この誓いを違えぬと

豆狸

文字の大きさ
8 / 11

しおりを挟む
「ごめんなさい、お父様」

 ジェイク様との結婚式を台無しにした私は、父とともにオルベール王国を追放されることになりました。
 当然と言えば当然のことなのに、そこまで考えが及んでいなかった自分が情けなくて父に頭を下げました。
 どんなに謝っても足りない気がします。

 父は、まあいい、と言ってくれました。
 世話になった(本当にそうだったのか、私は少し疑っています)ブランシャール大公にお礼の魔獣馬を届けた後、私達は女神様の泉を水源に持つという聖なる川を渡ったのでした。
 川の向こうの隣国も一年中雪に覆われた白い山脈に見下ろされています。

 国境代わりの川の近くの村で、父は山から下りてきた魔獣を退治しました。
 オルベール王国で馬と掛け合わせて魔獣馬を生産していた種とは違いますが、馬に似た魔獣でした。
 退治した魔獣には子どもがいて、私達は村人に請われてここでも魔獣馬の生産に携わることになったのです。

「カサンドラ。……話がある」

 無口な父が自分から声をかけてきたのは、魔獣馬の生産牧場が出来て一年ほど経ったころだったでしょうか。

 こちらの国にも大暴走スタンピードは発生します。原因のひとつとなっていた竜を退治したオルベール王国よりも発生頻度は多いかもしれません。
 父は、その大暴走スタンピードで夫を喪った女性と仲良くなっていたのです。来年の春には弟か妹が生まれると聞かされて、私は開いた口が塞がりませんでした。
 母が亡くなって長いですし父には幸せになって欲しいと思いますが、急過ぎます。

「お、おめでとうございます。……あの、私はどうしたら良いのでしょうか? 新婚のおふたりのところに、こんな大きな娘がいたらお邪魔ですよね?」
「俺と彼女は村で暮らす。お前は……アマデウスと結婚して、この魔獣馬牧場をやっていけばいいんじゃないか?」
「はい?」

 私達と同じようにオルベール王国では余所者だった彼も隣国へ来ています。

「なにを言っているの、お父様。……アマデウスだって嫌でしょう?」
「いいえ」

 聖なる川を渡ったせいか、彼の黒い瞳からは銀の煌めきが消えていました。
 魔獣は聖なる川を越えられません。
 もちろん魔獣馬も無理ですし、魔獣の元となる竜の血も駄目だったのでしょう。

 そのため今は前髪を上げて顔を出しています。
 幼いころから何年も、十年以上一緒にいたにもかかわらず、彼の顔をはっきりと見るのはほとんど初めてで、なんだか知らない男性のように感じて意識せずにはいられません。
 好きだった銀の煌めきがなくなっても、私は彼の黒い瞳が好きでした。

「お嬢様さえお嫌でなければ、私の妻になってください」
「だって、私、だって……」

 繰り返した王妃としての人生が真実だったのか幻だったのかはわかりません。
 でも私が酷い女だということはわかっています。
 一度目は恋した相手のために従者の彼を犠牲にし、二度目だって救うことが出来ませんでした。私が殺された後、おそらく目撃者の彼も大公に始末されていたでしょう。

「まだ国王陛下のことがお好きですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄はラストダンスの前に

豆狸
恋愛
「俺と」「私と」「僕と」「余と」「「「「結婚してください!」」」」「……お断りいたします」 なろう様でも公開中です。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

私の夫は愛した人の仇だったのです。

豆狸
恋愛
……さて、私が蒔いたこの復讐の種は、どんな花を咲かせてくれることでしょう。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵子女。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

婚約破棄の裏側で

豆狸
恋愛
こうして、いつまでも心配と称して執着していてはいけないとわかっています。 だけど私の心には今でも、襲い来る蜂から私を守ってくれた幼い騎士の姿が輝いているのです。

どうせ嘘でしょう?

豆狸
恋愛
「うわー、可愛いなあ。妖精かな? 翼の生えた小さな兎がいるぞ!」 嘘つき皇子が叫んでいます。 どうせ嘘でしょう? なろう様でも公開中です。

悪夢に狂う

豆狸
恋愛
幼いころからの愛情が消えたわけではありません。 ですが、この恐怖は永遠に消えない、そんな気がしていました。

王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。 今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。 きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。 どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。 ※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

処理中です...