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「ごめんなさい、お父様」
ジェイク様との結婚式を台無しにした私は、父とともにオルベール王国を追放されることになりました。
当然と言えば当然のことなのに、そこまで考えが及んでいなかった自分が情けなくて父に頭を下げました。
どんなに謝っても足りない気がします。
父は、まあいい、と言ってくれました。
世話になった(本当にそうだったのか、私は少し疑っています)ブランシャール大公にお礼の魔獣馬を届けた後、私達は女神様の泉を水源に持つという聖なる川を渡ったのでした。
川の向こうの隣国も一年中雪に覆われた白い山脈に見下ろされています。
国境代わりの川の近くの村で、父は山から下りてきた魔獣を退治しました。
オルベール王国で馬と掛け合わせて魔獣馬を生産していた種とは違いますが、馬に似た魔獣でした。
退治した魔獣には子どもがいて、私達は村人に請われてここでも魔獣馬の生産に携わることになったのです。
「カサンドラ。……話がある」
無口な父が自分から声をかけてきたのは、魔獣馬の生産牧場が出来て一年ほど経ったころだったでしょうか。
こちらの国にも大暴走は発生します。原因のひとつとなっていた竜を退治したオルベール王国よりも発生頻度は多いかもしれません。
父は、その大暴走で夫を喪った女性と仲良くなっていたのです。来年の春には弟か妹が生まれると聞かされて、私は開いた口が塞がりませんでした。
母が亡くなって長いですし父には幸せになって欲しいと思いますが、急過ぎます。
「お、おめでとうございます。……あの、私はどうしたら良いのでしょうか? 新婚のおふたりのところに、こんな大きな娘がいたらお邪魔ですよね?」
「俺と彼女は村で暮らす。お前は……アマデウスと結婚して、この魔獣馬牧場をやっていけばいいんじゃないか?」
「はい?」
私達と同じようにオルベール王国では余所者だった彼も隣国へ来ています。
「なにを言っているの、お父様。……アマデウスだって嫌でしょう?」
「いいえ」
聖なる川を渡ったせいか、彼の黒い瞳からは銀の煌めきが消えていました。
魔獣は聖なる川を越えられません。
もちろん魔獣馬も無理ですし、魔獣の元となる竜の血も駄目だったのでしょう。
そのため今は前髪を上げて顔を出しています。
幼いころから何年も、十年以上一緒にいたにもかかわらず、彼の顔をはっきりと見るのはほとんど初めてで、なんだか知らない男性のように感じて意識せずにはいられません。
好きだった銀の煌めきがなくなっても、私は彼の黒い瞳が好きでした。
「お嬢様さえお嫌でなければ、私の妻になってください」
「だって、私、だって……」
繰り返した王妃としての人生が真実だったのか幻だったのかはわかりません。
でも私が酷い女だということはわかっています。
一度目は恋した相手のために従者の彼を犠牲にし、二度目だって救うことが出来ませんでした。私が殺された後、おそらく目撃者の彼も大公に始末されていたでしょう。
「まだ国王陛下のことがお好きですか?」
ジェイク様との結婚式を台無しにした私は、父とともにオルベール王国を追放されることになりました。
当然と言えば当然のことなのに、そこまで考えが及んでいなかった自分が情けなくて父に頭を下げました。
どんなに謝っても足りない気がします。
父は、まあいい、と言ってくれました。
世話になった(本当にそうだったのか、私は少し疑っています)ブランシャール大公にお礼の魔獣馬を届けた後、私達は女神様の泉を水源に持つという聖なる川を渡ったのでした。
川の向こうの隣国も一年中雪に覆われた白い山脈に見下ろされています。
国境代わりの川の近くの村で、父は山から下りてきた魔獣を退治しました。
オルベール王国で馬と掛け合わせて魔獣馬を生産していた種とは違いますが、馬に似た魔獣でした。
退治した魔獣には子どもがいて、私達は村人に請われてここでも魔獣馬の生産に携わることになったのです。
「カサンドラ。……話がある」
無口な父が自分から声をかけてきたのは、魔獣馬の生産牧場が出来て一年ほど経ったころだったでしょうか。
こちらの国にも大暴走は発生します。原因のひとつとなっていた竜を退治したオルベール王国よりも発生頻度は多いかもしれません。
父は、その大暴走で夫を喪った女性と仲良くなっていたのです。来年の春には弟か妹が生まれると聞かされて、私は開いた口が塞がりませんでした。
母が亡くなって長いですし父には幸せになって欲しいと思いますが、急過ぎます。
「お、おめでとうございます。……あの、私はどうしたら良いのでしょうか? 新婚のおふたりのところに、こんな大きな娘がいたらお邪魔ですよね?」
「俺と彼女は村で暮らす。お前は……アマデウスと結婚して、この魔獣馬牧場をやっていけばいいんじゃないか?」
「はい?」
私達と同じようにオルベール王国では余所者だった彼も隣国へ来ています。
「なにを言っているの、お父様。……アマデウスだって嫌でしょう?」
「いいえ」
聖なる川を渡ったせいか、彼の黒い瞳からは銀の煌めきが消えていました。
魔獣は聖なる川を越えられません。
もちろん魔獣馬も無理ですし、魔獣の元となる竜の血も駄目だったのでしょう。
そのため今は前髪を上げて顔を出しています。
幼いころから何年も、十年以上一緒にいたにもかかわらず、彼の顔をはっきりと見るのはほとんど初めてで、なんだか知らない男性のように感じて意識せずにはいられません。
好きだった銀の煌めきがなくなっても、私は彼の黒い瞳が好きでした。
「お嬢様さえお嫌でなければ、私の妻になってください」
「だって、私、だって……」
繰り返した王妃としての人生が真実だったのか幻だったのかはわかりません。
でも私が酷い女だということはわかっています。
一度目は恋した相手のために従者の彼を犠牲にし、二度目だって救うことが出来ませんでした。私が殺された後、おそらく目撃者の彼も大公に始末されていたでしょう。
「まだ国王陛下のことがお好きですか?」
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