラムの顔が、いつもの気の良い好青年に戻って笑みを浮かべる。
「うん、そうみたいだ。いつもは考え過ぎて上手く行かないのに、今日は考える前に打ち筋がわかったよ」
「ふうん……」
「どうする、ラファル? 今夜は俺の勝ち逃げってことでいいかな?」
「冗談。本当の強さってものを君に見せてあげるよ、フラム」
「はは、お手柔らかにね」
田舎育ちの農家の次男フラムは、当然実家からでは通えないので宿舎で暮らしている。
この国の辺境伯家の次男として生まれ、通勤圏内に王都の辺境伯邸があるラファルが普通の貴族子息から見れば不自由な宿舎で暮らしているのは、今代の当主である年の離れた兄との関係がよろしくないからだ。
ラファルの兄は先々代の水の聖騎士で、名前をランスという。
ランスは当代の水の聖騎士リュイソーと同じ槍を使っていることもあり、風の聖騎士として弓を使う軽い性格の実弟よりもおっとりしたリュイソーとのほうが仲の良い生真面目な男だ。
大魔林に接した辺境伯領と王都を行ったり来たりしている多忙な男でもある。
最近は辺境伯領の近くに巨大なヴェノムラビットが出たとかで大変なようだ。ヴェノムラビット程度では聖女と聖騎士に出動命令は出ないし、そもそも就任したばかりの今の聖女はまだ実戦に出られる状態ではない。
再戦するためゲームテーブルに、太陽球を中心にして月、星、光、闇、水、風、大地、炎の球をひし形に置く。
フラムと球を並べていたラファルは、ふと気づいた。
炎の球を愛し気に見つめているフラムを緑色の瞳に映し、いつもは後ろで結っているけれど非番の今日は垂らしたままの柔らかな金の髪をかき上げて尋ねる。
「もしかしてフラム、好きな子ができたのかい?」
「ふあっ?」
たちまちフラムの顔が真っ赤になる。
彼はこういう話題に弱いのだ。
もちろん同じ世代の聖騎士仲間ラファルはそれを知っている。知っているので、これまでも散々からかってきた。
「今日の君の快進撃の理由がわかったよ。好きな子のことで頭がいっぱいで、打ち筋のことが二の次だったからなんだね? ふふふ、マルス将軍も良くおっしゃってるものね。フラムは考えてないときが一番強いって」
「ち、ち、違うって! ななな、なに言ってるんだよ、ラファル!」
「照れることないじゃないか、フラム。初恋だね、おめでとう。どんな子……ああ、もしかして君と同じ赤い髪の女性なのかな? そういえばさっきの勝負でも、炎の球のときだけ気合いが入り過ぎて私に譲ってくれたものね」
フラムは真っ赤な顔のまま、ブンブンと頭を左右に振り回す。
「ち、違うよ! 俺とソワレはそんなんじゃないんだ! 今日初めて会って、道に迷ってたのを冒険者ギルドまで案内しただけで!」
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