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10・目覚めた後に残るもの
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風邪予防にスタミナポーションを飲んだら、変に興奮して遅くまで眠れませんでした。
こういうときは眠りに就いても嫌な夢を見ます。
案の定、楽しい思い出などなにもない魔術学園での夢を見ました。
ヨハンナ様の日記のおかげで多少魔術が使えるようになったのは最近の話で、当時のわたしは落ちこぼれでした。皇太子妃としての教育が忙しかったからだなんて、言い訳にもなりません。
少しでも頑張りたくて、婚約者のクラウス殿下に近づきたくて、実習で無理をして放った魔術が暴発して、意識を失うほどの大怪我を負いました。
クラウス殿下が救護室へ運んで、ご自身が回復魔術を使ってくださったと言います。彼は魔術においても優秀で、初代皇帝の再来と謳われる天才でした。
どうして助けてくれたのか、都合の良いことを妄想したことはあります。
もしかしたらクラウス殿下はわたしのことを好きで、だからだれにも触れさせず、自分だけの力で助けようとしてくれたのではないか、なんて。
でも実際のところは婚約者として、そして皇太子としての責任感からだったのでしょう。
夢の中、目覚めたときに彼はいなくて、それまでとなにも変わらず浮気相手と去っていくクラウス殿下の背中が見えて、わたしはだれにも気づかれないよう声を殺して泣くことしかできなくて──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ひゃう」
「ひゃうひゃう」
「ひゃうひゃうひゃう」
悪夢から目を覚ますと、至近距離に赤ちゃん達がいました。
わたしの胸の上に乗っていて、こちらへハイハイしてきます。
ななな、なんですかー! あまりの可愛さに一瞬で涙も乾きます。
横を見れば、暖炉の前に神獣ガルム様とマーナがいます。
二匹は勝手に火をつけて温もっていたようです。
神獣様だから大丈夫でしょう。
「どうしたんですか、この子達は。もしかして、わたしが眠りながら泣いていたから、慰めるために乗せてくれたんですか?」
「きゃふきゃふ」
「……違う」
ガルム様は不機嫌そうな顔でこちらを向きました。
「危ないからやめろとどんなに止めても、我が子達が登っていったのじゃ。昨日今日来たばかりの父犬の言葉など、その子らの耳には届かぬのじゃ」
「きゃふう」
マーナは首を横に振っています。
そりゃそうです。そんなことあるはずありません。
「ガルム様がいらしたとき、この子達は近づいていったじゃないですか。ちゃんとお父君だとわかって慕ってらっしゃいますよ」
「う、うむ。……そうかのう?」
「今朝はわたしに登ってみたい気分だっただけでしょう」
もちろん、それでも嬉しいのですけどね。
マーナを手伝って、濡れた布でお尻をぽんぽんしていた地道な努力が実を結んで、世話係の人間として認めてくれたのかもしれません。
昨日クラウス殿下と会ったことで沈んでいた気持ちが、フワフワでモコモコの天使達のおかげで軽くなっていきます。考えてみれば、三年間会わなくても平気だった方と久しぶりに顔を合わせただけのことです。
「ひゃん」
「ひゃんひゃん」
「ひゃんひゃんひゃん」
「きゃー、近いですわー」
胸から顔へと登って来た仔犬達にぺろぺろ舐められて、今朝は最高の目覚めとなりました。
「そろそろお乳以外も食べられるようになったのでしょうか?」
「きゃふ」
「うむ、そうじゃな。では父であるわしが直々に狩りをして初肉を獲ってやろうぞ」
「天気もいいし、マーナや赤ちゃん達も一緒に出かけましょうよ」
「きゃうん♪」
「ひゃう」
「ひゃうひゃう」
「ひゃうひゃうひゃう!」
全員一致で、今日はお出かけの日になりました。
ガルム様が狩ってくれても、その場で解体・料理とはいかないので、昨日買った食材も使ってお弁当を作ることにしましょう。
赤ちゃん達はお外ではお乳を飲んで、この小屋に戻ってからガルム様の狩った初肉を食べるのです。
こういうときは眠りに就いても嫌な夢を見ます。
案の定、楽しい思い出などなにもない魔術学園での夢を見ました。
ヨハンナ様の日記のおかげで多少魔術が使えるようになったのは最近の話で、当時のわたしは落ちこぼれでした。皇太子妃としての教育が忙しかったからだなんて、言い訳にもなりません。
少しでも頑張りたくて、婚約者のクラウス殿下に近づきたくて、実習で無理をして放った魔術が暴発して、意識を失うほどの大怪我を負いました。
クラウス殿下が救護室へ運んで、ご自身が回復魔術を使ってくださったと言います。彼は魔術においても優秀で、初代皇帝の再来と謳われる天才でした。
どうして助けてくれたのか、都合の良いことを妄想したことはあります。
もしかしたらクラウス殿下はわたしのことを好きで、だからだれにも触れさせず、自分だけの力で助けようとしてくれたのではないか、なんて。
でも実際のところは婚約者として、そして皇太子としての責任感からだったのでしょう。
夢の中、目覚めたときに彼はいなくて、それまでとなにも変わらず浮気相手と去っていくクラウス殿下の背中が見えて、わたしはだれにも気づかれないよう声を殺して泣くことしかできなくて──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ひゃう」
「ひゃうひゃう」
「ひゃうひゃうひゃう」
悪夢から目を覚ますと、至近距離に赤ちゃん達がいました。
わたしの胸の上に乗っていて、こちらへハイハイしてきます。
ななな、なんですかー! あまりの可愛さに一瞬で涙も乾きます。
横を見れば、暖炉の前に神獣ガルム様とマーナがいます。
二匹は勝手に火をつけて温もっていたようです。
神獣様だから大丈夫でしょう。
「どうしたんですか、この子達は。もしかして、わたしが眠りながら泣いていたから、慰めるために乗せてくれたんですか?」
「きゃふきゃふ」
「……違う」
ガルム様は不機嫌そうな顔でこちらを向きました。
「危ないからやめろとどんなに止めても、我が子達が登っていったのじゃ。昨日今日来たばかりの父犬の言葉など、その子らの耳には届かぬのじゃ」
「きゃふう」
マーナは首を横に振っています。
そりゃそうです。そんなことあるはずありません。
「ガルム様がいらしたとき、この子達は近づいていったじゃないですか。ちゃんとお父君だとわかって慕ってらっしゃいますよ」
「う、うむ。……そうかのう?」
「今朝はわたしに登ってみたい気分だっただけでしょう」
もちろん、それでも嬉しいのですけどね。
マーナを手伝って、濡れた布でお尻をぽんぽんしていた地道な努力が実を結んで、世話係の人間として認めてくれたのかもしれません。
昨日クラウス殿下と会ったことで沈んでいた気持ちが、フワフワでモコモコの天使達のおかげで軽くなっていきます。考えてみれば、三年間会わなくても平気だった方と久しぶりに顔を合わせただけのことです。
「ひゃん」
「ひゃんひゃん」
「ひゃんひゃんひゃん」
「きゃー、近いですわー」
胸から顔へと登って来た仔犬達にぺろぺろ舐められて、今朝は最高の目覚めとなりました。
「そろそろお乳以外も食べられるようになったのでしょうか?」
「きゃふ」
「うむ、そうじゃな。では父であるわしが直々に狩りをして初肉を獲ってやろうぞ」
「天気もいいし、マーナや赤ちゃん達も一緒に出かけましょうよ」
「きゃうん♪」
「ひゃう」
「ひゃうひゃう」
「ひゃうひゃうひゃう!」
全員一致で、今日はお出かけの日になりました。
ガルム様が狩ってくれても、その場で解体・料理とはいかないので、昨日買った食材も使ってお弁当を作ることにしましょう。
赤ちゃん達はお外ではお乳を飲んで、この小屋に戻ってからガルム様の狩った初肉を食べるのです。
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